第304話 不穏な地震 その6
誰しもが完全に一番重要な所を忘れて居た・・・。
マッシモの手前(マッシモから見ると森の方側)に俺達が作ったソイの醸造所のエリアである。
幸い彼処は現在のマッシモ同様の俺製の頑丈な城壁で守られて居るので、子供らの魔力が回復さえすれば魔物の群も撃退出来るだろう。
先のコロセウムから漏れた残りの魔物はマッシモ方向に向かう手前でこのソイの醸造所のエリアを通過するのである。
それに気付いたのはソリアと結婚したアランさんからの緊急連絡が入ったからであった。
早速俺が先鋒隊として現地に赴き、防衛戦を始める。大きい物から先に殲滅して行き、7割近く殲滅出来た所で、更に緊急電話が入る。
相手はマイマイ農家のガルダさんである。
スッカリ、彼処の事を忘れていた事に気付き顔が青くなる。
彼処には城壁も何も無く只広大な農地と家があるだけである。
ソイの醸造所のエリアの残った3割の雑魚は魔力の回復した王宮魔法師団や魔法学校の生徒、そして子供達に後を任せ、俺は即座にガルダさんの所にゲートで移動したのであった。
■■■
「待ってました。彼方の納屋に妻と子が隠れてまして・・・俺が囮になって逃がしましたと」言うダさんは右腕から血を流して居た。
直ぐにクリーンを掛けて回復魔法で治療をするとそのまま奥さんとお子さんとに合流する為に納屋までゲルダと2人で小走りに走って行く。
まずは彼らをマッシモに逃がさなければならない。グレート・ウルフの群が俺達を発見してグルルと唸り声を上げて詰めて来る。
納屋の奥の藁に隠れた奥さんとお子さんを発見しゲートをマッシモに繋いで逃げる様に言うと、
「コリンダと、ゲルダの所もまだ残って居る筈だべ!すまん、頼む!」と言われて、まずはグレート・ウルフの群れを何とかしようと魔弾を撃ちまくってワンショット・ワンキルで20匹ちょっとを仕留める。
もう魔力残量は1/3位で潤沢とは言い難い。
こんな事になるのなら、もっと前にここの集落にも城壁を作って置くべきだった・・・。
それだけでは無い。飛行船は良いとしても、魔動具でも武器となる物は全く開発して来なかった・・・。
もし武器なと開発していれば一般兵でも農家の人でも自衛手段となっていただろうに。
俺の武器=平和を乱すって言う日本人的感覚が仇となった。
平時にこそ最悪を見越して備えるべきだったのだ。
ここで後悔していても仕方が無いので、取り敢えず集落に入り込んだオークやゴブリン、オーガ等の魔物を各個殲滅しつつ恐らくコリンダ宅と、ゲルダ宅と思われる家の前までやって来た。
「おーい、助けにぞ! トージだ!!居るなら返事してくれ!」と大声で声を掛けると家の中から微かに子供の声がする。
声のする方の家の戸を開け中を見ると、床には血が流れて夫妻と思われる2人の男女が血を流して虫の息であった。俺は急いでクリーンを2人に掛けて回復魔法で治療を行うと絶え絶えだった呼吸がシッカリして来た、男と女の重なった部分の下から1人の少女がモゾモゾと出て来た。
念の為その少女にもクリーンと回復魔法を掛けてやり、「もう大丈夫だ。良く頑張った、マッシモに送るので、ゲルダさんと一緒に居なさい。」と言ってゲートでまっしもに繋いで、フォース・フィールドの触手でまだ気を失ったままのご夫妻と少女をマッスもに送り込んだのだった。
外にでると、新たな魔物が否応なしに目に入る。
げ!トロールまで居やがる・・・と心の中で毒突きつつ、サクサクと『高周波ブレード』を使って分厚い胴体を袈裟斬りに真っ二つに斬り伏せる。
またもや寄って来たグレート・ウルフの群れを魔弾と『高周波ブレード』で捌きつつ
もう1軒の家に向かって「誰か居ないか?」と大声を掛けるも返事が無い。
家の玄関前には大きな血溜まりと、この家の住民であろう、女の人が事切れて居た。
魔物が切れた合間を狙って家の戸を開けて家のなkを見て見ると、片手を失った男の子が1人で倒れてた。
ヤバイ。親が縛ったのか止血こそしてあるものの、出血多量で気も失ったままのコータと同じ位の歳の子・・・もう魔力の残量的にヤバイのだが、コータと同じ歳格好と言う事もあって、後回しにすることも見捨てる事も出来なかった・・・。
魔力残量は、ギリギリ一発イケるぐらいである。
俺は後先を考えるのを止めて男の子の左手を復元するイメージで回復魔法を掛けて行く。男の子の身体がブワッと白く光って手首から先が時計を巻き戻すかの様に生えて行く。
グングンと吸い取られる魔力にフラッとしつつも奥歯を噛み締め気を失わない様に踏ん張る俺・・・コータの為に・・・朦朧とする思考の中で何時しかこの子の事をコータと思い込んでいた。
漸く手首から先の再生が終わってふぅ~と息を吐いて胸を撫で下ろした。
気持ちが悪い・・・ここまでの魔力枯渇は久々である。
お母さんは家の前で亡くなって居たが、お父さんはどこだろう?
何にしても、まずはこの子を先にマッシモに送らねば・・・。
失敗した・・・魔力ポーションを飲もうと思ったのだが、『時空間庫』から先に出しておくべきだった。魔力枯渇で『時空間庫』を繋ぐ事が出来ない。
しかも『国竜丸』も『時空間庫』の中で今は丸腰であるのは俺の身一つに電話位だ。
取り敢えず、ジョニー殿下に魔力枯渇で動く事も何も出来ない状況の報告を入れて、この子の保護をお願いしたいと伝えた。
「判った至急救援を送るからもう暫く耐えてくれ。」と言って電話が切れた。
俺とした事が本当に身を守る最低限の武器すら無い丸腰とは大失態である。
魔力枯渇で動く事すら億劫なのだが農具でも良いので何か武器になる物は無いかと家の中を見廻すが棒一つ落ちて居なかった・・・。
少しずつ魔力枯渇のしんどさが緩和されてきた。
と言う事は少しは魔力が回復して来たと言う事だろう。
焦ってもしょうがないのは重々承知だがこのジッと待つ時間がもどかしい。
折角救ったコータと同じ年頃の少年を何とかマッシモに届けなければならない。
救援はまだだろうか?
俺は少しでも魔力が回復する様にと目を閉じ空気中に漂う魔力さえも吸い込んで自分の魔力の糧となる様に深呼吸をしながら瞑想をするのであった。
かなり身体の脱力感や気怠さも収まりギリギリ1回『時空間庫』を開けそうな感じになった。
そうすれば魔力ポーションも俺の『黒竜丸』も取り出せる様になる。
魔力ポーションさえ飲めれば1回くらい短時間のゲートを繋ぐ事も可能になると思う。
俺は何とかギリの1回『時空間庫』を繋いで開き慌てて魔力ポーションと造血ポーション『黒竜丸』を取り出す事に成功した。
直ぐに不味い魔力ポーションをグイっと呷り、今度は横たわって居る少年を抱き起こしつつ造血ポーションを少年にソーッと溢さない様に飲ませた。
咽せてしまって吐き出してしまったら意味がないので少しずつソーッとチビチビと飲ませ切ったのだった。
後は1度で良いのでゲートを繋ぐ事である・・・。
また俺も横になって魔力の回復を促進する様に安静に努めたのだった。
ドア1枚で隔てられた外では魔物共が残ったこの子のお母さんと思しき女性の遺体を争って居る唸り声や、遠吠えや喧噪が聞こえる。
何時もの俺ならグレート・ウルフの10匹や20匹何でも無いのだが今日は駄目だ・・・。
何としても、この子を救ってアリーシアの元へと戻らなければ!!
ドアの外で争って居るグレート・ウルフの威嚇で吠える鳴き声や暴れて家に身体がドシンと当たる音と振動が大きくなっていってその時、その騒音で意識を戻した少年が「ワーーー!お母さん!」と声を上げて泣き始めてしまった。
拙い!! その泣き声と同時に外で喧嘩していたグレート・ウルフの動きがピタリと止まるのを感じたのだった。
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