第289話 ジョニー殿下の義父 その2

件の訪問から1週間もしない内にゴールデン・キャタピラー・シルクのサンプルが送られて来た。


思った以上に素早い行動からヘイルウッド公王のヤル気をヒシヒシと感じさせる。



その送られて来たゴールデン・キャタピラー・シルクのサンプルを調べた所、ちょっと見た目が派手ではあるが、性能面では十分にケープ・スパイダー・シルクの代用として遜色の無い物である事が判明したのであった。


派手と言うのは色と反射具合で淡いシャンパン・ゴールドで、確度によっては玉虫色に輝くのである。


まあ、ゴールデン・キャタピラー・シルクはヘイルウッド公国の特産品らしいので良い宣伝になりそうだな。



そんな訳で魔動具工房の方ではご注文のあったゲートセンター用のゲートユニットの増産を。一方俺の方はダンジョンに材木を獲りに行ったりして着々と飛行船製造の下準備を始めるのであった。



ダンジョンにフレーム用の材木を獲りに行った際、ちょっとだけ子供らの様子を見たいと思ったのだけど、現在何階層を攻略中なのかを聞いて無かった事に気付いて材木だけ伐採してソソクサと帰途に就いたのだった。



ゴールデン・キャタピラー・シルクのサンプルの試験結果を知らせると、本番用のゴールデン・キャタピラー・シルクのロールとミスリル鉱石がジョニー殿下経由で送られて来たのだった。



何か、ジョニー殿下を運送屋の様に使って居る様で若干心苦しいのだが、「いや、我の妻の実家の為の事故に気にしないで良いのじゃ。それにトージと我の仲ではないか。」との事だった。


そう言う事なら・・・ときにする事を止めて早速届いたミスリル鉱石から、高純度のミスリルを錬成し始める俺。



家庭用の冷蔵庫ぐらいの箱に入った大量のミスリル鉱石から不純物をドンドン取り除き、最後に残った高純度のミスリルインゴットを見たジョニー殿下は不純物の多さと錬成されて残った純ミスリル量の少なさに驚いていた。


「トージ、こんなにも不純物が多かったと言う事なのか?」と驚いて尋ねて来るジョニー殿下に頷く俺。


「こうして錬成してみると、どれだけロスが多いか判りますよね。結構地味に大変なんですよ。ボッタクリしたる訳じゃ無いって良く判って頂けるかと。」と説明するのであった。


久々の飛行船作りはそれなりに楽しく、没頭して作業をして居ると、フレーム作りの3ヵ月間はアッと言う間に過ぎてしまった。


飛行船よりも先にゲート・ユニットの方が注文分完成してしまい、それらの設置の段階になったので、家の飛行船でマッシュに納品しに行って貰う事にしたのであった。


最近ではマッシュの操縦も慣れた物で、任せておいても何の不安も無いので重宝している。



マッシュはこのまま連日飛行船でヘイルウッド公国内の各主要都市にゲート・ユニットを配達して廻る事になる。



マッシュ自身でもゲートが使えるので、長期出張では無く、基本日帰りの連日となる訳だ。


可愛い盛りのコハルちゃんと引き離す様な酷な事は出来ないし、しないからね。


昼間移動して配達し、その後駐機してゲートで帰宅し翌朝飛行船に出勤してまた移動するを繰り返す訳だ。



尤も、ヘイルウッド公国側の官僚も3名も同行するので、余り気楽な道中と言う訳では無いけど、それなりに馴染んだとの事であった。


それに、後々の事も考えて、その官僚にも操縦を教えて居るらしい。流石はマッシュ、無駄が無い。



本来だったら、俺の今制作中の飛行船が間に合えば一番話が早かったのだがなかなそう早くは完成しないのでこちら側で配送までを受け持った訳だ。




今回のヘイルウッド公国のゲート網は都市だけで無く、国境付近の砦にも配置され、緊急時には兵の増員や退却、支援物資の搬入等に使われる事となる。



そして、もし敵の手にゲートのある砦が堕ちた際には公都側のゲートセンターの回路を遮断してしまえばゲートを利用されて寝首を掻かれる事も無くなる。


ヘイルウッド公国にはローデル王国との国境の反対側に野蛮な蛮族の国があるらしく、細かい紛争はしょっちゅう起こって居るらしい。


そんな背景も在って、マリアーヌ王太子妃は己を守り国を守れる力として、魔法に興味を持ったらしい。




そうそう、ヘイルウッド公国から、マッシモの魔法学校に国賓留学生がやって来るらしいとジョニー殿下から聞いている。


ラフティ、大変そうだなぁ~・・・。





■■■



マッシュがゲート・ユニットを配達し終えた頃、漸くフレーム製造工程が終わり、外装工程に移る事となった。


ちょっと素材違うので若干緊張するが、多少は失敗しても、代わりの材料を送るからと、心強いお言葉を頂いているけど、一発で成功させてこそのプロフェッショナルである。



白銀をゴールデン・キャタピラー・シルクの裏面に蒸着させて必要なロールを先に準備しておき、フレームに樹脂糊を塗って素早く皺にならない様にピンと張って貼って行く。


もう4機目となると手慣れた物で、過去最高に良い感じに貼れていると自画自賛しながら、良い調子で作業を進める俺。



幾ら作業が手慣れて早くなったとは言っても、胴体全体を1日で貼るのは無理なので、無茶はせずに大人しく、夜は休んで翌日に作業を持ち越す事5日。


漸く胴体全体がシャンパン・ゴールドに輝く飛行船となった。


コントロール・ルームを仕上げ、客席やシートベルトを装備してインテリアを仕上げて行く事更に6日間。




やっと完成だ!



早速、ジョニー殿下とヘイルウッド公王陛下に電話を入れて完成を知らせると、明日ローデル王国の王都で受け取るとの返事が来た。



どうやら、マッシュが設置したヘイルウッド公国側のゲートセンターから、ローデル王国のゲートセンターへゲートで移動するらしい。



と言う事で移動時間もあるので、試運転がてら俺は早速王都へと空路で出かける事にしたのであった。



まあ、外装の素材の違いだけで特に性能が変わる訳ではないのだが、新品を操縦するのは気分が言いけど『客の物』って事で余計な緊張をしてしまう。


コントロール・ルームに座って、操縦桿を操作してユックリと上昇を開始する。


心無し機体が軽く感じるのは外装のゴールデン・キャタピラー・シルクの所為だろうか? たしかに微妙に長さ辺りの比重が軽かった様には感じたけど。



スイッと軽く上昇して行き、高度100mを王都に向けて巡航する。


微妙な差だが最高速に達するまでもも軽い分早く感じるが、その反面、風にたいして多少神経質な気もするが、まあ誤算の範疇だろう。


1時間ちょっとのフライトが終わって王都が眼下に見えて来た。


ジョニー殿下の指示に従って王国機の格納庫の隣に着陸して駐機する。



「おー、これがおお義父様の期待か!派手だな・・・。」とジョニー殿下とマリアーヌ妃殿下が満面の笑みで出迎えてくれた。


「あ、お出迎えして頂いて恐縮です。やっと完成しました。自分で言うのも何ですけど、なかなか良い出来映えですよ。」と言って会釈する俺。


「そうか!?」と聞いて来るジョニー殿下。


「ええ、下手に国王陛下に乗せると欲しがりそうな位には。まあ、微妙な差ではあるんですが、ゴールデン・キャタピラー・シルクの恩恵で機体重量が多少軽くなったみたいでね。素早いんですよ。」と簡素に説明すると、ジョニー殿下が顔を顰め、


「そ、それは陛下には絶対に言ってはならぬ話だな。極秘としよう。」と頷きながら言って居たのであった。



「では、明日、再度こちらにてヘイルウッド公王陛下にお引き渡しの為にお伺い致しますね。」と言って早々に退散したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る