第249話 不穏な気候 その1

例年よりやや肌寒かった冬が過ぎ、例年より早めの温暖な春の訪れが人々の顔を緩ませる。


元々ここマッシモ領は余り気温の変化も少ないのだけど昨年から今年に掛けては若干調子が違うらしい。


気候変動と言うと元の世界の温暖化に伴う異常気象を思い出して嫌な感じだが、この世界では温暖化の元である化石燃料による二酸化炭素の派出も無ければ、フロンやハロン等の温暖化を伴うガス製品も無い。

精々人間の営みで使われる火によって生じる二酸化炭素ぐらいのものだから安心である。


毎年の様に台風による被害や地震に怯えて暮らしていた元日本人としては何にせよ暮らしを脅かす相手が居ない事は非常に嬉しい。


近年まで帝国と言う宿敵が居たが今では親戚国家となり良き隣人となって居るのも大きい。


そんな王国の現在ではあるのだが、本来春の到来から暫くすると始まる筈の雨期が今年は遅れて居る。


来るべき雨が来ないと農家に取っては大問題である。


特に俺の生命線であるマッシモマイマイの栽培には水は不可欠で、マッシモ・マイマイ栽培農家の総元締めであるガルダさんから「今年は駄目かも知れん。」等と脅しの電話を貰っては平常心では居られない。


元々自分達の食を支える為の1年分ぐらいのマイマイのストックはして居るが、それも永遠にカバー出来る程に持って居る訳でも無いので、今年の分は今年の生産分で賄って行かないと困るのである。


雨が降らなければ、前に作った井戸用ポンプで組み上げて賄えば良いじゃないか!?って思うだろうけど、肝心の地下水脈への補給の雨が降らないと景気良く見ずを組み上げてと言う気にならないらしい。


まあそれもその筈、俺の唆しで、周囲の農家まで巻き込んで一大マッシモ・マイマイ栽培地帯にしてしまったので使用する水の量が半端無く、とても井戸水組み上げようポンプで賄える面積ではないのだ。


もうちょっと貯水池や用水路の整備してやらないと駄目かも知れんな。


今でも貯水池や用水路はあるんだが、それ程大きな物でなく、ここまで雨期がズレる事を想定していなかったのだ。


水を出す魔動具を作る事は出来るが、魔力コストが高く付くので、井戸の組み上げよりも余計に高く付く。どうせなら、度かの湖や大河から直接水を入手した方が安定供給に繋がるだろう。


ここら辺で大量の水のある所と言うと、例の『秘密の花園』から見下ろせる精霊でも居そうな程清らかな湖があるんだけど、彼処の湖に手を出すのは畏れ多いと言うか、禁忌に触れる様な気がするのだ。


うーん、どうしよう?どうせなら、尽き無い水源から拝借したい訳でそうなると、マッシモ東ダンジョンの12階層の渓谷の下に流れる河川から、魔物抜きの水だけを素通しする『ゲート』を作って貯水池に繋いでやれば良いんじゃ無いかって思い付いた。



善は急げで通す物体をフィルタリングする特殊ゲートを試作して、実際にテストすると、俺の手はゲートで弾かれて通過しない。

どうやら、フィルタリング機構が上手く機能して居る様である。


さて、これで物としてはOKであるが、どうせなら貯水池の水位によって自動発動し、一定の水位になったら自動停止する様な水洗便所の水タンクのフロートの様な停止弁と同じ機構と言うか動作スイッチを作って無人化したい。


じゃないと、ヒューマンエラーで水害とか絶対に起こりそうな予感するし。


その所為で今年は収穫無しです!とかなったら、悔やんでも悔やみきれない。


簡単なバブル・フロッグと言うカエルの魔物の皮を用いたフロートを作って、簡単な自動スイッチを作成して、何度かテストを繰り返して、ちゃんとに動作することを確認し、ダンジョンに仕掛ける側のゲートの魔力供給用の魔石を頻繁に交換出来ない為、基本は『受け』専門とし、外の貯水池に設置した側から接続時の魔力供給で起動する様にしたのだった。


ゲートセンターで使用しているゲートは基本両方共に魔石を常時管理しているが、実は誰にも教えて無いが最悪片方の魔石が切れしまっていても、もう片方からの供給で強制的に接続は可能となっているのである。


この仕様を積極的に利用しようと言うのが今回の特殊フィルタリング仕様のゲートである。


ちなみに、ゲート自体には吸引力等取り込む力や効果は無いので、流れのある河川か、高低差のある場所に取り付ける必要がある。


尤も、ダンジョンに何かを設置しようが置いて行こうが、一定の条件を満たした場合、ダンジョンに吸収される可能性がある。ただ、冒険者ギルドカードが残って居たりするので全てが全て吸収される訳ではなさそうである。


今では俺しかダンジョンの12階層に行ける者が居なかったが、もう『ゲート』を使える者が沢山増えたので先々も大丈夫だろう。

念の為設置時に一期生全員を連れて行った方が後々の為に良いかも知れないな。




こうして、3週間程遅れたものの、俺の設置した給水用の特殊ゲートによって貯水池に自動的に一定量の水が貯まる様になったので、雨期は来て無いが、田植えも出来て難を逃れたのであった。


これを怪我の功名と言うのだろうか? ダンジョン由来の水で育てたこの年のマッシモ・マイマイは含有魔力が豊富で非常に美味しいマイマイに育ったのにはみんな驚いて居た。


尤も俺だけはその理由に行き当たったのだけど、我も我もと面倒な事になりそうなので、黙っておいたのは言う魔でも無い。


だって、ほら魔物の肉だって、強く魔力が豊富な奴程美味いし、それと一緒かなってね・・・一応、この年のマイマイは多めにストックしたよ。



1ヵ月以上遅れて漸く雨期が到来したが、その後の夏が非常に暑く、熱中症で倒れる者もチラホラ出たのを治療院経由で聞いたので、マッシモ様に進言して大々的に熱中症の症状と対策と対処法を領内に広めて貰ったのだった。



一応熱中症対策用と意う事で『塩飴』を発売した訳だけど、思った以上にバカ売れしてしまい、何かちょっと申し訳無い気持ちになったのであった。


言い訳をさせて貰うと、マッシモ様を通じて広めてもらった熱中症対策には水分と塩分を適切な量取れ、水のみの取り過ぎは危険とはあるけど、決して『塩飴』を買って食えとは言って無いからね。


ただ、魔の森の断層から採取したミネラル豊富な岩塩から作った『魔の森の岩塩飴』って言う如何にも効きそうなネーミングが良かったんじゃないかと・・・。



■■■


猛暑対策の序でに、自宅の敷地のプールを作ってみたんだが、この世界には水着と言う物がなくて、結構洋服と同じ綿でつくったピチピチの物になって泳ぎ難く要改良であった。


とは言え、水着に使えそうな生地の素材がほぼ無いんだよね。ああ言うナイロンぽい生地で若干の伸縮性のあるダボ付かない物が在れば良いんだがラルゴさんに探して貰っているが見つかるかはラルゴさん次第である。


まあ男の水着はトランクスなのでまだ良いんだが、問題は女性用の水着。Tシャツの様なピチピチした物じゃあ泳ぎ難いし、ほら、首の所が水の重みで伸びてチラリしちゃうじゃん!?


男共は喜ぶかも知れないが、女性が嫌がる衣装にしてしまうと女性に受け入れられなくなってプール自体が世に受け入れられなくなるからね。


一応、現在は女性版の水着はピチTに胸部にサラシぽい物で固定する様な感じでダボつかない様にしている。


そのお陰か、

我が家の子度達(含む一期生~全期生)には初めてのプールは大好評であったが泳げる者が殆ど居らず俺が纏めて水泳の授業をして教え込んだのであった。




まあ展望としては今後、出来れば家の子だけでなくこのマッシモの街の人全体にもプール文化を根付かせたいなって思っているんだけどね。


そもそもこの世界で海水浴や川で水泳するって発想は無いらしいのだ。


つまり、深い川に落ちたら、ほぼアウトって事だ。


そうすれば、溺れて死ぬ人は少なくとも居なくなるかもだし。


尤も、場所によっては溺れて死ぬんじゃなくて水中の魔物によって食われて死ぬんだけどね。



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