第243話 初めての実戦 その1
無事にカレンさんやアリーシアからの承諾も頂き、晴れて2人を連れて森の入り口での初討伐体験ツアーを開始する事になった。
よくカレンさんやアリーシアが許可を出したなって元日本人の俺だと思ってしまうけど、この世界の常識では程度問題はあるものの、俺の様な日本人的発想は過保護を通り過ぎて一般的では無いらしい。
孤児院で生まれ育ったマッシュ達の場合は若干境遇的に異なるが、この魔物との遭遇が日常的にあり得るこの世界だと通常10歳前後で最低限ホーンラビットぐらいなら自分でを狩れる様な手段や知恵を学ばせる事が多いらしい。
よって、そう言う家庭の躾の一環で魔物討伐サポートの依頼が冒険者ギルドに依頼で上がったりする事が多いらしい。
つまり、今回俺が打診してた初の討伐実践は、渡りに船的な嬉しいお誘いだったと言う事らしいのだ。
しかも俺以外にも5名の腕利き魔法使いが同行すると言う破格の待遇の好条件であったのだ。
と言う事で、何処ぞの狩猟民族的な思考故と言う訳では無く予想以上にスンナリと認められた訳である。
さて、ここまで来ると問題はコータである。これにコータを連れて行って変に虐殺シーンを見せるのは何に対しても『虐殺』して良いと言う誤解を生じさせかねないので絶対につれては行けない。
寧ろコータには人に対して魔法を放ってはいけない事を教え込みたい状況なので、どんなに泣き叫ぼうが絶対にあり得ないのだ。
その為少々トリッキーな状況であるが俺やサチちゃんはコータのお目覚めより早めに家から出発し、俺は早めに帰宅する様な感じの予定とする事にした。
どうせ、初討伐は本人が思っている以上に緊張による疲労が蓄積するので子共達も昼食を取ったら上がる感じの早期終了でも丁度良いのかも知れない。
当日朝、早朝からテンションの高いサチちゃんを連れてガスリー君と何時もの魔法訓練場で待ち合わせていたら、マッシュ達が先日覚え立ての『ゲート』を使って5人全員がバラバラに登場した。
おー、初っ端から魅せるなぁ~とそんな一番弟子達の登場シーンに微笑ましい気持ちになる俺。
「やあ、みんな、今日は態々すまないね。さあ、2人もお兄ちゃんお姉ちゃんにご挨拶しなさい。」と言うと、
「お兄ちゃんお姉ちゃん、今日は私達の為に時間作ってくれてありがとうございます。」と言って頭をペコリと下げるサチちゃんに釣られる様に、「ガスリーです、今日は1日宜しくお願い致します。」とガスリー君も頭を下げていた。
「おお、2人共えらいね、ちゃんと挨拶出来て。俺達こそ、久々で楽しみでさ。今日は宜しく頼むね。 知ってるとは思うけど、君達の兄弟子に当たる俺はマッシュ、こちらがリンダ・・・~~」と順に自己紹介をして行くのであった。
そして和気藹々の雰囲気の中俺のゲートで場外の森の入り口付近の草原に全員で移動するのであった。
ここに来る事自体が久々である。
サチちゃんも『天空の城』等で場外に出た事はあっても自分の足で立っている事は初めてと言って良いだろう。
はしゃぐ2人に、
「さあ、気持ちは判るがここからは真剣に行かないと怪我じゃ済まないからな!さあ、魔装を纏って臨戦態勢だ!」とピシャリと言うと、「「はいっ!」」と気合の入った返事が返って来た。
さてと、獲物はっと・・・。俺は気配察知で周囲の魔力持つ魔物の気配を探ってみていて、ハッとした。そう言えば、2人に『気配察知』を教えてい無かった事に・・・。
「えっと、こっちの方向20mくらいに恐らくホーンラビットが居る。」と俺が右斜め前方を指さしながら言うと『気配察知』の存在を知らないので驚く2人。
「お父さん、凄い!!」と言う至福の言葉を頂き、思わず表情筋が緩む俺。
「後で説明するが『気配察知』と言う手段で魔力を持つ魔物の位置を知る事が出来るんだ。 ほらあの木の手前の草むらだ。」と言うと、サチちゃんが先に
「あ、見つけた!
「行きます!」とサチちゃんが宣言し、良く狙いをすましつつ魔弾を発射するが、逆に気配を察知されて、「キュー!」と鳴きながら、こっちに角を向けて突進して来た。
その為サチちゃんの発射した魔弾は逸れてホーンラビットの居た場所の後方に着弾してしまった。
俺は空かさず「ガスリー!」と次弾の発射準備していたガスリー君に呼び掛けると同時にガスリー君が魔弾を発射。
ガスリー君の魔弾は此方に向かって突進して来るホーンラビットの眉間を正確に捉え「モキュー!」と言う断末魔の鳴き声を残してドサリと地面に落ちたのだった。
「おー!!良くやった。冷静な狙いと判断だったな!」褒めながら頭を撫でてやると、「出来た!!」と子共の様にはしゃぐガスリー君。
それに反して、狙いもハズレ、初獲物を逃したサチちゃんはちょっと悔しそうであったものの、「ガスリー兄ちゃん、おめでと。そして私のミスをフォローしてくれてありがとう!」とちゃんとお祝いとミスのフォローのお礼を言えていたのだった。
「一応、人間の臭いで気付かれない様に、風下から接近して仕掛けるのが重要だが、奴らも命掛かって居るだけに隙を作らなかったり、ちょっとした物音や魔力の高まりに反応したりする。臭いや音は風魔法のシールドを魔装の上に纏えば簡単に軽減出来るぞ。」と説明をしつつ次の獲物を探りながら周囲を見回していると、仕留めたホーンラビットの解体と回収をマッシュ達が2人に教えてくれていた。
流石は気の利くマッシュである。
マッシュ達の会話を聞いていると、どうやら後で仕留めたホーンラビットの肉でBBQもする予定らしい。
「居た!こっちの方向に30m先の木の根元辺りにホーンラビットが2匹居る。こっちから行くと、風上方向なるから、風間法のシールドを展開しつつ身を低くして回り込むぞ!」と次の獲物の位置を通達して指示を出す。
全員が防音防臭の風シールドを展開し、迂回して風下に回り込んで行く。
木の根元が位置的に見難い事もあって、フォース・フィールドの足場を使って狙い易いポジショニングを確保して、それぞれが担当するホーンラビットを取り決めて2人同時に魔弾を放つと、「「キュー!」」と鳴き声を残し2匹も亡骸へと換わったのであった。
最初のホーンラビット以外は非常に順調である。
2人も動かないホーンラビットの眉間を狙い撃つのは問題無いが、敵は動きの無い相手ばかりとは限らない為より実戦的に自分達を狙って襲撃してくる敵に対しての攻撃のターンに入ろうと言う事にしたのだった。
今度はホーンラビットではなく、食えない相手・・・そう、ゴブリンである。
「さて、今度はホーンラビットから、好戦的で人間を襲ってくる代表格の魔物であるゴブリンだ。いきなり多数のゴブリン相手にはしないが、相手は人間と同じ様な姿でこっちに迫って来るので精神的に焦って狙いを外し易い。前に教えた様に動いて狙い難い相手の場合、まずは手足胴体どこでも良いので、先に傷を負わせて戦力を削ぐ事を第一に考えろ。以外に動く相手は難しい。足をアイスカッター等で切断出来ると非常に有利だ。」と念の為に再度説明すると、「判りました!」と元気の良い返事が返って来た。
とは言え、頭では判って居ても実際に棍棒等手に迫って来られると冷静に当初の予定通りなんて出来ないのが通常である。
今日では安心して任せられるこの一期生のみんなも当時は結構オロオロしたり危ない感じの時もあったのだから。 まあ9分9厘失敗するだろうけど、サチちゃんとガスリー君は最低限の防御として魔装を身に付けているので、もしもの際でもなんとかなるだろう。
まずは単体のゴブリンを探し、そのゴブリンの元へと向かうと、俺達と言うより、先頭に立ったサチちゃんとガスリー君を見つけて嬉し気に棍棒を振り上げてギャギャ・・・っと鳴き声をあげつつ駆け寄る単独のゴブリン。
そのゴブリンに対し、まずはサチちゃんが、足・・・膝上を狙って水平にアイスカッターを絶妙のタイミングで放つ。
上手い!あのタイミングなら、避けられる事はないな! ほらね!膝下を切断されてギュギャーと泣き叫ぶゴブリンに冷静に魔弾で眉間に一発入れて仕留めるガスリー君。
うむ。2人は話し合ってお互いがお互いをフォローし合える様に先手と後ろ手で分業制にしたらしい。それはもう少し先で教えるつもりだったのだけど、賢いじゃないか!?
さらに続く単独のゴブリンでは先手をガスリー君が熟し、サチちゃんが留めを刺した。
そんな2人の仕事っぷりを見て感心の声を漏らすマッシュ達の5名。
「何か俺達の討伐デビューより全然堂に入って安心して見てられるな。複数相手でもこの調子なら、俺達不要だな。」等とヒソヒソと褒めて居る。
「まあ、そうは甘く無いのが現実の実戦だよ。奴らが慢心しない様に聞こえない所で頼むな!」と俺が安直に舐める様な考えを持つと危険だから聞こえない様に釘を刺すと、「判りました・・・。」と声を更に潜めて居たんもだった。
徐々に集団相手に移行し、2匹、3匹と無難に熟した2人だが、5匹相手では流石に厳しかった様で、アイス・ウォールで一旦防御を優先し、その後アイス・ウォールを賢く使って5匹を分断して3匹、3匹への対応と同じ要領で上手く熟してしまい、見て居る俺達はポカンとしてしまうのであった。
「いやぁ~、賢いじゃないですか!!ビックリですよ!」とマッシュが素で驚いている。
いや、俺も我が子ながら、この上手いやり口に驚いているんだけどな・・・。
いよいよ、次は、すばしっこく賢い、対フォレスト・ウルフ戦である。単体、3匹と上手く熟し、10匹以上の群が寄って来た時も、2人は慌てず先程のゴブリン5匹の時と同じで、アイス・ウォールやストーン・ウォールを使って上手く分断して、小数ずつを着実に討伐して、行き、とうとう12匹のフォレスト・ウルフの群を討伐仕切ってしまったのだった。
とは言え、流石にこの12匹の群は精神的にキツかった様で、12匹の解体の後はちょっと早めの昼休憩にしたのであった。
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