第223話 センスって大事だよな!?
大興奮で威厳も品位も何処へやら状態の国王陛下にドン引きの宰相閣下と物見遊山気分で参加したものの実の父の意外な一面を見て唖然とする第一王子殿下。
まあ新しい玩具手に入れて浮かれるのは子共だけじゃないって事だ。
今日の初飛行の為にオークションで落札したあの『ホーラント輝石』を2つ共に持って来て貰っている。胴体下部のコンパートメントから搭乗し全員でゾロゾロと内部の階段を上がってコクピットであるコントロールルームへとやって来た。
「じゃあ、まず最初に起動の仕方から説明して行くので聞き漏らさない様に気を付けて下さい。 ここに『ホーラント輝石』を2個セットします。1つを使って空になったら辛くしちゃうので、予備に自動的に切り替わる様に改良しました。 皆さん国の重鎮ですからね。
で、このメインスイッチを入れると、はい、この様に薄らと光った後起動完了です。で、このコントロール・レバーで操縦しまします。 良いですか? 急激にガクッと動かすと事故を起こす原因になるので呉々も気を付けて下さい。 本当に赤ん坊の腕をソッと動かすぐらいの優しい気持ちで。」と厳重に警告しつつ操縦の極意を伝授して行く。
もうね、前後左右の大型ディスプレイに映し出される映像だけでワーキャーと五月蠅い五月蠅い。
「じゃあ、ジワッと上昇して離陸しますよ!!」と行ってコントロール・レバーを上昇に動かすと俺の『天空の城』よりも軽い反応でフッと縦Gを感じで上昇モードに入る飛行船。
上昇、降下、左右の反転や前後の微進等自在に動く事とその操作を教えると、てっきり侍従が御者の様に操縦するのかと思って居たら、
「よし!完璧じゃ!儂が操縦とやらを換わってやろう。」と妙に自信満々の国王陛下が名乗り出る。
何だろう?言い知れぬ不安が脳裏を駆け巡るのだけど、これは操縦を委ねて良いのだろうか?
不安な気持ちで判断を仰ぐ様に宰相閣下の方へ視線を送るも逆に『大丈夫なのか?』って視線で聞いて来やがった・・・。 いや聞きたいのはこっちの方なのだが?
「陛下、本当に操縦される気ですか? もし墜落して壊しても修理は俺しませんのでご注意下さいね! 本当にソッとですよ!呉々も操縦桿やスロットルをガッと開けたりしちゃあ、全員あの世行きですからね!? 赤ちゃんの腕をウド貸す様にソッとですよ!!」と行って、自信満々の国王陛下に操縦席のシートを譲ったのだった。
「よし。では参るぞ!!」と言いながらシートに座る前にスロットルレバーを掴み、そのまま「よいしょっ!」とシートにドカッと座る陛下。当然不安定な状態で掴んだスロットルがガバッと動いて一気にハーフスロットルになってしまって、後方にひっくり返る妖婆加速Gでギュンともの凄い速度でトビダッスシルバーの弾丸と化した飛行船・・・。
幸いだったのはこの時陛下が
俺は持ち前の反射神経でGに耐えて転倒は免れたものの、哀れな宰相閣下と第一王子殿下と侍従は後方に吹っ飛んで部屋の壁に貼り付いていた。
「陛下!!!ヤバイ!!スロットルを戻して!!!」と叫ぶも、パニクったオッサンは反応出来ずにただアワアワしているのみである。
俺は重力制御と身体強化を使って陛下の座るシートまで辿り着き、スロットルをアイドルに戻したのであった。
操縦を交代するまでに高度300mぐらいまで上昇して置いたお陰で何処にも衝突する事も無く墜落する事も無かったのは幸いであった。
一旦コントロール・レバーやスロットルから、離れて貰い、負傷者3名にヒールを掛けて脳震盪や捻挫を治療してやってから・・・陛下にお説教タイムである。
「陛下!今どう言う事態になったか、その原因はご自分で判りますよね? 操縦にはデリケートな操作と言うだけで無く、他者への労りの心と配慮が必要なんです。今の事故、打ち所悪かったら、ご自分のお子さんである第一王子殿下のお命に関わって居たかも知れないのですよ!!! 本当に反省して下さい!!」とメッタメタにツッコんで説教する俺の言葉に青い顔で頷く国王陛下と顔色の悪い第一王子殿下と宰相閣下。
「すまぬ・・・悪気は無かったのじゃ・・・。 皆の者、すまなんだ。」と素直に謝罪する国王陛下。
反省をして居る様なので、今度は俺が手を添えて、加減を示しつつ操縦を教える事にした。
俺は日本に居る頃、フライトシミュレータやフライト・シューティング系のゲームも好きでやって居たし、バイクも車も乗っていたので操縦自体には慣れていたが、この世界には竜車や騎竜以外の乗り物も無いし、操縦って概念も薄いから加減が判り難い様で最初こそ事故になりかけたが、1時間も指導してやると、漸く手放しで安心して任せられる様になって来た。
特に上手いのは若く頭の柔らかい第一王子殿下で、このメンバーの中で一番適正と言うか操縦のセンスがあるみたい。
俺が褒めると嬉し気に微笑んで居る。こうして見ると、17歳と言う歳相応に見える。ある意味マッシュ達と余り変わらない歳なのだ。
一応、手書きで作ったマニュアルの冊子を渡して在るが、一番物覚えの良さそうな第一王子殿下を中心に色々説明して着陸時の注意点等を事細かく教え込んで置いた。
姉のジェシカが強烈過ぎて影が薄かった感は否めない第一王子殿下だったが、今日初めて存在感を感じた俺だった。
事故の反省なのか暫くの間大人しかった国王陛下だが、
「せっかくじゃから、このまま帝都に行ってジェシカに見せに行かぬか?」と思いっきり外交問題になりそうな事をポロッと言う国王陛下。
「それは国際問題になりかねないから駄目ですよ。逆の立場になれば脅威に感じるでしょう? 帝国はこの飛行船持ってないのですから、絶対にやっちゃ駄目です!!『親しき仲にも礼儀あり』って言うぐらいなのでひけらかすのはNGです。帝国以外の国にもやっちゃ駄目です。軍事行動と同じ事です。」とキッパリと釘を刺して置いた。
「そうかぁ~・・・」と詰まらそうに一応納得する国王陛下だが、
「では娘夫婦に王国に来て貰って乗せるのは大丈夫なのじゃ?」と聞いて来たので、
「まあ、それならば。」と了承しておいたのであった。
■■■
結局この日はほんの1~2時間で引き渡し終了にしてサッサと帰る予定が、全然返帰して貰えずにやれ飲み物だ!昼飯だ!と請われて、結局夕方近くまで振り回されて、何と陛下の操縦でマッシモの俺の自宅まで送ってくれたのであった。
尤も、このまま、「じゃあどうも! また今度!」で終わる訳が無く、何故か俺の自宅の敷地内に飛行船を着陸させて全員ゾロゾロと俺の家まで着いてきやがった・・・。
本当にビックリである。
見た事も無い飛行船が俺の家に着陸した事でビックリしたマッシモ様が騎士団と一緒にやって来て、俺の家でサチちゃんと一緒に早めの夕飯を嬉し気に食べてる国王陛下を見て卒倒しそうになっていたのだった。
そんなマッシモ様に申し訳無いと心の中で手を合わす俺だったが、「追い返そうにも追い返せない相手なので察してね!」と視線でマッシモ様に訴えるのだった。
さて、問題は『帰り』である。時間は夕暮れ時を過ぎ、日は傾き、星もチラチラ輝きだしている時刻である。
この飛行船も俺の『天空の城』もであるが夜間飛行の装備も考慮も無い。暗い中で飛ぶのは自殺行為であるが、
どうするつもりだろう?と心配に思って居ると、どうやら問答無用でお泊まりする気だったらしい。
「陛下、誠に申し訳ないですが、我が家には陛下がお休み頂ける様なまともな部屋は無いのです。粗末な部屋ではご不自由をお掛けしてしまうと思うので、マッシモ様のお屋敷にお泊まりになっては如何でしょうか?」とマッシモ邸を推して見た。
「うむ、そうじゃの、そうしようか!?」と言うので急ぎマッシモ様(一旦先に屋敷に戻ってしまった)に電話を掛けて事情を話すと、電話の向こうで滅茶苦茶焦って居た。
「30分ぐらいしたら、陛下御一行をそちらにお連れしますので、宜しくお願い致しますね!」と言って、一方的に電話を切るのであった。
食後のデザートタイムを経て、丁度良い頃合いにゲートで御一行をマッシモ様のお屋敷にご案内して漸くホッと一息つくのであった・・・。
こうして、俺の長い長い『納品』の一日がやっと終わった訳である・・・。
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