第220話 面倒な駄々っ子

2時間のデモ・フライトを終えて無事に出発地点の駐機エリアに戻った訳だが、サクっとマッシモに戻ろうと思ったのに、我が『天空の城』より降り用としない駄々っ子が1人。


「と、トージ殿!!アンコールじゃ!儂をもう一度空に上げてくれぬか!?」と良い歳こいた聞き分けの無いオッサンが1名、俺達の帰還を妨げているのである。


最初の方こそ、やれ『御使い』様だの控え目に遠慮を感じたこのオッサンだが、俺も人の事は言えないけど、最近では全然遠慮の『え』の字すら感じ無くなったな・・・。


『陛下、今日はもう終わりです。 まだこの『天空の城』はテスト段階ですし、この動力源にしている『ホーラント輝石』だって何処まで保つかも不明なんですから。

何度もホイホイと飛ばせるわけじゃないのですよ!?」とヤンワリと諫める俺。


諫める為に咄嗟に口にした言い訳だったのだが、よくよく冷静に考えると確かにこの『ホーラント輝石』でどれ位保つものかさえ判って無い事に気付いてちょっと背筋がゾッとしてしまった。


飛行の成功で浮かれて居たけど、実際空中で『ホーラント輝石』の持つ魔力?エネルギーが尽きた場合のセーフティーはあるのかも微妙なのだ。


一つ言えるのは予備の『ホーラント輝石』を魔の森で探して置いた方が良いと言う事だろう。


今思えば2つともオークションに出さず1つ予備で取って置けば良かったのかも知れない。


まああのオークションに出した『ホーラント輝石』が見つかった断層の地層は判っているので、掘り返せば更に2~3個くらい見つけられるんじゃ無いか!?って事だ。


その為にも、早々に国王陛下にはお引き取り願ってみんなを自宅に送ってから探しに行きたい所である。



どうやら、俺の適当な『ホーラント輝石』が何時まで保つか判らないってのが結構利いた様で、国王陛下の駄々っ子ぷりがやや下火になって来たのは良いのだが、今度はやや違う方向のアプローチをトライして来た。


「と、トージ殿!物は相談なんじゃがぁ、儂にも専用の『天空の城』を1つ作ってくれぬかの? 『ホーラント輝石』はオークションの分があるので大丈夫じゃぞ!?」と専用の『天空の城』を所望して来た。


「いや、陛下、材料や素材だけで目ん玉が飛び出る程の金額になりますよ? これはダンジョンで偶々偶然にゲットした素材やパーツがあったから作れた訳で、何れを取っても貴重でレアな素材の塊ですから。そうそう簡単に手に入らないミスリルから作った『ミスリル線』もふんだんに使ってますし、ベースとなるフレームも全てダンジョン産の木材使ってます狩らねぇ~。」と俺が材料からして非常に入手し難い事を伝えると、凄くガックリしている国王陛下。



「じゃあ、トージ殿!! 必要なミスリル等の材料は可能な限り、儂の方でも支給するって条件ではどうじゃ? ダンジョン産の木材とかは流石にトージ殿にお願いするしか無いがその持ち出し分の材料費は勿論儂は支払うのじゃぞ? じゃから一考の余地があるんじゃないかの?」と食い下がる国王陛下。


う~ん、面倒だなぁ~・・・



余りグズグズしているものだから、コータがオムツを汚してしまってグズりだしてしまった・・・。


まあ、それ自体は空かさずにアリーシアがクリーンを掛けてしまい一応は泣き止んだのだが、このコータのグズりを好機と捉え、

「何処までそちらで材料をご用意頂けるか一度詳しい打ち合わせをしないと出来るとも出来ないとも判断出来ませんね。 ちょっと子共がグズってるので、明日にでも王宮の方に出向きますので一旦今日は解散しましょう。」と切り上げの言葉をくちにしたのであった。


カレンさん&ガスリー君親子にこの陛下とのやり取りはやり取りは刺激が強かった様でポカンとして見て固まっていたが、漸く解散が決まってゲートを発動すると、サチちゃんの呼び掛けに反応して慌ててアリーシア達に続いてゲートでマッシモに戻ったのであった。




 ◇◇◇◇



一夜明けたデモ・フライトの翌朝、朝食を終えた後、


昨夜纏めた必要材料一覧と、全く同じ物は厭なので飛行船型のイラストや簡易設計図を描いた紙の束を纏めて王城のあのゲート専用部屋経由で国王陛下にお目通りに向かうのであった。



何故同じ形でなくて全く違う飛行船型を推すのかと言うと、『天空の城』型は俺物物!!ってのもあるが、もう一つは飛行船型の方が空気抵抗が少なく重量も軽いのでエネルギーロスが少ないだろうって言う単なる想像も入っての事だ。


それに、飛行船型の方が恐らく必要となる材料が多分少し減るんじゃ無いかって思うんだよね。


まあ外壁に使うケープ・スパイダー・シルクはそれなりに多いけど、それは王宮側に用意して貰うし、ケープ・スパイダー・シルク自体魔力の通りが良いからその分ミスリル線が不要になるし、負担軽減って意味では意外に良いプランだと思うんだよね。


ただ、飛行船型の場合、俺ははまき型のあの楕円形状のフレームを硬いダンジョン産の木材を使って曲げて作らないといけない訳でそれは本当に大変だと思うけど、意外にもそれを楽しそうと感じてしまう妙な性分の俺が居るのだ。



実際、フレーム自体はコントロールユニットに繋いだ魔力伝導線ミスリル線によって剛性強化が入るからそこそこでも心配は要らないのだけど、グランド・ピアノを作る際の材木の様に蒸気に当てて力を掛けて固定して曲げて行く治具とか魔動具を作らないといけないだろう。


無属性のフォース・フィールドを使った曲げ材作成、魔動具かぁ~・・・大変そうだなぁ~フフフ。




身構えて説き伏せるつもりで飛行船型のイラストと簡易設計図を国王陛下と宰相閣下に見せると、踊る句程にスンナリとOKが出てしまった。

決め手はやはり、必要となるレア材料がかなり減ると言うのと今回作るのが唯一無二の初号機となるのも魅力だった様だ。


やっぱり『専用』って言うのは特別感があって嬉しいらしい。


そんな感じで思った以上にスムーズに話は進んで行くが、ハッと大事な事思い出す俺。


「あ!最初に釘を刺すのを忘れてましたけど、この『飛行船』絶対に軍事利用はしないで下さいね!! 事と次第によっては俺・・・『魔王』が制裁に動く事になりかねないので。」と言うと急激に国王陛下と宰相閣下の顔色が青くなって冷や汗を掻いて居たので多分大丈夫だろう・・・。




実際今の王国に敵も敵対国家も居らず、この『飛行船』の利用価値と言えば災害時の救援とかの初動ぐらいだろうか?




3時間に及ぶ打ち合わせも順調に終わり、国王陛下には出来る限りのミスリルの提供と必要量のケープ・スパイダー・シルクを揃える様にお願いし、自宅へと帰還するのであった・・・。



『飛行船』作りの序でもあるので、前に計画していた自分の予備用の『ホーラント輝石』探しと消費してしまったミスリルストックの補充も兼ねて暫く魔の森に通う事になるだろう。


国王陛下に必要なミスリルの提供も極力全部と言ってあるが、そうそう市場に出回らないのがミスリルやオリハルコンである。


ダンジョンの宝箱からドロップする事もあるが、そうそう出て来ない。

王宮で市場に出たミスリルをどれ位買い占めたかは知らないが、ここ数年で最もミスリルを市場に流したのは恐らく俺だ。


ダンジョンのドロップもあるが、魔の森の俺専用の採掘場である断層の地層から採掘した物も多。


ミスリルも大事だが、俺としては自分の予備の『ホーラント輝石』が見つかる事が非常に重要である。上手く見つかる様に、後でマルーシャ様お供え物でも献上しに行くかな・・・。

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