第218話 閑話:取り残された王都の騒乱

ここからはトージが万が一に備え、自力での重力制御を覚悟したテストフライト後の王都をお送り致します。(実況中継風)



時はトージが王都邸の工事をしていない空いた敷地に何処からか立派な一級品の木材の原木を引っ張り出して製材し始めた頃に遡る。


周囲で王都邸や従業員宿舎、工房等の建物の建築や内外装を仕上げていた職人達もこの発注主トージの奇行を普段から目にしており、最近ではちょっとやそっとの事ぐらいでは驚かないぐらいまでには鍛え上げられていた。


そんな彼ら職人達が見守る中、突然トージが何処からか現れて『また』妙な事を始めたのだ。

トージを良く知ら若い新人連中も混じって居たりするんだが、自分らの発注主があれよあれよという間に見事な原木の枝葉を落とし、樹皮を剥いで行きアッと言う間に綺麗に乾燥した丸太にしてしまって驚きの声を上げる。


「先輩!あの雇い主ってなんなんなんすか? えれぇ~技術もってるじゃねぇ~ですかい!? あれだけの腕あれば、俺らに発注しなくたって、自分で幾らでも建てられそうじゃねぇ~ですか?」と聞いて来る。

「だろ!? あのお方は面白いお方なんだよ。何でもよぉ~、ここの新しい城壁もここら全域の道路を作ったのもあのお方って話だぞ! でもよぉ、何か良く判んねぇ~けどよ、『餅は餅屋』とか不思議な呪文呟いて、俺らに仕事振ってくれているんだぞ。金はちゃんと世間に廻してこそ意味があるとかなんとかな・・・。 おめぇ、判るか?」と不思議そうに答える先輩だった。


そしてそんな会話して居る間に不思議な幾何学的な構造(トラス構造)状に丸太から切り出した角材に臍を掘って宮大工の様に釘を一切使わずに組み上げて行くトージ。


その技は、全ての職人の目を奪ってしまっていた。


そして形になって土台フレームが組み上がると内部に箱状の部屋っぽい場所や底部には何か大きなガラスを填め込んで益々訳分からない巨大な構造物を建築して行く。


数日が経過すると、外壁?の板が貼られ、船?か家なのか、何か良く判らない大きな円形の構造物の屋根(実は甲板)に防水塗料や防腐剤を楽し気に塗り込むトージの姿を見かけ、その屋上の縁にはちょっと高い板の塀がついており、ビックリする事に今度はそこの中央に温室を着くって設置した後、何を血迷ったのか、屋根?屋上に相当量の土をバラ撒いて草や花を植え始めた・・・。


もうこの時点でトージが一帯何を作り何をしたいのか理解出来る物は皆無で、みんなでワイワイと仕事上がりの酒の肴になっている始末だった。


その内に『トージが何を建築して居るのか』で賭けが始まり、皆の関心もヒートアップして行くのであった。


まあそもそも、誰も『製造』しているとは思いもしておらず『建築』と言ってる時点で誰一人擦りすらしてないのだ。



そしてついに完成したのか建築物の様で屋上で満面の笑みを携えて腕組みをして暫し思案した後、決意した様にキリッとした表情で屋上の温室に入った数分後、急激にトージが建築した構造物全体が僅かに白く光りそのそのひかりは青白い光となって構造物に吸収されてその一瞬後・・・『浮いた!!!』


あの大きな構造物が。屋上に大量の土を撒いたあの構造物が折れも軋み音の1つすらせずフッと軽く浮いてしまったのだ。


ここ、王都の中で真っ先に驚きの声を上げたのは、トージの奇行にかなり慣れた筈の職人達であった。


「「「おおぉーーーーーー!」」」と言う響めきがトージの王都邸の敷地内から鳴り響き、外からは高い塀に囲まれていて視認出来ないものの、周囲の王都民もその声に反応してトージ邸に視線を送ると、変な構造物?家? 船?が浮いて上部が競り上がって来るのを目撃し、驚きの声を上げて居る間にドンドンと空に上がって行く構造物


「うぉーーーー!」「キャーー!アレは何??」と王都が騒然とし始める・・・。


もうこの時点では、王城からも旧王都市街地からもその異様な構造物が空に浮かぶ様に驚く声が伝染して行き、相当な騒乱状態になっていた。



そして100mぐらいの高さに上がった後、北に向かってかなりの速度で移動し始めた。


その後騒ぎを聞き付けた、衛兵と、何故か近衛騎士20名が騎竜に乗って屋って来て事情聴取を始めたが、その騒動の発生源がトージ邸の奇妙な空を飛ぶ構造物ときいた後、何故か、


「あー・・・トージ殿か・・・」と苦笑いしながら言い淀みそのまま回れ右して王城へと戻って行ってしまったのであった。


近衛騎士達は、王城への替え道に驚き騒ぐ王都民に「ああ、あれは大丈夫だ『魔王様の新しい玩具』だった。」騒然とする王都民に答えた為、後々少々面倒な事になるのであった・・・。



そんな事と露知らぬトージの飛行物体(天空の城)が王都邸の敷地に戻って来るのはその騒動から3時間程後の事であった・・・。


既に先の近衛騎士によって『魔王様の新しい玩具』と行き渡って居た為に夕暮れ近い事もあって、帰還時には全く相同にスラなら無かった。


王都民もまた、職人達同様にトージの非常識なまでの魔法や実力等で良い感じに麻痺している訳で。


トージ自身は隠し仰せて居ると思っているが、職人達以上に王都民達はトージ=『魔王様』と薄々感じており、本日の事でそれが確信へと変わってしまったのだが、幸か不幸か、王都民もトージの奇行になれて居ると言う事だった。



とは言え疑問は疑問である。物を作る職人だけに革新的な技術には無遠慮で貪欲なのである。


鼻歌交じりで『天空の城』から飛び降りたトージは棟梁を含め職人達から取り囲希る事になるのであった。



「トージの旦那! 一体この空飛ぶ物体はなんですかい?」と疑問を打つけて来る棟梁や職人達。


「ああ、これは、趣味の実験用に作った『天空の城』って物だ。趣味でこう言う大地っぽくしてるけど、特に意味はない。」と答えると


『趣味』?とドン引きされるのであった・・・。


青空駐車じゃないが、流石にこのサイズを『時空間庫』に出し入れするのは厳しいので、敷地内に野晒しで放置となる。


作ったものの、今日の今日まで格納や保管する事まで全く考えずに作ってしまったのだ。


一応、出入り口の鍵も掛かるし、コントロールユニットに接続するコントロールレバーと『ホーラント輝石』を抜いて持ち帰るのでコッソリ忍び込んで弄っても飛び去る事は出来ない。


無済まれる事は無いだろうけど、破壊されたりするのは今はまだ困る。


まだサチちゃんに「お父さん凄い」って言って貰ってないからな・・・。


なので、念の為10mぐらいの忍返し構造の塀でぐるっと囲んで置く事にしたのだった。



そして、漸く保管状況に満足した俺は意気揚々とマッシモの自宅に戻るのであった。

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