第190話 ライバル・・・

時間の無駄なので、結論から言うと、帝国で貰って来たブラック・ドラゴンの牙を用いて作られた刀以上の物は出て来なかった。


そして、武器庫では落ち着いて散策する様な雰囲気では無く、俺が発見して知らせた『凄く丈夫な斬れ味の剣にする』って言うあのアーティファクトを持ち込んだ騎士連中でごった返し、さながらブランド品のセールに突入して目の色を変えてるオバチャンの・・・いやややお年を召したお姉様達の戦場の様であった。


騎士達はこの『凄く丈夫な斬れ味の剣にする』ってアーティファクトを俺が発見して国王陛下に進言したのを知ってるので、皆口々にお礼を言ってくれるのは良いんだが、1人でもゴツくて暑苦しい体温の高そうな奴が集団で居る武器庫の暑苦しいこと暑苦しいこと・・・なかなかの地獄であった。


そう言う理由もあってザザッて見て廻って直ぐに諦めてしまったのだった。


剣や槍以外に鎧等の防具も置いてあるのだが、基本騎士の使うゴツいフルアーマーって言うんだっけ?ガシャコンって音のしそうな奴。あんなのしか無いんだ、もん。

重い重くない以前に、あんな動き辛そうな鎧は俺はちょっと無理だし。


今使ってる身動きを妨げない物の素材をアップグレードするぐらいで良いかなってね。


つまり、ここ王宮の武器庫には用無しって事っすよ。



そんな訳で王城を後にしたのだった。


やっとである。 本当にやっと気分の乗らない2国の工事を熟して結果微妙に土地持ちになってしまった訳だ。


何だかんだで1年近く・・・いや、マッシモからカウントすると、2年ぐらいになるのか? そうだよ!既にサチちゃんも2歳になっちゃったじゃん!! カメラーー!間に合わなかったじゃんよー!と

只それだけが心残りで嘆いているのである。




とは言え何時までも気落ちして居られないので、久々に家でノンビリサチちゃんDAYデーを過ごす事にしたのだった。



「おとうしゃん、今日はおやしゅみなのーー?」と俺に聞いて来るサチちゃん。


「そうだよ。お父さん今日はサチちゃんと遊びたくてお休みにしちゃった。」と俺が答えるとパーッと花が咲いた様な笑顔と共に「やっちゃぁーー!」と飛び上がって喜んでくれたのだった。



と言っても女の子との遊びって思い付くのはお飯事ぐらいなんだけどね。

フト見ると、俺が前にプレゼントしたお人形を気に入ってくれてて日々遊んでくれてたのだろう・・・、かなり腕や足の関節部分の生地が薄くなっていて破れそうな事に気が付いた。

これはイカンな・・・。千切れたら大惨事である。


「サチちゃん、お人形さんの腕と足、かなり痛そうになっちゃってるね?お人形さんの怪我が大きくんる前に治療して貰いに行こうか?」と話を振ってみた。


え?何でアリーシアに頼まないのかって? まあ人には得手不得手ってあるからね。ボタン付けくらいなら大丈夫なんだけど、物が物なのでプロに任せた方が良いかなってね。


あとね・・・アリーシアは現在妊娠3ヵ月だから、あまり余計な負荷と言うかストレスを掛けさせない方が良いかなってね・・・。


「うん、お人形マッキーさんの怪我なおしゅ!」とハシっと胸に人形を抱きしめるサチちゃん。

俺の上げたお人形さんを本当に大事にしてくれているのが良く判る。


と言ったものの、どうしようか?


買ったのは王都の雑貨とかちょっとしたアクセサリーとかを扱っていたお店だったな。


出来ればこれを作った本人に修理・・・いや怪我の治療をお願いしたい所だが・・・。


よし!


こうしててもしょうがないし行ってみよう!


俺はアリーシアに声を掛けてちょっとサチちゃんと一緒に王都にお人形の治療にして貰いに言ってくると一声掛けに行くと、

「トージさん、一緒に行けなくてごめんなさいね! サチ、良かったわね、お父さんの言う事を良く聞いて迷子になっちゃ駄目よ!」と俺とサチちゃんに声を掛けて来たのだった。


よくよく考えると、本格的にサチちゃんと2人でお出かけするのはこれが初めての気がする・・・イカンな!俺とした事が何よりも優先すべき我が子の事をおざなりににしていたなんて。

これはカメラ云々以前の由々しき問題だ! と自分自身の過去の行動に悔いるのであった。


そんな俺の後悔とは裏腹に、主旨ご機嫌のサチちゃんは「おれ掛け~♪おれ掛け~♪ おとーしゃんとおれ掛け~♪」とおれの肩の上(絶賛肩車中)で嬉し気に身体を左右に振って踊るのであった。



ゲートで王都の自宅に出ると、玄関から外に出る。


「さあ、サチちゃん、ここが、王都って言ってジェシカお姉ちゃんの家のある所だよ。サチちゃんはジェシカお姉ちゃん覚えてるかな?」と聞くとウンウンと頷いて居る。


良かったな!ジェシカ、忘れられて無くて。と心の中で言いつつもちょっと残念に思う性格の悪い俺だった・・・。


マッシモでさえ、マトモに外に出歩いていないサチちゃんは見る物全てが珍しい様で、頻りに

「おとーしゃん、あれなぁ~に?」と頭の上から指を指して聞いて来る。


どうやら、屋台の肉串に興味を持って居る様だが、ミノタウロスの肉と違ってここら辺に売って居る肉串の肉は大抵ホーンラビット、良くてもオーク止まりである。


つまり乳歯がやっと大体生え揃ったとは言っても小さい乳歯で柔らかい物しか食べて無いサチちゃんには噛み切るのも難しければ、まだ離乳食意外の物を消化出来るかも怪しいのだ。


でもで折角の初めての王都なのに「アレも駄目、コレも駄目」じゃあ可哀想かと思い直して、ちょっとだけ小さく切って食べさせてやって、残りは俺が食えば良いかとい思い、


「」オッチャン、肉串1本頂戴!」と俺が注文すると、嬉し気に頭の上から喜ぶサチちゃん。


一旦サチちゃんを地面に降ろして立たせて、肉串を受け取った後、肉を柔らかくする為に人知れずに無属性魔法の剣山の様な物を具現化して肉串の肉にザクザクとさして、細かく筋を切ってサチちゃんでも神千切れる程に柔らかくしてみた。

ワクワクしているサチちゃんに肉串を渡すと、「おじちゃん、おとーしゃん、ありゃーと!」と言いながら人文の顔のサイズより大きな肉串を受け取りお肉に齧り付くと思いきや!


「おとーしゃん!!はい、あーーん!」と先に俺の方に肉串を食べさせ様と差し出すサチちゃん。

もうね、それだけで、俺はジーンと来ちゃってさ、グッと嬉し涙を堪えたよ!! 肉串屋のオッチャンも和んだ様な目で俺達をホンワカしながら見て居る。

「ありがとう!じゃあ、1個頂くね。」と言って肉串に齧り付いて1枚肉を食べてみた。「美味い! 美味しいよサチちゃん、サチちゃんも早く1口食べてご覧! 余ったらお父さんが食べるから無理しなくて良いからな!」と言うと、「あい!」と返事して、自分の小さく地でお肉に齧り付いたのだった。


先程かなり入念に無属性の剣山で筋切りしたお陰で、ちょっと歯応えのある筈のホーンラビットの肉も鶏のササミの様に直ぐに解けてバラバラに成る様になっている。


「おいちい~! おじしゃん、ありゃーと!」と肉串やのオッチャンにニカッと微笑みかけてお礼を言うと俺だけで無く、オッチャンまでもが無性に感動して涙ながらに喜んでいたのだった。

幾ら、サチちゃんでもかじれる程に柔らかくしたといっても、大人で、も1本で割とお腹が満たされる肉串である。流石に半分以上残してしまい、「ごめんなしゃい・・・。」と残す事を悲しげに謝って居た。


「ああ、大丈夫だよ。これ大人用だから。サチちゃんがもっと大人にならないと、1本全部は食べられないからね。 じゃあ、残りはお父さんが貰うね。」と言って俺も態と嬉し気に残りを頂くのであった。



サチちゃんとの楽しい王都散策は順調で、サチちゃんの「お母しゃんにおみゃげかゆー」と言う提案で、サチちゃんが見立てた髪の毛を結ぶリボンをサチちゃんの分とお揃いで購入したりもした。


そして漸くサチちゃんのお人形さんを見つけて購入した雑貨屋を発見し、サチちゃんを肩車したまま早歩きで歩み寄って、店内に声を掛ける。

「こんちはー!以前、こちらでお人形買った者なんですが! ちょっと修う・・・治療をお願いしたくて。」と俺が言うと頭の上かたサチちゃんも真似をして声を掛ける。

「ちゃー!お人形さん怪我しちゃったんで、たーへんなんで、おーがちたくてー!」とサチちゃんも真剣にお願いしてる。

肩車していたのを床に降ろしてやると、背中に背負ったホーンラビットの形のリュックを自分でよいしょっと肩紐を外して、中から「おーがちたくてー、こにょ子にゃんでちゅー!」と大事そうにお人形さんを出して店の人に見せようとするサチちゃん。


「あー、いらっしゃい。今日は可愛いお客さんも一緒だねぇ。 ええ、覚えてますよ!

お人形大事に可愛がってあげてくれてるんだねぇ~。」と言いながらも若干浮かない顔の店主の女性。


この人形の作者に修理・・・いや治療をお願いしたいと言うと言い難そうに苦い顔をして言い淀んで居る。


「この人形の作者、どうしかしたんでしょうか?」と小声で聞いてみると、サチちゃんに聞こえない様に気を遣って耳元で小声で話す店主・・・。


話によると、現在その作者の子共が伝染性の病気に掛かっていて、とても仕事処じゃ無い状態なのだとか・・・。


「なるほど、それなら俺が力になれそうですね。申し訳無いが、その作者の家を教えて貰えないだろうか?」と俺はお願いしつつ、大銀貨を1枚店主に渡すと神妙な顔付きが急にニコニコ顔になって、

「旦那さん、判り辛い所だから、私が直接案内しますよ。」といって、一旦店を出るからと、他の店員に言って、俺達を先導する様にスタスタと店から出て通りを歩き始めた。俺はあわてて、サチちゃんを

肩に乗せて店主の後を追う。


確かにこれは判り辛い。先日俺が潰したスラム程ではないが、王都でも比較的低所得の貧乏な人達が住んで居るエリアである。


お世辞にも衛生的とは言い難いエリアで微かにアンモニア臭も漂って居たりする。


そして、一軒の小屋を指差し、

「旦那さん、彼処の家です。カレンさんと言う女性がお子さんと暮らして居るんです。


一応流行病だそうなんで、旦那さんもお気を付けください。 お嬢ちゃんもね。小さい子は感染すると高熱が出てキツイらしいので・・・。申し訳無いけど、私はここでカレンさんにドア越しに声だけ掛けて先に帰らせて貰いますね。」とそれくらいで勘弁してね!?って感じに目配せして来たので、うんと頷き了承した。


「カレンさん!居るかい?表通りの雑貨屋のケイトだよ。子共の加減はどうだい? どうしてもって言うお客さんが来たんで連れて来たんだよ!」とドア越しに声を掛けると、小屋の中から弱々しい縋る様な女性の声が聞こえ、


「ケイトさん!!!す、すまないけど、子共にもう昨日から何も食べさせる物が無くて、ちゃんと返すから、少しだけでもお金を貸してくれないかい?」とかなり切羽詰まった様に訴えて来た。


「あ、カレンさんとやら、お初なのに横からすまないが、トージと言う者だ。案内して貰ったのは俺の頼みだったんだ。大丈夫、俺の方で用立てるから。安心して欲しい。食べ物も持って来ているし、治療も出来るから安心して欲しい。」と俺がケイトさんが答えるのを手で一瞬制して一気に告げた。


「旦那さん、じゃあ後は本当にお願いして大丈夫なんですね?」と念を押して来たのでシッカリと頷いて「ああ、大丈夫だ。ここまで案内ありがとう。一応、店主も念の為に感染しないように、予防で浄化しておこう。」と応え、


空気感染の場合の予防策も兼ね、案内のお礼代わりに店主に浄化を掛けてやったのだった・・・。


「さあ、まずは患者お子さんの状態を診せてもらえるかな? カレンさんも念の為に治療するから、安心して欲しい。じゃあ、部屋の中に入れて貰って良いかな?」と声を掛けると、ドアのロックがハズレ中からドアが開いた。

内部はちょっと酸っぱい匂いの空気が淀んでおり、非常に不衛生な状態であった。


「ちょっと不衛生なんで、部屋ごと綺麗にする。」と言って、部屋も、カレンさんも、煎餅布団にくるまってハァハァと肩で息して時々咳き込む5歳くらいの少年も丸ごとクルーンを掛けてやった。


『女神の英知』によると、ハウスダストとカビの胞子による喘息・・・それが原因で咳のし過ぎで声帯や気管や肺までが痛んでしまっていた。カレンさんも同様だった。


病気と言うより、環境による症状と言うのだろうか? もしここらで流行ってるんだとすると、同じ環境なのかも知れない。


「安心しろ、治せるから。」と言って、母子両方に再度浄化と回復魔法を掛けて傷んだ肺や炎症を起こした気管支等喉や声帯も丁寧に回復させた。


「よし、これでもう大丈夫な筈だ。 どうだ?坊主?名前は何て言うんだ?」と俺が布団に包まって寝て居た少年に声を掛けると、

「あれ?苦しくない!?」と不思議そうに声を上げていた。


そんな我が子の様子を見て、土下座の勢いで頭を下げてお礼を言って来るカレンさん。を慌てて制して、


「お願いと言うか、仕事をお願いしたくて来たから、もう十分にお礼も聞いたので大丈夫。俺が勝手にこっちの都合で治療しただけなので気にしないで。それより、お腹減ったでしょう? 軽めの物からの法が良いので、まずはシャケ粥辺りにしましょう。」と言って『時空間庫』から出来合の『シャケ粥』の入った鍋を出して、皿に取り分けてスプーンを渡して出来るだけユックリ食べる様に伝えたのであった。



カレンさんの息子はガスリー君と言う5歳の男の子らしい。


なんと、ご主人はあのテロで亡くなってしまったそうだ。


カレンさん。自身もあまり身体が丈夫じゃなく病弱だったので裁縫ぐらいしかお金を稼ぐ手段が無くて、何かコスト画家からずに売れそうな物、と考えた末に出来たのが、サチちゃんのお人形マッキーさんって事だったらしい。


ただ俺は割と飛び付いて購入したが、謂わば子共の玩具である。損な物に大金を掛ける物好きなんてそうそう居らず、鳴かず飛ばずだったらしい。


「そうか、それは大変だったな。仕事もあるし、住処もある。ちゃんとご飯も給料も出るけど、オオサワ商会で働く気はない?」と聞いて見ると、一つ返事で「是非!」得意付いて来たのであった。


そそしてそんな会話の中、サチちゃんが悲しそうに「この子のちりゅは?」とお人形マッキーさんを胸元で抱きしめて居たのであった・・・。



「お嬢ちゃんごめんね。治療してあげますからねぇ~。大丈夫よぉ!」と先程の切羽詰まった声とは違った優しい声で応えてくれていたのだった。


「もしここに未練がなければ、うちの宿舎に今から移動して、そこで治療をお願いした方が良いかもね。ほら、サチちゃん、治療って落ち着いた所で慎重にしないとお人形さん痛い痛いだからね。」と諭すと、

「あい!」と返事を返すサチちゃんであった。



斯くして、オオサワ商会に新しい裁縫上手な新戦力が加わったのである。



ただトージの想定外だった事として強いて上げるのであれば、自分と歳の近いガスリー君とサチちゃんが今まで周囲に居なかった地位愛遊び相手に予想以上にベッタリになってしまった事であった・・・。


折角遊ぼうと思っていたら、ガスリー君に取られてぐぬぬって唸っているトージの姿をちょくちょく見かける様になったらしい。

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