第176話 ご褒美タイムとは・・・ その3

漸くだ! 漸く全てのアイテムの詳細リストも作成終わって、俺も目的の物を決める事だ出来たのだ。



ペドロ、トレバース、デロースの3名は遣り切った表情で涙をにじませていた。


え?大袈裟だって? 冗談言っちゃいけないよ!! 宝物庫の中身を全て見て廻ってその詳細リストを作るだけで、軽く2ヵ月かかってるんだぜ!?



その間にアップデートの準備が終わったとの事で、一晩絶叫してぶっ倒れたりと色々あったんだよ!


まあその甲斐あって、餅米の代用になりそうなウルチカ子爵家のマイマイ(以降ウルチカ・モチ・マイマイと呼ぶ)を発見したりしたんだよ!


だけど残念な事にウルチカ子爵家は割と貧乏な領地の為にゲート網の構築を上奏出来ず、ゲート網から外れてしまっているんだよね。


こうなると、非常に不便なので、宝物庫から逃げる様に帰って行った薄情者の不肖の弟子経由で、『俺がウルチカ子爵家の分の代金は持つので』と言う条件でゲート網に入れる事を打診では無く『要求』した。


ウルチカ子爵に手渡す書簡さえ用意してくれればゲート魔動具の設置の方も俺がやるから!とまでの譲歩もして。


今回のデータのアップデートに伴って、アプリ自体のバージョンアップもされたのか、今までは現物を目視した上でしか詳細が検索出来なかったのだが、今回からは、名称検索だけで無くてキーワード検索機能もじっそうされてたんだよね。



だから、『マイマイ 粘り気 モチモチ』とかのキーワードを並べて検索したら無事ウルチカ地方(ウルチカ子爵家領)産マイマイがデデーンとヒットした訳だ。




話は宝物庫の件に戻るが、そんな『女神の英知』のアップデートを間に挟みつつ、リフレッシュ休暇以降ヤル気を漲らせる3人と共に頑張って時には休暇を挟みつつ効率を上げて行ったわけだよ。


まあ実際には後半に俺の欲しい物も見つけちゃってソコソコにペースは落としたんだけどね。


しかしその頃には既に『終わり』の文字が見え始めていたので今更半端に止めようっか?なんて言えない空気でね。


最後の1つまでキッチリ詳細を伝えてやったのであった。


俺が見つけた宝物庫の一品は・・・簡単に言えばカメラに該当するアーティファクトであるが、それをそのままではデジカメの様には使えず、1枚撮ったらそれ以上は取れない『時の写し絵』と言う名前の物である。



で、これをベースに解析して魔改造しちゃえば、サチちゃんの成長の記録を残せると思った訳さ。


発見した時には思わず飛び跳ねてガッツポーズをキメそうになったよ!


そしてもう1つ。『寄り添う囁き伝心』ってアーティファクト?魔動具?も発見した。 これは2個でセットなんだが名前で大体想像出来るだろうけど、そう!通信のアイテムである。


ただ、この親子のセットでしか通信が出来なくて、さらに1分のみって制限がある。1度1分間通話したら2度と使えないって言う使い捨て。プリペイド携帯はチャージすれば継続利用もかのうだろうけど、これはチャージ出来ないので、やはり使い処が難しい物だ。


そうそう、通話を開始すると、相手が出なくても1分経ったらお終い。途中で切って後で残りの秒数を再度繋ぐなんて気の利いた事も出来ないのだ。




と言う事で、俺はこの2つを報酬として受け取る事を希望する事にしたのは言うまでも無い。


物の効能が効能だけに拒否されないかとヒヤヒヤだったのだが、意外な事に「魔王様、この2つだけで本当に宜しいので?」と逆にヘンリー君に心配されてしまったのだった・・・。



どうやらもっと沢山でも良かったらしい。 とは言え、『魔王』ともあろう者が今更欲深く乞食根性丸出しで、追加でこれもこれもと言うのも格好悪い。

「ああ、『宝物庫』のはこれで良い。」と精一杯強がって返事をしたのだった。


ほら、あとは、武器庫の物も物色して良いって話もあったからさ。


ヘンリー君としては武器庫も宝物庫同様に俺にアレコレと『目利き』して貰って説明が聞けると思って居たらしく、俺だけで武器庫に行こうとしたら、「へっ?」って変な声を上げて、


やっと解放されたばかりのペドロ、トレバース、デロースの3名を無理矢理俺に同行させた・・・。


「悪いが武器庫の武器全ては詳細リスト作らないらないぞ!」と俺が先手を打って釘をさした。


それはそうだろう? 剣や槍、弓矢の矢なんてそれこそ無数にあるだろうし、名品コーナーがあるならそこだけは協力するが、そこらの雑兵が使う大量製産物の易い剣等真面目にチェックしてられるかよ!?


それに俺が武器庫で見たいのはそんな物じゃなく、何らかの効果が付与された様な剣やミスリル等の素材を使った一品だけだ。



俺が先に釘を刺した事でヘンリー君に命じられるがままに俺の後ろに着いて来ていた3名は武器庫では不毛な記録が必要無いと言う事を知ってホッとした表情をしていた。


って事で、初っ端から適度に気の抜けた状態で武器庫に入った俺達は、一般兵用の十把一絡げの投げ売りコーナーの前をズンズンとスルーして行って、奥のVIPルーム的なコーナーを目指して行く。


まあ、目指すVIPコーナーの手前に将校用エリアみたいなのはあるにはあるが、チラリと目をやったが、言う程の物でもないし、一々能書きを垂れる必要も無いだろう。


そして漸く、VIPエリア・・・つまりこの国の国宝級の剣や武器となるエリアになった。


流石伊達に1000年の歴史がある国の武器庫だ。高級と言うか国宝級の剣がゴロゴロ置いてあるものの、普段からの手入れが悪くダメージを溜め込んで居る物が大半であった。


しょうがないので俺は、早急にメンテナンスが必要な物を次々として居して行き、印しを付けさせた。


そしてメンテナンスが必要と思われない残りの剣に関しては、その素材にミスリルやオリハルコンが混じった物等で、結果腐食の心配が無い物であった。


やはり、実体のある剣って色々と普段から大変なんだなとシミジミと感じてしまう。


そのメンテナンス不要の剣達だが、実用的な剣と言うよりも装飾品的なギラギラの鞘だったりしてて、全然欲しく無かったりする。


唯一、一振りだけ・・・そう一振りだけ非常に俺の心を動かす剣があった。直刀?直剣が多い中、この一振りだけは曲刀になっていて尚且つ面白い素材を使って作られていた。


どうやらダンジョンからのドロップ品の様である。


日本刀の様な形状だが純粋な金属を素材として居らず、刀身の芯には鋼や金属で無くてブラック・ドラゴンの牙を用いており、その芯を魔力の通りの良いミスリルとオリハルコンの合金で包んで鍛造された物であった。


面白いのは、ブラック・ドラゴン牙が表面のミスリルとオリハルコンに融合する事で銀色や金色である筈のその合金が白っぽく変化して居る事である。 白銀と言う表現こそが相応しいかもしれない。


そして、鞘からスラリと抜くと、その美しい紋様に目が吸い寄せられてしまう。


「これは素晴らしいな・・・。」と思わず感嘆の声を漏らしてしまう。


うーん、欲しいか欲しくないかで問われれば、非常に欲しい。 だが、これこそ国宝中の国宝だろう。


まあ、日本神話で言うところの『草薙剣』級って事だ。


一個人で持って良い物とは思えないし。


一応、ヘンリー君に打診はしてみるが、駄目と言われても物が物だけに納得するしかないな・・・。



そんな訳で、宝物庫に比べて、非常にアッサリと武器庫の検分が完了して緊急メンテナンスが必要な印しの入った剣達は大至急メンテナンスをシッカリする様にとヘンリー君に伝えた。


そして、件の剣と言うか刀の事を告げて、くれるのであれば『あれ』が良いと打診してみると、何故かアッサリと頷いて来た。


本当に良いのかと何度も念を押したのだが、そもそもこの国の武人敵には曲刀は好まれず、今回俺が検分して廻るまで存在すら話題に昇らなかった事を告げて来た。


「それに魔王様も、その剣が置きに召したのでしょう? 幾ら国宝級と言えど、何百年と忘れ去られた存在だったのですから・・・。 それこそ、気に入った人、見出した人に使って貰う方が剣にとっても幸せと言う物でしょう。」と締め括り、待って居る間に俺と同行した文官の1人に件の刀を取りに行かせて持って来てくれたのであった。


「本当に我が貰っても良いのか?」と聞きながら受け取り、仮面の下で満面の笑みを漏らしつつ、「ではありがたく頂き、愛刀とさせて頂く。」とお礼を言ったのであった。



だがな・・・最後の最後にこの刀を頂いた事で少々俺の中では『頂き過ぎ』にメーターが振り切ってしまった。


どうするかと悩んだが、引け目や負い目を感じるのは本意ではないので、一連の帝国への介入時に一番最初に破壊工作をした国境付近の都市の城壁の再建を俺自ら申し出てしまったのであった・・・。




そして、

「じゃあ、長居間共に行動し、世話になったな。達者で頑張れよ!」とペドロ、トレバース、デロースの3名に別れを告げると、寂しそうな捨てられる子犬の様な顔をしていたのだった。


何処にここまで懐かれる要素があったのかは不明だが、君らの主人はヘンリー君であり、帝国に所属しているのだから、そこはしょうがなかろう。


これが、孤児とか行く宛ての無い者なら話は別であるが、立派な帝国の官僚なのだから、余所に色目を使わずに自国の発展に貢献して貰いたい物だ。

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