第174話 ご褒美タイムとは・・・ その1
一晩明けた本日はやっと待ちに待ったご褒美タイムの日だ。
帝国1000年の歴史を誇るに相応しい宝物庫の中身に何か面白いアイテムが見つかれば良いが・・・。
俺の記憶だと、厭になる程の数はあったと思う。
回収の際には『帝国に嫌がらせをする』と言う崇高な目的に一心不乱に夜な夜な忍び込んで回収したのでどんな物だったかまでは全く記憶に無い。
妙にギラギラした物とか埃を被って小汚い物まで、暗くてジメッとした劣悪環境の中クシャミしそうになりながら(クシャミを)我慢して頑張ったし。
今思い返せば、先にクリーンを宝物庫全体に掛けて置けばよかったんじゃね?って思うけど、埃アレルギーの人には要注意の状況だった。
そもそも、高価な物をあんなジメッとした劣悪環境に置いて保管とか『保管』の意味を為してないよね?
歴代の愚王ならぬ愚皇帝が建国した始皇帝からの教えを失伝したんだろうなぁ~。
1000年の宝物庫って言うと一見凄そうだけど、よくよく考えると、日本も何気に建国して2700年ぐらいだったし、そう言う意味では正倉院の中身と同じ様な感じなのか?
いや、正倉院と同列に考えるとそれこそ正倉院に失礼だよな・・・。
魔王コスに身を包んで帝国へ赴くと本日も何故かジェシカにも出迎えられた。
どうやら、お泊まりしたらしい。 良いのかよ? 婚姻前の王家の娘がお泊まりなんて。
こう言うのって、醜聞にならないのかとよその家の事ながら娘を持つ父としてちょっと心配してみる。
多分仮面の下で怪訝そうな表情になっているだろうが、それを多い隠す能面のお陰で取り繕う必要が無いのは幸いである。
「魔王様、おはようございます。昨日はお疲れ様でした。お陰様で皆良い祝賀会になったと喜んでおりました。」と笑顔で語るヘンリー君。
「おはよう、昨日はご馳走になった。ありがとう。帝国料理、なかなかに美味であったぞ。」とちゃんとお礼で返しておく。
こう言う時、魔王キャラを維持しながらのコミュニケーションって非常に難しい。
ついつい、素で返してしまいそうになるのをグッと堪えて、不遜になり過ぎない様に留意しつつ語調の統一性を保持するのだが、本当に辛い。
「それはお気に召して頂けた様で何よりでございます。魔王様のお好みが判らないのでシェフが頭を悩ませていた様なのでそれを聞いたら大喜びすると思います。」と嬉し気に応えるヘンリー君。
「陛下、魔王様は、お約束の宝物庫の所蔵品を選別しに来られたのでは? 余りここでお時間を取ってしまっては申し訳ないと思いますわ。」と切り上げ時だとヘンリー君にそれとなく思い出させるナイスなジェシカ。
「そうであった。我はその用事で来たのじゃ。ええかの?」とそれに乗っかる俺。
「ええ、そうでした。大変お時間を頂いて申し訳無い事を。勿論そう言うお約束でしたし、宝物庫も武器庫も全て心行くまでご覧になって報酬に見合う物が在るか判りませんがどうぞ。」と言うヘンリー君。
「うむ、遠慮無く物色させて頂くとする。1000年の歴史ある宝物庫の所蔵品楽しみだな。どんなアーティファクトが眠っているやら・・・。」と俺が本来の楽しみに声を弾ませる。
すると、そこに「魔王様、魔王様!! 魔王様は何の用途なのか、使い方も名前さえも不明な魔動具やアーティファクトとかを見て、それらの使い方や効果とかお判りになるのでしょうか?」と鋭い質問を挟んで来るジェシカ。
「あ・・・まあ、我魔王じゃからな。全てが全てでは無いが判る物はかなり多いと思うぞ? 魔王じゃし。」と俺がちょっとたじろぎながら答える。
まあ正確には『女神の英知』頼みなんだけどな・・・。 あ、そう言えばそろそろアップデートの情報纏まったんじゃないか?
先にアップデートしちゃった方が漏れが少なさそうだけど、どうせ1日2日じゃあ物色も終わらないだろうから、途中で神殿に行って進捗聞いてみるか・・・。
「まあ、流石は『魔王様』ですわ! 陛下、折角ですし、私も嫁ぐ国の・・・1000年の歴史ある宝物庫を拝見し、魔王様よりご説明を少しでも聞いて嫁いだ際陛下の御代にお役に立ちたいですわ!」と一見非常にしおらしく甲斐甲斐しい台詞を吐くジェシカ。
あー、ジェシカーーー!! おま・・・そんな事言ったらややこしい事に発展するだろうが!! しかも1人でマッタリ見て行くつもりだったのに、面倒な予感しかしない事を。
「おお、それは良いじゃないか? 魔王様、我が婚約者がこう申しておりますが、お邪魔にならぬ様にさせます故に宜しいでしょうか?」と『婚約者』に甘いヘンリー君が俺に許可を求めて来た。
いや、これ断り難いやろ! くそー! 覚えてろよ! ジェシカ。 どうせ一々聞いて来る気だろ?
「うむ、勿論良いぞ! 良い心懸けじゃと思うぞ。 ああ、そうじゃな、どうせ同行するのなら、我の知る情報、用途、使用法等判る物だけ教える故に、全てメモに記録を取って宝物庫リストを作ったらどうじゃ? それでこそ将来国母となった際に内助の功ができるであろう?」と仮面の下でニヤリと悪い笑みを浮かべて提案してみた。
つまり、暢気な物見遊山では無く、綺麗で読み易い文字で速記をしながら1つ1つの記録を取るのである。
普通に考えて大小含め1000以上は優に在った筈だ。
一々説明する俺も付かれるが、速記するジェシカは余計に疲れるだろう・・・。
ヘンリー君は直ぐに俺の提案に乗ったが、俺の提案の意味と作業量瞬時に理解したジェシカがの顔色が瞬時に悪くなったが、そこは頭の回転の速いジェシカ・・・
「陛下、折角の魔王様のご提案請けないのは勿体無いですわ! 1000年以上の数々の品、恐らく今では目録すら失ってませんか? この機会に最新の情報の目録作りましょうよ!」とちょっと甘えた声で賛成しつつ そして続ける・・・。
「でも折角の機会私もメモを取りますが、帝国の優秀な文官の速記が出来る者を2~3名付けて二重三重にメモを取らせた方が宜しいかと。 折角の魔王様のご厚意を無にしない為に正確な記録を作りましょう!」と尤もらしい事を言って来やがった。
本当にジェシカって、我が弟子ながら世渡り上手いよな・・・恐ろしい子。
◇◇◇◇
とんとん拍子に思っていたのと違う状況に自ら填まって仕舞い、美術館のガイドさながらに宝物庫を案内する俺。
そして俺の傍らには3名の文官が必死の形相で俺の言の一語一句を書き漏らさないぞ!って言う気迫を漂わせながら紙に速記して行っている。
こいつら、本当に凄い人材だ。
あんな愚皇帝共が牛耳っていた国だが破綻しなかったのはこう言う優秀な文官が抑えるべきを抑えていたからかも知れないな。
と感心しているのだが・・・。
そして目をキラキラさせながら一切メモも取らずに面白いアイテムを見つけては俺に「し・・・魔王様これなんか面白そうですわ!何ですの?」とお気楽に聞いて来る。
本当にこいつはどこまでも自由だな・・・。
俺も少々喋り疲れて来るが、速記し続けるこの3名の文官の疲れは尚更だろう。
1時間程廻った所で一旦休憩時間にして、3人の腕の筋肉痛を和らげる為に回復魔法を掛けてやると、腕が楽になったのであろう、驚いて「魔王様、ありがとうございます!」と滅茶苦茶感謝されたのであった。
そして、序でに皇城内部にゲートで戻ってトイレ休憩&お茶タイムにした。
ザックリだけど、俺の余計な提案の所為で1つ1つの余計な説明時間が入るので、多分俺単独で廻るよりも10倍くらい効率が悪くなっているだろう。
宝物庫だから、どれもこれもが宝物とは限らないのだ。
そもそもだが初代皇帝の孫の幼児時代の肌着とか、風化しかかった黄色いヤバイ物とか残して置く価値あるか?
あと、誰々が使ったオマルとかも要らんだろ!?
ちょっと特殊な性癖あったんじゃないか?って思う様な物まで取ってあったし。
そんなのまで一々真面目に説明する俺も俺だが、必死でメモする文官も文官である。
そんな品が続くと、面白くないのでジェシカがプイって居なくなるのである。
この調子だと、この宝物庫だけでどれくらい時間が掛かるか判らないな。
まだ全体の1割にも満たない数しかチェックしてないだろうし。
幸いな事に今の所、『女神の英知』にヒッとしない不明なアイテムは出て来ない。
ただ、俺がどんな物で淀み無く即詳細や背景のストーリーまでスラスラと説明するので文官は驚いていた。
ジェシカはこれ程と思って無かった様で、楽し気であったけど、これじゃあ、誰の為のご褒美タイムなのか判らんな・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます