第173話 頑張った結果
工事を再開してから1ヵ月半が経過し漸く城壁を全周修復し終えた。
俺、結構頑張ったよ!
まあボイコットで遅れが出た分を取り戻すつもりで頑張った結果その勢いのままに突き進んで工事を最初に開始したポイントまで辿りついた訳だ。
日本だと本来なら紅白のテープをカットしながらクラッカーやくす玉とかファンファーレでも鳴らして大袈裟に祝典とか開いたりするのかも知れないが、ここではそう言う式典等を見た記憶が無い。
そして漸く1周を終えた俺を待って居たのはヘンリー君とその横に居るジェシカ、そして宰相と護衛の騎士数名であった。
「魔王様、お疲れ様でした! ありがとうございました。ソロソロと部下から聞いておりましたのでこちらでお待ちしておりました! あ、ご紹介致します、ご存知かも知れませんが、こちらは、私の婚約者の・・・」と笑顔で俺を出迎えつつサラリと
「魔王様、お初にお目にかかります、私、ヘンリー陛下の婚約者のジェシカ・フォン・ローデルと申します。」と今まで見た事も聞いた事も無い様な上品な言葉遣いに洗練された挨拶のカーテシーって言うんだっけ?ドレスの裾を摘まんでチョコンと屈む奴を披露してくれた。
そう、俺の知らない完璧な猫が居たのだ。
思わず苦笑して声を漏らしそうになるのをグッと堪え、
「ああ、ご丁寧に、我は・・・一応『魔王』と名乗っておる者だ。よしなに、ローデル王国の第一王女殿下。」と言ってこちらも軽く会釈をする。
そして、「ヘンリー皇帝陛下・・・態々のお出迎えありがとう。一応、これで以前の・・・いや1000年前の建築時よりも強固な城壁になったと思うぞ。」と言って完了を伝えたのであった。
一応、皇城で軽く打ち上げと言うかお礼とお祝いを兼ねた食事会的な物を用意しているので寄って欲しいと言われるも、
「申し訳無い、お気持ちだけはありがたく頂くがこの仮面の所為で飲食が出来ない故に形ばかりの乾杯だけご容赦頂けるのであれば・・・。 」と言うと、「では是非乾杯だけで良いのでお付き合い下さい。」とお願いされたのだった。
やっぱり、あんな事の後だしここまで誠意を見せられると無下に断るのは人として道理に反すると言う物だ。
なので俺のゲートを使って全員を引き連れて皇城に戻った。
全員初めて見る『魔動具』以外のゲートに「おぉ~ぉ!」と響めいていたが何度も体験しているジェシカだけが平然としていた。そしてハッとした様にヘンリー君の腕にソッと掴まりながら、「凄いですわ!」と割とミエミエに驚いてみせていたのだった。
よく、あれでボロが出ない物だな・・・。と思わず感心せずには居られない。
『恋は盲目』フィルター魔法が全開で利いてるのかもしれないな。
こう聞くとジェシカが酷い子の様に聞こえるかも知れないが、悪い子では無いし、実に魔法の才能豊かで好きな物には一途に取り組む勤勉な面を持って居るのだが、天真爛漫と言うか、食いしん坊で俺の中のイメージではお淑やか等とは真逆の方向なのは間違いない。と言う事である。
さて折角の祝賀会が行われるのに俺だけただ他の全員が美味しそうに何か食ってるのを眺めて居るだけってのも癪だ。何か良い方法があればな・・・。
帝国料理と言って思い出すのは温泉地での食事だが、あれはあれで大変美味しい物であった。
と言う訳で皇城で出される食事も美味しい可能性があるのだ。
だが、皇城に着くと流石は俺の『素晴らしい弟子』ええ子や!
ジェシカがヘンリー君に言って俺が気にせず仮面を外して食事を取れる様な衝立で囲まれた人目に触れない空間を作る様にと提案してくれたのだ。
素晴らしいぞ!
え?さっきと言ってる事が違う? 知らんな。
そんな訳で俺専用の死角エリアも用意されて、全員がワインの様なお酒を片手に持って城壁の修復工事の完了を祝う乾杯の段階となった。
俺に乾杯の音頭をと懇願されて、ちょっと仮面の中で照れていたが、こう言うばで普通きの利いた言葉を軽く言うのだろうけどさ、俺って基本帝国の天敵ってそんbン罪なんだよね。
少なからず帝国に被害与えているし、そんな俺が乾杯の音頭っすか?って思ったけど、頑張ってそれらしい感じの乾杯の音頭を撮る事にした。
「えー、僭越ながら、我が乾杯の音頭を取らせて頂く。まあ過去の事はさて置き、帝国と王国隣人同士は仲良い事に越した事はない。伊神在ったり争うぐらいならキッパリ疎遠な方が国民の為である。
だがしかし、多くの過去を乗り越えてここにこうして両国の者が一つの家族となろうとしている事を我は心より祝いたい。 末永く幸せな両国の絆の象徴とならん事を願って・・・乾杯!」とグラスを上に掲げた。
周囲もグラスを掲げ満面の笑みで喜び合って居る様だ。
俺も折角なので、殆ど酒を口にする事は無いのだが、ジェシカの提案で作られた死角エリアに行って魔王の仮面を外してグラスの酒を飲み干した。
くわぁ~、久々のアルコールが喉を焦がす。
イカン、空きっ腹で飲んだので胃の中もクワッと熱くなって来た。
割と甘めで香りの良いお酒である。酒に弱い俺でも飲み易い。
「魔王様、失礼致します、何かお召し上がりになれそうな物をお持ち致しますが、こちらで選んで宜しいでしょうか?」と衝立の向こう側からメイドが声を掛けて来た。
少しアルコールが廻ったので早めに何か胃袋に入れた方が良いだろうと了承して、仮面を付けて失態を犯す前に念の為に毒消し様の『キュア』を自分自身に掛けておいた。
おそらくこの
暫くすると、適当に取って来てくれた食事の皿ををメイドが何枚も色々な種類を運んでくれた。
よくよく考えると、接待須子とはあっても、もてなされる側ってのは何気に初めてに近い気がする。
出された料理は、やはりあの温泉宿と同じ系統の料理で良い高級素材を使って丁寧に料理されて居る様で、あの宿よりも更に美味しい物であった。
祝賀会は盛り上がって全員が明るい笑顔でワイワイと会話しており、驚く事にその中心にちゃっかりと何の違和感も無くジェシカが混じっているのだ。
昨年末に盛り上がって急遽決まった訳なので婚約してから日が浅いにも拘わらず、既に溶け込んで居るとは末恐ろしい子・・・いや凄い才能である。
ふとした拍子に俺と目が合ったジェシカがニコリと笑ってコッソリVサインを送っていたのだった。。
結局祝賀会は午後3時ぐらいまで続き、俺はそろそろと言う事で一足お先にお暇して後日報酬の宝物を選びに来る事を伝えて魔の森の小屋経由で自宅に戻るのであった。
お酒を少し飲んだし、一旦風呂に入って臭わない様にしないとサチちゃんからクレーム入ると拙いからね!
自宅に戻るとサチちゃんが真っ先にヨタヨタ走って俺の元へとやって来て構ってくれる。
5分くらいスキンシップや会話を楽しんでから、キッチンに居るアリーシアの所に言って、ただ今のハグをしてからキッチンカウンター越しに今日の出来事の報告したりするのが俺の帰宅時のルーティーンである。
城壁の修復工事が完了した事を報告すると、アリーシアも凄く喜んで くれて、俺に「お疲れ様でした。」と頑張りを褒め称えてくれた。
そうすると、それに呼応するかの様に俺の肩に陣取ったサチちゃんが俺の頭を良い子良い子と撫で撫でしてくれるのであった。
この癒やしの一時は何物にも代えがたい至福の時である。
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