第172話 俺なりの反省とケジメ

俺が第58階層をクリアした翌朝、昨晩ジェシカから俺の勘違いやこの世界の風習や常識に関するアドバイスもあって、帝国の工事を再開すべく魔王として訪問する準備を済ませた。

ぶっちゃけ、一応筋は通っているのでジェシカの言い分で納得しているんだけど、余りにもやりたく無い作業故に苦労して『してやってる』って言う傲りの気持ちになってしまったんだろう。


そこは素直に反省しよう。


しかし・・・それをヘンリー君達になんと表現すべきか?『魔王』キャラであれば無闇に謝るべきじゃ無い気もするし、何とも悩ましい。


アリーシアとサチちゃんに行ってきますの挨拶をしてゲートで魔の森の小屋へと出る。 そして、魔王の能面を取り出して溜息と共に顔に装着し、「いざ参らん!」と自分自身に掛け声で気合いを入れてゲートで皇城のいつもの広間へと繋げたのだった。



本来なら10日くらい前に来る予定だった帝国の皇城に足を踏み入れると俺を発見した皇城のスタッフが「少々お待ちを!か、帰らずにお待ち下さい。本当に直ぐに呼んで参りますので!」と必死の形相で懇願して来たので頷いて、宰相とヘンリー君を慌てて呼びに走って行く皇城の若いスタッフを見送る。


待ってる間に自分で作った土魔法の椅子に腰掛けて、どう切り出した物かとこの期に及んでウダウダと考えていたら、ゼイゼイと息を切らす宰相と俺の姿を見てホッとして居るヘンリー君が到着した。


「魔王様! 良かった・・・来て頂けて!」と安堵した様な感極まった声を出すヘンリー君。


「うむ。先日はちょっとした誤解と言うか風習や常識の違いでちょっとムカ付いてしまっての。それで急にバカらしくなってしまってヤケになったってのがすっぽかした理由じゃ。

言い繕う事も出来るが、後々禍根を残しそうじゃからの。 率直にお主らに伝える事にしたんじゃ。


まず最初に断っておくが、我はローデル王国でもバッケルガー帝国でもない、王国に友人は居るが、他の国に生まれ育った者じゃ。故に王国とも帝国とも生まれ育った環境による常識や考え方が違うのじゃ。


故に、ちょっとした誤解によるイライラが膨らんだのじゃ。我の生まれ育った国ではな、金を払って「はい、終わり」ではなくてな、工期期間中も放置ではなくて施工主が陣中見舞いと言うか、ご機嫌伺い等をするのが習慣なんじゃ。


暑い日、寒い日、野外で作業する者へ温かいお茶や軽食を持参して、気持ちを示すのが普通なんじゃ。 と言う風習や常識の違いがあった故に、お恥ずかしながら我が癇癪を起こした訳じゃ。 すまんかったの。すっぽかしは大人のする事では無かった。」と言って結局頭を下げて謝罪してしまう俺。


「あ!そんな、魔王様、頭を上げて下さい! 私共も気が回らずご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。」と慌てて頭を上げる様に言うヘンリー君。


「うむ、では今回の件はこれで禍根無しと言う事で良いかの? 一応工事は本日から再開するので安心して良い。それに先程我が言ったからと言って特に陣中見舞いもご機嫌伺いも不要じゃ! 好きにする故に。」と宣言したのであった。



ふう~これで何とかなったかな・・・。と心の中でホッと一息ついて、光学迷彩で姿を消したてから城壁の最後の工事箇所へとゲートで移動したのであった。



「そして、我は帰って来た。工事の再開だ!」と最後の日に言った台詞を取り消す様に宣言し、久々の城壁工事に着手するのであった。



工事を再開していると、俺の工事を見学している視線を感じてチラッと視線の主を探すと帝都の庶民や子供達が俺の方を向いて笑顔で手を振ってくれていた。


俺も内心照れつつ、軽く手を振り返して黙々と作業を続ける。


ちょっとしたブランクもあったが、作業開始後の1時間で以前のペースに戻せた様である。




 ◇◇◇◇


今日は定期的な休憩以外は殆ど連続で工事を続け、雑念が湧かずマッシモの工事の時の様に非常に集中して非常に質の高い作業が出来たと思う。


そのお陰で夕方までミッチリと作業を熟して工事をボイコットする以前よりは良い気分で自宅に戻る事が出来たのだった。


要は気の持ちようって事だろう。イヤイヤやっていたら、そりゃあ気分も悪いわな。と自分で納得する。



気分良く帰ったら夕食が出来るまでの間サチちゃんを俺のフォース・フィールドで浮かせてやって空中をフワフワと漂わせてやると、キャッキャと声を上げて喜ぶサチちゃん。


最近はちょこちょこと歯が生えて来て笑顔になると小さい歯が見えて余計にカワユイのだ。


ああ、こんな時にデジカメでもあれば・・・この笑顔を撮って置きたかった。


先にデジカメみたいな映像を記録する魔動具を作っておけば良かったのに、本当に大失敗だ。


尤も着手してたとしても作れたかどうかは怪しいけどね。



さて、前回工事をボイコットして帰って来た時とちがって、目に見えて機嫌が良かった事で察したアリーシアが「上手く謝罪出来た様で良かったですね。」と微笑みながら言ってくれた。


アリーシアは俺には勿体無い程に本当に良く出来た奥さんである。



■■■



その頃、皇城では魔王様が無事に機嫌良く本日の工事を終えて戻られたと言う配下の者からの報告を受けた宰相とヘンリー君がホッとした表情で語り合っていた。


「陛下何とか無事に工事も再開して頂けてようございました。 まさか、そう言う事でお怒りだったとは思いもしませんでした。」と宰相が告げると、


「だがしかし、言われてみれば、こちらから無理を言ってお願いしている訳だし、確かにご機嫌伺い的な配慮があって然るべきであったかも知れないな。しかも工事費用も正規の金額を支払う訳でもなく見合った適正価格にならない宝物庫の何かだけで済ませて放置って確かに言われてみれば失礼だった気がして来たぞ!?」とヘンリー君が宰相に告げるのであった。


「そうでありますなぁ~確かに魔王様の故郷の風習はこちらでは一見おかしく感じますが、 確かにそう言う配慮や心遣いがあった方が双方気分が良いのかも知れませぬな。


とは言え今更取って付けた様に態とらしくご機嫌伺いに行くのもあざと過ぎますれば、魔王様の言う様にそれとなく時間が経ってホトボリが冷めた頃にご機嫌伺いに参る様に致しましょう!」と提案するのであった。


「うむ、暫し時間を置こう。忘れぬ様にして置いてくれ!」と宰相にタイミングを委ねるのであった。



ヘンリー君は宰相との話し合いの後、婚約者であるジェシカへ魔王様と和解して貰った事や城壁工事が再開された事や心配をしてくれた事へのお礼等を手紙に綴って封筒に入れて蝋で封をしてスタッフに王国のジェシカの元へ至急届ける様に命じるのであった。

これは魔王様の生まれ育った国の『ご機嫌伺い』や『ちょっとした配慮』の習慣をヒントに従来の自分では思い付きもしなかったであろう感謝の気持ちを『お礼の手紙』として実践して綴った物だった。


ヘンリーは意外にマメな奴なのだ・・・。



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