第170話 俺なりのリフレッシュ・タイム その1

それからの俺は毎日サチちゃんと遊んだりして精神状態を落ち着かせる事に精を出していた。



そして、ムカつきの元凶となった帝国の定期訪問日をあの事件以降初めてすっぽかしてしまった。


いや、これでも前日までウダウダと行く行かないで迷ったんだけど、「手を引く」って宣言しに行く事に意味が無いって思ってさ。


どうせ魔王の干渉や締め付けが無くなったら彼奴ら喜ぶんじゃねぇ?って思ってしまったら、余計にアホらしくなってしまった訳だ。


そして、別に俺が何かしなくとも、俺や俺の周囲にに某かの不利益や火の粉が振って来た場合は今度こそ心を鬼にすれば良いかって思った。



だからそんな下らない事に時間使うぐらいなら、もっと有意義な時間の使い方すべきなんじゃないかって思ってね。


サチちゃんと遊んだり、アリーシアとのマッタリとした時間を持ったりと・・・有意義にね!



とは言え引き篭もってばかりも教育上良く無いと言う事で、働くカッコ良い父の背中を見せる為に中断していたダンジョンの第58階層に進む事にしたのだった。




■■■



階段を降りて第58階層に降り立つと、そこは灼熱の砂漠地帯。 偽物と分かっているけど、天井から照らす太陽の容赦ない光と温められた砂漠の砂が発する熱とで、正に灼熱地獄。


この階層に降り立って3分もせずに、ドッと汗が噴き出してシャツもズボンもパンツまでも絞ればジョバーっと汗が絞り取れそうな程である。



シャツもズボンもパンツも肌に貼り付いて非常に不快である。


既に第11階層で体験済みの砂漠エリアであるが、やはり、暑いのは厳しいな。


早々に風魔法のシールドを展開して内部にエアコン魔法で温度を下げると、やっと不快感が軽減された。


また空からショートカットすべきかとも思ったが、今の俺には『ホバー移動』と言う選択肢が増えているのである。


最終的には空に上がるにしても多少は後続の為にこの階層の魔物等の情報を調査すべきであろう。



早速厚めの魔装を纏って『ホバー移動』を開始すると、音も無く僅かに浮上して砂漠の砂の上を滑る様に滑らかに進む俺。


一応視界を確保する為に砂漠の尾根を進んでいると、モコモコと砂が動いてシャー!といきなり砂の中から、デザート・サーペントが毒液を吹き掛けつつ全身をバネの様に使って突撃して来た。


俺の幸い魔装以前に風魔法のシールドに毒液が弾かれて全く被害は無い。


口を大きく開けて毒液の滴る牙も剥き出しで齧り付いて来るが、その前に俺の魔弾で眉間を撃ち抜かれて砂丘の尾根にボトンと落ちたのであった。


すると、絶命して力を失ったデザート・サーペントの亡骸は尾根からバランスを崩して、砂丘の斜面を滑り落ちて行く。


「おーっと、みすみす倒した魔物の亡骸を無にするのは勿体無いな!」と呟いて、滑り落ちるデザート・サーペントの亡骸を追う俺。



油断していた訳では無いが、ブランクと砂を遮蔽物に使われて居る所為で砂の下に隠れていた奴の気配を察知するのが一瞬遅れてしまった。デザート・サーペントは転げ落ちる斜面が一瞬ドバーっと盛り上がって、目前の砂ごと吸い込む様に巨大な口が現れた。

その一瞬で、ヤバイと思う前に『ジェットブースター』魔法を使って砂丘の斜面からバシュっと距離を取って宙に浮いた状態で飛び出して来たグロテスクな奴の姿を視認する。


細かいギザギザの歯が幾重にも並ぶ口内と赤黒い分厚い外皮は細かい棘の様な体毛が生えていて実にキモイ。


相手はデザート・ワームと言う巨大なミミズ擬きである。


顔を顰めながら威力高めの魔弾を撃つも、像相手に爪楊枝で戦って居る様な物で相手がデカ過ぎて全然効果が無い。



しかもポッカリ空いた口からは凄いドブと言うか下水の排水口の様な悪臭が漂っている。


さてどうした物か・・・。


口目掛けてファイヤーボールを3発程発射すると、熱かった様でギシャー!と言う悲鳴を響かせて俺に突進して来る。


境目がないので判らないが首?イヤイヤをする様に首を振って滅茶苦茶な動きで回避行動と言うよりも俺への攻撃を仕掛けて来る。


グロテスクな形でイヤイヤってされても全然萌えない。


サクっと殺っ《ヤ》っちまおうと、高周波ブレードでは無く、高周波を伴った無属性の丸鋸の刃の様な円盤を作って高速回転を掛けて奴の首へと発射した。

ザシュっと音がした後ギャシャーと一鳴きしたらユックリと首が砂の上に落下した。


何か、血液なのかそれとも内臓なのかは判らないが近寄りたく無い程の異臭が漂ってて、やっつけはしたものの、回収は諦めたのであった。


そうそう、最初にったデザート・サーペントだが、横入りして来たデザート・ワームの所為で何処かに消えてしまった。


2キルが完全に徒労に終わってしまった・・・。



一応進む方向だけは確認しておこうと上空に移動してこの階層を見回してみたが、360度見渡す限り砂、砂、砂で他には何も見当たらない。


もしかするとこの階層、滅茶苦茶厳しい階層なんじゃ? ゴールらしき物もその気配も何も無ければ虱潰しに全面探索するって事でしょ?


思った以上の状況にちょっとテンションが落ちてしまったが、前回の11階層でもちゃんと日々帰って再開してを出来て居た筈だからと気分を切り替えたのであった。


『ホバー移動』を再開して暫く進むと、尾根の下の谷の部分に何かを啄むデス・スコーピオンの群を発見。


蠍系の外骨格も強固なので防具等の需要がある。

で、一説では、蠍の魔物は濃厚な蟹のような味と言う話を前に聞いて居たので良い機会である。


15匹一気に頂けるならラッキーだ! 但し、本当に美味いならば!と言う前提で。


前世で両親の死後は蟹鍋等はする機会もその気にもならず、もう何十年も蟹料理はご無沙汰して居る気がする。


尤も、蟹クリームコロッケや、カニ玉丼を蟹料理と位置付けるなら多少変わるけど。



デス・スコーピオン、此奴は結構ヤバイ奴であった。何が厭って、こっちは美味しい身を傷付けたくないから丁寧にってるのにさ、尻尾の貼りから、酸性のヤバイ汁をバシュバシュと飛ばして来るわ、デカイ蟹爪っぽい挟みで俺の足首を挟んで千切ろうとして来るわ。


しかも仲間とキーキーと鳴いてコミュニケーション取って連携攻撃仕掛けて来るんだぜ! ウザいののなんのって・・・。


これで美味くなかったら容赦しないぜ!!


美味かったら、狩り尽くす勢いで容赦しないけどな!!


その後もデス・スコーピオンを見つけては狩ってを繰り返し、40匹ほど回収が終わった。


そうそう、さっきデス・スコーピオンが啄んでいたのは、サンド・ホッパーと言うデザート迷彩色っぽいバッタの魔物であった。


どうやら、この階層にはバッタも居るらしい。


一応、一定方向を維持して進んで居るのだが、あれ?って思って魔装を強化して身構えた一瞬後には辺り一面を覆い尽くす砂嵐かと思う程のサンド・ホッパーの波?がやって来て、デザート色とでも言うのだろうか?薄茶色っぽい迷彩色のサンド・ホッパーの真っ只中に居た。


辺り一面バッタだらけである。しかも相当に腹を減らしているのか?俺がこの階層への侵入者だからなのか判らんが俺にカジカジと齧り付いては魔装に弾かれている。


このサンド・ホッパーはダックスフンドくらいのサイズで、然程大きくはないが、虫嫌いの俺にしてみれば十分にキモイ。


攻撃力が弱いのは幸いだが、これだけの数に囲まれてしまうと流石に身動きが取れない。


そこで全方位攻撃ならと前階層で使った『サンダー・バースト』(自分を中心に同心円状に雷の波紋を放射する全方位攻撃魔法)を使って一掃する事にした。


バシバイバシーと言うスパーク音と稲光の波動が広がって行き、それまでギギと鳴いていたサンド・ホッパー達が一斉に沈黙してボトボトと砂の上に落ちて行く。


やっと静寂が訪れた後には数千匹以上のサンド・ホッパーの亡骸に埋め尽くされていた。


このサンド・ホッパーでも体内には魔石を持っているだろうが、こんな小さく弱い魔物の魔石である、恐らく大した価値もないだろう。


とは言え、一応参考までに数百匹は回収しサンプルとして冒険者ギルドに提出する事とした。



え?サンプルとしてのデザート・サーペントとデザート・ワームは要らないのかって?


いや、デザート・サーペントは見つけたら狩るけどさ、デザート・ワーム臭いから却下!


あんなの普通にスカンクより質が悪いって!


仮にサンプルで持って帰ってもギルド職員から恨まれるのがオチだって!


それに身体に匂いが染みついたらサチちゃんに嫌われるからね。


デザート・ワームはみんなの平和の為にも名前だけの報告って事で・・・。






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