第169話 ヤル気の残量と撤収
さて無事に帝国への定期訪問を終えたものの、またもや面倒臭いお仕事を仰せつかってしまい、前に宝物庫の中身を根刮ぎ改修した際の朧気な記憶を探りながら自分自身のヤル気に火を点けようと頑張っているのだが、元々人の物って言う感覚で余り余計な物欲が起きない様に半分目を瞑っていたので全然思い出せないのである。
何か記憶の映像にモザイク掛かった様なボヤッとした感じ。 と言う事で役には立たなかったのだが、完成後には何か将来的にサチちゃんの役に立つ物を貰うって言う方針で『ヤル気』を無理矢理奮い立たせる事に成功した俺は、気分が変わる前に魔王へとチェンジして帝国へと通う日々を始めるのであった。
そもそも俺はコツコツとした経験値稼ぎやレベル上げとかゲーム上では大好きと言うか、努力がちゃんと数値として反映されるのが楽しかったりするんだけど、こう言うタダ面倒な仕事には向いてないんだよね。
「それはお前が壊したんだろ!」とかは言いっこなしね! とは言え、あの時は怒りや憤りに任せて幼くして人生を奪われたあの親子の敵討ちって気分のまま帝都まで進行して城壁に八つ当たりした訳だけど、今思い返してみてもやっぱ後悔はしてないね!
唯一後悔があるとしたら、この変質者の様な魔王コスと魔王キャラかな・・・。 絶対にサチちゃんだけには見せられない!!
と言う事で残念だが、早くダンジョンアタックに戻れる様になる早で頑張るしかない。
俺が帝都の城壁の上にゲートで現れると、衛兵が一瞬ギョッとしていたが、ちゃんとヘンリー君より通達が行ってる様で「あ!魔王様!!お世話になります!」と満面の笑みで敬礼されたのだった。
さて、壊す際は物質変換で割と大雑把に出来たのだが復旧と言うか修復となるとそう簡単では無い。
既に巣や崩れが起きている部分もあるのでそれも含め修復して行かねばならないのだ。
早速俺は城壁の上の通路部分の床に手を触れて、魔力を練って物質変換で強固な石の城壁の素材への変換を開始する。
取り敢えず俺を起点に前後100mの物質変換が完了したので、更に表面や内部を高圧縮して硬化させて行く。
ふぅ~っと溜息を付いて腕で額の汗を拭おうとしたら、仮面を被っていたので満足に汗も拭けない・・・。
チッと軽く舌打ちをして立ち上がり、ホバー移動で城壁の通路を100m移動する。
そして、再度物質変換からの硬化&強化を繰り返す働き者の魔王な俺。
思わず作業をしながら、日本語で某『木こりが主人公の歌』を「ヘイヘイホー♪」口遊ながら作業を繰り返して行く。
5回繰り返して約1kmが生まれ変わる訳だ。
漸く前のマッシモの城壁を作っていた時の感覚が戻って来て、徐々にペースを上げるものの、ここの城壁の総延長は非常に長く、1日では勿論全く終わらない。
来る日も来る日も修復作業を続ける俺だが、最近、どう言う意図か自発的なのか何か知らないが、帝都民のギャラリー?が集まって来て俺の作業する様を見守ると言うか声援をくれたり、ホバー移動で響めきが起きたりするんだよ。
派手な作業なんか、花火等の見応えのある見せ場も無いのになんだろうね?
まあ、罵声や石投げられたり妨害して来るよりは良いけどさ、視線が痛いって言うか変に意識しちゃうよね。
見られて居ても「何時もより余計に綺麗に仕上げてます!」なんて事もなく、聞こえない程度の声で「ヘイヘイホー♪」と口遊ながら黙々と作業を続けるのみだ。
ちなみに、この歌の2番は知らないので常に1番をエンドレスループしてたりする。
◇◇◇◇
1週間が過ぎて漸く半分は完了した。
今が冬で良かった。夏場の帝国はかなり暑くなるらしいので熱中症になって居たかも知れない。
この忌々しいお面の所為で頻繁に水分補給取れないので、冬場で助かった。
とは言え、トイレ休憩や食事休憩は必要なので都度誰も居ない魔の森の小屋にゲートで移動して、グテーっとダレて休息を取っている。
修復工事の方も丁度折り返し点を過ぎた訳だが、最近何となく心にモヤッとした黒い物が渦巻いて居たりする。
最初こそ、ジェシカも嫁いで来る国の首都だからって事もあって、多少思う所を飲み込んで作業して居るわけなんだが・・・でもさ!?、普通自分の家とかの工事して貰っていたら、1度や2度は挨拶しに顔を見せたり、言葉だけにしても労を労ったりしないかなぁ~?
普通日本だと施工主が大工さんとかにお茶出ししたり、声掛けしたりするよね? 俺のベースは日本人なんだが俺がおかしいのかな?
来ないんだよ!!! 誰がって、ヘンリー君もあの宰相も全く丸投げのままで、挨拶や差し入れやご機嫌伺いすら無いんだよ!!!
そりゃあ毎日来いとかは言わないし、逆に毎日こられたら迷惑だけどさ。
何でもさ、気は心って言うじゃん? ちょっとした気遣いってのが潤滑油になったりする物じゃん? だからちょっとモヤってる訳だ。
別に金が欲しい訳でも感謝されたい訳でも無いけどさ。これってどうなんだろうね?
そんな訳で徐々に募るイライラと鬱憤で段々作業効率がドンドン日をます毎に落ちて来て、そもそも少なかったヤル気が尽きてしまったのだった。
「あー、馬鹿馬鹿しい・・・止め止め~!!撤収~!」と叫んでサクっと魔の森の小屋経由で帰る事にしたのであった。
一旦、小屋で風呂に入ってささくれ立った心を溶かして、リセットしようとしたが、腹の虫が治まらず、風呂から上がって着替えた後、婚約状態であるジェシカにも言って置こうと思い立ち王都へとゲートで移動した、
王城の正門前にゲートで移動して、ギョッとして身構える見覚えのある衛兵のオッチャンによ!っと片手を挙げて挨拶しつつ、例のメダルを見せて、ジェシカぁ、国王陛下へ面談を申し込んだ。
オッチャンは直ぐに部下?を王宮に走らせて確認を待つ間に衛兵の詰め所の休憩室で待たせてくれたのであった。
このオッチャンの心ある対応で、ちょっとだけササクレが和らいだのは言うまでもない。
お目通りは即許可されて、国王陛下の書斎へと直ぐに通された。
そして、ジェシカと、第一王子も同席の上、ソファーを勧められて腰を降ろした訳だが・・・ 国王陛下は初めて見る様な青い顔をしているし、第一王子殿下は微妙に震えて居たりする。
「師匠!!!何か在りましたか?か、顔が超怖いですよ! その怒気と漏れる魔力抑えて貰えませんかね?」とジェシカに盛大にツッコまれた。
「え? あゴメン、怒気漏れてたか? いかんいかん。良かったこのまま家に帰らなくて・・・サチちゃんに嫌われる所だったよ。危ない危ない。」って言った後、ピシャリと領側から挟む様に両頬を叩いて怒りの表情を強制リセットしたのだった。
「陛下も第一王子殿下も申し訳無いです。 えっと、怒りと言うか、ジェシカ・・・第一王女殿下を通して王国にも関係あるので一応報告しに来たんですがね。」と言って、現在魔王として帝都の城壁を修復中であった事とその経緯を話した。
そもそもこのメンバーは俺が魔王を演じて居る事も知っているし、その理由も理解しているので、そこで変に隠す必要はないだろう。
そして、怒りの理由を説明したら、陛下も殿下もやはりさえ無い顔をしていて、俺の怒りのいポイントを理解して貰えてないご様子。
「もしかして判りませんか?」と問うと頷く2人。
「じゃあ、もっと例えを変えてみましょうか? 戦争があって、騎士団や兵士を戦場へ送り出したら普通に慰問や途中や終わった後の武勲に対する寝嫌いの言葉や感謝の気持ちとかありませんかね? それともヤって当たり前、感謝する事は無いと思います?」と俺がと戦争に例えた事で漸く怒りのポイントを理解してくれたのだった。
「今回、婚約したって言うし、ジェシカの為にも城壁を何とかしたいって言うから面倒だったけど、動いたんだよ。だがもうバカらしくてやってられん。 その程度の心意気ならやる意味も無いと俺は判断した。」と言いながら、あの事件で無惨に殺された親子の事を思い出しつつ、ギューッと拳を握ったのだった。
「と言う事でジェシカには申し訳無いが、あの城壁はもう直ぐ無くなると思う。 あ!呉々も俺が魔王である事は漏らさないでくれよ!次回の定期訪問で最後にして手を引くし、今後は知らん。」と言いたい事を言うだけ言って王宮から自宅へと帰ったのだった。
自宅に戻った後はサチちゃんと一緒にお馬さんゴッコして遊んだりした。
サチちゃんの笑顔は偉大である。 あれだけささくれていた俺の心を一瞬で溶かし自然な笑顔が漏れるまでに癒やしてくれる。
それに最近では「とーじしゃん」とアリーシアの真似して呼んでくれるんだよね。
どうやら、前に「トーしゃ!」と呼んでたのはアリーシアの「トージさん」ってのを真似た結果だったっぽいんだよ。
しかも、最近、『好き』って単語も覚えたみたいで、「とーじしゃんしゅきー!」って言ってくれて、マジで蕩けてしまってます。
「お父さんもサチちゃんの事好きだよ!」と俺が言うと「あれ私の事は?」って刺す様な視線をアリーシアが送って来るのでそれが刺さる前に、「勿論、サチちゃんの事と同じ位アリーシアの事も好きだよ!」と空かさず言うと、嬉しそうに微笑んでくれる。 ああ、幸せだ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます