第168話 レッツ任務完了パーティー

まあ、餅は間に合わなかったけど、今年は後半に掛けて大幅に人数も増えたし、ここは1年の締めに盛大に年越しパーティーでもやろうか!?


神殿から戻って文字通り『手駒』としての『一仕事』を完全に終えた俺は心も軽く年越し蕎麦だけじゃ寂しいかなと思って夕食の準備を始めているアリーシアと子供達に声を掛ける。


「大晦日だし、オークションも終わって、みんなも年末年始の休暇に入っているし、年越しのお疲れさんパーティーでもやらない? 急な話で悪いけどさ。」と提案すると、みんなでパーティーというかワイワイとするのも久しぶりと言う事で子供らはいち早く盛り上がって居る。


急だから、出来合のストックとBBQで良いか!? 最後の締めは年越し蕎麦は決定だし。」と俺がメニューを決めて指示を出すと、指示より早く子供らが動き始めていたのだった。


そんな俺にアリーシアがスッと傍に寄って来て「何か良い事とかあったんですか?」と俺のちょっとして変化に気付いて尋ねて来た。


「うん、一応、夜にでも詳細は話すけど、こっちの世界に来る事になった切っ掛けのお役目が完全に終わったんだよ! 後は好きにして良いらしいんだ。 だから、やっと本当の意味で自由に気ままにアリーシアやサチちゃんとの人生を楽しんで良いって事だよ。本当にホッとしたよ!」と肩の荷が軽くなった事を簡素に伝えると、


「トージさん! そ それで、今まで通りにこ、ここ・・・この世界に、い 居続けて良いんですよね? 何処にも行っちゃう様な事も消える事も無いのですよね? 役目を終えたから消滅といか無いですよね!?」と声こそ潜めてはいたものの焦った様に矢継ぎ早に聞いて来た。


「うん、大丈夫だから!役目を終えたって消えたり居なくなったり、無かった事になったりとか無いから!! そこは安心して! 大丈夫だから。それに愛する2人を置いて行くなんて俺に出来る訳が無いだろ? そうなったら相手が何だろうと絶対に戦うよ!」と言って、ちょっと動揺していたアリーシアを抱きしめて背中を手でトントンと軽く叩いて居ると、俺達が引っ付いて居るのを察知したサチちゃんが、俺の後ろから、トテトテとやって来て、フォース・フィールドの足場を作って、俺の背後からよじ登って来て俺の肩に手を掛けて半身を乗り出し、アリーシアと俺の方に顔を向けてニパァーって花が咲いた様な笑顔を見せたのであった。


そのサチちゃんの様子を初めて目撃した二期生や三期生の子供らが響めいていたのだった。



尤もそんな子供達の方を見てサチちゃんが可愛くドヤ顔していたのだった。


そう、だから今日のパーティーは単なる大晦日を祝うだけで無く、遠く神界?のナンシー様の合格祝いであり、そして俺の本当の意味での第ニの人生のスタートを祝うパーティーでもあるのだ。




大晦日パーティーは非常に盛り上がり、普段は余りこう言うのを好まない師匠も、オークションの打ち上げも兼ねてると言う体でサチちゃんをあやしながら参加してくれた。


そこで、余りにも多くの事が在って俺もウッカリ子共達一期生に口止めするのを忘れていたのだが、ポロッとリンダが「ジェシカ姉ちゃんも帝国の皇帝さんと結婚するみたいだし・・・」と口走った事でえーー!?と大きな響めきが沸き起こったのだった。


「あちゃー、リンダ、それまだ決まって無いから言っちゃ駄目な奴だよ! 正式発表まで黙ってないと、もし、それが流れちゃったら、見聞が悪いだろ!? 下手するとジェシカの評判に傷が付くから、聞いたみんなもそこは心して他言しないでくれよな!」と釘を刺して置いた。



尤もそんな俺の心配も配慮も年明け早々王宮からの大々的な発表と浮かれたジェシカが魔法学校の全校集会の場で惚気た事で全て無駄になったのだけどな・・・。



ああ、パーティーの方はちゃんと年越し蕎麦で締めて、1年の締め括りを済ませたよ!



■■■


この世界では年末だから、年始だからと言って特に店や仕事を休んだりする事は無い。ワーカーホリックって訳で無く、単に裕福ではないので食い扶持を稼ぐ必要があるからだ。


そんな中で、週休1日は確定で店に定休日を設け、更に年末年始も1週間有給の休みを従業員に与える家の商会は衝撃を与えたらしい。


まあ、お正月と言うか年始にはお年玉を全員に支給してやったら泣いて喜ばれてしまった。特に地方の孤児院からのスカウトキャラバン組の子らにね。


聞いて居た以上に待遇が良過ぎて、逆に不安になってたらしい。


難しい物だな・・・俺そんなに胡散臭いかな? ちょっと俺の方が悲しくなっちゃうよ?

まあ、美味い話には裏があるのが世の常ってのは理解するけどね。


最初はそう言う警戒心を持ってたってさ、実際ににここで暮らしていたら判りそうなもんじゃない?


一緒に暮らして日々俺やその他の子供らの様子も見て居て尚不安と言うより不信感持たれてたら、やっぱ内心傷付くよな?


まあ今後の課題と前向きに捉えて置こう・・・。



そんな感じで新しい年を迎えた訳であるが、そろそろ例の王都の拡張工事や帝都の城壁の修理の件の返事をしなきゃならなくなって来ていて、若干鬱だ。


まだ遠回しにしかせっつかれて無いが、あと1週間ぐらい引っ張れるかなぁ~?


いや、マジで遣りたくないでござるよ。 特に帝都の城壁な! あれは魔王さんになんとか任せる方向にしたい。


でもジェシカ嫁ぐんだよな!? 結局遅かれ早かれバレるのか?


まあ、やるとしたら、王都の拡張工事は2番目だな。 先に魔王で帝都の城壁の修理しないとね。 だって1人しか居ないから同時進行とか無理だし。


だとすると緊急性の高い帝都からって事になるよな。



その場合、帝国からの報酬をどうするかって話が問題だ。


魔王自ら報酬を寄越せって言うのもね・・・。 しかも壊したのも魔王自身だし。


お金より魔動具や剣とか貰った方が嬉しいかもな。宝物庫にちょっと良さげな物があったし。


俺そう言う交渉は下手だからどう言う風に話を持って行くかが問題だな。



そう思って悩んで居たのだがが、無情にも時は流れ帝国へ魔王が定期訪問する日となってしまった・・・。


こうなったらノープランのまま行くしかないか。

普通に素で交渉するのでも割と酷なのだが、魔王キャラを保ったままで行くってのもボロが出そうで怖い。

「まあキャラが壊れたら壊れた時でまた考えれば良いのですよ! だって私のトージさんは最強ですもん!自分が合わすでは無くて、周りを合わさせるで良いのですよ!だって『魔王様』なんですから。」と割と大雑把に勇気づけてくれるアリーシア。

「そ、そうか? そんなんで良いのか?『魔王様』だから?」と繰り返して納得し、魔王コスに着替えてから勝手知ったる帝都の皇城へとゲートでやって来たのであった。


「あ!魔王様!ようこそおいで下さいました。」と俺を見つけた宰相がヘコヘコしながら俺に挨拶をして、メイドに言ってヘンリー君を呼びに行かせる。


ヘンリー君が来るまでの間俺に椅子を勧めつつ宰相が言い難そうにお窺いと言うか、お願いを遠回しにし始めた。


「魔王様、私共の皇帝陛下は若いですが、これからはこの国を導いて行く身故に妃を貰わねばならぬのです。」と切り出す宰相。



「ふむ、そうであろうな。心優しい妃を貰い、子を設けなければならぬだろうな。」と頷きながら返す俺。


「そうなのです! さ、幸いにも昨年ローデル王国で開かれたオークションに出席した折にローデル王国の第一王女殿下ジェシカ姫と気が合われた様で、一気に話が纏まりまして、昨年末にご婚約まで決まったのでございます。


ほ、本来なら1度魔王様にお窺いを立ててご許可を得てから婚約すべきかと存じますが、何卒!何卒順番は前後してしまいますがご許可を頂きたく!」と冷や汗を拭きながら決死の形相で懇願して来る宰相。


「うむ。その噂なら既に聞いて居るぞ。良い事ではないか!年始早々めでたいのぉ~ 許可も何も本人同士の問題であろう?争いや戦闘で無く平和的で良い話では無いか。」と俺が努めて明るい声色で応えると、ホッとした表情をして安堵していた。



「ありがとうございます。そこでご相談と良いますか、図々しいとは思うのですが、婚姻にも影響する事故にお願いがございまして・・・。」と少々言葉を濁す宰相。


「何じゃ?遠慮せずに我に申してみよ。聞いた上で正当に判断しようではないか?」と高飛車な物言いで内容を問うと、


「他国より姫君を妃に頂くので帝都の守りを堅牢にしなくてはなりませぬ。以前に魔王様のご厚意でここ皇城の城壁は立派な物を建設して頂いたのですが、今の帝都を守る城壁は劣化が酷く、皇帝陛下もそれを憂慮して昨年知り合った魔法に長けた方に打診したそうなのですが、今一つ良い反応が頂けなかったとかで・・・。」と俺が即答でyesと言わなかった事で頭を痛めて居るらしい。


「ふむ、言いたい事はつまり我に城壁を何とかして欲しいと言う事じゃろ? ここの城壁は無駄に総延長が長居のじゃ。流石の我でもかなりの工事期間を必要とする事ぞ。流石にタダでこれ程の工事するのは我とて気が乗らん。つまりモチベーションが保たぬな。何か鼻っ先に人参が欲しいのぉ~。」と話の矛先にホクホクしなが声を弾ませる俺。


「に、人参でございますか!?」と怪訝な顔をする宰相。


「ああ、すまぬ、言い回しが判り辛かったか? つまり、シルバー・ウルフを走らせ様とするなら、その鼻先に美味しそうな血の滴る肉の塊をぶら下げればじゃ、自然とシルバー・ウルフはその肉に飛び付くじゃろ? それをズッと同じ距離でぶら下げ続けるとどうなる? シルバー・ウルフはズッと目の前の肉を追って走りつつけるのじゃ。つまり、ヤル気にさせる何かが欲しいと言う意味じゃ。」と説明してみた。


「あー、なる程、面白い例えでございますな! つまり、お金をお支払いすれば宜しいのでしょうか?」と話を理解して問うてくる宰相。


「うーむ・・・金か?金はつまらん。我は余り金に興味無いのじゃ。 しかも、そなたの言う金も我が以前に返してやった物じゃろ? あれはもっと他も国民の為に使う為の物じゃから・・・我が飛び付く人参は・・・そうじゃな・・・宝物庫にあった面白い魔動具や武器庫にあった剣とかかのぉ~?」と今回の大本命の要望をやっと口に出来た。


「なんと、そんな物で宜しいので?」と意外だったのか驚く宰相。


「うむ。そうじゃぞ。逆に何を要求すると思ったのじゃ? 我程の存在になれば、既にある程度色々持っておるし、生きる上で特に金を必要とせぬしの。拠点も持って居るし、寝床も食い物も在る。生きる上で十分じゃろ。じゃからこその面白い物の方が楽しいのじゃぞ。」と説明した。


宰相は何故か凄く感銘を受けた様に頻りとウンウンと頷いて、報酬の魔動具でも剣でも好きに選んで良いと確約してくれた。


そして肝心のヘンリー君だが、どうやら事前に宰相とこのやり取りと言うか俺の説得を打ち合わせ済みだった様で、 つまり、面倒な話し合いを宰相に丸投げして居たらしい。

話が着いた頃合いを見て何食わぬ様子で「遅くなり申し訳ありません、魔王様」とか言いながら頭を掻いていた。


ヘンリーよ、面倒事の説得を宰相に丸投げとは感心せぬな。 近々に妃を貰うのだろ!? 責任が伴う身になるのじゃ! 心して妃を幸せにせねばならぬじゃろ? 宰相の力で無くお主の力でじゃ! 」と俺が言うと、


「も、申し訳ありません、魔王様。 やはり魔王様は凄いですね、何でも全てお見通しでしたか・・・。」と頻りと失態を無かった事にした気なヘンリー君。


「まあ、何でもでは無いが、知る事殆ど・・・じゃ。」と何処かで聞いた様なフレーズを応えた。


まあ、何時も交渉事等を人に振ってる俺のどの口がそれを言うんだって話だが、それは内緒である。


帝都の城壁改修にちょくちょくやって来る事を伝え、その際城壁の守備の兵士に決して俺を攻撃しない様に徹底する事を命じたのであった。



まあ俺としても話が纏まりホッと一息である。


しかし最後まで気を抜かずにいつもの魔王モードで悠然と姿を消して自宅に戻り、大量に掻いた冷や汗をサチちゃんにクチャイとか言われない様にクリーンで綺麗にした後、ソファーのシートでグッタリするのであった。



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