第166話 混ぜるな危険!

何か知らんが、魔法学校の事?で相談と言われれば受けない訳にも、俺のゲートで移動して来た事もあって子供らだけ帰す事もいかず、請われるままに国王陛下の用意された竜車に乗って鬼門である王宮へとドナドナである。


正直、今も尚行動を共にしているヘンリー君の存在が俺にとってはリスクでしかないのだが?


既に帝国撃退の際に俺の周囲へのリスクを回避する為に魔王である事は極秘であると強く念を押して置いた筈なのだけど、そこはちゃんと理解してるよな?


特にあの親子ジェシカと国王陛下はウッカリとか普通にありそうだから怖いな・・・。


特に今回の趣旨や意図が不明なので不安だけが膨らむのだ。


既に逃げに入っていたラルゴさんを無理矢理確保して同じ竜車に押し込んだ訳だが、ラルゴさんからのジットリとした恨みがましい目が痛い。


流石は王国一の紹介へと上り詰めたやり手だ。「トージ様、私には魔法学校の事は無関係だと思うのですが?」と往生際が悪い。


「いや、何があるかは判らないから、ラルゴさんも居てくれないと!まあオークションからの流れなので、これも業務の範囲って事で。」と俺が言うとはぁ~と深い溜息を溜息を付かれたのであった。



王城に着くと数年前にあったのと同じ様な流れで国王陛下、第一王女殿下、ジェシカ、そしてその中に溶け込んで居るかのような嘗ての敵国の皇帝ヘンリー君。


俺達もしょうがないのでその最後尾にゾロゾロと付いて行く。


既に子供達は場違い感が甚だしい状況にビビりきっていて、俺の袖や上着の先を握り締めながら、「とトージ兄ちゃん・・・俺らって、これからどうなるの?」と掠れた声で聞いて来た。


「いや、お前達はどうもならないぞ?大丈夫だ。俺も居るし。それにここだけの話、お前達に何かしようって思っても、この王城にお前達より強い奴は居ないから安心しろって!」と俺が割と本気でぶっちゃけると、それを聞いていたらしいジェシカがフォローのつもりなのか、

「皆さん安心して下さい! 皆さんは私の大切な兄姉弟子の方々じゃないですか! 悪い様にする訳がありませんから。」と後ろを振り返って笑顔で語っていた。


「だそうだ。大丈夫だって!」と俺が締め括ると、漸く少し安心した様で、俺の服を引っ張る力がやや弱くなったのだった。


今回は前回と違い、余計な王族は交えず、このメンバーと宰相が同席する感じらしい。


「いや、こんな所までご足労頂きお礼を。まあ、少し軽く何か食べる物等を摘まみながらお話しを聞いて頂きたい。」と国王陛下が下手に話し掛けて来た。


「はい。陛下、以前通りの話し方でお願い致します。」と俺が応えると、「では、まず理解して欲しいのだが・・・」と言って今回のオークションの茶番と言うか出来レースについての説明をし始めた。


つまりは、今後の歴史に残るオークションで伝説の一品が低価格で落札されたのでは示しが付かない事、本当は今回の落札価格の2倍でもおかしく無い事等の構成の残す歴史の1ページとして最低限の格好を付けたかったと言う内部事情をぶっちゃけてた。


しかし、前回のオークションとは違い今回のオークションでは帝国がオークションに参加して落札する事を魔王が禁じた事もあって、絶対的な競りのライバルが居なくなってしまい価格が上がらない事が予想されたので、ヘンリー君に一役買って貰ったと言う事らしい。


なるほどな! まあ俺はエリクサーに必要以上な価値や思い入れは無いが、この世界の一般的な価値観では伝説のエリクサーが金貨3枚でしたじゃあ、カッコ付かないわな。


つまり、人々の夢・・・いやこの世界の価値観を守る為であったと言う事だ。


あのエリクサーは宝物庫に保管して後世に残すらしい。


何かそう言う事を聞くと一国の長って大変だな!ってシミジミ思ったよ。 俺には全く真似できない。


だが逆に穿った見方をするのなら、付加価値と言うかプレミアムを維持したって言う風にも取れるよな。



で! ここからが凄く生臭い話である。


今俺の口座には前回と合わせて最低でも12年分ぐらいの国家予算が数字として入っている事になるんだが、ラルゴさんの方も含めそれを引き出すのはもう少し待って欲しいと言うお願いだった。


そこら辺の所は宰相が冷や汗を垂らしながら詳しく説明してくれたのだが、非常に納得出来る内容であった。



そもそもだが、この世界のお金は全て硬貨を使っていて、硬貨自体がそれなりの価値のある素材で作られている訳だ。


ほら、日本の1円玉ってアルミで作られていたけどさ、実際材料費と製造コスト入れると、1円玉1枚に1.5円だか2円だか掛かるって話あったじゃん。


それと同じ様な事で、この国のギリーって単位で使われてる全ての硬貨って、金貨も銀貨も白金貨も黒曜貨も素材自体が高価なのでホイホイ枚数を増やせないって事だ。


つまり、昔の金本位制度的な状況な訳。


だから国の体面を保つ為高額で落札はした物の、商人ギルドの方には一時的な借用と言うか、数字上の負債状態にしているらしい。


尤も商人ギルドの方もその金額の硬貨を現物で渡されると保管場所に困るので、数字上で辻褄を合わせてくれている状態と言う訳だ。


なるほどなぁ~。 じゃあ硬貨止めて紙幣にすれば良いって思うじゃん!? 駄目なんだよ、この世界は紙も高価だし、印刷技術も微妙だから、紙のお金は価値が微妙で信用されないって。



で、要は普通にギルドカードの決済をする分には問題無いって事らしいが、硬貨を引き出さないでね!って言う、国のメンツに関わる非常にデリケートな内容だけにとてもオークション会場のあの部屋では言えない内容であったのだと。


「ふぅ~。 なるほど、それは理解しました。大丈夫です。そもそも引き出す必要も無いので、決済はギルドカードで数字上はやっているけど、出しては居ないので。 ご安心を。と言うか、経済を回す意味で私の口座に死蔵しておくのは拙いと思ってたので、結構方々に神殿経由等でバラ撒いてますけど、全然減らないんですよね。」と応えたのであった。


俺の回答を聞いて宰相はホッとした顔をしていたのだった。

「ちなみに、黒曜貨の1つ上の硬貨作ればかなり緩和されませんか?」って素朴な疑問をぶつけてみたが、それはそれで難しいのだそうだ。


えば、大黒曜貨とかを新規に作るにしても言う程の技術が今の時代には無く、黒曜貨の原材料も生産量が少ないらしい。


過去に黒曜貨も下位の硬貨の量が厳しくなって辻褄合わせで発行されたらしいが、発行当時に作った黒曜貨の枚数だけしか世に存在しないとか・・・ それ駄目じゃん!!


つまり、黒曜貨の製造方法は既にロストテクノロジー化されてしまっていると。


そんな話聞きたく無かったなぁ~。


そう言う細かい大事な技術はちゃんと継承していかなきゃ!!! ってマジで思ったね。


まあ俺も人の事は言えないな。キッチリ継承して行かないと・・・。


でもね、先の硬貨の製造方法が失伝してる件、なんと帝国もそうなんだって。


大丈夫なのかよヘンリー君!? ぶっちゃけ過ぎなんじゃない?


俺がそう思いながらヘンリー君や周囲の反応を見て居ると、「おや、帝国もですか?奇遇ですな!」って同志よ!って表情をする国王陛下。


うーん、此奴らやっぱ駄目だな・・・。


もうここまでで俺的にはお腹一杯なんだけど、話は終わりではなかった。



■■■


国王陛下もだが、ヘンリー君までもが俺の方を真剣に見つめて、話始めた。


国王陛下の方は、ここ王都の城壁をマッシモの様に拡張したいと言う話で、その工事をお願い出来ないか?と言う内容で、ヘンリー君の方は『魔王』に壊(正しくはボロボロに)された城壁を修復して欲しいと言う内容である。


どっちも面倒で長期的な話だ。

ホイホイと出来る物ではない。


「いやぁ~、流石にそれは即答出来かねますね・・・。ちょっと検討の時間下さい。」と取り敢えず回答を先送りして置いた。


だって漸くマッシモの工事が片付いてホッと一息付いてさ、ダンジョンアタック再開したばかりだよ? また2箇所の城壁とか、既に2年ぐらい平気で掛かりそうじゃん!?


しかも、帝国で作業してると俺=魔王ってバレそうな気がするし。それはちょっとキツイなぁ~。と思わず苦虫をかみ潰した様な顔になってしまう俺。


もう早く帰ってサチちゃんとアリーシアに会いたい・・・。



そんな訳で、早く話を終えて切り上げようと思った俺は、

「で、魔法学校の相談と言うのは?」と先手を打って残りの話を急かしてみたのだった。


魔法学校の相談とは、これまた面倒な話で現在校長のジェシカを校長の任から解き、ジェシカを取り敢えず一旦王都に呼び戻し、ヘンリー君との婚約を・・・って話が今日いきなり出て来たと言う。


俺が冗談で言ったヘンリー君と気が合うんじゃ?ってのが瓢箪から駒で、思いっきり馬が合って、『恋の炎』が大炎上?しちゃったとかなんとか・・・。


なる程、だから、ジェシカが乙女モードを漂わせていたのか! 良いんじゃないか!? 俺の方に実害無ければな。


まあ今まで長年敵対関係にあった両国の親愛の証に政略結婚とか普通にありそうな話だが、そんな今日の今日で決まるってのも驚きである。


めでたい話なので良いと言えば良いのだが、『魔王』の件バラすなよ!!ってそこだけは後で釘を刺して置かねばな! 非常に不安である。


で、校長をラフティに引き継いで貰う事で良いか?って言うのが魔法学校の相談事らしい。


「ええ、ラフティで問題無いでしょう。非常に優秀ですし・・・。まあでも、家の方から何時までもこの子らを講師として送り込んで置くのは難しいので、早めに独自の講師を増員して下さいね!」と一応お願いしておいた。


そんな感じで上手く切り上げてほぼ話も尽きたと思い「さあ、これで帰れる!」って席を立とうしていたら、ヘンリー君からも「トージ殿!願わくば我が帝国にも魔法学校を設立したいのだが、相談に乗って貰えぬか?」とお願いされた・・・。


「えーっと、それは私にではなく、国王陛下やジェシカ殿下とご相談を頂ければと思います。 私の方では特に思う所はございませんので。」と当たり障りの無い返答をして置いた。


「うむ。そうであるか・・・、当方も一応魔王様に一旦願い出なければならんし、丁度良いのか。」と1人で呟きながらウンウンと頷いている。


兎に角、何とか面倒な話の即答は避け、話を切り上げて、ラルゴさんと子供達を引き連れて王宮と言うより王都から逃げ出すのであった・・・。

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