第165話 激アツのオークションの再び その2
要は本日は全てこの伝説の出品物だけの日です! 思う存分に歴史的オークションに心置きなくご参加下さい! ではこれ以上の余談は野暮と言う物・・・まずは商品をお目に掛けましょう。」と先の自分の言葉の意味を補足して挨拶を締め括った。
タイラントさんが合図すると袖の方からOL風スーツ姿の女性スタッフが金色に輝く液体の入った小瓶が鎮座する透明ケースが置かれたワゴンを押してステージに登場。
すると、ゴクリと生唾を飲み込む音や「おぉぉ・・・」と言う唸る様な歓声が漏れ聞こえて来た。
「ご覧下さい、この伝説通りの黄金に輝く液体。 まあ今更だと思いますがこの『エリクサー』についてのご説明をさせて頂きます。このエリクサーは、とあるSランク冒険者がマッシモ東ダンジョン最深到達階層である第57階層にあった金色の宝箱から出て来た物だそうで、そこに至るまでには、何百何千と言う蟻の魔物と戦って辿り着いたと聞いて居ります。一応エリクサーの伝説については有名すぎるので今更知らぬ者など居無いでしょうけど、念の為にお復習いして置きましょう。
『薄紫色の小瓶に銀の封印、中に入るは黄金に輝く如何なる病も怪我も、如何なる呪いも撥ね除ける女神が作りたもうた神界の妙薬』ですね。余りにも有名でしたが、ここ100年現物が発見されたと言う記録はありませんでした!」と息を弾ませながら語るタイラントさん。
ん?何その伝説のフレーズ!?俺知らんかったよ。へー、女神製なの? 今度聞いておこうっと。
俺の予想だとマルーシャ様の担当じゃ無いと思うんだよね。 あの方の専門は食う事だしな。等とかなり不敬な事を思いつつ眼下のステージを注目していた。
「さあ、皆さん、心のご準備はもう宜しいでしょうか?さあ、発見者のSランク冒険者への敬意を込めて、何時もより高い500万ギリーから参りましょうか。」と競りがスタートしたのだった。
凄い凄い!10秒も掛からずに上昇単位が億ギリー単位になっている。
そして、掛からずに会場内の殆どの参加者が競りレースから脱落した。
前回は帝国vs王国で鰻登りに金額が競り上がって行ったけど、今回帝国は見てるだけだし、それ程高額にならないだろうと・・・って。
おい!ヘンリー!!!お前、何で和やかに国王陛下やジェシカと連んで札を上げて微笑んでいる? なんで顔を上気させて競っているんだ?
終わらぬ競り合いに不思議に思って会場を見回すと、その元凶である一団が嬉し気に札を出し合っていた・・・。
何か知らんけど、知らぬ間に変な状況になっている気がするんだが?
「ら、ラルゴさん、何か競り合う相手居ない筈なのに変に競りの金額上がってませんか?」と俺が掠れる声でラルゴさんに話し掛けるも、「ですね・・・。」とだけ言って口を噤んでしまった。
変なのは、仲良く団子状にジェシカ、ヘンリー皇帝、国王陛下、第一王子と言う順序で座って居るのに、談笑しながら、ヘンリー君と国王陛下が札を上げて競りの金額を上げ合って居るんだよ!
出来レース?
もう既にこの2人以外の競りの参加者は居らず全員が脱落してしまっているんだが、会場の誰もがワクワクとした表情で、競りの行方を見守っているのだ。
そして前回の落札金額の1.5倍になった所で漸く競りが止まって国王陛下が無事に落札したのであった・・・。
つまり、15年分の国家予算である。
その金額になるまでヘンリー君が態と協力したと言う感じである。 何これ? 誰か説明をしてくれ!!と頭の中に『?』だらけになっていたのだった。
で、この競りの光景を見た子供達は、ドッと疲れた表情で肩で息をしていた。
どうやら、力一杯拳を握っていたのか指に血の気が無く白くなっていた子も居た。
「お前達大丈夫か?凄い出来レースの様な競りだったが、オークションって物が多少は判ったか?」と俺が声を掛けると、全員ウンウンと首を縦に振っていた。
全員喉がカラカラになってしまったので、スタッフに頼んでお茶を入れて貰う。
ステージでは既にタイラントさんがオークションの締めに入っていた。
「皆様、どうぞ、この歴史的なオークションに参加された事を、伝説のエリクサーの現物をご自分の目で見られた事を子々孫々まで伝え、誇って下さい。今日貴方方は確実に歴史の1ページに参加したのです・・・。」と言うと会場を割れんばかりの盛大な拍手と口笛が鳴り響いたのであった。
そして、オークションの熱狂と余韻の冷めぬ参加者達は、上気した顔で満面の笑みを携え会場をゾロゾロと後にして行った。
どうせ、最後の精算まで居続ける必要があるが・・・そうすると流れでヘンリー君とも顔を合わせる事になりそうな気がする。
いや、何時もは仮面を1枚被っているので素顔は知られてないのだが、ボイスチェンジャー的な物は無いので声はそのままだしリスクは大きい。
そんなつもりは無かったのだが、まさかあのままの『流れ』で本当にジェシカとヘンリー君、そして国王陛下までが馴れ合う程までに馴染んでしまうとは思わなかったんだよ・・・。
彼らの間で一体どんな会話が為されたのかは判らないけど、ここは一つ、お金の受け取りと後のゴタゴタの全てをラルゴさんに任せて、俺達は一足先に帰る事にしよう。
と席を立とうとしたら、何かを察したラルゴさんにガシッと腕を掴まれ「トージ様、ここまで来て、先に帰るのは無しですからね! 子共達の手前教育に良くないですよ?」と釘を刺されたのであった。
流石に最初から数えて濃密な3年の間で良く俺の心境と行動を理解している。
俺は苦い顔をしながら、何とか後の全てをラルゴさんに丸投げしようとしたのだが、却下されてしまい、子供達にも、「トージ兄ちゃん、やっぱ帰るのは拙いと思うよ。大丈夫、バレないって・・・。」とヘンリー君の存在を見て察したマッシュから諫められるのであった。
子供達に言われてしまうと、もうしょうがないと諦め、ソファーに座り直して、改めて出された熱いお茶を頂いて時間を潰したのであった。
◇◇◇◇
2時間半程待たされ、その間にVIPルームで全員俺の出した作り置きの料理で昼食を済ませて食後のお茶を飲んで満腹感と疲れとでウトウトし始めた頃、漸くお呼びがか掛かり、前回同様の大きい応接室の様な部屋へと全員で招かれる。
部屋に入ると、そこには満面の笑みを浮かべ満足そうな国王陛下と、ややお疲れ気味の第一王子殿下に、何時もと違いちょっと、乙女モードの入ったジェシカが居た。そしてその横には遣り切った感じで良い表情をしているヘンリー君が一緒にいる。
「師匠!!かなり良い金額まで引っ張りましたよ!! あ、紹介しますね!? こちらは、バッケルガー帝国の現皇帝の・・・」と俺にウインクしながらジェシカがヘンリー君を俺に紹介すると、
「初めまして、ジェシカ様の魔法の御師匠様とか。私はヘンリー・フォン・バッケルガー、ひょうんな事からバッケルガー帝国の第876代目の皇帝となった者だ。宜しく頼む。」と軽く会釈する。
「これはご丁寧に、私は冒険者のトージと申します。この子らは頼りになる家の子です。そして、懇意にさせて頂いて居るラルゴ商会の会長のラルゴさんです。」と全員を軽く紹介すると、国王陛下がやや疲れた様に
このメンバーだし、ヘンリー皇帝さえ御了承頂けるなら、ざっくばらんにややこしい敬語抜きでどうであろうか?」と提案して来た。
「ええ、私は全然構いません。元よりその方が疲れないのでありがたいです。」と言って来た。
その前にと先にオークションの精算を商人ギルドのカードの方の決済で済ませ、俺のカードにラルゴさんから手数料を引いた金額がガッツリと振り込まれた。
「みつ・・・・トージ殿、どうじゃろうか、この後、久々に王宮で皆も交えて軽く会食でも・・・魔法学校の事や他で少しご相談もあるのでのう・・・。」と他国の元首も同席して居る場と言う状況的に平民の俺には断り難い所でお伺いを立ててきた。
実に上手い手口である。
「え、ええ。子共も居りますので、余り遅くならないのであれば・・・。」としょうがないので了承すると、今度はラルゴさんが及び腰になって逃げたそうに視線で合図して来るので、ガシッと腕を掴んで逃がさずに同席させる事に成功したのであった。
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