第164話 激アツのオークションの再び その1

いよいよオークションの当日となった。


これが今年の締め括りイベントである。


まあ単純に今日が大晦日って訳だけどね。



結局サチちゃんの為の遊具とかに集中してたから肝心の餅米に関する情報をマルーシャ様に聞き忘れてしまって正月にはお雑煮も餅つきも無いけどね。


オークション終わったら、一応一年のお礼?も兼ねて神殿に挨拶に行っておくかな。


今日の王都行きも残念ながらアリーシアは家でサチちゃんとお留守番である。


まあ、理由は先日と同じ。

だけど、安心して欲しい! 別に俺1人って訳じゃないんだよ。


先日からマッシモにまで回り回って流れて来るオークションの噂で、おそらくここ1000年で最高の盛り上がりと言う前評判も出て居るのだ。

俺も今後『エリクサー』がダンジョンからホンポンと出て来るとは思えないので折角の機会と言う事でマッシュ達一期生6人を引き連れての上京である。

さあ、二重橋ならぬオークション会場を目指そうではないか!


今日は相当の混雑が予想されるから、早めに会場入りしてくれとラルゴさんから事前に言われて居たので子供達と一緒にオークション会場の手前の路地裏にゲートで移動してゾロゾロと出て大通りを王城方面に進む。


もうね、とても一年最後の日・・・大晦日とは思えない程の込み具合と言うか、年末のアメ横と言うか、凄い人の量である。


「おい、お前達魔装を纏ってハグレない様に全員手繋いでおけよ! ちょっとでも手が離れたら、声を出して止めろ!あと、スリに気を付けてな!」と俺が注意を呼び掛ける。

「はい!」と緊張した様な声で答える子供達だが多くの出店や露店に目を輝かせている。



シッカリしてても、こう言う表情を見て居ると、まだ子共なんだなって思うけど微笑ましい気分になるよね。


俺らは人波に揉まれながらも何とか無事にオークション会場へと辿り着き、入り口で全員がホッと溜息を付く。


息の揃った溜息にに思わず全員がハハハとみんなを見回しつつお前もか!?って感じで苦笑いし合うのだった。


入り口の警備員にオークション入場用のメダルを見せると「ハッ!どうぞ!」と敬礼せんばかりに畏まって礼をして、扉を開けて中に導いてくれたのだった。


中の受け付けの人にメダルを見せるまでも無く副支配人のパトリックさんが俺達を見つけて嬉し気に俺達の元に小走りに近寄って来た。


「トージ様、そして皆様!!ようこそおいでくださいまして。ラルゴ様は既にVIP室の方でお待ちでございます。 ご案内致しますのでどうぞこちらへ。」とスムーズに俺達をラルゴさんの待つ部屋へと案内してくれた。


何か、前回よりも更に待遇がワンランク上がっている気がするな。と頭の中で思って居ると、


「トージ様王都の様子はご覧になられましたでしょうか? もうお祭り騒ぎですよ! 父・・・・いや総支配人も子共の様にはしゃいでてここ1週間は宥めるのに家族全員大変でしたよ。だから、今日は人生最高のオークションデイにするんだって張り切っておりましてね。 何か不備等ありましたら、ご遠慮無くお知らせ下さいね。」と言いながら余程父親のはしゃぎっぷりが振り切れていたのだろうかクックックと声を押し殺しながら愉快そうに笑い声を漏らすパトリックさん。



「ええ、ありがとうございます。」と相槌を打って案内されたVIPルームへとノックして入ったのだった。


「ああトージ様!! お待ちしてました!! 何やら王都、凄い事になってますね!」と悪戯が成功した子共の様に嬉し気に語るラルゴさん。


どうやらラルゴさん情報によると、俺の構築したゲート網のお陰もあって、日帰り組まで増えて今王都はパンク寸前とか。


一番判り易い表現としたら乗車率180%って感じだろうか。


貴族も商人も、世紀の大発見、お伽噺の世界にしか出て来なかった『エリクサー』を一目見ようと王都に押し掛けているらしい。


そこで王宮は警備の厳重化を謀る為に近隣の貴族へ警備の騎士団の派遣依頼掛けたらしい。



そうそう、オークションと言えば、前回の『ホーラント輝石』で最後まで競って来た帝国だが、俺が没収した国庫のお金や宝物庫の財宝等も全部返してやっているが、今回のオークションで無駄に国庫の金を浪費しない様にヘンリー君に釘を刺して居る。


尤も、前回のオークション時の皇帝はヘンリー君とは関係無いのでヘンリー君に浪費癖があるのかは不明だが。


そう、ヘンリー君、結構良い皇帝たっててさ、取り敢えず大丈夫そうだから全てを返したんだけど、それで態度や国の運営方法を変える事無く地道にコツコツやっていて、帝国民からの信望は厚かったりする。


だから、もう良いだろうと全て返却したのだ。



だが、ヘンリー君、実はその手のお伽噺とか伝説の・・・とかが好物らしく、オークションの競りに参加しないまでも現物を一目見たいと今日この会場に来て居るらしい。


とんだニヤミスである。とは言え、能面も被っていないノーマルモードの俺が魔王とは思わないだろうからバレないと思うけど、シャレにならないから、勘弁して欲しいよね。


余程、魔王として、オークション参加を禁じようかとも悩んだんだけど、熱く憧れを語られてしまい禁じる事も憚られたのだ。



VIPルームでノンビリ談笑して居ると何か廊下がやや騒がしくなり、一応ノックこそははされたものの、返事をするよりもフライング気味にドアがガッと開かれたのだった。


そしてドアを開けるなり、お淑やかな格好とは裏腹の「師匠!酷いです!!!なんで先にお知らせてくれなかったんですか!!!」とプンスカ怒るジェシカの姿と何かその後ろで申し訳無さそうな何か言いたげな国王陛下の姿があった。


流石はラルゴさん。いち早く状況を把握してスッと席を立ち珍入者2人招かれざる客にソファーを譲ろうとする。


まあそうだよな・・・しょうがないので俺も席を立つと子供らがスッと気を利かせて席を立った。


折角の良いリラックスムードが台無しである。 ちょっとピキっってコメカミが引き攣りそうであったが大人な俺はグッと堪える。


「ジェシカ殿下は講義や学校の方で色々とお忙しいじゃないですか。 邪魔をしてはご迷惑だろうと気を利かせたのですよ。」と俺が言うと、「そんな事よりも、重大な事ですよ! 伝説の『エリクサー』が実在したってだけでも歴史に残る快挙ですよ! でも師匠・・・全然大した事無いって感じですね?」と俺の雰囲気をみてヤレヤレと首を横に振るジェシカ。


「まあ確かにそうだな・・・。折角の金箱で結構テンション上がったんだけど中身がこれでちょっとテンション下がったからな。 だって、別に『エリクサー』無くても、同じ治癒が魔法で出来るし。『エリクサー』は1回こっきりで消えるけど、回復魔法は魔力さえあれば何度でも行けるからな!唯一無二の効能じゃないからしょうがないだろう?」と俺が良い訳をすると、


「そ、それはそうですけども! 師匠、夢がなさ過ぎですって!!」と諫められると言うかダメ出しされた・・・ あ!そうか、此奴ジェシカってヘンリー君と同じ方向の奴か?と気付くのだった。


「あーっと、ジェシカ殿下、是非ともそこら辺エリクサーの件の話をヘンリー皇帝とされてみれば如何かと。かなりお二人は気が合うと思いますよ!? ささ、ここに長居されると落ち着いてオークションを子供らに見学させられないので!」と言って半ば強引にお引き取り願ったのだった。



どうやら、過去最大のオークションと言う前評判通りで入場者も多く、何と立ち見の客まで入っている状況だ。


入場者数がキャパを越えてる事もあって、開始予定よりかなり遅れて居る。


まあ、普段なら客からブーイングが出そうな事態だが、今回の客の大人しい事! 全くクレームを付ける事無く、冷静に大人しく待っているのだ。 ある意味不気味でもある。



 ◇◇◇◇


開始予定時刻を40分も過ぎた頃、漸くステージの壇上に総支配人のタイラントさんが凄く楽しそうに袖から現れたのだった。


「あー皆様!! お待たせして申し訳ありません! 史上最高の参加者の為、当会場の座席が間に合わず、立ち見の方が出た事をお許し下さい。


でも、今日のこのオークションはおそらく歴史に残るオークションとなります。 もう私は、数週間前から興奮のし過ぎで心臓が止まりそうなぐらいです。50歳を超えてここまで少年の様に興奮する事になるとは・・・。」と高ぶった様に語って一息深呼吸をして更に続ける。


「えー、まず先に本日は他の出品物は有りません。流石に他の出品物を出される方々がレベルが違い過ぎて霞んでしまうからと出品時期を延期されたのがその理由です。 だから・・・いきなりメインイベントとなります事をお許し下さい。」と言って深々と頭を下げたのであった・・・。


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