第162話 王都見学ツアー

非常に残念なお知らせがある・・・当初アリーシアとサチちゃんも連れて王都のオークションに行くつもりだったのだが、サリエーナさんから1歳未満の子供をそんな場所に連れ回すべきで無いとの叱責を受けて


言われて見れば確かに非常識だったかと素直に反省した。


確かにそう言えば日本でも0歳児は免疫の問題とかで外に連れ回すのを控えるような感じだった様な記憶が思い当たった。

こんな事なら、もっと日本に居た頃に育児関連の情報に目を通しておくんだった・・・。



前回はアリーシアと一緒で心強かったのだが、今回は1人か?と思ったが、滅多に無い機会なので一期生の子供らを同伴する事にした。


特にマッシュやリンダは我が商会の未来を担うホープである。


え?自分の子であるサチちゃんが継ぐんじゃないのかって? そうなれば良いが、サチちゃんがもっと他の事をやりたいと言えばそっちの方にすすむだろうし。


何よりも、継ぐにしても何にしても適切に補佐や助言が出来る人材は必要だし、そう言う意味でもマッシュやリンダは優秀で信頼をしているのだ。


人間何事も経験って言うし、滅多にオークションの出品側として参加する機会なんて無いから丁度良いかなってね・・・。


決して1人で行くのが寂しかった訳じゃ無いからね!




と言う事でラルゴさんと合流して王都の俺の家へとゲートで移動した。


この面子だと、俺のゲートを隠す必要が無いので気が楽で良い。


『スカウト・キャラバン』担当のクリスとアーニー以外の子供らにとって今回の王都行きは人生初である。


一応今日の日の為に子供らには其処らの貴族の子供らにも引けを取らないちゃんとした仕立ての服を着せて居る。


何処から見ても良い所のお子さんって感じに仕上がっている。

一期生6名が嬉し気にニコニコしていて、その様子をラルゴさんも微笑まし気に眺めて居る。


てか、今日はオークション本番ではなくて、オークションへ参加の申請日である。


その場で現物を運営側に預けるれば俺のお役目は終了である。


後は王都を子供らと散策したり楽しく過ごすだけだ。


序でと言うか折角王都に来てるので、サプライズであの懐中時計専門店に行って子供らにも懐中時計を買ってあげようと計画している。



やっぱ一人前になったなら、それ相応の物も揃えて遣りたいからな。




ラルゴさんがラルゴ商会の王都支店に指示して用意した竜車で、オークション会場となる建物の横にあるオークション運営の本部へとやって来た。


会場自体は懐かしいが、前回のオークションの際は申込時は同伴してないのでこちらの運営本部の建物は俺も初めてである。


ラルゴさんを先頭にゾロゾロと運営本部に入ると、受け付けのカウンターの奥に居た見覚えのある初老のオジサンが俺達に気付き、ラルゴさんの後ろに居る俺を見てハッとした顔になって嬉しそうにカウンターの方までやって来た。


ラルゴ様、そしてトージ様、お久し振りでございます。ここに来られたと言う事はもしかして・・・?」と凄く期待を込めた目で見つめて来た。


「どうも、お久し振りですな、支配人。 ええ、そうです。今回もトージ様の方からのご依頼で、またオークションに出品しようと思いまして。やって参りました。」と笑顔で受け答えするラルゴさん。


「それはそれは!! 本当にありがたいです!!! 何せ、あの時のオークション依頼、あの時の様な興奮する出品物にお目に掛かれて居らず、ピリッとしなくて、悲しい状況だったのです。」と目を輝かせながら語る支配人。


「まあ、こう言ってはなんですが、『ホーラント輝石』と比べてしまうと、他の出品物が可哀想と言う物ですよ。」と宥めるラルゴさん。


するとフォッフォッフォと笑いながら、「でも今回はまたあの興奮の一時が過ごせそうな予感がしております、ええ、オークション業を営んで参りました私の勘がビンビンと訴えております!」と現物や商品名も伝えてないのに既に興奮の所為か鼻息の荒い支配人。



何と言うか、支配人ラルゴさんの化かし合いじゃないけど、妙な茶番を見せられて居て話が先に進まない。


どうせ、現物を見た時点で一頻りの盛り上がりも有りそうなので、ここは切り上げる様に声を掛けよう。


「まあ積もる話は後にして、先にオークションの受け付けを済ませちゃいませんか?」と俺が言うとハッとした顔で、「ああ、これは大変失礼致しました。 おい、君、応接室にご案内を!」と受付嬢に指示を出して、カウンター-の置くからオークション用の申請用紙を用意して居る様だった。


俺達は受付嬢に先導されて広めの会議室っぽい応接室に通されて、全員にお茶を出してくれた。


綺麗な格好をして居るとは言え、普通の庶民である子供達はこう言う上等な応接室での対応に慣れて居らず、あの何時もシッカリしているマッシュでさえもソワソワとして居た。


「まあ、みんな良い体験だと思って良く観察しておけ! ここはラルゴさんが対応してくれるから、安心して良いし。」と俺が宥めてテーブルの上に出されたお茶を頂くと、緊張で喉が渇いて居たのか子供達も次々にお茶に手を伸ばして居た。


暫くすると、支配人が中年ぐらいの男のスタッフを従えて書類の束を携えて部屋に入って来た。


「どうも、皆様お待たせしてしまい、申し訳ありません。今日は折角ですので当方の後を継ぐ愚息も一緒に対応させて頂きたいと思いますが宜しいでしょうか?」と言って、隣に立つ中年のオジサンへ合図した。


すると、オジサンが頭を下げて「初めまして皆様、当オークションの総支配人タイラントの長男で副支配人をやっておりますパトリックと申します。以降お見知り置きを!」と自己紹介をして来た。


何が衝撃って、この見覚えのある総支配人の役職が『支配人』でなく『総支配人』だった事でもなく、タイラントって名だった事だよ。前回は何も自己紹介すらしてなかったし。


で、俺が一期生を連れて来たのと同じ様に、息子を同席させたって事だな。


「どうも、初めまして、『オオサワ商会』のトージです。この者達は当方の子供らで当方の商会で重要な役割を担ってくれているスタッフでもあります。以後宜しくお願い致します。」と言って軽く会釈した。


そしてやっと全員が着席し、ラルゴさんに言われて今回のオークションの出品物をマジックバックの中から取りだした高級そうな木箱を机の上にソッと置き、全員が木箱に注目する中、ソッと蓋を開けてやると、その木箱の中には赤いベルベット生地の窪みに填めて安定させてある金色に輝く液体の入ったポーションの小瓶が姿を現す。


総支配人タイラントさんが生唾をゴクリと飲み込む音がして、パトリックさんは短く「あっ!」と声を発していた。


その後、痛い程の静けさが2分程過ぎ、先に復活したタイラントさんが、「ま、まさか!?あの伝説の? 『エリクサー』?」と聞かれ、

「ええ、そうです。『マッシモ東ダンジョン』の第57階層にあった金色の宝箱から出て来た物です。今までに金色の宝箱はお目に掛かった事が無かったので、もしかすると、宝箱の色によっても中身のレア度が違うのかもですね。普段は木の宝箱か、良くて銀色ですからね。」と答えると前のシートに座る2人が益々興奮している。」

「ああ素晴らしいです! ああ、この時代に生きていて良かった。まさか伝説の一品をこの目で拝めるなんて・・・。」と声を震わせるタイラントさん。

そしてその横で「ああ、そうでしたか! トージ様・・・・そう言えば、『マッシモ東ダンジョン』の最深到達階層が何十年振りかに更新されたと聞き及んでおりまたが、そうですかトージ様でしたか・・・しかも『オオサワ商会』と言えば、今や王国で名を聞かない日は無いと言う程の商会じゃないですか!! 素晴らしいです、素晴らしいです! ああ、私は今この時代に生をエテ生きてる事を女神様に感謝した程です!」と目の前の親子2人が揃って同じ様な台詞で俺に賛辞を

送ってくれた。


「やはり、伝説の通りの物ですな! 流石です!! っさあ、忙しくなって参りましたね!! こうはしておれません、急ぎ各方面に喧伝しておかねば!」と慌てるタイラントさん。


それからの受け付け事務は非常に早かった。 もう2人共にそれ処じゃない!って感じでバタバタと受け付けを完了し、俺達は無事に解放されたのであった。


オークションの運営本部の建物から出るとラルゴさんが悪そうな笑みを浮かべて、「ね? これが一般的な常識ある人達の驚き様なんですよ!」と俺の方を向いて言い放っていた。


だって、中身は生まれも育ちも別の異世界地球でそう言うレベルの常識知らんからしょうがないじゃん!?と心の中で良い訳を俺。


「では、私は王都支店の方に戻りますので、帰り際に是非王都支店の方にお寄り下さい!」と言って竜車を出発させて行った。


置き去りにされた訳で無く、当初よりの打ち合わせ通りで、子供達と一緒に王都を散策すると先にラルゴさんにも伝えてあったので問題は無いのだ。


尤も、このオークションの運営本部は王城の真横なので、一時期ほどではないが余り近寄りたくはない王宮の傍に居る事となる。


でも子供らにしてみれば、王城はこの国の象徴であり『凄い物』なのだ。日本人が皇居を見て思う事に近いのである。


高い城壁や塔の上を見上げて「うぉーー!スッゲー!!」とはしゃぐ子供達。


「見上げてばかり居ると目が回りそうだよ!」とフラフラしたりしている。


王城方面から中央広場へ移動して屋台で買い食いしおたり、露店を見学してお土産を購入したりして居る。


ただ、「トージ兄ちゃん、食い物はマッシモの方が美味いんだね。」とちょっと残念そうに俺に告げていた。


「そうだな、今建設中のアンテナショップの王都支店がオープンしたら、ここ王都の飲食業に激震が走りそうだな・・・。」と俺が応えて、その話の流れで中央広場に近い建設中のアンテナショップの現場を遠巻きに眺めて移動する。



現状、誰にここの仕切りを任せるかはまだ未定で来年早々には人選を考え無いといけないのである。


やっぱり悩ましい事って、駄目って判っていてもついつい先送りにしちゃうよね?


もしかすると、今回の王都見学で、王都支店勤務を希望する子が出ないとも限らないからね。


まあ現状としては食い物系では魅力無しってのを全員が把握して、微妙なところだけど。




そして漸くサプライズの会場となる懐中時計専門店へと辿り着いた。

店の扉を開けると、「いらっしゃいませ!」と店長のオジサンが笑顔で対応してくれる。


「今日は! 先日お願いしておいた物は大丈夫でしょうか?」とオジサンに向かって質問すると、


「ええ、大丈夫でございますよ!ちゃんとご用意してございます。もうお出しして宜しいでしょうか?」と問うてくるので、「ええ、お願い致します。」と言うと、スタッフに合図して、

子供6人分の懐中時計をズラリとショーケースの上に並べてくれた。


「良いか、これは俺からお前達への成人のお祝いと何時ものお礼を兼ねたプレゼントだ。一人前の大人として時計の1つは持って居た方が良いだろう? まあ壊さない様に大事にしてくれ。裏に各人の名前も彫って貰っているから、間違うなよ!」と俺が言うと、


歓声を上げて喜ぶかと思っていたのに、泣かれてしまった・・・。えーー?って思わずオロオロしてしまっていると、


「すみません、突然泣いてしまって・・・。嬉し過ぎて思わず涙が。まさかこんなドッキリがあるなんて思ってもなかったんで・・・・。」と言いながら。俺の腰に抱きついて来るマッシュとそれに続く子供達。


そんな様子に店長のオジサンやスタッフのお姉さんもも思わず貰い泣きした様で目頭を押さえている。


「ささ、泣くなよ!もう成人した大人だろ! まあ俺は血は繋がって無くとも、お前達の家族だから、親の代わりくらいするさ。これからも宜しくな!」と言って1人1人頭をポンポンと撫でて

ギュッと抱きしめてやったのだった。


俺も思わず泣いてしまい、何か知らんが5分ぐらいした頃目を赤くした7名が時計屋から出て来たのだった。


その後当然の様に女の子チームと男の子チームとで見たい物が違っていて、どうするかと全員で思案した結果、とこの子チームと女の子チームとで別行動で廻る事に決着したらしい。


集合場所は2時間後にラルゴ商会の王都支店として、何か拙そうな事態に備え、魔装を軽く張って置く様にとアドバイスして置いた。特に女の子ね。


「そうだ、女の子達は服屋とかで試着室に入る際は十分に気を付ける様に!誰か1人は何時でも助けを呼べる様に軽快を忘れるなよ!身の危険を感じたら、ちゃんと遠慮せずに反撃する事!」と良く試着室で攫われるって言う事件を思い出して特に注意を促しておいた。



そして俺は1人でプラプラしながら一足先にラルゴさんのお店にお邪魔する事にしたのだった。


「おや、お一人ですか?」と単独の俺を見て尋ねて来るラルゴさん。


「ええ、保護者無しで自由行動にしたので、とは言ってもあと1時間くらいでここに全員集合する予定なので。」と俺が答えると、「なるほど。まああの子達はトージ様のお弟子さんなので身の危険も十分に対応出来そうですからね。

最近では王都も昔に比べ治安が良くなったとの話ですし大丈夫でしょう。」となっとくしていた。



 ◇◇◇◇


幸い変なフラグを回収する事も無く40分もすると、嬉し気に荷物を抱えた笑顔の子供達が続々とラルゴさんのお店に集まって来るのであった。



子供らは口々に買ったお土産等を見せ合ってはしゃいでいた。


「さてと、俺達はそろそろマッシモに戻りますけど、ラルゴさんどうされますか?」と一応聞いてみたが、ちょっと残念そうに首を横に振り、「いえ、もう暫くこちらに居る必要がありまして。」と残念そうに言っていた。


どうやら、オークション絡みもあって暫く王都に滞在するとの事であった。



そして王都での用事を終えた俺達は、ゲートでマッシモの我が家へと戻るのであった。


俺はサチちゃんへのお土産に買った生地で作ったぬいぐるみと言うか人形を渡してやると、大喜びしたサチちゃんに「「トーしゃ!あーりゃ!」と言われて抱きつかれて至福の時を味わったのであった。

勿論、アリーシアにもちょっとした髪飾りのお土産に購入していて、渡すと喜んでくれた。

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