第159話 マッシモ東ダンジョン その10
さあ、昨日の続きからである。最後に戦った第57階層のホールにゲートで移動するのだが、最悪出会い頭に遭遇戦もあり得るのでゲートを繋げる前から準備万端で気合いを入れてゲートを潜った。
割とお約束のハプニングがあるかもと気負っていたのだが、良い意味でスカしを食らった感じ。
昨日作っていたマップノートを取り出してどの分岐へ向かうべきかを検討する。
実際、このホールに接続して居る枝道は俺が進んで来た道を除いて4本もあるのだ。
恐らくこの階層の完全マップは作れない気がしている。
そもそも地下で接続図は作れているがアップダウンが激しい中で正確な座標が判る程の感覚は持ち合わせて居ない。
だからホールに行き着いた場合、そのホールが初めてのホールなのか2度目3度目のホールなのかさえ判らないのだ。
まあ、今更だが通過済みのホールに目印のマークを塗料等で印して置けば良かったと思う。
尤もその印しが永劫に残るとは思えないが・・・。
死体や残置物はダンジョンに吸収されると一般的に言われているし、何時までマーキングした印しが残るか微妙だ。
一説ではダンジョンは内部の構造物に大きな損傷があると、自己修復を掛けるという話がある。
魔物が討伐されてもリポップするのと同じだ。
だがこの階層は蟻の出す蟻酸でかなり岩が侵蝕されているのに修復された様には見えないし、もしかした何か違う理由だろうか?
それとは別にダンジョンは成長すると言う事なので、もしかするとこの階層も成長の過程でモデルチェンジする可能性もあるし。
・・・つまり折角正確なマップを作っても何時使い物にならなくなるか判らないって事だ。
まあだからと言って短期的にはマーキングの塗料等は残りそうなので無駄を承知で思い立ったが吉日で通過したホールにマーキングして行く事にしたのだった。
マーキングしてみて思ったのは、もっと早くにして置くべきだったと言う事だ。
入り組んで曲がりくねって居るので方向感覚が狂い易いが、結構な頻度で通った事のあるホール接続している。
これ、この階層前半もかなりの無駄があったんじゃないかな?
うーん・・・やっぱ戻るか!!
一大決心をした俺は即座にゲートで第57階層に降り立った直後の階段の出口に戻ったのだった
もうこうなったらヤケだ! 魔物を呼び寄せて仕舞うので声は出さないが、心の中で「1日1歩3日で3歩・・・」とご存知の歌を歌いながら、出て来る蟻をバッタバッタと薙ぎ倒し前回以上のペースで軽快に歩を進める・・・いやホバー移動を進めるのであった。
ここまで魔物が集団でやって来るのにレベルアップが無いとか無念過ぎるな・・・。
ゲームなら、10や20のレベルアップしててもおかしく無いぐらいなのに。
そう言えばゲームによくあるマッピング・スキル欲しいよね。
前半部分のやり直しでホールにマーキングしてるけど、やっぱり、かなりダブっていた。
これを紙面上に平面図として描くのは非常に難しいが、螺旋階段の様に捻れてアップダウンして既に通ったホールに出て来る事とかザラにあった。
もし俺にゲートが無くて、右も左も判らないここに突然放り出されたら、途方に暮れて簡単に生存を諦めるかも知れないな。
実に理不尽な3D迷路である。
◇◇◇◇
2日掛かったが漸く先日やり直しを決意した際のホールまで辿り着いた。
いやぁ~ここまでの道程の長い事長い事。
どうやら、ホールに入れた塗料の印しは3日は全然保つ様だ。
ある意味今日で振り出しに戻っただけだが、やり直した事もあって精神的にこの理不尽な3D迷路を達観視出来る様になった。
まあ諦めの境地かな。
良いのだよ、採取的に次の階層に進めれば!
ああ、そうそう、連日ここに籠もって空気浄化のシールドは常時発動しているとは言うものの酸っぱい蟻酸の匂いに晒されて、それが原因で敏感なサチちゃんの嗅覚には臭かったっぽい事が判明して、あの日以降は帰宅前に魔の森の小屋で一旦クリーンを掛けた後、風呂に入って全身を綺麗に泡泡になって洗い綺麗な服に着替え直してから自宅に戻る様になった。
あの日以降、帰った後に何故かサチが抱っこを要求して抱き上げると、俺の首に手を回して、一度クンカクンカと匂いを嗅いでチェックする癖が付いてしまった・・・。
そして、合格すると、ニカッと微笑んで頬擦りした後、抱っこ状態から器用によじ登って俺の首に跨がって肩車状態になるのだ。
てか、0歳児が自分でよじ登るって・・・マジかよ!?って驚いてしまうのだが。
サリエーナさん(御産後は子守役も兼ねて新規に入ってきた子供らの補助等も手伝って貰っている)曰く、サチちゃんの知能や能力的な成長は通常よりも早いと言って絶賛していた。
さて、ここ第57階層の探索状況だが、当初出て来ていた赤黒いグレートアンツ・ソルジャーから、何時しか真っ黒いグレートアンツ・コマンダーが混じる様になってきた。
つまり、上位種の指揮官が兵隊蟻を式する構図である。
グレートアンツ・コマンダー自身の戦闘力はグレートアンツ・ソルジャーとそれ程代わらないが、外骨格がより硬くなって頭が良い。戦略的に兵を動かして来たり、蟻の分際で陽動作戦を仕掛けて来るのだ。
幸いな事に今の所、某行は魔装だけで事足りて居るが、ここ最近コマンダーに率いられて出て来る通常の兵隊蟻であるグレートアンツ・ソルジャー自体の戦闘力が上がっている気がしている。
ここ第57階層の前半に出て来たグレートアンツ・ソルジャーがLv1とすると、ここ最近のグレートアンツ・ソルジャーはLv3くらいかな。
それ位に明確な差が在りそうだ・・・蟻だけに。
蟻の牙が如実に大きくなった様に思うし、先日不覚にも危うく魔装の上からその牙に腕を挟まれて一瞬冷や汗が吹き出てしまった。
まあ俺の魔装を貫通する程の力が無かったから無傷だったけど、それで一瞬俺の攻撃の手が止まってしまって他の蟻が集って来やがって頭に来て、サンダー・バースト(自分を中心に同心円状に雷の波紋を放射する全方位攻撃魔法)を使ってしまった。
この魔法、非常に高威力なんだけど、魔力コストの問題と、素材を駄目にする可能性が高いので素材を回収する際には禁じ手にしていたりする。
特に肉使わない様にしないと、変に肉に火が入ったり、筋肉のタンパク質が変異して硬くなったりするので美味しくなくなりから駄目なのだ。
まあその点、蟻は食わないから良いんだけどね。 外骨格が炭化して脆くなったりするので素材として無価値になる可能性が高くなる。
この階層6日目になると、ホールでは無くて小部屋を発見して中を覗くと久々の宝箱(しかも金色の宝箱!)を発見。
思わず小躍りしそうになるが、闇雲に飛び付く様な事はせずに冷静に事前に罠の有無をチェック。
すると宝箱の手前に罠の存在を関知した。
魔力で罠を壊す事も検討したが面倒だし宝箱まで壊れたりすると厭なので、
フォース・フィールドを利用した
さあ、蓋を開けてみよう。パカリと蓋を開けるとそこには黄金色に輝く液体の入ったポーションの小瓶が入っていた。『女神の英知』曰くあのファンタジー世界の最強ポーションである『エリクサー』と言う事だった。
効能はお約束通りに全異常の回復、部位欠損を含め怪我病気の回復である。
てか、この世界に『エリクサー』があった事を知らなかったので、思わず顔が綻ぶ。
「これ、師匠に見せたら喜ぶよな!?いや驚くか?」と師匠を驚かすネタが出来て二重の意味で喜ぶのであった。
そもそも
この世界での『エリクサー』の立ち位置を知らないから、売れる物なのか俺達の手で作れる物なのかさえ判らないからな。
そして、一旦魔の森の小屋で綺麗に洗浄し匂いを取った後、ホクホク顔で帰宅するのであった。
師匠に『エリクサー』の小瓶を見せるとその驚き様が凄かった。
「トージや、こ、これ、これ!!まさかの・・・エ エリクサーかい?」って声を震わせてるんだもん。
あの師匠がだよ?
それを指摘しつつ「師匠でもそこまで驚く事あるんですね?」ってポロッと口にしちゃって、その後に逆切れじゃないけど、何か「非常識とかバカとか」言いながら滅茶苦茶怒られた・・・。
多少予想はしてたけど、『エリクサー』はお伽噺や伝説上の存在とされてて、殆どの人が目にした事が無いと言う話。
そして、レア度から言うと『ホーラント輝石』なんかと比べるべくもなくブッチギリでレア中のレアで『エリクサー』の勝ちらしい。
うーん、どうしようっかなぁ~。俺要らないんだよね。実質、部位欠損も病気なんかもある程度回復魔法で治癒出来るからね。
だから飲んだら無くなって終わりの『エリクサー』に頼る必要が皆無なんだよね・・・。
「じゃあ師匠要りませんか?」って軽く言うと、
「こんな錬金術師の憧れ・・・いや伝説上のアイテムをホイホイ人に押しつけようとするんじゃないよ!」と、引き攣った顔でまた怒られた。
じゃあ、ラルゴさんに頼んでまたオークションに出すか!?って思い付いたのだった。
まあ正直、今以上にそれ程お金必要か?と言われると必要無いんだけどね。
話題になるし、冒険者やダンジョンアタックを志す者にとって夢が膨らむニュースだと思うんだよ。
顔の前に人参をぶら下げる訳じゃないけど、ダンジョンアタック人口を増やす為に一役買って貰いたい・・・と。
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