第154話 便乗お強請り

ローデル王国がゲート網を構築したと言う情報を俺の定期訪問前に入手していたバッケルガー帝国の若き皇帝ヘンリー君は手薬煉を引いて俺の訪問を待って居た様だ。


開口一番土下座の勢いで、


「魔王様!是非ともローデル王国にお取り成しください!お願い致します!」と言って来た。


これだけだと意味が判らないのでもっと落ち着いて何がしたいのか?と順序良く聞いて行き、つまり、ゲート網を自国内にも築きたいと言う本音がやっと理解出来た。


一瞬、魔王=トージと言う事がバレてゲートの魔動具の作者である俺に直訴してるのかと非常にヒヤヒヤしたんだが、それは杞憂であった。


帝国サイドではそこまでの情報を掴んで居らず、『作者は不明』だが、魔王様経由でローデル王国にお願いすれば何とか売ってくれるんじゃないか?と言う願望らしい。



まあそこまで買いかぶられると、俺としても悪い気はしないしヘンリー君の代で両国が過去のいざこざを水に流して仲良くするのは寧ろ望ましい事である。


逆にゲートの魔動具にちょっとしたセーフティー機構を入れて、もし王国へ戦闘行為等を仕掛けて来たらゲート魔動具をロックしてしまって利用不能にしてしまえば『生殺与奪権』を握った様な物である。


ゲート網に慣れ親しんだ後だとこのゲートロックは滅茶滅茶効くだろうな・・・とちょっと黒い考えも湧き、一考の余地があるし、その方向であのオッサン国王陛下を説得出来るんじゃないかと閃いたのだった。



「まあどうなるかは判らんが、一応人伝に王国の国王へ打診しておこう。 次に来る際には返答を貰って置く。」と言っておいた。



まあ、ちょっと従来のゲートの魔動具の魔方陣に手を加える必要があるが、リモートによるロックなら、既に屋敷のセキュリティにも使っている機構と同じでその応用ってだけなので。それ程大変な話では無い。


そして何よりも良いのは、ゲート網が帝国に出来る事によって、帝国自体も(俺が痛めつけた事で経済的打撃を受けたが)栄えるし良い事である。 そして、俺にはゲートの魔動具の売り上げは入って来るのだ。


何か、太らせてから食う的な悪どさを微かに感じるが、きっと気の所為だろう。


と言うのも、この帝都の住民しか見て無いが、嘗ての暗い淀んだ目の住民はほぼ見かけない。


それが、魔王のお陰か、ヘンリー皇帝のお陰かは知らんけど、俺切っ掛けである事は間違い無い。 1000年の歴史を誇る城壁壊しちゃったけど、ちゃんと新しい城壁俺が魔法で作ってやったし・・・まあ料金はちゃんとちゃっかり貰ったけどね。


え?マッチポンプだって?世の中、良くする為に必要な破壊ってあるんだよ? ふふふ・・・。



ジェシカ経由でこの話を国王陛下に俺の手紙と共に持って行って貰ったんだが、俺の『説得』と言うか『殺し文句セールスポイント』が余程良かった様で魔王に親書を託すと言う体で国王陛下から皇帝への親書を貰ってジェシカが戻って来たのだった。


ほらs、ジェシカも国王陛下も先のテロ後の帝国成敗事件で、外には漏らさないけど俺=魔王って知ってるからね。


そんな訳で、この先帝国に対しての『生殺与奪権』を握れるってのは、次の世代、次の次の世代等先の世代に代わった後のリスクを緩和出来る良いカードを敵国内にバラ撒く事になるので、ホイホイと乗って来た訳だ。


って、事で、次の定期訪問時期よりもかなり早いけど早速皇城のヘンリー君の所にその親書を持って行ってやったのだった。


ヘンリー君は大喜びで何度も俺にお礼を言って来て、何か知らんが臣下の礼を俺にして来たのだった。


まあそれは流石に拙かろうと、直ぐに立ち上がらせて、肩をポンポンと軽く叩いて儀間化したのだった。


最後に使節団一行を次回訪問時に王国の王都まで運んでやる事を約束してサチちゃんの待つマイホームへと戻るのであった。


最近、サチちゃん、俺が帰ってくると、掴まり立ちして、「あうーきゃ!」って言ってくれるんだよね。多分、『お帰りなさい』って意味だと思うんだよね。


前は掴まり立ちもプルプルグラグラしてたんだけど、日増しにシッカリ立てる様になって、もう直ぐ最初の一歩を踏み出しそうな気がしてるんだよ~。


是非とも、最初の一歩はこの目で見たいって思ってるんだよ! だから、最近はあまり講師役を遣ってなかったりするけど、こればかりはしょうがないよね?



『目の中に入れても痛くないサチちゃん』とどっちが大事なんだって言われたら、そんなの愚問だし。


それに最近は魔法学校の方も、俺抜きでも上手く廻って居るみたいだし、俺抜きでOKならそれに越した事はないからね。


何かの際のスーパーバイザー的な役割程度なら良いけど何時までも主力選手にされちゃうと意味が無いからね。




 ◇◇◇◇


2週間後、定期訪問した皇城にてヘンリー君から、使節団の一行を引き合わされた。一応ジェシカ経由で、先のあの事件のあった縁起の悪い訓練場へ一旦使節団を連れて来る事は告げてある。


俺自身が発動する『ゲート』を皆に見せて良いのか?って思うかも知れないけど、ほら、俺って今は『魔王』だし。特に王国(特に王宮)の方面には今更って感じになっちゃってるし、ゲート自体バレバレだから大丈夫。


俺の作ったゲートを潜って訓練場に出ると、そこには当初の打ち合わせ通りに近衛騎士の一団と第一王子のジョニー殿下が待っていた。

近衛騎士団長を除き近衛騎士の大半は『魔王』の中身を知らないので事前に王宮側から言い聞かせられているだろうが、顔が引き攣っていた。 まあ、腰の剣の柄に手を掛けなかっただけ褒めても良いくらいだが。

俺はシュタッと片手を挙げてジョニー殿下に合図しつつ、ズカズカと近付いて行って

簡素に言葉を交わした後、両者を引き合わせて、お見合いの席で「後は若い者同志で・・・」と言う感じに深入りせず、「では我はこれにて・・・。」と最小限の言葉だけを残して、ソソクサと光学迷彩魔法で姿を消し、ゲートで魔の森経由で自宅へと戻ったのだった。


中身を知ってる人の前で『魔王』を演じるのは実に辛い物があるからね・・・。




帝国の使節団は、2週間程王都に滞在し、その間に王国が作ったゲートステーションを見学したり、実際にゲートの魔動具を体験したりした後、王都と帝都を結ぶゲートまで条約を交わして取り決めて帝国内にもゲート網を構築の協力体制の約束を取り付けた様だ。


これによって、両国間は数百年に及ぶ犬猿の時代を完全に過去の物としたのだった。


まあ、王国にしてみれば内緒のカード持ってるし、王国が内部崩壊しない限りは大丈夫だよな?



帝国は第一段階で王国にも負けない程の数のゲート網を築くつもりらしい。 その証拠に発注数がえげつない数になっている。


取り敢えず、最初に両国間を結ぶゲートを繋いでその後に帝国のゲートステーションを作ったりする予定だそうで、帰りはその両国間を繋ぐゲートで凱旋するつもりらしいのだが、それって、『魔王』を使い走りに使う気じゃ?ってちょっとイラッとしたけど、両国の平和の為と思って文句は言わなかったよ。


どうせ、その分ゲートの魔動具の代金が入ってくるからね。 それくらいはサービスサービスってか。


まあ、このゲートの魔動具の大量注文で非常に問題なのはケープ・スパイダー・シルクの枯渇である。俺自身はケープ・スパイダーを見た事が無いので判らんのだが、蚕の様に養殖出来ないのかね?


一応えげつない数を発注したヘンリー君側にも責任の一端があるので、ケープ・スパイダーの糸を支給しろ!と伝えてある。ケープ・スパイダー・シルクでの供給でも良いかも知れないが織り手によって品質に違いが出るかも知れないのでね。


一応、帝国産のケープ・スパイダー・シルクも見せて貰って品質をチェックする予定にしてある。 問題が無ければ、品薄状態の王国産に拘る必要が無いからね。両国から供給して貰えば2倍になるし。



そんな魔王状態での打ち合わせを終えて、帝都に両国間を結ぶゲートの子機を設置して、自宅へと戻る前に魔の森の小屋で通常の服に着替えてから自宅へと戻るのであった。


自宅に戻ると俺を発見したサチちゃんが、スクッと掴まり立ちをしながら、「あうーきゃ!」と言って、掴まっていた手を離し一歩俺の方へとフラつきつつ歩いて来た。


トトヨロッ トとぎごちないながら、2歩3歩と足を進めて漸く俺の足下に到着し、ヒシッと抱きついてきた。


「サチちゃーん、歩けたねぇ~♪ しゅごいでしゅねぇ~♪」と言いながら抱き上げると、「だーうー♪」と奇声を上げて微笑んでくれるのだった。


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