第150話 新米パパ道

みんな、知ってるかな? 産まれたばかりの赤ちゃんって、殆ど寝てばっかなんだぜ!


だから構いたい・・・いや構って欲しい新米パパの俺としては寝顔を見たり、授乳中の尊い姿を見てジーンと感動して居るぐらいなんだけど、やっぱりこの世界でも授乳後はゲップをさせるみたいで、


愛する娘だとゲップする姿も可愛いのなんのってね。 早くも親馬鹿モード全開です。


で、大事な名前だよ! どうしようってアリーシアと相談したんだけど、アリーシアの名前『アリーシア』は亡くなったお義父さんが付けた名前なんだって。

アリーシアの家では代々子の名前は父親が付けるって習慣だったらしくてさ、だから必然的に俺の方に丸投げになっているんだけど、凄く悩んでいる所なんだよね・・・。


日本名にするか、こっち風の名前(洋風)にするかで凄く悩んでるんだよね。

黒髪なら和風の名前も俺の中のイメージとマッチし易いんだけど、俺と同じブラウンだから和風な名前だとミスマッチな気がするし、だけど洋風のナメにすると、何かキラキラネーム付けてるような罪悪感が・・・ね。


一応ね、和風と洋風の両方の候補を考えようと思っているんだよ。


俺が名付けるってアリーシアは言うけど、2人のこどもだから2人で決めたいし候補を挙げてアリーシアにも選んで貰いたいなってね。


和風だと漢字ベースで考えて名に意味を持たせやすいから思い浮かび易いけどさ、思い浮かんだ名前の同名の人物が碌でもなかったり、最悪の末路だったりすると縁起悪いからなるべく知らない響きの名前とかを考え様としてるんだよね。


よく希に自分の推しの名前にしたり、初恋の相手の名前だったりを付ける人いるけど、そう言う発想は俺には無理かな。


だってそんな事したら、必死で痛い思いをして産んでくれたアリーシアへの背徳と言うか裏切り行為みたいで俺が耐えられないからね。


子供の頃、自分の名前の名付けの由来とか親に尋ねた記憶あるし、「ああ、お父さんの初恋の人の名前なんだよ!」ってちょっと気拙い処じゃないからね。

和風の名前はサチってのを思い付いたと言うか、幸せになって欲しいって思いを字にするとサチになったんだよね。


で、問題は洋風の名前だよね。 俺ら日本人にしてみれば外国人の名前って事だ。アイリーン、アルテーシア、シェリーン、何かピンと来ないなぁ~。

アリーシアが『ア』から始まって『シア』で終わってるから語呂合わせじゃないけど同じ様な法則で考えてみたんだけど、思い入れが希薄で駄目だな。


結局半日ウダウダと他の候補考えたけどパッとせずにアリーシアの判断を仰ぐ事にした。


授乳後のアリーシアの所にお邪魔して、

「ちょっと良いかな? 早く名前で呼んでやりたいし一応幾つか候補を考えたんだが、一緒に選んで決めて欲しいんだ!ほら、2人の子共だから、2人で決めたいし。」と俺がアリーシアに告げると、

俺に名付けろと丸投げした割に嬉しそうに身を乗り出して候補の名前を聞いて来た。

「うん、じゃあ聞いてね。 まず、俺の元の国風の名前でサチ、後は母親であるアリーシアと似た響きで、アイリーン、アルテーシア、シェリーンってのを考えてみたんだ。」と候補を挙げる俺。


「トージさんの元いた国って日本って国ですよね? サチって何か意味があったりするんですか?」とアリーシアから鋭い指摘が飛んで来た。


「うん、俺の元居た国では文字に意味が込められて居たりしてね、しあわせって字でサチとも読むんだよ。つまり『幸』って文字を使った名前の場合大抵は幸せになって欲しいと願って名付ける事が多いと思う。」と締め括ると、秒で、

「じゃあ、サチの一択じゃないですか! 良い響きじゃないですか!サチ、サチちゃん、良いですねぇ~、お父さんが良い名前付けてくれましたよー♪」と早速サチちゃんと呼んであやしていた。


尤もまだサチには声らしい声を発する事は出来ずにオムツが濡れて不快だったり、お腹が空いたと泣いてぐずるぐらいの鳴き声しか聞けてないのだけど。この時は、ウキャ♪」とちょっと違う声を相槌の様に出していた。

サチもサチって名を気に入ってくれたのかも知れないな。と俺も抱かせてもらって、「サチちゃーん!お父さんだよー!」とあやそうとするも、ギャン泣きされて、慌ててアリーシアにサチを戻して凹んで退散するのであった。


新米パパの道は険しいらしい。



ん?仕事? 知らんよ! もう俺のノルマは達成済みだし、こちとら、サチちゃんの尊い姿を日々脳裏に焼き付けるのに忙しいんだから、余計な追加工事なんてやってる場合じゃねぇ~し!!


最初の数日は俺が抱くと直ぐグズリだしたりしたんだが、俺が抱く度にクリーンを掛けてやったりしている内に何か慣れてくれた様で泣かなくなった。何事も産まれた直後からの刷り込みって大事だよね!


この世界のオムツ事情は結構大変で、日本の様に使い捨ての紙オムツ等無くて、良くて布オムツ、悪いと何も無しに近く、庶民だとお湯を毎回沸かす事も出来ないので冬でも水で綺麗に洗い流したりと幼児でも過酷な環境を他県する羽目になるのだ。


ただ、俺の家は、俺もアリーシアも他の子供らも俺の教えたクリーンを使えるので、オムツカブレ等で爛れたりする様な事は無い。


逆にただ1人クリーンを使えないサンドラさんが若干拗ねていたりする。


第三期生が入って来たので、サンドラさんも3期生の子供らと一緒に魔法の訓練に参加しますか?と聞いてみたら、滅茶滅茶乗り気で、そうすると、焼肉屋で働いて居る女の子達も「私達も身を守れる様に魔法習得したいです!」ってなって、以前はやらない、魔法要らないと要っていた豆腐屋をやってくれている3人も一緒に修行を始めると言う。


そんな訳で実家から通っていたジェキンスを始めとする焼き肉屋の男性陣も「トージさん、俺らもお願いします!」となった。


前回の騒動の時、負傷したのが利いたらしい。 要は負傷しちゃうと最悪守り切れないって事だからね。 気持ちは判る。


とは言え、今の宿舎は第3期生が入って来た事で結構パンパンなので男性陣3名の部屋が厳しい。


すると、孤児院組の子供達が、「俺らの部屋を2人1部屋か3人1部屋にすれば大丈夫ですよ!」と言い出した。


まあ確かにビジネスホテルのツインぐらいのサイズよりもやや広いぐらいの部屋だからベッド2つ置くのも不可能じゃないんだけどね。


新しいエリアに移ったら、ちゃんと1人部屋を用意するからとお礼と謝罪?と約束をしてからジェキンスさん達の部屋を確保出来たのであった。


ジェキンスさん達もそう言う経過を知ってマッシュ達に申し訳無いと頭を下げてお礼を言っていた。それを見てちょっとホッとした。


気は心でこう言うちょっとした気遣いって大事だからね。 もし年上ってだけで、ここでは古株の1人であるマッシュ達を蔑ろにしたり、横柄な態度を取ったりする様なら対応を考え無きゃならんからね!


つまり、俺の人選は間違って無かったと言う事だと思うんだ。


ここで先に言った様に横柄な態度をする様な人物だったりしたら、即店を辞めさせて、店が人手不足で開店出来ない様なら閉店でも良いと思うぐらいには重要な事だと思って居るし、マッシュ達も大事な家の子って事だ。


何だかんだで、マッシュ達には本当に家族が家族にする無償の愛の手って言うのかな?そう言う感じに助けられているからね!


本当に感謝して居るんだよね。




おっと、娘を持った事で色々と感傷的になったり感極まったりと良い意味で心を揺り動かされる事の多い数日だったから、余計な話に思考が飛んじゃったな・・・。



そうそう、ジェシカとラフティ、そしてラルゴさんまでも、俺の娘誕生のニュースを聞いて、示し合わせた様に3人が誕生から5日目にお祝いと顔を見にやって来たんだよね。


もう、ジェシカが「可愛い!抱かせて欲しいです!大丈夫です!! 妹(王女)で抱き慣れて増すので!」ワキャワキャと五月蠅い五月蠅い!


すると、ラフティが慌てて止めに入った。


「駄目ですって!ジェシカ殿下!キャリオ殿下をお抱きになった際に落としたのをお忘れですか!!!」と暴露して来た。

それを聞いて俺の顔からサーと音を立てて血の気が退いて行くのが判る。

「ジェシカ却下!家のサチに危害を加えたら、故意にしろ、不慮の事故にしろ、この国滅ぼすよ? いや・・・星ごと破壊しちゃうかも・・・却下だ!却下!」と俺が言うと「しゃ、シャレになりませんよ、師匠~!」と少し青くなっていた。


うん、シャレでなくて、ほぼ99.9%本気だからな!と心の中で間の手を入れてニヤリと黒い笑みを見せてやるのであった。


そうそう、今まで聞いた事無かったので知らなかったのだが、ラルゴさんには既に孫が居るらしい。 と言うか、子共が居たのも知らんかった。 合った事もないし。


何でも本店や王都支店だと固定客がもう居るので修行にならんと別の領の支店を新規開拓させて修行させてるらしいのだ。だから、孫にはたまにしか会えず寂しいらしい。


そう言えば、子共居るって事は奥さん居るんだよな?って思って、会った事がないなって思ったら、10年ぐらい前に死別したとの事だった。


病気が原因だったらしいのだが、「もしその頃にトージ様とお知り合いになっていれば或いは・・・と思ってみても仕方の無い事ですが、治療出来なかったのが今でも悔やまれます。だからもう再婚はしないのです。」と少し悲しげに語って居た。


「そうでしたか・・・でも気休めにもならないかも知れませんが10年前の俺ではまだ治療魔法が使えて無いのでお力になれなかったと思います。」と一応事実で捕捉しておいたのだった。


そんな話をしてシンミリしていたのだが、「キャハ♪」と言うサチの声がして後ろを振り返ると何とアリーシアが補助をして、ジェシカにサチを抱かせてレクチャーしているではないか!!!


俺はブワッと身体中の毛穴から汗が噴き出すのを感じつつ、驚いてサチを落とされたら堪ったもんじゃないと怒鳴りたい気持ちをグッと堪えつつ早くアリーシアがサチを取り戻す瞬間を待つのであった。


俺の様子に勘付いたラフティが、「お嬢様、そろそろ・・・、予定も押してますので。」と言ってサチをアリーシアの手に戻す様に促すのであった。


アリーシアがサチを抱いたのを視界の隅で確認した後、怒鳴る気力も無く俺はドッと腰の力が抜けて、ヘナヘナと床に座り込むのであった・・・。


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