第149話 オオサワ家の長い一日

その日は朝から落ち着かなかった・・・。


と言うのも、夜中の3時頃から、アリーシアの陣痛が始まったからである。


アリーシアの呻き声に0.1秒で反応して即座に覚醒し、別室で就寝中のサリエーナさんをドアをドンドンとノックして陣痛が始まった事る伝えると、直ぐにアリーシアの居るベッドの脇に戻り手を握ってオロオロしそうになるのをジッと堪えた。

だって、初産で只でさえ不安なのに、真横でその亭主がもっとオロオロしてたら不安要素以外の何者でもないからね!


そして明日仕事があるのに申し訳無いがソフィアも起こして産婆さんを呼ぶ様にお願いした。


流石に時間が時間なので女の子1人は拙いと気が付いて、慌てて宿舎のマッシュを起こしてソフィアの付き添いをお願いしたのだった。


やっぱり、気が急いていて普段なら普通に気が付く事でさえ滅茶苦茶で順番も何もあったもんじゃない。


一度落ち着かないとと深呼吸を10回して緑茶を飲んで気持ちを静めたのだった。


そんな俺をサリエーナさんから怪訝な目で見られたが、違うんや!これ、ほら不安に思わせない為の儀式なんやー!って心の中で叫ぶのであった。


サリエーナさん曰く、「初産は時間が掛かるので、そんなに慌てなくても大丈夫ですから、別室でお休みください。」って言われたんだけど、目が有無を言わさない感じでドアの方を流し見してて・・・邪魔だから出て行けって事だと悟ったのだった。


しょうがなく部屋から出たものの、別室たってねぇ、休む寝る気にはならないし。しょうがないのでリビングに移動して、時々聞こえるアリーシアの苦しそうな呻き声に頭を抱え込んで両方の女神様にお祈りしていた。


暫くすると、ソフィアとマッシュが産婆さんを連れて戻って来た。


「ありがとう、2人共。夜中に申し訳無かったね。 サンドラ産婆さん、この度は宜しくお願い致します。夜中の3時ぐらいから陣痛が来た様で。」と部屋の前まで案内して後はサリエーナさんとサンドラさんにお任せする事にした。

俺はリビングで休んで居る2人に

「半端な時間になって申し訳無いけど、今から部屋に戻ってベッドに入れば少しは寝られるよ。本当に助かったよ、ありがとうね。」とお礼を何度も言ったのであった。


そんな俺に

「いえいえ、こんな時ですから、お役に立てて良かったです。それにアリーシア姉さんの子共なら俺達の兄弟も同然なんで!」とマッシュが早朝にも拘わらず爽やかな笑顔で言ってくれたのだった。


俺は居ても立っても居られず、兎に角何かで気を紛らわそうと、長丁場になっても戦える様にとアリーシアやサリエーナさん、そしてサンドラさんへ差し入れる食事を作り始めたのであった。


シンプルに手に持って食べられるおにぎりとちょっと甘い出汁巻き卵、甘辛の餡掛けのミートボール等、簡単に摘まめる物を何種類かおかずとして添えてアリーシアの声が聞こえる部屋の前に持って行った。

軽くノックをして出て来たサリエーナさんに食事や飲み物を載せたワゴンをバトンタッチしてリビングへと引っ込んだ。



昼飯時が過ぎても生まれる気配は無くて、只オロオロと食事を運ぶ俺。


そう言えばお袋も俺を産む時長時間掛かって大変だったってよく話して居た様な気がする。


徐々にアリーシアの声が大きくなって間隔が短くなっている気がする。


部屋の中の動きやサンドラさんの指示する掛け声が大きくなる。

「あ、頭が見えて来たよ! さあ、息んで!」と言う掛け声の後、


「んーーー!」と言うアリーシアの声が聞こえ、


「よし!産まれたよ!」と言う声が聞こえ一瞬後に「オンギャー!」と言う可愛い産声が聞こえて来たのだった!


「トージ! 聞こえてるかい!? 可愛い元気な女の子だよ!」お湯を持って来ておくれ!」とドア越しに言われて、拳を上に突き上げ「やったーーー!アリーシアも無事?大丈夫?」と不安になって聞くと「大丈夫さ。」との返事を貰って

早速ワゴンにタライを置いて中に適温のお湯を入れて綺麗な布やタオルを沢山備え付けて引き渡した。


お産の後の清掃と治療をさせて欲しいと申し出ると、「何言ってるんだこいつ?」と言う感じの不思議そうなサンドラさんの「あぁ?」って言う低い声に事情を多少知ってるサリエーナさんが部屋の中で説明してくれたようであった。


「本当はお産直後の女性は綺麗に清掃するまで夫でも見せたく無いんだがな・・・しょうがない。」って不承不承と言う感じに部屋の中に入れてくれた。


俺は、アリーシア、そして産まれたばかりの我が子、そして長丁場を頑張ってくれたサリエーナさん、そしてサンドラさんも含み部屋全体にクリーンウォッシュ&浄化を掛けて、大きな仕事を終えたアリーシアと産まれたばかりの娘に回復魔法を掛けて治療をするのであった。

「おや!これは凄いね!サッパリするもんだね!」と初めてのクリーンに驚きの声を上げるサンドラさん。


まあ、そんなサンドラさんの事はどうでも良くて、俺の興味は生まれたての我が子の事で一杯である。


そんな俺の様子に気付いたサリエーナさんが、真っ白い布にくるまれた愛おしい娘を抱き方をレクチャーしつつ俺に抱かせてくれたのであった。


小さく軽い愛おしい娘。

髪の毛の色は俺と同じブラウンがかっている目鼻立ちがクッキリしてて、お人形さんの様に端正な造りである。これはアリーシアに似て滅茶滅茶美人さんになるぞ!と顔を覗き込みながら微笑み娘に話し掛ける。

「こんにちは、良く産まれて来てくれたね。お父さんだよ! ズッと会いたかったよ! お母さんと一緒に良い名前を付けて上げるからね。」と挨拶しながら、彼女の小さい指を突きながら数えた。

俺の指を小さい指で握ってくる娘。どうやらお腹が減っている様だ。


「何かお腹減っているみたいです。」と言ってサリエーナさんにバトンタッチして、疲れ果てて眠り落ちているアリーシアのおでこにソッとキスをして、「良く頑張ったねお疲れさん。可愛い娘を産んでくれたありがとう。」と起こさない様に小声で労を労った。


部屋を出る前に、再度サリエーナさんとサンドラさんにお礼を言ってから部屋を後にしたのであった。


正直な所、もうね、感動と嬉しさと愛おしさとが入り交じって、心のなかが処理仕切れない程の幸せで溢れてしまって感極まって部屋を出た所で、一頻り泣いて喜んでました。


そして2人の女神様にも忘れずにお礼の祈りを捧げて置いたよ!


こう言うお産の後ってどんな物が食べたい物なのかな? 功労者のサリエーナさんとサンドラさんにも何か精の付く物でスタミナ補給して欲しいけど、何かイッパイイッパイで頭が良く回らない。


暫くすると、部屋からサンドラさんが出て来て、「じゃあ、わたしゃ帰るから。」と・・・。

「帰る前に何か軽く食事でも?」と聞いたが、「老人は帰って寝るのが一仕事最高のご褒美さ!」と言われ、お礼のお金を多めにお支払いして、再度お礼を言って見送ったのであった。


流石にサリエーナさんも疲れた様で、食事を部屋に運んだら、アリーシアが目覚めたら一緒に食べるとの事だった。


アリーシアと娘はあの後、母乳を飲ませたら満足した様でアリーシアの横でスヤスヤと2人で寝息を立てて寝て居る。


当面の間、アリーシアは魔法で治療したとは言っても動けそうにないので、俺とサリエーナさんがメインで面倒を見る感じになるだろう・・・。


自分はどちらかと言うと、子供好きって訳でも子煩悩って訳でも無いと思っていたんだけど、全然違ったよ! あの小さい身体を抱いた時の重さ! いや多重は2kgちょっとなんだから軽いんだけどさ、命の重さと責任の重さがね!


一気に俺の中の父親を目覚めさせてくれたよ!


さあ、名前何が良いかなぁ~♪

家の子は美人さんだからなぁ~♪


と1人リビングで浮かれまくるのであった。

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