第143話 つかの間の休暇 その4

結局、1泊だけでなく3泊延長して更に2泊延長した。


別に飯が特別美味い訳でも無く俺にしてみればアリーシアの作った和食の方が好みだけど、ここの食事も悪く無いので、温泉と2人でノンビリとウダウダしたくて延泊しているのだ。


最初は知らなかったけど、男湯と女湯以外に貸し切り風呂もあったので、初めて2人で一緒いお風呂に入って違う意味でのぼせてしまったのはここだけの話だ。


ちょいちょいマッシモの自宅に戻って緊急の連絡事項等が無いかのチェックはしているものの、流石にここまで長く休むと後の皺寄せが少々怖い。



温泉には後ろ髪を引かれる思いではあるが、十分に長居してみんなは普段通りに仕事しているのに自分達だけ休暇を満喫してるのが今更ながらに心苦しくなって来たので明日には帰ろうと2人で話していたのだった。


温泉地のお土産と言ったら、温泉の蒸気を利用して蒸かした温泉饅頭って思うけど、ここにはそんな気の効いた物は無いので、微妙な民芸品とも言えない雑貨屋で買ったアクセサリーやバンダナっぽいガラ物の布を多めに購入した。


ここ数日で何かしらないけど、俺達2人はそれなりにこの街の住民達と顔馴染みになって通りでも擦れ違い様に挨拶する程度には親しくなったのだった。


そして今日は、「明日ここを発つので、短い間ではありましたけどありがとうございました。 また機会あれば温泉に入りに来ます。」とお別れの挨拶をして廻っていた。


だが、その時、こっちに向かって、一目散に走って来る初日に門の所にいた門番のオッサン。

「おーーい、あんたー!あんただ!、数日前に俺が『華の湯』を門で紹介した旅人だよな? 確か、商会やってるって言う王国の人!?」と俺に大声で問い掛けて来た。


おい、オッサン俺の素性街中にバラすなや! 思いつつ、頷くと、

「あー、良かったーー!」と俺の前まで来てゼーハーと息を整えて大きく後ろに向かって手を振って合図をしている。


何か判らんけど、何かあったのか? まあ俺には関係無いと思うが。


息を整えた門番のオッサンが、若干口調が辿々しくなって、先程と違いなんか余所行きの言葉遣いで、

「ちょっと、お待ちを・・・。」と言って、何度かチラチラと後ろを確認して、手でこっちに来いと言うゼスチャーを頻りとして居る。


俺もアリーシアも頭の中が?マークだらけだったが、次の瞬間に見せた豪華な竜車を見て一瞬「あっ」と言う声が漏れたのだった。


「おっちゃん。俺達は何か悪い事でもしたか?」と尋ねてみると、門番のオッサンは顔の前で手を横に振って、「いやいや、貴方様は何も悪い事等ありません。少々お待ちを・・・。」と慌てて否定してきた。


「何なのかな?明日帰る所だから、出来ればこのまま明日まで平穏に終わりたいのだけど。」と俺が呟くと、

「申し訳無いのだが・・・・だけど、立場上、領主様の命には背けないので。」と申し訳なさげに告げて来たのだった。


そして、豪華な竜車が俺達の手前に停車して、中から、少し窶れた表情の40代の貴族風のオッサンが飛び出して来て、いきなり、俺の前に土下座して来た・・・。

「魔王様、不手際の数々ご容赦下さい。」と大声で喚いて居る。

そこで俺は、ハッと気が付いた。と言うか、思い出した。


温泉で脳まで緩み切っていたので完全に忘れていたのだがそう言えば、ユーラに来る前のスパルータス侯爵領の領都で一悶着あってヤリ過ぎた事を・・・。


アリーシアには今日の出来事の話題で話していたのでアリーシアも気付いたらしい。


「えっと、申し訳ありません。私には何の事だか、サッパリ判らないのですが?」と白を切るお惚け作戦を強行する事にした。


だってさ、こんな往来のど真ん中で能面も付けずに魔王キャラ出来ないじゃん!?


このオッサン推定スパルータス侯爵ももうちょっと状況考えて行動してくれねぇ~かなぁ?


これじゃもう惚ける以外に選択子無いじゃん?


「魔王様! そんな事を言わずに、何卒、何卒ご容赦を!!!」と俺の足のブーツにキスをせんばかりの勢いでしがみついて来る必死のオッサン。


まあ、そうだよなぁ~。一歩間違ったら城壁壊され丸裸にされちゃうもんな。 確かにそれに比べれば土下座くらい安い物だ。


なので俺はちょっと声のトーンを下げて、


「貴方が何処の何方でどんな立場の方かは存知ませんが、何かの不手際の謝罪をこんな往来のど真ん中でして、貴方なら許すでしょいうか? 仮にですが、その正体不明の相手が、温泉の気持ち良さで心が広く穏やかになっていたとしても、それを『ぶち壊す』様に往来のど真ん中で、大声で何かを連呼されても応えようが無いんじゃないですかね?

貴方が何方か『存じません』がどう思われますか?このまま穏便に明日帰るまでソッとして置く方が『名も正体も知らぬ同志』お互い都合良いんじゃないでしょうかね?」と優しく諭してみた。


すると、ハッとした様に下から俺の顔を見上げ、言った 事の意味を理解した様で、

「た、確かに・・・ごしご指摘の通りじゃ。これはお見苦しい所をお見せしてしまった。お互い何処の誰とも判らぬ者同士、これは無かった事にして貰えるとありがたい。 温泉地だけに湯でサラッと流して・・・な!?」とシャレとも本気とも取れる渾身の逆を織り交ぜて来たのだった。


こんな状況でこのオッサン、鋼のメンタル持ってるな!とある意味感心しつつ、了解の意味を込めてハハハハ♪と笑う。


それに釣られる様にオッサンもガハハハハとヤケクソ気味に笑うのであった。


そして、お互いに黙礼しつつ別れて、俺とアリーシアは一旦宿に戻ったものの、もう既に気分はリゾート処ではなくて、明日の予定ではあったが予定を繰り上げて、その日の夕方前には宿をチェックアウトするのであった。


「何か最後に周回遅れの騒動あったけど、まあ最終日で良かったな。」と俺がアリーシアに言うと、


「ええ、往来のど真ん中でしたからビックリしました。でも、もしかしたら、生『魔王様』をこの目でみられるかもって少しワクワクしちゃいました!」と言って笑って居た。


「そんな!あんな所で衣装チェンジとかあり得ないし。マジで勘弁して欲しい。 てかさ、あの魔王コスって、凄く誤解され易いんだけど、そんなに見た感じがヤバイのかな?


何か、メチャメチャ、ヘイトを稼いでる気がするんだよね。」とアリーシアに言うと、

「誤解と言うか、あのお面はやはりヤバイですね。 今更ですけど、不気味だと思います。」とアリーシアが率直な感想を言うものの、


「でも、主旨がヤバイ奴キターーー!って思わせる事でしたよね? だから主旨通り かなりヤバイ感じですし、ヘイト稼ぎはやっている事が事なので仕方ないかと。」とフォローとも思えない事を言っていた。


まあ、どっちにしても今更『愛され』キャラに変更は出来ないから仕方無いのだがな。


ユーラの門を出て、2人で手を繋いで歩きながらそんな話をして笑い合う。


俺とアリーシアは、この新婚旅行を経て前より一層、夫婦と言うか家族の度合いが深まったと思う。


■■■


久々に連絡事項の確認の為以外で正式にマッシモに帰宅して、2人で夕食の準備を始める。


夕方、みんなが帰宅して、1日早く戻って来ている俺達を見て驚いていた。


久々で全員揃った食卓はやはりとても美味しい。


土産話をしながら、最後の往来のど真ん中の土下座劇でどうしようかと追い詰められた話をすると、ウケていた。


それから、話は俺が脅しに使った炸裂型火球の話になって、その詳細を聞かれたので色々と説明をしながら、空気中の水素、酸素等、更には二酸化炭素等の特製や説明をしてやって、夕食後に

簡単な実験を行って見せると、この世界では知られて無い事ななので非常に驚いて居た。


特に水が酸素と水素に分買い出来て、その2つの気体を燃やすと水になると言うのはこの世界の常識では考えられない事だった様で師匠でさえ驚いていたのだった。

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