第142話 つかの間の休暇 その3

翌日、朝からアリーシアとユーラの街の入り口近くにゲートで出て来て2人で手を繋いで街の中に入ろうとしたら、門番のオッサンに身分証の提示を求められて件のメダルを2人で見せると「へっ?」って、気の抜けた声を漏らし、

「こいつ何変なメダル見せてやがる?」って目をしている。

ああ、これ、伝わって無いパーターンの奴だ・・・。



おっやぁ~? タイラー君よ!これは一体どう言う事かね?と思わず、どうしようかと頭をフル稼働させる俺。


アリーシアも聞いていた話と違うので困惑の表情を浮かべる。


いや、折角素の状態で観光客を装っているのにさ、「そう、

が『魔王』なんだ!」って言ったら今まで素性を隠してキャラ作りの特訓って何だったの?ってなるじゃんよ!!

ないわぁ~。ここに来て身分証メダル使えないなんて、無いわぁ~。


なので取り敢えず急遽予定変更でBプランを使う事にした。まあ通用するかは知らんけどな。


急遽王国の行商人って事を告げて、商人ギルドのギルドカードを見せてみたら、何とか入場税を払う事で中に入れて貰えたのであった。


何とか無事に入れた事でちょっと悪さをした時の子共の様な高揚感なのか自然とテンション高くはしゃぐアリーシアが珍しくて可愛い。

2人で鼻歌交じりに先程のオッサンに聞いたお薦めの宿へと向かう。

今回までアリーシアは温泉の存在を知らず、俺の説明を聞いて天然のお風呂とその効能にに興味津々の様だった。


尤も効能たって、こっちの世界での成分は判らないから微妙な説明になるんだけどね。


俺には『女神の英知』があるけど、流石に成分的な物は判らないからね。


「ここだな、『華の湯』」と看板を見てアリーシアに話し掛けるとニッコニコのアリーシアが居た。


宿の名前的には和風な響きがあるが、外見は全く普通の洋風宿屋である。


宿屋の入り口から中に入ると、カウンターの若い女性が「いらっしゃーい。お2人さんは宿泊でいいのかな?」と声を掛けて来た。

「こんちは、宿泊で頼むよ。取り敢えず1泊で、値段が上がっても良いから良い部屋にして欲しいな。」と答えると、「あいよー!通常の部屋なら1泊1人銀貨1枚だけど、高級な部屋なら1泊銀貨2枚になるよ。で朝夕の食事付けるならそれに大銅貨3枚追加だよ!」と言われ、高級な部屋の食事付きでお願いしたのだった。


さて、肝心の温泉だが、この宿の宿泊客は無料で掃除の時間以外24時間入り放題らしい。

早速、高級な部屋とやらに案内して貰い部屋に入ると、日本で言う所のビジネスホテルの小洒落たツインって感じの部屋で清潔で気持ちの良い部屋だった。


何気に考えて見ると、この世界で自腹で宿泊施設に泊まるのが初めてかも知れない。


以前の王都行きの時はラルゴさんが払ってたし。


アリーシアに聞いてみると、国は違うけど王国の水準で考えると結構料金は高いけど、かなり良い部屋だと思うとの事だった。


これが日本の旅館だったら畳の上に大の字になって寝転ぶ所だが、まあベッドに大の字になっても意味はないので、話もそこそこに温泉を味わいに行く事にしたのだった。


「あぁ~ぁ~♪」


身体の奥底から温泉の水圧?浸透圧?で絞り出されて様に溜息とも言えない声が漏れる。


これぞ、温泉である。

身体を綺麗に洗った後

一応先に屋内の湯船に浸かって温泉のテイスティングである。


この浴室の外扉から露天風呂に出る事が出来るのだ。


良いなぁ、温泉のある生活。

日本は何処でも2kmぐらい掘れボーリングすれば温泉が湧くって言われていたけど、こっちはどうなんだろうか?


やっぱり近くに火山とか無いと温泉無理なのかなぁ? とあわよくば、マッシモに温泉出ないかな? 等と考えつつ露天風呂へと移動する。


露天風呂は石で作られた岩風呂で、高度の高い山岳地帯の所為で気温も割と涼しいので、温泉に入るのには丁度良い。


朝っぱらから仕事もせずに奥さんと温泉旅行で露天風呂を満喫とか、最高のご褒美だな。


毎日こんな生活してたら、人間駄目になりそうだ・・・。


宿泊客が居ないのか、温泉は俺の独占状態である。


30分程、入ったり、冷ましたりを繰り返して温泉を堪能して宿の食堂で冷たい飲み物が無いかと聞いたがそんな物は無いと言われて仕方無く一旦部屋へと戻ったのだった。


部屋に戻った俺は、ミルクでコーヒー牛乳を作って魔法で冷やし、取り敢えず湯上がりの定番って事でコーヒー牛乳をグビッと飲んでプハーと一息付く。

ちょっと湯上がりで部屋が暑く感じたので、風魔法で室温を少し下げて心地よい室温にしておいた。

ソファーにユッタリと座ってアリーシアが戻って来るのを待って居た。


アリーシアが戻って来たのはそれから更に15分以上経った頃で湯上がりで上気したのが色っぽかった。

部屋に入って涼しいのに一瞬驚いていたが、俺の出したコーヒー牛乳にお礼を言って飲んで「あ、美味しい!」と呟いていた。


「女湯どうだった? 初温泉だよね? 感想は?」と聞くと、「何か凄く肌がしっとりスベスベした様な感じです。温泉って良いですね!」と絶賛していた。


「トージさんは元の世界・・・、日本?で温泉に行かれてたんですか?」と聞かれて、「そうだよ。日本は温泉大国だったんだよ。色んな湯質の温泉が各地にあってね、そこに温泉宿ってのがあって出来る事ならアリーシアも連れて行きたかったな・・・。」と締め括った。


もう既に俺の居た日本が無くなった事を知っているアリーシアが俺を慰める様に抱きしめてくれて、湯上がりの良い匂いに包まれて、昼間っからベッドにもつれ込むのであった。


 ◇◇◇◇


そんな訳でスッカリ昼食を取りそびれてしまった俺達2人だが、5時を過ぎた頃に食堂に降りて行くと、朝に受け付けてくれた女性スタッフがシャカシャカと夕食の準備で動いていた。


声を掛けると、

「すまないねぇ、あと15分くらい掛かっちゃう感じだけど、どうするね?席に着いて待っとくかい?」と聞いて来た。


「いや、邪魔になりそうだから、15分くらいちょっと街を散策して来るよ。」と言って2人で宿を後にしたのだった。


日本だと、何処の温泉地でもお土産屋とかがあるのだが、ここにはそう言う発想は無い様で、普通に雑貨屋があったり、武器屋や服屋等の普通の集落にありそうな店しかなかった。


10分も掛からずに街をザッと1周出来てしまう程に小さな街である。


俺達の泊まった『華の湯』以外にも宿は数軒あって、更に公共の銭湯の様な温泉施設も発見した。

尤も『華の湯』以外の宿は自分の所専用の温泉は持って居らず、客には公共の温泉施設に入って貰う感じらしい。


但し、『華の湯』よりも1泊の値段は段違いに安いが。


そう言えば、事前に全く帝国の料理事情とかって調べて無いのだけど、食事大丈夫だろうか?


王国の食事事情が悲しい物だっただけに急激に不安になってくるのだが、そんな俺を察したのか「まあそこまで酷い物は出て来ないと思いますよ。最悪の場合は部屋で作り置きの物を食べれば良いですし。」と行ってくれたのであった。



そんな感じで時間を潰して宿に戻って適当なテーブルに着くと先の女性が夕食を運んで来てくれた。


なる程、夕食はシチューとパンにステーキらしい。

匂いは悪く無い。既に美味そうな匂いが俺の食欲を刺激している。


2人で頂きますをして、シチューをスプーンで掬って一口。


美味い!味の方向としたら、ビーフシチューで長時間煮込まれた肉の塊が口の中で解ける美味しいシチューである。ただ肉はどうやらボアかな? ステーキもボア肉なのdふぇ全部肉はボア肉である。


ステーキは香草を使ったフルーツ系のソースを掛けてあってなかなかにソースが美味い。


唯一残念なのは固いパンでシチューに浸さないと歯が折れそうだ。



そん名感じで当初ビビっていたものの、食事自体は非常にレベルが高い物で大変満足出来る物だった・・・。


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