第141話 つかの間の休暇 その2
昼食後帝国上空に戻った俺は順調に飛ばして午後3時頃にはスパルータス侯爵領の領都へと到着した。
先の子爵領での騒動があったので城門のちょっと手前に着地して、歩いて衛兵の所へと近付いたのだが、何故か笛を吹かれて増援を呼ばれてしまった・・・。
おかしいな。普通に歩いて来たのに。
「不審者め! 何奴だ? 身分証をゆっくり出してみせろ!良いか?ユックリだぞ! 弓兵がお前に狙いを付けている。怪しい動きをすると容赦なく矢を射らせて貰うからな!」と脅されてしまった。
あ!そうか、魔王コスか!と気付いての能面の下で苦笑い。
「我は『魔王』である。諸君らの賊する帝国の主たる皇帝よりこのメダルを貰いし者である。衛兵の諸君安心しろ!怪しい者ではない。」と言ってみた。
怪しい格好の者から怪しい者では無いって・・・思わず自分で言ってて噴き出しそうになるが、太股を抓ってグッと堪えた。
「隊長!あのメダルは、領主様から伝達のあったメダルでは?」とメダルを見た比較的若い衛兵の1人が一番年配の隊長っぽい男に声を掛けて居た。
どうやら、ちゃんとこのメダルについての連絡事項が廻って居る様でホッと一安心だ。
と安心したのは早計だった様だ。
その隊長と呼ばれた人物が、なにやら顔を赤くして俺に向かって食って掛かって来た。
「我が祖国を好き勝手に蝕みやがって・・・。」と大層お怒りの様だ。
「ほう、其方は愛国心が強い様だな。しかし、その愛国心の為に何人が犠牲になり、何箇所の都市がズタボロの丸裸にされるのか考えた事はあるのか? しかも戦端を先に開き我の友とその幼子の命まで奪ったのはお主の祖国である帝国なのじゃが、折角我が無駄に命を取らずに置いたのを無にして再戦を挑むと言うのじゃな? 本気で更地にせぬと判らぬのであれば受けて立つぞ!スパルータス侯爵領の総意として受け止めて良いのじゃな?我が何故『魔王』を名乗っているのかを判らせてやろうぞ!」とちょっと連続した無駄な騒動にイラッとする俺。
隊長はいきり立っているものの、周囲の衛兵達は至って冷静で必死で隊長を抑えようとして居るが、どうやら隊長と呼ばれるだあって、なかなかにパワフルみたいで数名がかりでも抑えられない様である。
やはり、要所要所で脅しの一発見せておかないとこう言うのが出て来ちゃうんだろうな・・。
俺は人差し指を上に向けて立てて、その指先に火魔法の火球を灯して魔力を収束させて圧縮して行く。 更にその圧縮された火球の周囲に風魔法で圧縮した酸素を収束させて無属性のフォース・フィールドで球状に固定してやり、上空へプイっと打ち上げた。
それと同時に俺を狙って居た弓兵の放った矢が20本程俺に向かって飛んで来ている。 あ~あ、撃っちゃったのかよ。
俺の指先から離れた火球がヒュルルゥ~と上がって上空50mぐらいで炸裂した。
ドッパーーン♪
目映い閃光の数秒後に上空から俺を含め全員を地面に叩き付ける様な衝撃波が襲い更にもの凄い爆風が吹き荒れ、俺以外の者は吹き飛ばされ爆風や衝撃波で内臓や鼓膜をやられた様で口や耳から血を流している・・・。
いかんいかん、ちょっと派手に脅すだけのつもりが余計な圧縮で予想以上の効果が付いてしまったよ・・・。
まあ手足の方向がちょっとおかしな奴も混じっているがドンマイ?
50m上空には爆発の残光と巨大なキノコ雲が爆発の残光に照らされて恐ろしげな姿を見せている。
今更無かった事にはならないので、しょうがないから、吹き飛ばされて惨憺たる状況の衛兵達に回復魔法を掛けて治療してやった。
件の隊長の治療はどうしようかと一瞬悩んだのだが敢えて耳と内臓だけ治療して聞こえる様にしておいて、手足の骨に関してはそのままにして置いた。
とは言え、この場外に出ている衛兵だけで無く俺に矢を射って来た城壁の上に居た衛兵達が問題だ。奴ら場内の方に落ちていったから、下手したら怪我だけでは済んでないかも知れない。
こんな事で使者が出てもバカらしいので城壁を乗り越えて内側に落ちた弓兵を探し出して取り敢えず全員息があったのでホッとしながら全員を治療して廻った。
中には息はしているのもの、脳震盪や脳挫傷を起こして居る者、脊椎を圧縮骨折している者等、大半が重傷者ばかりであった。
実に危ない所だったよ。
序でに衛兵の詰め所を漁って確認した所、スパルータス侯爵領の領都で間違い無い様だった。
まさか、通達が行ってるにも拘わらず、俺に対して一矢報いろうとする輩があらわれるとはな・・・。
まあ奴の気持ちは判らんでは無いが折角自分の所の
主君の努力を水の泡にしてしまう所じゃないか!! まったくぅ~。
しかも俺が占領して実行し支配下で無茶な統治や要求して国民の命を脅かしているのならいざ知らず、そんな非道な事も尊厳を踏みにじる様な事も一切してないからな!
俺が口を出したのは身分制度と種族差別や奴隷制度の撤廃ぐらいだし。 恨まれる謂われは無い!
と一応目に付いた負傷者を治療した後、再び空に戻るのであった。
治療まで含めると無駄に1時間以上費やしてしまったので、ここからは巻きで行かねばな!
領都上空に上がって初速を付けた東門上空を通過して南東方面へと舵を切る。眼下の街道をトレースして行き次の分岐で北東方面へ曲がれな後は道なりってなっている。
午後3時である。山間部程ではないが、アルプスの麓の村っぽいのが見えて来た。
辺境の街への悪路を走る訳では無いので地図では100km程離れている温泉街も空からならあっと言う間だ。
温泉地特有の湯気と温泉らしい匂いがして来た。
余り過剰な期待はしてなかったのだが、上空から見た限り、意外に雰囲気良さそうである。
まあ流石に日本の温泉地の様な風情を求めるのは酷だと思うが、露天風呂もある様だし、なかなか愉しめそうな予感がする。
泊まるホテルはどんな所だろう? 旅館とかあれば最高なんだがな。
まあそこら辺は明日、アリーシアと一緒にユーラの街に入ってからだな。と逸る心を諫めつつ、街の城門から少し離れた位置に静かに着地するのであった。
■■■
この時点で俺は知らなかったのだが、丁度俺がユーラの街到着した頃、スパルータス侯爵領の領都では蜂の巣を突いた様な混乱の最中であった。
丁度数日前に皇都から領地に戻って来て居て『魔王』と皇帝が発行した通称『
これまで嘗て聞いた事の無い様な爆発音と衝撃波と爆風で場内はパニックになってしまった。
しかもこの爆風や衝撃波で領主邸の全窓ガラスが割れてしまい、その破片で怪我人が出た様子。
パニックになる使用人を宥めつつ的確に指示して片付けと負傷者の手当を住ませた頃、爆発のあった城門の方から伝令がやって来たが、その伝令の伝える内容に顔色を青くしてしまったのだった。
どうやら、正義感の強い衛兵隊長が暴走し、『
しかも『魔王』は重傷者?の治療を済ませた後何処かに消えたらしい。
これは非常に拙い事態である。皇帝陛下より呉々も怒らせてなならぬと。武力衝突は厳禁と命じられて居たにも拘わらず・・・である。
しかし、皇帝陛下の話にあった様に無茶をする方ではないらしい。
尤も、喧嘩をふっかけて来た隊長だけ治療が殆どされてない所が意趣返しなのかはふめいだが、陛下に今回の一件を報告し謝罪するとして、機会があれば『魔王』様に直接謝罪せねばな!と心に誓うのであった。
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