第140話 つかの間の休暇 その1
さあ、きょうから休暇だ!
俺はこれまでの4ヵ月間、来る日も来る日も黙々と良く頑張った!
偉いぞ!俺!!
そんな訳でご褒美としてアリーシアとの新婚旅行で鋭気を養う事にしたのだ。
行き先はタイラー君からご推薦の温泉地だ。
まずは皇都にゲートで移動して、タイラー君から貰った地図を頼りに帝都の上空へと上がって、東の方へと頭を向けたのだった。
まず目指すは、アビール伯爵領、そしてその後は、ドンニール子爵領、スパルータス侯爵領の順である。実際に通常の移動手段で行くなら数ヶ月は要する道程である。
目的地の温泉地はスパルータス侯爵領にあるユーラと言う山間部の街らしい。
今や完全に心を折られて俺への絶対的服従を誓う勢いのタイラー君だ。その彼のセールストークをそのまま引用するならば山間部と言ってもアルプスの山間部的な厳しい物では無く、高所ではあるが十分に行き来出来る様な所らしい。
魔王様なら絶対に気に入りますよ! とヤケに自信満々に言っていた。
帝都の東門上空から街道上をトレースして一路アビール伯爵領へと空気抵抗を極限まで抑えた超高速滑空で高所からの落下を滑空スピードに変えて行く。
ちょっと思ったのだが、どうせならこの滑空だけでなくて、俺の足の裏から、風魔法で空気を噴射してやればゲートで高所に移動しなくてももっと飛行速度が上げられるんじゃないか?と。
ほら! 早く現地に辿り着けば、その分長くアリーシアと温泉でユッタリ出来る訳じゃん。
ちょっと待ち遠しくてね・・・。
だからこの際ちょっと試してみるのもありかなってね。
そんな訳で、無属性によるウィングスーツの魔法と空気抵抗低減の風魔法のエアーシールドに加え、足の裏からのジェット噴射を試してみた。
予想通りにグングンと飛行速度が上がって行くが、その分魔力の減るスピードもかなりの物で、流石の俺でもこのまま1時間は厳しいかもしれん・・・。
体感速度であるが、時速300kmの時の2倍くらいに感じる。幾ら魔法のあるファンタジーな異世界とは言ってもまさか生身で時速600kmは無いよな?そんな事考えながら飛んでいたら、
あ!何かデカイ城壁見えて来た。まさか、アビール伯爵領に着いたって事無いよな? 地図によると、帝都から400kmぐらい離れているらしいし。
そう半信半疑になりつつも、一旦場所を確かめる為に地上へと降りる事にした。
そう、魔王ルックのままで。
黒いローブを靡かせて白い能面の男?が空から降って来た所を想像してみて欲しい。
城門の前に、文字通り突如降って湧いた恐ろしい面を付けた不審人物に城門の衛兵がその場で腰を抜かしている。
「我は『魔王』其方達の主である皇帝よりこの『メダル』を託されて居る者じゃ。 其方達の職務は判っておるが、我への攻撃はそのまま其方達の主への攻撃となるので注意せよ!」と横柄な物言いをして脳編の中でチロリと舌をだして照れていた。
やっぱ、どう考えても、この魔王キャラって滑ってないかなぁ~。
だが、どこぞの王国よりも末端の衛兵に至るまで帝国の徹底ぶりは凄かった。件のメダルを見せた瞬間にザッと敬礼をしながら辿々しい敬語で歓迎の言葉を述べるする衛兵達。
「ようこそ、魔王様アビール伯爵領領都アビールへいらっしゃいました。今我らの領主に伝令を走らせますので、少々お待ちを!」と若干震える声で告げて来た。
やはり、ここはアビール伯爵領で間違いないらしい。
マジかよ!? 30分ぐらいで着いたのか。
「あ、いやそれには及ばぬ。我は場所を確かめに寄っただけなのじゃ。先を急ぐ故にこれにて失礼致す。では!」と言うだけ言って上空へと移動して滑空へと移るのであった。
まあ、俺が目の前で一瞬で消えた事で逆に尾ひれが付いた噂と思って話半分に聞いていた熟練の衛兵達は青い顔をして伝え聞いた噂話の殆どが真実であったと悟るのであった。
余談であるが、この日のこの話が更に『得体の知れない』魔王の逸話に箔を付けて行く事になったのだった。
再び空の人となった俺は先程と同じ様にジェット噴射で加速して行き、途中何回か魔力回復を兼ねた休憩を入れたものの、昼過ぎにはドンニール子爵領に辿り着いたのであった。
ドンニール子爵領は、子爵領なので非常にこぢんまりとした街であった。
だが、先程同様に上から降って降りると、「敵襲ーーー!」と衛兵に叫ばれ大事になってしまったのだった・・・。
先と同じ講釈を垂れつつ件のメダルを見せたのだが頭に血の上った衛兵が俺の話に一切耳を貸さずに槍を突いて来てしまった。
とは言え、魔装でガキン♪と音を立てて弾かれたのだがな。
騒ぎを聞き付けたドンニール子爵が門までやって来るまでの15分、折角ここまで短時間で移動出来たのに失敗したなぁ~と必死で俺を5名で取り囲んで槍で突いて来る頭に血の上った衛兵を見て能面の中で苦い顔をしていたのだった。
漸くドンニール子爵が門に到着し、俺の見せるメダルを確認して青ざめた顔で自分の部下である衛兵達を止めた。
「お見受けしたところ、魔王様で合っておりますでしょうか? この度は私の部下が、大変失礼な事を致しまして・・・何卒責めはこのドンニールに・・・。」と部下の命乞いをして来た。
「ほう!潔いのぅ~。まあ街を守りたい一心からの行動と理解して居る故にドンニール殿の顔に免じて此度の事問題にはせぬよ。お主ら良い領主を持って幸せじゃな。単に地名を確かめにに寄っただけじゃったのじゃ。こちらこそ、大事にしてすまんかったのう。では先を急ぐ故にお暇する。」と言ってドンニール子爵の街を後にしたのだった。
丁度昼飯時だったので、ドンニール子爵の街で食うのもありかと思ったのだが、よくよく考えると、この能面に食事をする事を全く考慮した機能は付いてなかったし、先の騒ぎで面を外して街に紛れ込むのも難しいと退散したのだ。
そんな訳で、一旦自宅に戻ってアリーシアと一緒に昼食を取る事にしたのだった。
和やかに談笑しつつ昼食を食べ先程の騒ぎの話をすると、「それは確かにあの格好が空から降ってきたら驚きますよね。」とクスクスと笑われた。
「まあ、魔装で弾くから問題は無いんだけどさ。人から槍向けられるのは正直気分良い物じゃないね。
やっぱり、魔王キャラ、ちょっと失敗したんじゃないかな?」と俺がキャラ作りの方向性の問題を提起したのだが、
「だって、トージさん、見た目で威嚇出来る方が抑止力になるって言ってませんでした?」と瞬殺されてしまったのだった。
うむ。確かに恐ろしい程の威圧感は大事だが、その咆哮のつもりが『恐ろしさ』の方向を間違った様な気がしてならないのだ。
まあ、もう一旦作りあげてしまったイメージを今更モデルチェンジは出来ないので後の祭りなのだけどな・・・。
昼食も終わり、見送ってくれるアリーシアに
「多分、今日中に温泉街に辿り着くと思うから、明日からノンビリ温泉三昧出来ると思うよ。楽しみにしててね!」と言って最後のラストスパートに出かけるのであった。
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