第136話 呼び出し

実際に接してみた結果で分かる事もある訳で。


慣れて無い事も要因の1つであるが、しゃぶしゃぶやすき焼きの鍋セットを忙しい時に13歳~16歳の女の子に運ばせるのは少々荷が重いと言う事が判明し、長期的には身体強化をマスターするなりして慣れて貰うのも手ではあるが、そう簡単に身体強化が使える様になれれば苦労は無い。当面は男性3名で重いセットの運搬を担当して貰い当面を熟す事に事にした。


若干時間的余裕が出来たので俺はそのよくレストランでテーブルの食器類を片付ける際等に使われるキャスターの付いたワゴンを作る事にした。


そして、店内の床が床板を貼った板張りだったのを、試食会の翌日には大理石調のタイル貼りに変更した。


勿論、ワゴンが滑らかに動かせる様にするのが目的である。


オープンの期日は迫っているが、まあ今回はワゴンを作るだけだし、そう大変ではないだろうって高を括ってました・・・。


いや、あの自在に首振って動くキャスターって実は凄かったんだね! 100均とかで普通に売ってたから、舐めてたよ。

首を振らない固定のキャスターでさえ、ボールベアリングとか無い世界だけに動きが渋いんだよ。


結局そんなハイテク(高度金属加工)な製品は無理!と早々に諦めて、俺らしい魔動具ってアプローチで解決する事にしたのであった。


ワゴンの木枠の下に無属性のフォース・フィールドの足場で浮かせる魔方陣を刻んだプレートを貼って、取っ手のグリップを握った際にホバークラフトの様に浮上して自在に動かせる様にした。


これによって、若干スタッフ達に追加でワゴンに慣れて貰う必要があったものの、非常に軽く動くのが大好評で、今までの労力の半分とまでは言わないが、腕や腰の負担が劇的に軽減したと喜んで貰えた。


そんな感じで準備万端、いよいよ新規オープン初日を迎えた訳だが、オープン3日前から入店した後に「お金が足りない!」って言う恥を掻かなくて済む様にと入り口の前にメニューの値段表を貼りだして置いた。


まあミノタウロスの肉を使ってる事もあって、こちらの世界では異常な位の金額なのでそれ位の事前アピールをして置いた方が店にも客にも安心だろう。


この強気の価格設定は商人ギルドの2人やラルゴさんとも綿密な相談を数回行った結果に決定している。


正直俺としては、高過ぎると思うのだが、俺以外ミノタウロスの肉を取って来られないのが最大のネックとなっているのだ。


早く俺の代わりにミノ狩りをしてくれる強い冒険者が育って欲しい物だ。


まあ、その為にもジェシカにはトットと件の魔法の教育機関を設立の話を進めて欲しい所である。


先日の試食会の終わりに「ジェシカ、お父さん(国王陛下)からの使命をサッサと進めないと、家の関連の店諸々全部出禁にしちゃうからね!」って発破を掛けておいたから、今頃は青い顔してマッシモ様と打ち合わせを開始している事だろう。


そんな俺とジェシカの会話を隣で見ていたアリーシアが微笑ましい物を見た様にクスクスと笑っていたのだった。



■■■



驚いた事に、そんな強気な値段設定にも拘わらず? いや逆に強気の値段設定だからこそなのか? 当日は待ちの行列が軽く出来る程にお客さんが来てくれた。

大半は俺の結婚披露パーティーに来て焼肉の美味さに絶叫していた連中だが、食べた者の口コミと肉を焼く時のタレが焦げる堪らない匂いは評判を呼んで、態々近隣の都市から家の店に焼肉を食べる為だけにに来る人もちらほら出始めているらしい。



元々値段が値段なのでそれ程客足は期待してなかったのだが、思った以上に良いペースでお客さんが来店してくれるので、嬉しい限りである。


実際のところこの店は、俺のミノタウロスの肉入手の手数料さえ完全に無視すれば、日に1~2組くらいのお客さんが入ればかなりの黒字になるのだ。


勿論その利益から、初期投資分の資金と人件費も出す事になるが、俺のミノタウロスの肉の手数料さえが無ければ、大幅な利益を生んでくれそうなのである。


とは言え、俺も人の子なので、俺の労力の対価無しだとモチベーションが上がらないので、店が安定して来たらある程度はお駄賃を貰うとしよう。



 ◇◇◇◇


ミノ亭焼肉屋がオープンして1週間が経った頃、マッシモ様からお呼びが掛かった。


どうやら店が落ち着くまで待ってくれていたらしい。

久々のマッシモ様のお屋敷の応接室に通されるとジェシカも居て俺を待ち受けて居た。


「どうも、ジェシカ第一王女殿下、マッシモ様、お待たせしてしまい申し訳ありません。」と頭を下げると、「まあここは気心の知れた面子だけだし、通常通りの気楽な口調で構わぬよ。」と気楽に話す事を許可してくれるマッシモ様。


「師匠、お呼び立てしてすみません。やはり、事が事で色々問題あって、私達だけでは実際に始めるまでの期間が掛かり過ぎるので・・・。」と言葉を濁すジェシカ。


テーブルの上には各自に出されたお茶とマッシモの街を印した地図が広げられていた。


どうやら薄々は予測して居た事であるが、魔法教育機関を建設しようにも、土地の問題が大きく計画進行を阻んでいる様である。


現在超人気のマッシモでは場内の空き地はほぼ無く、これ以上は城壁の拡張工事でもしない限りは難しいと言われているのだ。


「そこで、トージよ、どう考えても今のマッシモの街の場内では無理じゃし、この際、急がば回れで将来の事を見据えて城壁の拡張工事・・・まあ正確には、現在の城壁の外側に新しい城壁を築いて行って、現在の城壁と2重の城壁になる感じを考えておるのじゃ。」と地図上に新しい城壁の模型を置くマッシモ様。


そこで俺は気になった事をマッシモ様に聞いてみた。


「なるほど、まあ現在の場内だと無理ですよね。でも現在の城壁って工期どれくらいで完成したんでしょうか?」と軽く尋ねたら・・・。マッシモ家2世代掛かったとの事。マッシモ様のお爺さんの世代に着工してお父さんの世代に漸く完成し、マッシモ様が引き継いだと。


ザックリ80年程掛かったらしい。


「それは、王国としてもとても待てませんね。最低限でも2年以内に魔法の教育機関を立ち上げなければ次世代に間に合わないだろうし、それまで他国からの脅威が無いとは言えないし、厳しいですね!」と俺も苦い顔で感想を伝えると、2人共にそれを理解しているが故に俺を呼んだのであろう・・・。


「つまり、俺に新しい城壁を作るのを手伝えって事なんでしょう?」と率直に聞いてみた。


「もし可能ならお願いしたい。」とマッシモ様が頭を下げて居る。


では、工事代金代わりに拡張したエリアの良い場所の土地を俺に報酬として下さいよ。それが俺の工事の費用って事でどうですか?


「直接マッシモ様の所に負担が無いし、これが一番良いのではないでしょうか?」と捕捉するまでもなく、即座に了承されてしまったのだった。


マッシモ様曰く実質、マッシモにローデル王国・・・国立の魔法教育機関を作る事でマッシモにも多くの助成金や税の優遇もありかなり美味しいらしい。


なので、土地とは別に俺への報酬を支払うのも問題無いと気を遣って言ってくれた。


そうは言っても、インフラ等色々建設せねばならないので、辞退しておいた。


だって、オークションで得た10年分の国家予算だが、マッシモの開発というかソイやマイマイ関連で多少使ったものの、初期投資した分はとうの前に回収し終わって、現在進行形で増えて居る所だったりするのだ。


そんなに金ばっか持ってもしょうがない・・・。



と言う訳で俺もガッツリ城壁建設に関わる事が決定し、設計(及び全体的な計画)が決まり次第俺も動くと言う事になったのだった。


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