第135話 開店準備とスタッフ教育

その日の内にジェシカ達を王都からマッシモへ連れ帰って来た。


翌日に再度迎えに来ると言う選択子もあったのだが、ジェシカが頑なにそれを拒否して、準備万端なので当日直ぐに帰ろうと五月蠅い五月蠅い。


不思議に思って後で理由を聞くと、何だかんだとお父さんである国王陛下が構おうと絡んで来るのを相手するのが面倒なんだとか。


それに、油断すると王都に留め置こうとする小細工して来たり、余計な貴族が寄って来たりと心の安まる暇が無いとの事だった。


うわぁ~、同じ男性として、陛下が多少可哀想になってしまうな。

「お父さんの下着と一緒に洗わないで!」って言うよくあるアレ的な感じなんだろうか?


そんな話を聞いてしまうと、女の子を持つのが怖くなるな・・・。


健康に産まれてくれれば、基本どっちでも良いんだけど、実の我が子からぞんざいな扱いされたら、俺は立ち直れそうにないな・・・。


え?新婚早々で子共の事でビビるなんざ気が早い?


だって、結婚したからには、毎日の様にゴニュゴニョしてるから、何時授かってもおかしくはないでしょ?


だから少しずつ心構えをね!



さて、焼肉屋の方だが、店舗の内装等の店の建築や改装にかんしてはほぼ完了で、現在は店員として雇ったジェキンスさん達に焼肉屋で提供するメニューを試食して貰って慣れて貰う事にした。


接客云々を教え込むにしても食べた事無いと説明のしようがなかったり、お客の立場で欲しいサービスとかが判らないだろうっておもったからなのだが、何処から情報が漏れたのか判らないが、そのジェキンスさん達の試食会に潜り込もうとするジェシカとそれをサポートしていりラフティを発見し、ジェシカの首根っこを捕まえた。

「ヒャイ!」と首根っこを捕まれて変な声をだしていたが、


「し、師匠!見逃してくだしゃい!」とか口走っていた。


どうやら、ジェシカは王宮ではお姫様役を演じきっていた為に相当に息が詰まっていたらしく、その反動と言うかリハビリの意味も込めてマッシモに帰って来た自由を満喫したいのだと・・・。


そして、何よりも王宮で少し食べた食べた焼肉の美味しさがが忘れられないらしい。


「いや、今日は新しく家に入った新人達にこれから自分らが店でお客さんに提供するメニューの味を覚えて貰うのが目的だから、駄目だよ。」とキッパリと拒絶したら、目に見えて落ち込み項垂れるジェシカとそんなジェシカを気遣う風を装うラフティ。


前から思って居たが、本当に此奴ら仲良いな。息ピッタリのチームプレーである。


そんな2人の様子を見たジェキンスさんが真っ先に絆されてしまい、「トージ様、特に邪魔にはならないと思いますので、ご一緒させてあげても良いのでは?」と援護射撃を入れて来た。


すると、ガッと顔を上げて捨てられまいと縋る子犬の様に俺を見上げるジェシカ・・・・。


「しょうがねぇ~なぁ~。」特別だからな! 邪魔したり我が儘言ったら即叩き出して、未来永劫出禁にするからな!」と条件を付けると激しく首を縦に振っていたのだった。



それとジェキンスよ、お前さんコロッと騙されてるぞ!? ジェシカはこの国の第一王女で、可哀想な存在じゃないからな! と心の中でジェキンスさんに忠告するのであった。


ジェキンスさん達は焼肉の美味しさに驚きつつも、「これは最高です! これもトージ様が作られた味なのですか!?」とタレの事も褒めてくれたのであった。


まあ、厳密には俺は再現しただけなんだけどな。


しかし、ここに来て若干の問題点も発覚した。男性3名中2名、女性10名中8名がお箸を使えない事が判明し、すき焼きやしゃぶしゃぶのメニューの場合、店員がある程度のお膳立てをしてやる必要があるので、流石にこのままでは問題がある。


辛うじてお箸を使えそうな者も箸の持ち方が若干怪しい事もあって、急遽全員に正しい箸の使い方の特訓をして貰う事となったのだった。


まあ、こればかりはしょうがない。


「それにしても、ジェシカとラフティは凄いな。家に来るまで『お箸』の存在すら知らなかったのに、今ではこんな感じに器用に箸を使い熟しているし。」とおれが褒めると、「だって師匠の所の料理の大半はお箸で食べないと、お箸で食べてこそ美味しい物が多いし、子共だって器用に使っているのに、大人の私達が使えないと言うのも区ヤッしから! この人達にも師匠の所の料理の数々を帯剣させれば、箸をマスターするモチベーションに繋がるわよ!」とジェシカが宣っていた。


「うん、そうだな、どうせ、毎日まかないも付けるから、それで色々と家の食事を出してやるよ。 面倒だろうけど、是非めげずに箸をマスターしてくれ。」と全員にお願いするのであった。


試食会は4日に分けて行われ、焼肉だけで無く、しゃぶしゃぶ、すき焼き、ハンバーグ等のメニューの全てを連日満喫したスタッフ達は、その美味しさの虜になった様で、頑張ってお箸の特訓も文句も言わずに行っていた。



ちなみにだが、何故か関係無い筈のジェシカとラフティもこの4日間は1日も欠かさずにちゃっかり参加していたのであった。



 ◇◇◇◇



スタッフの教育を開始して1週間が過ぎた頃、全員お箸の使い方をマスターし、不安無く鍋物の介助等も出来る様になった。


接客の基本は全てマニュアル化して全員に教え込んだので、これで特に問題は無いだろう。


すると、ジェシカがやって来て、オープン前にジェシカを含め気心の知れた身内に近い者をよんで疑似お客の訓練をした方が良いのではないか?と言う指摘があった。


確かに・・・特にこの店は食事1品当たりの値段が値段なので、慣れない接客で不備が出ては問題かも知れないな。


なのでジェシカ達、ラルゴさん、最初からの協力者でもある商人ギルドの信者2人、そして冒険者ギルドのゲンダさん、更にケネスさんや

マッシモの夜明けのパーティーメンバーらに協力して客役をして貰う事にしたのであった。


当日、張り切った様子のジェシカを筆頭に全員が食べる気満々でスタッフ達は大忙しでフル稼働していた。


実際に正式にオープンするとこれくらいの忙しさが続きそうではあるが、何故か何処からか、店の話を聞き付けたらしいマッシモ様が抜き打ちで現れたのにはビックリしてしまったのだった。


そして、俺が代表して挨拶をした後、まだ正式なオープンはしておらず、擬似的な接客訓練の為にやっている事を説明したのだが、

「そうか、では、儂も是非その訓練に協力させて貰おう!」と飛び入り参加する事になったのだった。


スタッフ達は予定外の高位な方の飛び入り参加で若干顔色を青くして居たが、そんなのは今更である。


そう言えば彼らにはジェシカが第一王女殿下である事を明言して居なかったな・・・。 あの普段の食いしん坊っぷりを見ていたら、とても第一王女殿下とは思わないもんな。


それに俺も『ジェシカ』と呼び捨てにしているし、ラフティは『お嬢様』呼びしてるから気付かないのもしょうがない。


マッシモ様もジェシカに気付き、堅苦しい挨拶をしようとする前にジェシカから眼力でそれを止められ、軽くお互いに会釈して終わりにしていたからな。



初めて食べるミノタウロスの肉と焼肉の美味さに唸るマッシモ様。


「これは、噂通りに美味いな!トージ!」と上機嫌で俺に声を掛けるマッシモ様。



「おお、そう言えば、トージ、お主先日結婚したらしいのぅ。どうせなら、パーティーに儂も呼んでくれれば良い物を・・・非常に残念じゃ。 にしても、結婚、おめでとう! お主のこの領への尽力感謝しておるぞ!」と結婚のお祝いの言葉と、何故招待してくれなかった?と言う若干の恨み節を言われたのであった。



そう言えば、マッシモ様は俺の料理を初期の頃に美味い美味いとガッツリ食っていたな。と思い出して「まあ結婚はもうありませんけど、次回のパーティーの際にはお声掛けさせて頂きます。」と約束して許してもらったのだった。


どうせ、近々にマッシモ様とも会合に参加して頂かねばならない筈なのだが、国王陛下よりその命を授かっている筈のジェシカがどうやら、焼肉屋優先でまだ動いて居ないようである。



話は先日の王都での謁見の際の事になるのだが、帝国に纏わる諸々の話が一段落した後、国王陛下から、嘆願というか懇願された事があったのだ。


先日の王都でのテロの影響で、現在王国の王宮魔術師団は事実上壊滅。



そしてその立て直しも出来ない状況なのである。


魔法を使える家門の者が反逆を起こしたので、結局一族全員を極刑にするしかなく、事実上現在王国で魔法が使えるのはジェシカとラフティ、それに俺の所の子供達。


しかし、従来の様な特定の家門の者に利権を与える様な遣り方自体に問題があったと反省した様で、魔法の教育機関を作れないか?と打診があったのだ。


俺としては、魔法が王国民に浸透するのメリットが大きいと思うので出来る範囲での協力を約束したのだ。


尤も俺が直接指導しなくとも、魔法に関してだけは優秀な、ジェシカも居るし、今後も卒園する孤児院の子らを受け入れる予定なので、彼らに漏れなく魔法を教え込んで行く行くは魔法の教育機関の講師にする事もかのうだろう。


と・・・そう言う壮大で重要な任務を受けている筈のジェシカなのだが・・・奴は食い気を優先しやがったらしい。



俺が協力するとしても、ここ、マッシモを拠点として実施する場合である。


つまり、マッシモ様が了承して、その教育機関を建設したりと本来なら街も大騒ぎになる程の一大プロジェクトとなる筈なのだがな。

そう言う意味を込めた視線をラフティに送ると、フッと目を逸らされてしまった・・・。


ラフティ、お前もか!?


後日キッチリ追求し、言い訳を聞くとしよう。と心に決めるのであった。


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