第134話 待ち受ける者

俺が書いた対帝国の経緯報告と言うか要望書と言う名の半強制の指示書を王城の門番にあのメダルを見せつつ手渡して、4日が経過した。


本日は先の書簡に予告した通り、気乗りはしないが、王城へ訪問して王国側の反論等を一応聞く事になっている。


もう隠すのも自重するのも止めたのか?って思うかも知れないが、前回の王都のテロを鎮圧した際に俺の戦闘力の一部は見られて仕舞って居居るから、半ばやけっぱちになってる部分はある。


ただ、そうしないと俺の弟子が危険だったってのもあるけど、出来るのに隠して知り合いが死ぬのは避けたいからね。


帝国の一件で思ったのはある程度戦闘力うや能力の一部を開示した方が抑止力になって、交渉事がスムーズに行くと判ったからである。


日本にはその力が無かった故に滅ぼされてしまったのだし。

結局何処の世界だろうと発言力=戦闘力って事だ。


単純にドラゴンに無闇に手を出すバカそうそう居ない。 だから、少ない情報で如何にドラゴンに見せるか!?が重要って事だ。



まあ、ヤリ過ぎると『世界』を敵に回す本物の魔王になっちゃうからそこら辺は程度問題だな。


そんな事を考えていると、ここローデル王国が前世での日本の様な感じに思えて若干哀れに思えてしまった。


過度に肩入れはしないけど、頼られ過ぎないぐらいのスタンスでそれとなく補助する感じで行こう。




■■■



ゲートで王都の自宅に移動して、自宅の玄関を出ると、驚いた事に玄関の先の所に微笑むラフティが居て俺を待っていた。


まさか、ここで出待ちされているとは思わずに「ほへっ?」っと間抜けな声を漏らしてしまった。



「ようこそ王都へトージ師匠。」と悪戯が成功した子供の様な笑顔を見せるラフティに言われて、こりゃ完全に1本取られたなと覚悟を決めるのであった。


元々人の気配を察知するのが得意であったラフティであったが、更に魔力を感知出来る様になった事で、その確度は大幅に上がって範囲こそ俺が上回っているものの、実際の実用面では俺と同等にまで達していたのだ。


だから、ここ『王都の自宅』で待っていればお出迎えできるだろうと言う予想で動いていたらしい。 いやぁ~驚いた。


「しかし、師匠、やはり伝説の『移動魔法』やはり使えたのですね!?」とズバリ尋ねて来るラフティにどう答えた物かと唸って居たが、「いえ、変な事をお聞きしてしまって申し訳ありません。」とラフティに謝れてしまった。


よくよく考えると、前回もそれを臭わす様な事をやって、王城へ来る様にお出迎えの竜車が城門の所に来てた事もあったな・・・と思い出し、「まあその伝説の物と同じかは知らないが移動に使える魔法かは持ってるてるな。」と諦めた様に返したのであった。



「であれば・・・」とボヤき始めるラフティ。


どうやら、王都への帰りの道程が非常に苦痛を伴う旅だったらしい。


幾ら急いでも大した速度は出ないし、一国の姫君が夜に野宿する訳にもいかず、ちゃんとした宿に泊まれる様な日程で動いたので1ヵ月までは大袈裟でもそれに近い日数を要したらしい。


と言う長い苦行に対する持って行き場の無い感情なのだろう。


「まあお立場故に出来ると言えない事情は理解出来ますので。聞き流して下さい・・・しかし、師匠!マッシモへの帰りには、何卒!何卒、このラフティとジェシカ殿下をご一緒させて貰えませんか?」と懇願されてしまったのだった。


まあ、そうなるよな・・・。


「しょうがないないな・・・、ラフティがそこまで言う程大変だったと言う事だろう? 足代わりにされるのは非常に不本意なので隠して居るのだが、可愛い弟子達の頼みと言う事で特別に配慮しよう。」とおれが同意すると心の底から染み出る様な笑顔を見せて「やったぁ~!」と喜んで見せるのであった。


そんなラフティと一緒に出迎えの竜車に乗ってゴトゴトと王城へと向う事15分、漸く王城の門を潜って王宮の中へと案内されたのであった。


今回本来であれば貴族も呼び集めた謁見の間での報償式的な物を開き恩賞の授与と人物を内外に知らしめるのが慣例となるのだが、俺がそれを望まない事を熟知しているので敢えて王宮の王の執務室での極小規模な会談型式の場にして居るとの事だった。


「うむ、実にパーフェクトだ。配慮感謝する。」と俺がそれが正解だと肯定したら、「トージ師匠ならそう仰ると思いました。」とラフティが俺を先導しつつ振り返って微笑んでいたのだった。



国王陛下の『待つ』 執務室に辿り着くと、「トージ様お越しになりました。」と入り口のドアで合図して、近衛騎士がドアを敬礼しながら開けてくれたのであった。



聞いた所によると、近衛騎士達は死を覚悟した『あの日』俺によって助けられた事を恩に感じており、お会いする機会あれば、感謝を伝えたいと思っていたらしい。


なる程、そう言う事か。


部屋の中には国王陛下とジェシカ、そそして長男の第一王子が揃っていた。


「『御使い様』・・・トージ様、ようこそお出で下さいました。先日は本当に危ない所を助けて頂き、感謝致します。」と明確に頭を下げて下手に出る国王陛下。


「頭をお上げ下さい。まあ、弟子の晴れ舞台を偶々見に行ったら危険だったのでついつい助力したまでです。通常当てにされても困りますので。」と一応、それはそれとしてピシャリと宣言して置いた。


「師匠! お久し振りです! 本当にあの日は危なかったです。混戦だったので大規模な範囲攻撃も出来なくて・・・。」と感涙に咽び泣く様子のジェシカ。


ポツンと1人波に乗れず取り残された風の第一王女殿下が、慌てて口を開いて感謝を述べて来た。



『御使い様』、私も『トージ様』とお呼びして良いだろうか? お初ではないが、抗して自己紹介をするのは初めてだと思う。私は第一王子のジョニーともうします。先日は、本当に危ない所をお救い頂き、更に巻き込まれて負傷した国民の治療までして頂き、本当にありがとうございまた。」とジョニー殿下も頭を下げた。


「まあ、このまま立ち話もなんだから、まずはソファーに移動致しませんか?」と国王陛下が促したのでそのままソファーに移動して、今回の本題である帝国の状況とそれに対する処遇の件を話始めた。



「とまあ、そんな感じで現状帝国軍以前に帝国国内は戦を行える状況じゃ無くしていて、完全に俺の意思が通る状況になって居り、種族問題や身分制度や奴隷に対する事も含め大改革して居る所です。

多分、数ヶ月以内に帝国から使節団が到着すると思うので、王国としては思う所はあるだろうけど、新しい皇帝の新生帝国と和平を結んで欲しい。今回は偶々王国の助力をした形になったけど、『魔王』は本来どちら側でも無く、中立で、時々の状況を独自に判断して裁定し、正しいと思う事をする。 そう思って頂きたい。」と常に(無条件で)王国の味方では無いので勘違いしない様にと釘を刺したのであった。


俺の言いたい事や行動の大原則を十分に理解して貰えた様なのでホッと一息付いていると、ジェシカの方から質問が飛んで来た。


「師匠! アリーシアさんとのご結婚の日取りってどうなったのですか?」と聞かれ、

「ああ、先日無事に結婚披露パーティーまでやったから、今ではアリーシアが俺の唯一無二の奥さんだよ。」と教えると、「師匠!酷いです! 私もラフティも是非出席したいと思ってましたのに・・・。」と俺には何やら『移動魔法』があるらしいと知られてしまった事もあって盛大に嘆かれてしまったのだった。


「まあ、結構悩んだんだけど、帝国が先日の王都のテロを陽動にして攻め入って来そうだと思って対処したりしてたからな、正直そこまで手が廻らなかったってのもある。 子供達が結婚披露パーティーの為の料理を沢山用意してくれたからってのもあったけど、ほら、アリーシアを長く待たせた感じになってたし、結婚を引き延ばすって選択子は無かったし。すまんな。」と俺が言うとどんな料理が出たのかを事細かく聞いて来た。


ジェシカ曰く、元々生まれ育った王都と言うか、王宮だけど、マッシモの、と言うより『俺』の料理を知って以来、もう味覚も身体も俺の料理を食べないと落ち着かないと言うか、満足出来ない身体になった!と言う非常に字面だけ見ると人聞きの悪い状況なのだとか。


なので、王都に戻る道中からずっとホームシックに掛かっているとの事だった。 俺も魔の森の小屋で食事に対する渇望が凄かっただけに気持ちは判る。


尤も、俺とジェシカのこのやり取りをポカンと聞いていた国王陛下とジョニー殿下だったが、そこまでの物なのか?と不思議そうにしていた。


実際ここ王都にもマッシモから俺のレシピの料理は徐々に流れて来て居るのだが、、マッシモ・マイマイやソイのの流通量の問題や知名度の問題もあってそうそう簡単に入所出来ないらしい。


しょうがないので、俺の常備している『作り置き』分を少し食べさせてヤル事にしたのだが、今回新規オープンする予定の『焼肉』も折角なので出してやったのだが、それが良く無かった・・・。


生まれて初めて口にする、極上のA5ランクのブランド和牛をも越えるミノタウロスの肉とそれに絡みついた甘辛の焼肉のタレ、そのタレと炊きたての白米との絶妙のハーモニーに悶絶する国王陛下とジョニー殿下。


そしてその様子を何故かドヤ顔で見ているジェシカとそんなジェシカに苦笑いを見せるラフティと、凄くカオスな状態となって居た。


その後、国王陛下から、このミノタウロスの肉についての質問を受けて、焼肉のタレと一緒に何とか分けて欲しいと懇願されたのだが、まだマッシモで店舗のオープン前と言う事や焼肉のタレに関しては社外秘とする予定だったのでヤンワリお断りしたのであった。



ジェシカの所為で話が食い物の方に流れてしまったが、王宮からと言うよりも王国としての切実な要望お願いをされて、結局マッシモにとって悪い話ではなかったので領主様が承諾するのであれば俺も助力すると言う事を約束したのであった。



何か、料理人をマッシモに研修に出すとか国王陛下が張り切って居られたが、何処で研修するつもりだろう?と疑問に思ったが敢えてそこに突っ込みを入れずにスルーしたのであった。


ラフティから聞いたジェシカは俺と一緒にマッシモに帰る気満々で、実際には既に昨日までに準備万端でスタンバって居たらしい。


まあマジックバッグを持って居るので準備事態は大した事では無いのだが、昼が過ぎ、俺の出したご飯を昼食代わりにした後、話すべき事もほぼ出尽くした頃合いでお暇しようとしていたら、ジェシカが侍女に言って自室からマジックバッグを持って来させて、ニコニコと微笑んで俺を見つめて居る。


ここまでくれば隠すのも難しいと考えたものの、ここ王城から目前でゲートを繋ぐのは良くないと思い、俺の王都の自宅から帰宅する事にしたのであった。


最後に別れの挨拶をした際にの事であるが、

マッシモに帰る事をはしゃいでるジェシカをジョニー殿下が置き去りを食らう子犬の様な目と言うか、非常に羨ましそうに見ていたのが非常に印象的であった・・・。


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