第132話  魔王降臨

妙なキャラ付けの特訓以外の私生活は毎日が素晴らしい!


そして何よりも今まで誰にも言えなかった地球や日本の事をアリーシアに全部打ち明けた事で、本当に心が軽くなったのだ。


別に女神様達から他言無用とか言われてないけど、余計な事を言って面倒な事になるよりは、黙って居る方が良いだろ?


只夫婦になったのに、言わないのも不誠実な気がしてね。結構精神的な負担になっていたんだよ。


それに、ここに来る前にあったナンシー様の件も然り。


俺って純然たる自然体の人間じゃない訳じゃん? ナンシー様もマルーシャ様も普通に結婚して子共を作って良いって事だったけどさ、中身は地球人異星人で皮は女神製でしょ。


ある意味似て非なるエイリアンじゃん? ちょっと引け目を感じてしまってね。


そんな事を言うなら結婚する前に言うのが筋だって? うん、その通りだと思うよ。後出しは駄目だよね・・・だから、遅まきながらこれらを全部告白してから、誠心誠意謝ったさ!


でも、嬉しい事に、アリーシアは全部を聞いて理解した上で「トージさんで良い」ではなく、『トージさんが良い』って言ってくれたんだよ!!


だから、全てが『オール・クリア』になって心が本当に軽くなったんだよね!



そんな訳で新婚生活は、順調である。


そして、ここ数日のキャラ特訓も昨日で一応終了した。


待ちに待った、黒い衣装が仕上がって来たのである。



姿見の前で自作の能面やローブ等を身に付けたのだが・・・怖い!! 不気味を通り超して異常者って感じだ。


子共が見たらトラウマ物だと思う。


アリーシアの前にそのままの格好で姿を見せたら、クワッと目を見開いて、「トージさん、カッコ良いです!」って言われてしまって逆にアリーシアの方が心配になってしまったよ・・・。



師匠の前に同じ様に姿を見せたら、飲んでたお茶をブハーって噴き出していた。


その後一拍置いて俺と判った様で腹を抱えて笑い転げていた。


師匠にこの格好の感想を求めたら、「不気味で不審人物で話の通じないのヤバイ奴って印象じゃな!それが狙いなんじゃろ?」と言われた。


まあ確かにビビって欲しいとは思ったが、話通じないってのが良く判らんな。



つまり、評価こそ様々ではあるが、何にしても俺側の準備は整ったと言う事だ。



■■■


その頃、帝都の皇城では帝国始まって以来初めてと言う程に大混乱を起こしていた。


その原因の一つは建国以来皇城を1000年近く守ってきた堅牢な城壁が粉々に砕け、瓦礫と言うより砂塵と化してしまったのだ。


更に拙いのは皇城の城壁だけでなく、帝都をグルリと取り囲み治安の維持の要であった城壁にも無数の瑕疵が発見され、予備役の兵士まで召集し、城壁がこれ以上壊れない様に監視をさせているのだ。


これでは何時何時賊や暗殺者、民衆や反逆者によるクーデターの軍勢が押し寄せて来るやも知れないのだ。


皇帝は発狂せんばかりに警備の責任者や近衛騎士達を非難したが、無防備となった今自分達を守ってくれるのは近衛騎士団長を始めとしたたたった1000名程度の近衛騎士や帝都警備隊の衛兵達だと気付き怒りのボルテージを見る見る落として行ったのだった。


何とも姑息だが、自分の命には意地汚い本能が働くらしい。




そんな訳で皇城では上を下への大騒ぎとなっていた。


しかも悪い事は続く物で、皇城の奥深くに別棟として建てられていた、宝物庫宝物蔵、金庫蔵、武器庫、食料庫等この帝国の屋台骨を支える物資や財産の全てが入った建物も砂塵と化し中に入っていた筈の物は何一つ見つからなかったのだ。


ハッキリ言って、帝国は破産だ!


警備を強化したり、予備役まで再招集しているが、その賃金を支払おうにも一切のお金が消失してしまい、日々の食料さえ枯渇してしまっているのだ。


今現在帝国の資産と呼べるのは、代々の皇帝の肖像画や、皇城の装飾品、それに皇族が個人の持ち物として部屋に置いていたアクセサリーやお金程度である。


これが外部に漏れると暴動が起きかねない。


近衛騎士にしろ、官僚にしろ、真に皇帝や帝国に忠誠を誓っている者などほぼ皆無で、体裁と言う薄皮の様な物で演じているだけに過ぎなかったのだ。


そこへ次々と入って来る、不吉な報告・・・。


ローデル王国への進軍失敗、ローデル王国の武装テロ失敗、トラバニアの城壁崩壊、その他の都市の重要拠点の崩壊や物資の消失・・・。


これらを聞いて正気で居ろ!と言うのがそもそも無理な話である。


宰相は、とうの昔に打つ手無しと言い切りバンザイ状態である。


そんな最悪なムードの皇城中いや、帝都中に響き渡る程の大音量の音声が響き渡る・・・。



「愚かなる帝国の・・・いや皇城の主よ、聞け! 我は・・・tー ・・・我は『魔王』! 貴様ら帝国の手勢がローデル王国の王都でテロ行為を行った事で偶々運悪く同国を訪れていた我が友ロシナンテと我が名付け親となっていたその友の子を失った者である。この恨み晴らさずには置けぬ。」


愚か者!何処を見て居る? 我はここじゃ、上を見よ! 空に居るじゃろう? お前、偉そうじゃのぅ~! お主が帝国の責任者か? 我はお主の手足をもげば良いのかの?皇族?全員ここに並んで跪け!


早くせぬか!我は忙しいのじゃ!なにせ、帝国中を破壊し略奪して廻らねばならぬのだからのぉ~。ほれ、あと1分やろう。皇族全員出て来い。それとも皇城ごと砂塵に変えるかの?城壁と同じ様に?


皇帝の命で上空の黒い衣装の『魔王』とやらに弓矢や魔法による攻撃が撃たれたが、弓矢は全く届かず、辛うじて着弾したヘロヘロのファイヤーボールは目に見えない何かに阻まれ霧散してしまった。


「ほほう、活きのええのぉ~。そんなヘロヘロの攻撃がこの『『魔王』に効くとでも?」と高らかに笑いながらその黒い衣装に真っ白い不気味な顔の『魔王』は地上に降りてきた。まるで、、見えない階段を降りる様に・・・。


そして、地上に降り立つと、皇帝が凄い剣幕で「奴を仕留めよ! 仕留めた者には金貨1000枚を授けるぞ!」と唾を飛ばしながら攻撃を命じていた。


「フォフォフォ!これは愉快じゃの!金庫蔵ごと無くなって金貨どころか、銅貨1枚すら残って居らぬのにのぉ~。 よかろう、チャンスをやろう! さあ、剣でも矢でも魔法でも1分間好きな様に撃って来るが良いぞ! その代わり、次は我のターンとなるがの。」と構えもせずに仁王立ちする魔王。


近衛騎士による剣戟、宮廷魔法師による魔法攻撃、どの攻撃も魔王の身体にさえ届かず、見えない何かに阻まれ、仁王立ちの魔王も蹌踉めきさえしない。


「陛下、これは無理にございます。」と早くも根を上げる宮廷魔法師達。

「よし、1分が終わった、我のターンじゃの。やはり、命じた者に罰を与えねば楽しく無いからのぉ~と。」と魔王が言いながら、皇帝に向かって人差し指を向けた瞬間、皇帝の手足が吹き飛んだ。


「うぎゃーー!い、い痛いーー!ギャー」と叫びながらのたうち廻る皇帝。

そして、「しょうがないのぉ~。」と言って魔法が魔法を発動すると吹き飛んだ筈の皇帝の手足はニョキニョキと生えてきた。その非常識な様子に驚く皇帝の側近達。


この国のどんなポーションでも治癒魔法でも部位欠損は指1本でさえ治せないのが常識なのだ。


その様子でこの男が名乗る『魔王』の意味を理解するこの魔王にはどんな攻撃も無意味な魔法の王であると・・・。


しかし、皇帝は認めたくない現実に対して拒絶反応を示し、再び魔王への攻撃を命じてしまう。


再び吹き飛ぶ手足。しかし、のたうち廻る皇帝の手足を元に戻す事なく千切れ飛んだ切断面の止血程度に治して再度皇帝に話し掛ける魔王。


「愚かなる皇帝よ。良く聞け。お前無能で理解力無いな。息子は居るか? 跡取りが居るなら隠居か死で良いか・・・。」と無情な宣告をする魔王。

「そこな騎士よ、此奴の跡取りは居るか? いや、面倒じゃ、皇族全員直ぐに呼んで参れ、我が世代交代を見届けてやろう。」と言うと、逆らって帝国が無くなるよりはマシだと判断した様で近衛騎士団長が直ぐに部下の騎士に命じて、全員を呼んで来させた。


結局、全員が揃うまでに15分は掛かってしまい、青い顔をして真っ先に駆けて来た次男を見て幾つかの質問と指示して、次男に行為を継がせる事に決定したのであった。


さて、ダラッとした感じにブツブツ言いながら現れた長男だが、イキナリ斬り掛かって来たので、仕方無くといった感じに魔王の放ったファイヤーボールで焼死してしまった。



そして、謎の男『魔王』の傀儡皇帝となった次男タイラー君による『新生』バッケルガー帝国が始まったのであった。



 ◇◇◇◇



この日の夕方、何だかんだで4時間近く『魔王』を演じた俺は、疲れ果てて自宅へと帰還した。


笑顔で出迎えてくれるアリーシアに親指を立てて作戦成功を知らせた。


夕食の時間には食堂に集まったみんなに帝国の皇帝が、評判の悪かった長男では無く、民衆からの評判も良く居チン番性格的にマトモそうな次男に代替わりした事を教えたのだった。


そう、作戦を立てる段階でこの着地点を最初から模索していたのである。仮に父親とソックリな性格の長男が継いだ場合国民にとって最悪の皇帝となるのは目に見えており、国全体が地獄になってしまう。


次男は温厚な性格で、使用人にさえ、配慮を忘れず、横暴な父や兄弟達からの無理難題をそれとなくフォローしたりしていた苦労人である。


当然そんな性格故に父である皇帝からの評価が低く、皇帝の資質無しと見なされていた。


前にも述べた様に、帝国は身分や種族による差別が酷く、特に奴隷に対する扱いも酷かった。


だから、俺は、タイラー君に真横に身分制度等はあるローデル王国に習え!って言う指示をだしたのだ。


上手く采配出来たら、段階的に、俺が没収したお金も宝物も食料も返してやると言う人参をぶら下げてやった。


その人参の効果か、愚か者とは言え実の父親が無惨に手足を失ったのを目の当たりにしたり、愚かな兄が目の前で焼死したのを見た所為か、非常に従順で直ぐに動いてくれた。


この調子だと、第一段階の返却は思った以上に早いかも知れない。



実際のところ、王国並みに差別も無くなって人権を尊ぶ様になれば一度ジックリ観光に行きたいと思っているし、帝国への内政干渉もほぼする気は無いのである。


だって、ガラでも無い魔王役は非常に疲れるし、余計な責任まで負いたくは無いからね・・・。

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