第124話 閑話:王宮魔術師団の反逆劇

儂はハイドフェルト・フォン・ローデル、ローデル王国の国王である。


本日は建国900年の我が王家の悲願であった王族からの魔法使いを輩出出来た輝かしい歴史に残る発表の日であった。


我が娘ジェシカが『御使い様』に認められ、魔法を授かったのだ!


そして儂の演説に続きジェシカが壇上に上がり国民に魔法を見せながら話を続け、国民が沸きに沸いた。

いや、国民だけで無い。後ろで見守る儂も、儂の横に居る第一王子も興奮している。

その気持ちは良く判る。儂も若い頃何とか魔法を使える様になれないかと、王宮魔術師団長に何度も掛け合い、教えを請うた物じゃからな。


我が王家は数世代前に魔法適正の無い血筋と当時の王宮魔術師団長に言われてそれ以降無理矢理諦めていたのだが・・・『あれ適正無し』は果たして事実だったのだろうか?


今冷静に考えるとおかしい気がするのじゃ。


娘の報告では『御使い様』の下では庶民の孤児も魔法使いになっておるらしいし。


つまり血筋には関係無いと言う事が答えなんじゃなかろうか? 儂ら歴代のローデル国王はまんまと魔法御三家らに騙されておったのじゃなかろうか?


そう頭の中の疑念が答えへと結び付いたタイミングで、事が起こった!


国民が見ている観客席で不意に大きな爆発が起こったのだ。


一瞬にしてパニックになって叫び逃げ惑う観衆達、直ぐに近衛騎士団が儂らの周囲を取り囲んで坊行を固めたのじゃが、王宮魔術師団全員が裏切りおった!

幾ら屈強な近衛騎士と言えど、魔法の直撃には無防備も一緒で為す術無く1人、2人と仲間の筈の王宮魔術師団の放つファイヤーボールに焼かれ倒れて行く。

攻撃はそれだけでは無かった。 観客に紛れ込んでいた武装集団が抜剣し我らの元へと斬り込んで来たのだ。


その数たるや、数百ではきかないだろう。千人規模ではないだろうか? しかも、そこらの雑兵の練度ではない本格的な騎士中の騎士の腕を持つ者達である。

そう、何処かの国の軍隊の精鋭と言っても過言では無いレベルだ。後方からは反逆者共の魔法攻撃、正面からは武装集団による切り込みで近衛騎士にも少なくない被害が出ている。


王国の歴史始まって以来の最良の日に鳴る筈が、まさかこんな事になるとは・・・。


儂らは何処で間違ったんじゃろうか? 口惜しい。 まさかこんな事で王国の運命が尽きるとは・・・。


ああ、女神マルーシャ様!どうか! せめて子供達の命だけはお助け下さい。 そう言えば儂は長い事神殿に参拝しておらなんだな。


女神マルーシャ様! どうか、王国の歴史をここで終わらせないで下さい。何卒救済のご加護を! 必ず神殿に参拝させて頂きますので・・・。


と必死になって心の中で女神マルーシャ様に祈りを捧げていた。


普段、食事の前に『形ばかり』に感謝の祈りを捧げるフリをするが、そうじゃなくて、本気の祈りである。


『女神様は居た!』 どう言う事だろうか? 儂の目や頭がおかしくなったのでなければ、空に、人が! いや、あれは『御使い様』だ!! 『御使い様』が空中に仁王立ちし、両手の指で指した方に居る武装集団を魔法で攻撃しているい様である。


その証拠に武装手段の後方の密度が目に見えて薄くなり、パニックになって混乱が起きている様だ。

あ!空中の『御使い様』が消えた後、後方に居た裏切り者の反逆者共の魔法攻撃が沈黙した。


代わりに奴らの所から、罵声と絶叫が聞こえて来た。そして2分ぐらいの短時間で完全に殲滅された様だ。もう後方に立って居る者は誰も居ない。


今度は儂らを取り囲む武装集団の後方からギャーギャーと言う悲鳴や絶叫と場所によって、血の噴水が上がって居る。赤い噴水である。


どうやったらあんなに見事に斬れるのか? 武装集団の後方の阿鼻叫喚は、離れた儂達にも伝わって来る「来るなー! 止めてくれーー!」と言う帝国訛りの絶叫が聞こえて居る。


つまり、この武装集団は反逆者共が招き入れた帝国の手の者なのだろう。


売国奴共が!!もし生きておったら只じゃ済まさん! 国民まで巻き添いにしおって!許すまじ!と怒りを込めて握り拳を握り締めておった。


儂は無力じゃ。 只守られて居るばかりで、一方娘のジェシカは、ラフティと共に近衛騎士の空いた穴を1人で4人分くらいの部分を身を挺して防御し、先程のデモンストレーション時よりも協力な魔法で気持ち良い程に無双して居る。


流石は我が娘じゃ!



 ◇◇◇◇


事態が起こってから、20分程経過しただろうか? 漸くあれだけの大群の武装集団はほぼ尽きた様だ。生きて居る者も居るが良くみると足下を石で固められて動けなくされて居たり辛うじて『生きている』だけの者が多い。


周囲を見回して『御使い様』の姿を探すと、女性と一緒に観客席の救援活動をされて居た様じゃ。 正に『御使い様』のお陰である。


儂達はこの御恩にどう報いれば良いのじゃろうか?



残敵の処理が終わってジェシカが儂の隣にやって来て、「お父様、どうやら、師匠、トージさんが私達を助けてくれた様ですね。 流石は師匠です! 最高です!


でもごめんなさい、私では師匠に嫁いだり籠絡したりするのは無理ですわ。 師匠にはアリーシアさんと言う心に決めたお方が居りますので。その邪魔をする様な無粋な事をするのは悪手であうわ。

そっと、付かず離れず、鬱陶しく無い程度の距離間を持つ事が重要みたいです。 ラフティがやった様に。」と告げて来た。


「ふむ。判ったのじゃ、肝に命じて置こう。」と答えるのがやっとであった。



儂は直ぐに負傷やの救護活動を行う様にと命じて、近衛騎士達に労いの言葉を掛けて王宮へと戻ったのであった・・・。



■■■


後日の報告書を読んで正直唖然としてしまった。


武装集団に成りすました帝国軍の精鋭部隊の数、1258名、内明らかに『御使い様』の手に掛かって絶命又は行動不能状態になった者、125名、裏切り者の王宮魔術師団の全員が『御使い様』の手によって処刑されていた。


一応、尋問用に足を石で固めてくれた者も数名居た様じゃが、それ以前に自ら足を千切って逃げようとしたらしく、出血多量で殆どの者が絶命していた。


『御使い様』は魔法だけでなく、剣術も素晴らしい腕をお持ちの様だ。人体をどうやったらあの様に綺麗にスッパリと真っ二つに出来るのか、近衛騎士団長も首を傾いで居た。

しかも、防御で受けようとした剣や盾ごとスルリと斬られていたらしい。 もう『御使い様』の事では一々驚くのさえ無駄に思える。


ただ感謝の言葉を伝えたいが、大袈裟な事や格式張った事をすると、かえってご迷惑になるとジェシカが言うので、感謝状と少しばかりのお願い事の手紙をジェシカに託したのであった・・・。


勿論、今回の反逆に加担した者共、貴族家も含み全員極刑にして家も取り潰した。


そして、久しぶりに神殿に足を運び、女神様にお礼のお祈りを捧げに行ったのであった。


さてと・・・憎き帝国め! どうしてくれよう?

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