第120話 ウキウキしない王都ショッピング その1
さあ、今日は気分新たに大嫌いな王都にやって来ました! とアイドルの寝てる部屋に忍び込むどこぞの公開犯罪番組のレポーター宜しく脳内で軽快な感じでアナウンスを入れて嫌気を抑える俺。
ソーッと王都の俺の家から出て何食わぬ顔で街の人混みに溶け込む俺。
師匠から事前に聞いて来た地区へと向かうと、流石は腐っても王都。もの凄い数の宝石商と言うかアクセサリー屋が建ち並んで居る。
一応、普段より高級な服に着替えて居るので流石に『貧乏人お断りシッシ!』とはヤラレ無いと思う。
多分視る人が見れば判る『ケープ・スパイダー』の糸で織られたケープ・スパイダー・シルクのシャツにズボンである。
これで入店させて貰えなかったら、俺の顔が貧乏臭いってか?と脳内で一人でボケたり突っ込んだりしていたが、何とか無事に1店目への潜入に成功した。
入店早々に店員の厳しい全身チェックの視線が頭の髪の毛からつま先まで素早く走る。
そして徐に笑顔になって、「お客様いらっしゃいませ、当店は初めてございましょうか? もしお探しの物等ございましたらお気軽にお申し付け下さいませ。」と恭しく頭を下げつつ言って来た。
どうやら第一関門はクリアして、俺を客と認めてくれたらしい。
俺は内心ホッと一息付いて、探しているシンプルな結婚指輪を言葉で説明する。
俺の説明を聞いて『石』が無いと判るとぼったくれないと思ったのか、あから様にガックリとする店員。
そんなにガックリしなくてもええやん!って思うのだが石が付いて無いと安いのだろう・・・。
余りにも店員の落胆とちょっと俺をバカにした様な気配にムッとしてしまい、
「ところで、シンプルって言っても指輪の裏側に
驚愕の表情で一瞬息を飲んで10秒程考えてからニッコリ微笑んで答える。
「すみません、生憎現在はその様な内側に石をあしらった物はございません。 そうですか、お客様の故郷ではその様な高度な細工が主流だったのでしょうか? 素晴らしいですわ。 しかしお客様、大変失礼ではございますが、プラチナはそこそこの値段でご用意出来ますが、ミスリルもオリハルコンも稀少な金属でございますので、価格が大変な事になってしまいますわ!」とヤンワリと「てめぇ~大口叩きやがって、支払えるのか?この野郎!?」と言う意味を遠回しに言って来た。
「ああ、支払いは大丈夫ですよ? こう見えて私意外に持って居ますので。私の商会名をご存知かは判らないですけど、『オオサワ商会』の商会長をやっておりますので。それに去年のオークションで『ホーラント輝石』も良い値で国王陛下に買って頂いたので、少々の金額なら普通にお支払い可能ですよ。」と自分で厭な奴だなって思う様な言い方で反論してしまった。
向こうは驚きの余り言葉を失って居る様子。
その間に店のショーケースの中をザッと見回して全部デッカい下品で無粋な石が付いているのを確認してから、「申し訳無い、来る店を間違えた様だ。」と言ってクルリと回れ右して店から出たのであった。
普通は知らんけど、「当店にその様な物はございませんが当店の職人に聞いてみて特注なさいますか?」ぐらい言えって話だよ!
心配しなくても、ミスリルの塊持ってるし!!
店員から胡散臭そうな目で見られたり値踏みされるのって、意外にムカつく物なんだね。
それとも俺が常識外れな事でも言ったのか?
色々カチンと来たのもあったけど、あんな店で大事な結婚指輪を買うのはないな・・・と店の名前をメモ帳に書いて×印しを付けて置いてある指輪等のデザインも含め詳細をめもしたのであった。
朝から2時間ぶっ続けで店を廻ったが、30軒程廻って何処も彼処も最初に×を付けた店と似たり寄ったり。
なんなら店員の対応だけ取るともっと酷い所ばかりであった。
日本で指輪コーナー等に縁の無い生活をしていた俺でさえ判るが、この世界の指輪のデザインはダサい。
でも落胆してばかりも居れないので、挫けそうになりつつも次の店へと足を動かすのであった。
そもそも凶器や武器が欲しければ武器屋に行くって話だ!
要は何チャラ子爵とかと同じ穴の狢でエレガントさでは無く下品な金持ってますアピールの為にああ言う日実用的で指が攣りそうなデカイ石を装着する風習が根付いてしまったんだろ?
作る方も食って行く為にしょうがないって事だろうか?
こうなったら、職人を直接訪ねて交渉した方が正解に思えるんだが。
幸いな事に指輪を作る位のミスリルは持っているんだけど、武器の鍛冶職人じゃないと加工出来なさそうな気がするな。
兎に角、まずは店を廻ろう! なぁ~に、王都は広い全部総浚いすれば1つぐらい見つかるさ!!と自分自身に言い聞かせ夕暮れ前まで王都をグルグルと廻ったのだった。
甘かった・・・。
王都は広く、全国から様々な商会などが集まる。
確かに店の数だけは異常に多い。
だが今回俺が欲して居るのは、宝石商やアクセサリーを販売する店や商会である。
そう、王都には非常に多くの俺が今回必要としていない全く関係無い(お呼びで無い)店が多くあったと言う訳だ。
もう直ぐ夕暮れと言う午後の4時にガックリしながら人目の無い路地裏からゲートで自宅へと戻るのであった。
グッタリとした様子の折れを見て収穫が無かったと察した師匠がケケケと毒リンゴを作りそうな笑い声を上げていたが、
「まあ、王都は広いからそんなに簡単に初日から見つかる訳がないさね。いっそ、職人を探して直接頼んだ方が早くないかね? そんなに時間に余裕ある訳じゃないんだし。販売している店に聞こうとしても、まず教えてくれないからね。
奴らは職人と客の中間で利を得てるからね。自分ら独自のルートやお抱え職人を教える訳が無い。」と俺が帰り際に考えていたプランを全否定されてしまったのだった。
「えー? そうか。言われて見れば確かに中間マージンだ食い扶持なのに教えてくれる訳がないか・・・。」と納得して項垂れてしまうのであった。
そんな俺を見て師匠がこう提案して来た。
「何の金属使うつもりかは判らないけど、探すだけ探してみて駄目だった時は魔法操作が器用なお前さんのこった。いっそ自分で愛する妻への物を独自に作ってみたら面白いんじゃないかね? ほら、気持ちも籠もるじゃろうし。きっと泣いて喜んでくれるじゃろう?」とニヤリと笑って見せた。
「うむ、それも考えたは考えたんですが、魔法のゴリ押しだけでミスリルで指輪作れますかね?」と師匠に尋ねてみるとミスリルで作るつもりだった事に驚かれてしまったのだった。
ミスリル、それは日本異世界物でも有名なファンタジー金属であるが、非常に出土される量が少ない稀少金属でもあるのだ。
まあ俺は『女神の英知』のお陰でミスリル鉱石を発見して持っているんだが、その後の精製には多大な時間と魔力を費やした。
もっと時間と魔力を掛ければそれこそ、俺の使うサイズの小剣1本ぐらいは作れそうな量はあるだろう。
そう、ここまで言えば判って貰えるだろう? ミスリルの精製だけでも半年近く日々コツコツやらないといけない程に大変な作業なのである。
ミスリルに似た色になるプラチナとは比較にならない程である。
もし今から結婚指輪を0から作るとなったら流石に間に合わないと踏んでいるのだ。
だから、取りあえずミスリルの指輪置いてないかなぁ~と言う願望を持って彷徨っているのである。
最悪、プランBとして、プラチナ製の指輪だけは予備として作って置くかな・・・。
見つかりませんでした、用意出来てませんじゃあんまりだし。
こう言う時、日本のネットで検索出来たり通販出来るってのは本当に便利だったよな。
ポチったら翌日に届くとか引き篭もれって言って居る様な物だし。
食べたい物も普段の食材までネットでポチったら届くとかなんて素晴らしい環境だろうか?
でも笑えるのは、他にも理由あったけど多くの人が出歩かなくなって『運動不足』になって、態々お金払ってジムに通ってウォーキングマシンとかで歩いてたりする事だよね。
俺は夕食までの空いた時間、一旦部屋に戻って試しに精製してあるミスリルの塊を無属性魔法等を使って造形出来ないかを確認するのであった・・・。
ミスリルの塊を熱しつつある力を掛けると、赤い様な白い光を放ちギューン♪と言う高周波数な唸り音を発している。
最初の目標としては指輪1個分の分量を塊から分離する事なのだが、ミスリルが発する真っ白い光と放射熱で額から汗が滴り落ちる。
実際にもの凄い魔力を秒で消費しているのだが、もの凄く固い。
どうかすると集中力が途切れそうになってしまうがこんな高熱状態の物を床に落としたら、それこそ床を焦がして穴を開けて1階まで落ちてボヤでなくて火事になってしまうだろう。
ちょっと場所が拙かったな。と反省して居ると、「トージ兄ちゃん、夕食だよー!」と子供らの呼ぶ声が聞こえた。
ヤバっ!急いで冷ます? いや、魔の森の小屋の前の土の中にでも置いて冷めるまで放置だな!と無難な方法で火事にならない様に真っ白に輝くミスリルの塊を維持しつつゲートで魔の森の小屋の前に移動して地面に穴を掘ってミスリルの塊を投入して土を被せるのであった。
汗ビッショリになったので、素早くクリーンを掛けて自宅の自室に戻って何食わぬ顔で食堂へと急ぐのであった。
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