第117話 ジェシカの里帰り
季節が変わり、気温がやや下がった様で日中でも爽やかで過ごし易くなった。
日本人にしてみれば秋の感覚だが、この国では冬季となる。
そもそもマッシモではそれ程気温は下がらず、過ごし易い季節に感じてしまう。
俺が半裸に近い状態で何年も『魔の森』で生きて来られた要因の一つだ。
もしこれがザ・厳冬って感じに吹雪いたりしていたら、転生したものの、即お陀仏で終わっていた筈だ。
まあ特にあの魔の森自体雪が降らない所だった様だけど。
先日の魔物狩りで魔法に対する意気込みと言うか情熱が増した参加者達は、俺にお礼を述べた後、「是非また行きましょう!」と決まってお願いして来た。
余程楽しかったのだろうか?
フィールドアスレチックと言うよりも、ゲーセン感覚なのかも知れない。
あれだけ訓練していた魔装だが、幸か不幸か全く恩恵を体感する機会が無かったし。
別に隔週ペースぐらいで行っても俺は問題無いのだけど、みんなはそれで休みが1日潰れてしまっても良いのだろうか?と心配してしまう。
ほら、従属圧力?いや同調圧力だっけ?と言うか、みんなが行くなら私も行かなきゃ!ってならない様にしたいなって思うんだよね。
さて、そんな魔物狩りの余韻も冷めぬ先日、何やらジェシカの下へ父親である国王陛下からの手紙と命令書が届いた様だ。
なんでも既に迎えと言うか護衛の騎士団が王都を出発しているとかで、急遽王都に戻って報告と言う名の顔見せと成果の披露を求められているらしい。
そりゃまぁ大変なこって・・・。
俺が送って行けば一瞬なんだが、面倒な事にしかならないのでそれは出来ない。
前にも言った様に『あの』王家の一員って事だけでも前面的にしんらいするのは危険である。
それに俺が王都に行く時って、必ず何かトラブル絡みだからね・・・碌な印象が無いんだよな。
「トージ師匠、そんな訳で私とラフティは
「お嬢様!そんな事仰っては陛下がお可愛そうでございます。愛する娘と離れ数ヶ月、きっと寂しいのでしょう。ここは、親孝行と思って・・本当に遠い道程でウンザリするでしょうけど。」とこれまた苦い顔でジェシカを諫めつつ言葉の表面だけを取り繕うラフティ。
「そうか、地位のある人達は大変だな!まあ、多分、2人が王都に着いた頃には新居が完成してるぐらいの時期だからマッシモに戻って来た際には俺達はもう居ないと思うけど。
本当に数ヶ月の間間借りさせて貰ってありがとうな!助かったよ。」と俺が不在時にここを出て行く事になりそうなので先にお礼を言うと、その事を完全にお忘れていたらしく、ガーンと言う文字が背後に浮かびそうな程にショックを受けていたのであった。
「ああ・・・そんな~!私の居ない間に皆さん出て行かれるのです? 酷いですわ!」とオヨヨと泣く真似をしていた。
「まあ、そうは言ってもなぁ~。そもそも家が完成するまでの間借りだった訳だし。折角出来上がった新居に引っ越さずにここに居る訳にはいかんからなぁ。
でも世話になった事に関しては感謝してる。
王都までかなりの距離あるけど、道中気を付けてな! ある程度の魔物や盗賊程度ならラフティと2人だけで無双しそうだがな。 良いか?これだけは言って置くが、相手の命を取る事を躊躇するなよ!
一番優先すべきは自分の命、次が仲間の命だ。後は余裕が在ればって事にしておけ! あと道中、魔力の残量の管理だけは怠らない様にな! 何かの際に魔力切れで死んだら意味ないからな!」とアドバイスをしておいた。
「勿論ですわ! また帰って来たら、約束通りに皆さんと一緒に魔物狩り行きたいですわ! そしてダンジョンにも・・・」と宣うジェシカ。
ジェシカよ、不吉だから変なフラグは立てないでおくれ!と心の中で突っ込むのであった。
とは言え、ジェシカ達の出立は護衛の騎士団の一行がマッシモに到着してからとなる。
予定では早ければ今週、遅くとも来週の始め頃には到着するだろうとの事である。
さて、そうなると若干面倒な予感がしてならない。
ここジェシカ邸は貴族街のほぼ中心に近い一等地に位置する豪邸で、通常であれば、子共であろうと庶民は近寄る事すら出来ない場所なのである。
幾らジェシカ本人の許可が
有るとは言え、俺や庶民のの男や子供らが居候して居るとなると世間への見聞が宜しくないし、お堅い騎士団が来たら間違い無く揉めそうな気がする。
うーん、今週中に一旦何処か余所に避難するのが賢い気がするな。
「ねえ、アリーシア、何処か俺達全員が一時退避出来る宿か一軒家手配出来ないかな?」と理由を説明して聞いてみる。
「確かに言われて見れば面倒な事になりそうな気もしますね。しかし人数が人数ですから・・・ちょっと探してみます。」とアリーシアが応えて街へと出かけて行ったのだった。
アリーシアが出かけた理由を聞いたジェシカは「そんな心配無用ですのに。私がそんな事にならない様に抑え込みますから大丈夫ですわ!」と胸を反らしていたが、それを鵜呑みにする程俺はバカじゃ無い。
「ジェシカよ、気持ちは嬉しいが、言っては何だが、前回それを信用して俺の仲間である子供らに害が及んだんだよ? 悪いがこの手の話で王家に対しての信頼度はほぼ0だ。」と俺も本音を語った。
「それに、次に何か害が及んだら、(害を及ぼした)
結局、アリーシアが探して来た宿屋一軒丸ごと貸し切って新居の完成まで凌ぐ事となったのだった。
何時も目の届く範囲に居た俺達が急に居なくなったのが相当に寂しかったらしく、何故かラフティと2人でちょくちょくうちの宿に泊まりに来ていたのだった。
意味ないじゃん!!って思ったが、ジェシカ邸で無いだけまだ言い訳が効くと思って一応言葉を飲み込んだのであった。
■■■
王都から護衛の騎士団が漸く到着し、ジェシカ邸の敷地の隅に建ててあった護衛騎士用の宿舎にて長旅の疲れを癒やした後出立する事になったらしい。
その辺りの情報を知らせに来てくれたラフティ曰く、やはり予めジェシカ邸を出ていて正解だった様だ。
護衛としてやって来た近衛騎士団の隊長は堅物で融通が利かない事で有名な人物だったそうで、危うくニヤミスでしたとホッとした表情で語っていた。
そして、ジェシカ達は2日後に出立する事に決まったらしい。
たった2日で王都からの長旅の疲れが取れるのか疑問だが、まあ厄介な人物が、マッシモから早々に消えてくれる事は喜ばしい。
まあ哀れに思うのはあんなガタゴトの竜車に乗って堅物と顔を合わせながら王都まで戻らねばならないジェシカとそれに拒否権無く付き合わされるラフティ。
あの2人、2人で居る際には意外に砕けた口調の会話で話して居り、非常に仲が良い。
だが堅物が一緒だとそうも行かないので、2人共に相当肩が凝る事だろう。
出立の朝、一応師匠としても弟子の無事を祈りつつ騎士団を先頭にしたジェシカ達の竜車を見送って手を振るのであった。
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