第110話 ケーキのお値段と初めての討伐体験
アランさんとソリアの結婚パティー以降、参加者達から口々にケーキについてを問われる様になってしまい、ある程度は反響を予想していたが、少々うっとうしくなって来た。
それに俺だけで無く、アンテナショップの子供達にしつこく食い付いて来る奴らも居る様で子供達が困ってしまっているらしい。
あの頃はアランさんとソリアの結婚披露パーティーを素晴らしい物にするって言う妙なテンションでのめり込み、勢い余ってミルクを買い付けに何度も往復した挙げ句、時々余って廃棄すると言う勿体無い話を聞き付けて、そんな事ならと、ミルク屋のおっちゃんと契約して、マジックバッグを貸与し、毎週一定量を俺が買い付ける謂わば独占契約を取り交わしたのである。
つまり、俺は新鮮なミルクを何時でも入手出来る訳だが、例えレシピを登録したとしても、他の人が新鮮なミルクを例え手に入れたとしても、あんな複雑な幾つもの工程を人の手だけで行うなんてほぼ無理だろうと思っているのである。
まあ2人の結婚披露パーティーが無事に終わって通常のテンションに戻った故の感想ってところかな。
やっぱ時の勢いって怖いね・・・。
そりゃあ、長期的にはスィーツの店作るもの悪く無いと思うけど。原材料が高過ぎて今のままだと作っても王侯貴族や超金持ちぐらいしか食べる事が出来ないんだよね。
実際あのウェディング・ケーキ、俺の手数料とか報酬的な物や最初の失敗作の材料費とかもを抜きにして、最終的なウェディング・ケーキ単体の原材料費だけで換算すると、もし俺に奥さんが居たとすると、呆れられて『実家に帰られる』程度の金が掛かってタリするんだよね。
ほら、折角『日本の食の英知』貰ったし、悪乗りしたと言うか、マルーシャ様にも食べさせて唸らせたかったと言うか。 まあ勢いだ。
ケーキ作り自体も結構楽しかったし、みんなが美味しさで驚く顔を見られたのも面白かったから概ね満足して居るんだけど、同等のケーキを金貨50枚で請け負う受注生産なら良いかな。
実際県材料費がザックリ金貨25枚くらいだし、手数料入れて倍の金貨50枚。それ程ボッタクリ価格では無いと思うんだけど?
最近鬱陶しく感じて以降金貨50枚の完全受注生産なら受けると言ったら、みんな絶句して黙っちゃうんだよね。
そもそも、
あの商人ギルドの2人が食べただけでその価値や原価までも察してしまい、ケーキを販売しようと口にしない段階でヤバイ金額って事な訳だ。
あれだけ甘いって事は相応の砂糖を使ってると言う事なんがから。
家の従業員同士の結婚に俺が出す程度の料理だからと高を括っていたんだろうけどさ、残念だったね! 俺は家族同然の者には家族と同じ様な対応をするんだよ! 採算とか全く考えずにね。
まあある意味、この金額は断る口実も半分ぐらい含まれていてあんまりにも安く見てる様な奴らには効果覿面であった。 但し一部を除いて。
今の仮の住居の持ち主であるジェシカには遠回しなこの口実は逆効果で、「あら、そんな金額で宜しいですの?」と前のめりになってしまった・・・。
イカン、相手は嘘でも第一王女だったのを思わず忘れていた。
なので慌てて訂正と言うか、今度は言い方を変えてヤンワリと断ったのだった。
そんな事より国策でもっと砂糖の価格を安く抑えて欲しい物だ。
そうすれば、スィーツの店の出店も夢じゃ無いのだ。
この世界に来てかなり経つが、偶に炭酸飲料水とかでシュワッとしたくなったりするが、炭酸水自体は魔法で作られても、砂糖が馬鹿馬鹿しい程に高過ぎてサイダーを作るのを憚られるのだ。
■■■
アランさんとソリアが醸造所地区に引っ越して行き、ポツンと残されたソフィアが少し寂ししそうではあったが、気丈仕事に励む事で乗り越える事にした様だ。
さて、俺も気分を切り替えてそろそろダンジョンアタックの続きを始める事にした。
そんな俺の気配を察知したのか、ジェシカがボソリと「トージ師匠、私も一度ダンジョンに行ってみたいのです。」と突拍子もない事を言い始めた。
「え?今の状態でダンジョンはまだ無茶だよ。」と俺が諫めると、「止まった的に魔法を当てる事は出来ますが実際に魔物を討伐した経験がないので、もしもの際に実を自分で自分自身だけで無く周囲の者まで守れる様になりたいのです。」と反論して来た。
うむ、気持ちは判らんでは無いが、「身体強化と魔装を確実に身に付けて置かないと死にに行く様な物だな。 まずは身体強化と魔装を完璧に身に付けて、ダンジョンではなく、森の浅めの所でゴブリンやホーンラビットの討伐からだな。 俺の故郷の言葉に100里の道も1歩からって言う諺が在るから、イキナリじゃなくて段階段階で徐々に上を目指さないと。」と言うと、、目を輝かせ、
「判りました!では身体強化と魔装を完璧に物にしますから、魔物討伐の件、絶対に約束ですよ!」と念を押されたのであった。
ラフティが全く止めず諫めもしないので不思議に思っていたら、安全な環境で魔物を狩る体験はすべきと言う意見の様だ。
まあ、確かに実戦は大事である。
そう言う意味だとジェシカとラフティだけで無く、子供らや女性陣も一緒に経験を積ませるべきかもしれない・・・。
特に魔装を物にすれば、最低限でも怪我を負う事が少なくなる。自分で自分の身を守る術を持つのは非常に良い事と思うし。
そうだな、そうなると、アリーシアにも身体強化と魔装を覚えて貰った方が良いな。
そんな事を考えつつ、ダンジョンアタックを再開するのであった。
と第53階層はオーソドックスな森林ステージの様で、ちょっとホッとして、森林へと足を進める。
俺が甘かった・・・ここはこれまでの殺す気満々の階層を経た先のと第52階層なのだ。
普通の森林ステージの訳が無いのだ。
この階層に降り立ち15分もしない内に現実の厳しさにゲッソリするのであった。
初っ端から俺の嫌いな昆虫系のオンパレードである。
キラー・アンツと言う蟻系の魔物のキラー・アンツ・エリートと言う上位種が団体さんで襲って来る。
奴らは酸の液体を飛ばし、俺の身体を溶かそうとしてくる。
辺り一面から、蟻の放った酸性の液体の酸っぱい匂いがして来て、気持ちが悪い。
此奴らの外骨格は胃様に固く、通常の魔弾は難なく弾く。唯一の弱点は腹の裏側のポヨっとした部分と外骨格のブロックのつなぎ目である。
激しく動いて居る所は幾らおれでも狙い撃つ事は不可能で、専ら高周波ブレードによる接近戦となるのだが、多勢に無勢で旗色が悪い。
此奴らって痛いって神経無いらしいじゃん!? 全然怯む事もなくて仲間の屍を乗り越えて俺に群がって酸っぱい酸攻撃を仕掛けて来る。本当に虫嫌いだ!
兎に角、このままじゃ埒があかないので、起死回生の一発を入れて怯んだ所でちょっと新鮮な酸っぱくない空気を吸いたい。
幾らタフな専用ボディと言えど、限界はあるからね。
どんな魔法なら効果的か?
奴らの攻撃を躱しつつ頭をフル稼働させて効果的な魔法を頭に思い浮かべて行く。
此奴ら、魔物も酸素を吸って呼吸しているのだ。
頭に浮かんだ邪悪な攻撃は気化爆弾である。
瞬発的に空気に混じった可燃性の燃料が爆発する事で周囲の酸素を使い果たし酸欠状態にしてしまうのだ。
俺は襲って来る蟻を躱しつつ、胴体と頭をブレードで切り離しつつ周囲に魔力で作った魔力系燃料を空気中に撒き散らす。薄らと白い靄が辺りに満ちてきた。
俺は、魔装を3倍くらいに強化して、ハッ!と気合いを込めて着火した。ドッゴーーン♪ と言う爆音とその後に追駆けてきた爆風で揉みくちゃにされながら吹き飛ばされた。ヤバイ、耳もやられた。
自分の魔法で自爆とか笑えないんだけど?
辺り一面埃が舞い散っていて全容が見えない。
只言えるのは先程まで周囲に満ちていた魔物の気配が綺麗サッパリ消えた事と、耳が痛い事。どうやら爆音の所為か、気圧の急激な変化の所為か、耳の鼓膜をやられたらしい。
慌てて回復魔法を自分自身に掛けて『クリーン』で服も身体も綺麗にした。
回復した耳を澄ましたが、さっきまでギギギ♪と五月蠅かった鳴き声が全く聞こえなくなった。
ホッと一息着いてから勿体無いので
キラー・アンツと言う蟻系の魔物のキラー・アンツ・エリートの亡骸を回収するのであった。
回収しつつ、先程の気化爆弾をイメージした魔法の名前を考えて居たが、散々考えた挙げ句『アルテミット・バーン』とする事にしたのであった。
え?ネーミング宣センスがダサい? いや、クレームは受け付けんよ?この名前で決定だ。
15分掛けて漸く残った全部の亡骸を回収し終えたのであった。
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