第109話 異世界のウェディング・マーチ事情
アランさんとソリアの結婚がきまって、ソフィアは嬉しい様な寂しい様な複雑な心境の様である。
基本嬉しいのだがたった一人の家族を撮られた様な、おいてきぼりを食らったようなそんな心境なのだろうか?
俺は元々一人っ子だったし、唯一の家族だった両親も失っているので兄弟のある人の心境は良く判らないが、両親が亡くなってしまった時にその直後というよりも葬儀も終わって諸々の手続きなどが終わった1ヵ月後ぐらいになって、ドッと置いてきぼりにされた様な言い知れぬ悲しさと寂しさが怒濤の様に込み上げてきてしまいバタバタとしてて実感の湧かなかった葬儀の時とは違って独り暮らしで近所に聞こえないのを良い事に大きな唸り声を出して泣きじゃくったのを思い出した。
ただ、ソフィアの場合、もう逢えなくなる訳じゃないし、俺の様にポツンと独りぼっちって訳じゃないから全然マシだと思うのだけどな・・・。
そんな訳で急遽アランさんとソリアの新居を用意しなきゃ!ってなったのだが、俺はここで大きな問題点が在る事に気付いてしまった!
アランさんの職場は豆腐とシラタキの製造工場・・・そう、あの醸造所の地区なのである。しかも工場の責任者をやって貰っているので辞められると非常に拙いのだ。
そしてソリアはマッシモの街の中で、そのアランさんの作った豆腐とシラタキを販売する店舗である。
俺の様にゲートが使えればどちらかが毎日通えば良いのだが、残念ながら、俺以外にゲートを使える者はいない。
つまりアランさんかソリアのどちらかが仕事を辞めてマッシモ内か醸造所地区かに移り住むしかないのである。
うん、これは全く考えてなかったわ・・・。
2人にもその事を告げると初めてその事実に気付いたらしく、2人共オロオロしいた。
結局2人と良く話し合った結果ソリアが店を辞めてアランさんの居る醸造所地区に移り住む事となったのだった。
その話し合いの結果を見て居たソフィアが、「ほらね?やっぱりそうなるわよね?」って感じの顔をしていたので、もしかして最初から一人だけこのオチに気付いていたのかも知れないな・・・。
だとすると、そうそう頻繁に会えなくなるのでちょっと拗ねる気持ちも判らんでは無いな。
そして店の責任者と言うか店長は現在店員をやってくれて居るケイト、サニー、ジョリーンの3人組の一番シッカリして居るリーダー格のジョリーンさんに引き継いで貰う事となったのだった。
俺の周りではこの世界に来て初の結婚である。
俺はこの世界の風習を全然知らないのだが、そもそも結婚式的な物も儀式的な物も無く、身内で集まって宴会する程度なのだそうな。
つまり、披露宴的な小規模の宴会と言う感じみたい。
ドライアイスにゴンドラで登場とは言わないが少々寂しいと言うか味気ない物だ。
だが結婚パーティーって事なら、ちゃんとした物で2人を祝って送り出してやりたい。
ウェディング・ドレスも何も無く、ちょっと小洒落た一張羅を着て終わりでは、非常に寂しい。
親代わりって程では無いが俺の中身の年齢としては歳の離れた妹を送り出すぐらいの年齢差である。(流石に俺の子共と言う程の年齢差は無いので)
そんな訳で商人ギルドにお願いして広場の使用許可を取って貰ってそこで大々的に2人の結婚パーティーをする事にしたのであった。
更にウェディング・ドレス程では無いが、真っ白の可愛いワンピースをプレゼントして、アランさんにもパリッとした服を用意した。
パーティーとなると、料理である。これには俺だけでは到底間に合わないので子供らとアリーシア、そして妹であるソフィアの手を借りてかなりハードなスケジュールで調理してマジックバッグにストックして行った。
■■■
俺は1週間の間に醸造所地区にアランさん達用の新居を調達すべく、現在俺の自宅を建ててくれている職人達に相談したら鼻で笑われてしまった。
そりゃあそうだよな・・・そんなに簡単に出来るなら職人達も不要だよな。
結局は醸造所地区の2人で住めそうな家族用の物件を探してそこに住んで貰う事になったのだった。
それに新居を建築してプレゼントするのは幾ら何でもヤリ過ぎとアリーシアに止められたのだ。
アリーシア曰く、「家って言うのは、2人で共に頑張って色々意見を出し合って建築する物だ」って言われて確かにそうだな。
俺のやろうとしたのは、そう言う2人の思い出の1ページを取り上げる様な事だったな・・・と反省したのであった。
あれ?じゃあ、俺の今度の家って?とちょっとモヤッとしたのだが、もしかして非常に遠回しだけどそう言う意味も含んで居るのだろうか?
◇◇◇◇
あまり俺自身は役に立たず、これと言った事もしてやれず、2人の結婚パーティーの当日となった。
早朝から、俺達は広場に食事を皿にいれて出したりする仮設の厨房と言うかキッチン的な作業場としてテントを建てて、子供達に手伝って貰いながら準備をして居るところだ。
広場にはおれが魔法で作った仮設のテーブルと椅子が幾つも置いてある。
普段のマッシモの街の祭でもここまではやらないぐらいのレベルなので、この世界庶民の結婚パーティーとしてはきっとレベル違いぐらいの規模じゃないかと思う。
実際のところ、庶民お結婚パーティーで広場の貸し出し要請があったのはマッシモの商人ギルド始まって以来初めての事だと言っていた。
もしかしたら、今後この『派手婚』が流行るかも知れないよね?
そうそう! 全く何もしてやれなかったって言ったけど、割とこの世界初の力作作ったのを忘れて居たよ。
流石に素人の俺には披露宴でよくある何段建てかのウェディング・ケーキとかは無理だったけど、質素だが、一段のウェディング・ケーキを作ったんだよ!
生クリームを作るのは大変だったよ。
最初手で掻き回したりしてたけど埒があかないので魔法を駆使して生クリームをホイップしたよ。
成功するまでに、何度あのミルクを売っていた街までミルクを入手しに通った事か・・・。
兎に角、スポンジの焼きミスから数えるともの凄い回数を焼いている。
お陰で当分の間は余り美味しくは無い失敗作が大量に『時空間庫』に貯まってしまったのだった。
ふっくらとフワフワに焼けなかったスポンジの出番が今後在るとは思えないけど、何か食い物を粗末にするのが出来なくてね。
そんな俺の努力の結晶であるウェディング・ケーキ。
今回のメインイベントの予定だ。
一応、2人に入刀して切り分けて貰う予定だ。
これで評判よければ、スィーツ屋でもやろうかな?
予定の時間になると、竜車で2人が現れて、招待客も含め観客が盛大な拍手で出迎える。
2人は照れながらも何度も頭を下げて、会場を通り抜けてお礼と結婚した事を全員に報告する様な短いスピーチをしてから主役席に座っったのだった。
今回のこのパーティーはビュッフェ方式にしているので、特に細かなサービングも必要無く、俺達身内で十分に賄えている。
そして
次々に運ばれてくる料理に観客達が群がって全員が取り皿に取り分けて美味しい美味しいと呟きながら食べている。
まあその中に第一王女であるジェシカが混じっているのだが、本当に大丈夫なのだろうか?
そしていよいよメインイベントであるウェディング・ケーキが登場である。
「さあ、皆様、こちらの料理はケーキと言うデザートです。これは本日結婚した2人に切り分けて貰う事となって居ります。」とアナウンスして2人が綺麗に切り分けるまで勝手に取らない様にとくぎを刺したのであった。
この世界で初のケーキ、2人が切り分けて皿に載せて行き、準備が終わったら、全員がキチンと並んでお行儀良く皿をテーブルに持ち帰って、一口食べて甘味とフワフワの食感に全員が夢中になっていた。
全員ケーキを大絶賛である。
この調子ならケーキ屋を始めれば客足は保証された様な物だろう。
尤も、原材料の単価が高過ぎるのだけどね。
そんな感じに2人の結婚パーティーは大成功で幕を閉じたのであった・・・。
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