第106話 懐かしいアイススケート
翌朝極寒の第51階層へと出勤して昨日氷に刺しておいた剣を抜こうとしたがキンキンに冷え切った剣は抜くに抜けず剣自体を魔法で温めて氷を溶かしつつ漸く抜けたのであった。
まさか、剣を抜くと言うそれだけで15分も取られるとは思いもしなかった。
俺が剣を抜くのにマゴマゴしていた所為か、漸く昨日の地点から進み始めた所にホワイト・ギャング・ウルフの群が襲い掛かって来る。
此奴らの戦法ってどうやらワンパターンみたいで、全く昨日と同じ事の繰り返しである。
初見だとその俊敏さと群での狩りの練度に一瞬ビビるけど、2日目は楽に狩れた。
流石にあっという間とは言えないが、40匹を相手にした割には短時間だったと思う。
昨日同様血が凍る前にに素早く血抜きを済ませてウォッシュ&浄化・・・これを『クリーン』と名付けようを済ませて『時空間庫』へと回収して行く。
そして、次は僕の番だね?って感じにギュオーー♪と吠えつつ駆けよって来るホワイト・キラー・ベアー。
もうこう言うパターン化されているのがこの階層の標準なのかも知れないな。
このパターンの繰り返しなら、気温を断熱シールドで冷え込みさえ防げば良いだけで、ある意味楽勝な階層かも知れないな。 なんて思い浮かべていた直後、突如として足下の氷がグラッと揺れそれまで澄んでいた空がドンヨリし始めてあれ?って思って居る間に風が強くなってきて、断熱の為の風のシールドを削って来る。
どうやら、氷の床の上に散らばって積もっていた氷の粒がサンドブラストの砂の粒の様に強風に巻き上げられて俺にぶつかって来ているらしい。
魔装とシールドを強化して慌てて先へと移動をするのだが、風の抵抗で思う様に進まないと言うか、足が滑っているっぽい。あっ!って思った時には思いっきり吹き飛ばされて氷に叩き付けられていて何回転もしていた。
まあ、全く俺にダメージは無いが、足下がツルツルの氷で滑るので踏ん張る処か、小学校の頃初めてアイススケートに行った時に無様に転んだ時よりも不格好なへっぴり腰で、傍で見ていたら笑わないと言い切る自信が無い。
ああ! アイススケートか!! と俺の脳裏に昔よく通ったアイススケート場で履いたスケートシューズが閃いた。
これだ!と思って、何時も手元に生やす高周波ブレードと同じ要領えで、ブーツの底にアイススケートのフィギア用のブレードを無属性魔法でイメージして生やして、みた。
一瞬ヨロッとしたが、ハの字に足を開いて膝を少し曲げてグッと堪える。
俺は転ぶ事無くスケートシューズ擬きで氷の上に立ち片足で斜め後方へ蹴ってスイ~っと前へとすべった。
これなら行けそうだ。ただ、フィギア用のブレードはちょっと選択ミスだったかも知れない。スピン等で使うトゥのギザギザが荒れた氷の表面に突っかかって逆に転けそうになってしまうのだ。
そこで直ぐにホッケーシューズ用のブレードに形状を変更したら、多少の氷面の凹凸も何のそのでスイスイと進める様になった。
日本に居た頃を思い出し懐かしい気持ちになりつつ、強烈な暴風に負けずに山の方向へと進んで行くと徐々にスピードが上がって行く。
最初こそ、このスケートに慣れて来たのでスピードが上がった様に感じるのか?と思って居たが、違った。
当初は向かい風で抵抗でしか無かった暴風の風向きが変わり、背中からの強烈な追い風が俺を押しているのだ。
しかも、気付くのが遅れたが、どうやら、ここら辺の氷面は若干の下り坂になって居る気がする。
どうやら、すり鉢状の傾斜の着いた蟻地獄形状の様だ。
普通に考えて、こう言う形状のすり鉢の中心の底には碌な物が待って居る事は無い。
確実にヤバイ何かである。
どうしようかと考えた俺は、現在の下りの斜面を利用して速度を上げつつバンクを走るレーシングカーの様に速度とバンクと遠心力を利用ししたバンクの最上段辺りまで登るこことにした。
この専用ボディの足腰のバネは素晴らしく、遠心力によるGも何のそので、グングンと速度を上げて行ける。昔高校生の頃でさえ、これだけのスピードの半分程度でさえと膝がガクガクし始めた物だ。
グルッとバンクを3周もすると中腹辺りから遠心力でグングンバンクの縁へと上がって行って、最上段の丁度山の方向に向いた所からボブスレーがコースからオーバースピードで脱線するかの様に飛びだしたのであった。その脱出スピードを殺さぬ様に綺麗に着地してそのまますい~っと山の麓を目指した。
15分程進んだ頃になると、先程までの強風は形を潜め坊温用の断熱シールドを削る氷の粒の攻撃も収まっていた。
俺は日本での経験があったから良いけど、こっちの世界にはアイススケートも無ければ、凍る程の冬の寒さを経験する事も無い。
おそらく、俺がスケートの要領で・・・なんて説明レポートを出しても理解出来ないだろうな・・・と思い溜息を心の中で付くのであった。
結局、この階層ではブーツの底に金属のスパイクを装着する事を推奨と言う風に書く事に決めたのだが、並大抵の防寒具では死ぬと言う一文を書くのを忘れないようにしようと心にメモするのであった。
斯くして、更に1時間程移動して漸く山の麓へと到着して、目の前に聳える『氷』の山に愕然とするのであった。
まさか、これを登れと? ここ最近のダンジョンは無茶振りが過ぎる・・・。
とは言え、俺にはフォース・フィールドもゲートもあるので、不可能では無い。一旦上空へゲートで出て、足場を作って氷の山を良く観察すると、幸いな事に山頂ではなくて、中腹?7合目辺りに下層への階段の入り口が在るのを発見したが、同時にその階段の入り口のある場所の前には氷で出来たゴーレムっぽい物がゲートキーパーの様に佇んでいた。
これも酷いな。
だが、場所は氷の山の中腹である。何も素直に奴と戦う必要はない。 上手く立ち回って山から落とせば良いのだ。
俺はその階段の入り口の広場に近付き、着地と同時にアイス・ゴーレムに対して高圧縮したファイヤーボールを7発程先手でお見舞いした。
ドッゴーーンと言うバクンと共に高圧縮から着弾と共に解放されたファイヤーボールが強烈な爆発を巻き起こす。
アイス・ゴーレムの腕に罅が入ったが、直ぐに溶かして際氷結して元通りになっていた。
やはり一筋縄では破壊されてくれないらしい。
この調子だと、腕や足を完全に吹き飛ばしたり斬ったとしても同じであろう。
俺はヒット・アンド・ウェーで攻撃を仕掛けては奴に俺を追わせ徐々に広場の縁の方へと誘導して行く。
そして縁の所で態とバランスを崩した様な演技をして慌てて蹲った風に見せつけると、アイス・ゴーレムがここぞとばかりに更に近寄って来て腕を振り上げ拳を俺の方へと振り下ろして来た。
今奴の重心は、かなり前のめりである。
チャーンス!とばかりに俺はゲートで奴の背後へと回り込んで、足の先に無属性のブロックを置いて、奴の後頭部に無属性のブロックを勢い良くぶつけてやったら、ヨロッとして足の先のブロックに躓きそのままドカッと言う音と共に前のめりに倒れ込んで行ってそのまま掛け下へとバンジーして行った。
フッフッフ、チョロい物だな。一応、広場の縁から、顔を出して掛け下を見ると、粉々になったアイス・ゴーレムの残骸が散らばっていた。
流石に彼処までバラバラになると、修復は出来ないらしい。ざまぁ~である。
思わず鼻歌交じりに階段の通路へと入り、ホッと一息着くのであった。
ここの氷で出来た下層への階段の通路は青く氷の壁が光っていてとても美しい世界である。
氷の壁の青い光はブルーのLEDを使った間接照明の様で海の底に居る様な気分になる。
こう言う景色と言うか、光景だけなら、美しいと感じるが、生身の素の状態だと、数分で凍死しかねないので恐ろしい所だ。
幾ら綺麗な風景でもおいそれと、アリーシア・・・やはり、長くさん付けで呼んでいたので違和感がに拭えないな・・・アリーシアさんを連れて来て見せてやる事も出来ないな。
あの花園であんなに喜んで貰えたので、次なる場所は無いかと普段から注意して探しているのである。
何故急にそんな気持ちになったのか? 別に急にと言う訳では無いが、ちょっとした出来事と言うか・・・。
実は先日の話だが、豆腐&シラタキ工場の長をやっているアランさんからとある相談を受けたのだ。
アランさんの相談事に関しては、俺がどうこう言う内容では無かったので、頑張れと応援したのだが・・・
それが切っ掛けとなって俺なりに色々と真剣に考えたのである。
ちょっとボーッとして氷の壁を見て居たが、気を取り直して通路の奥の階段へと進み、階段を降りて行くのであった。
高い氷の山の中にある下層への階段だが、実際の高さも距離も関係は無い。
普通に3階分ぐらいの段数を降りると第52階層である。
階段の通路から顔を出して52階層の様子を確認し、ちょっとホッとしてから、今日の探索を終えてゲートで自宅では無く、貴族街の外の路地裏へと戻るのであった。
何故ジェシカ邸に直接戻らないのかって?、そりゃあ弟子にはしたし、魔法は教えたけど、アリーシア達とは基本的に信頼の度合いも違うからね。
何でも曝け出す様な愚行はしない。
ジェシカにはジェシカなりの立場があるのだ。その立場故の義務等で情報が漏れて、俺達に不利益が降り降り掛かる事も考えて置かねばならないからね。
ジェシカ自身は単なる魔法バカ・・・いや魔法オタクで悪気は無いかも知れないが、あの王家の一員なのだ。
悪いが、俺はあの王家をそこまで信用出来ない。
あの王様も悪い人では無いみたいだが、決断力と政治能力や統率力はそれ程でも無い様に思える。
まあ他の国を全く知らないので何とも言えないが、何時か時間を取って諸国を廻るのも良いかも知れない。
幾らゲートがあっても、一瞬で行けるのは行った事のある所限定だから、ウイングスーツで飛ぶにしても各国の位置関係等の情報を仕入れて置かないと何処に向かって居るのかさえ判らなくなるからな。
この国では、地図は軍事情報と言うか国家機密に分類される内容の様で、俺達庶民が入手出来る地図は、小学生の落書きの様な微妙な物だけである。
で、隣国の帝国とは長年微妙な関係にあるので王国で帝国の地図は入手出来ない。この大陸の大まかな国の配置の地図が欲しい物だ。
俺の頭の中の『女神の英知』は内容のアップデートがされて居ないので、そう言う方面では全く役に立たない。
いや、『女神の英知』のお陰で失われた技術?であるマジックバッグの製造が出来たのだから、文句を言っちゃ駄目だな・・・。
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