第105話 知らぬ所で・・・
王都の貴族街のとある豪華な屋敷の一室では王国の魔法界の重鎮である3大魔法家、通称魔法御三家の当主が集まり、更にその御三家に付き従うこの国の魔法使いを輩出し続けている25の家の当主が参加していた。
この会合はこの屋敷の持ち主である王宮魔術師団の団長ケイン・フォン・ハウザーの号令で開かれている。
「では、今回この場に集まってくれた事を感謝する。今日ここに集まったのはローデル王国を代々守って来た魔法使いを輩出して来たローデル王国の魔法界を支える家の者達である。」と重々しい声で口火を切る王宮魔術師団の団長ケイン・フォン・ハウザー。
その右側には魔法御三家の右翼を担うゴランザ・フォン・バスティンが座っており、左には御三家のもう1つである、ライオス・フォンハイデンが((苦い顔付きで座って居る。
「多分、多くの者達は、既に耳にしているかも知れないが、古くからこの王国を他国の侵略や魔物による蹂躙から幾度となく守って来た我ら、魔法界を支えて来た我らの存在意義を問われる様な事態が起こった。
以前、『ホーラント輝石』をオークションに出した冒険者を覚えて居るだろうか?名を『トージ』と言う青二才なのだが、奴は魔法が使えるらしいのだが・・・、いや儂も魔法を発動する現場に立ち会った訳では無いが、魔法で作られたドームを王宮の庭園で目にした。
その場に居た国王陛下や第一王子殿下の証言によると、『やる』と宣言してから何も詠唱すらせずに一瞬ににしてドームを築いたとの事じゃった。物は確認したが、恐ろしく強固に固まられた魔力の残滓を5m離れて居ても検知出来る程の物じゃった。しかも儂にはそれを破壊する事すら出来なかったのじゃ。」と言って一呼吸してから更に続ける。
「で、それから王宮の右往左往振りはご存知で有ろうが、結局、ジェシカ第一王女殿下が、弟子入りすると言う『名目』でマッシモに居を構える事になったのはご存知じゃろう?
問題はじゃ。そのマッシモからの月次報告が先日届いたのじゃが、何と、才能の欠片すら無かったあのジェシカ第一王女殿下が、魔法を使える様になったと報告に書かれて居たのじゃ。
更に特警隊員(お付きの者)までもが1ヵ月足らずで魔法を発動するなどと巫山戯た内容じゃったのじゃ。しかも、既に奴が教え込んだ孤児達十数名が魔法使いになっておるのじゃ! これが何を意味するいか、王国の魔法界を支えて来た諸兄らにならわかるじゃろ?」と険しい顔で全体を見回す王宮魔術師団の団長ケイン・フォン・ハウザー。
「そんな事が可能なのですか? さすれば、我らの様な魔法に愛されし選ばれた血を受け継ぐ家の者達の土台が揺らぎます!」と言いながら狼狽える御三家を仰ぐその他の25の魔法使いの家者達。
「つまり、その冒険者?に師事すれば、選ばれし血筋でなくとも魔法使いになれると言う事か!?」と頭を抱えて居る者も多い。
「我らの優位が崩れるではないですか!?如何すれば・・・。」とガヤガヤと嘆きつつ誰か打開策をと天を仰ぐその他大勢。
「そこでじゃ。諸君、我らの力と我らの必要性が示されれば良いのじゃよ! 我らが最も必要とされる状況は何じゃ?」と悪い笑みを浮かべつつ周囲に問い掛ける王宮魔術師団の団長ケイン・フォン・ハウザー。
「スタンピードや戦じゃな。」と右側から口を開くゴランザ・フォン・バスティン。
「この場合、冒険者ギルドが主動となる魔物相手よりも、対人戦となる戦こそが相応しいと思いますのじゃ。」と左手から口を挟む。
「確かに戦となれば、我らの力の見せ場。我ら抜きの騎士団や兵士共だけでは、全滅は必至。そうですな!戦こそ最高の見せ場ですな。しかし、そう都合良く戦が起きますか?」と尋ねて来るその他大勢の1人。
「何・・・無ければ戦を誘導すれば良いのじゃよ!フォッフォッフォ。」と不気味な笑い声を響かせる王宮魔術師団の団長。
「こんな事もあろうかと、前々から帝国の方に伝手を作って置いたのじゃ。 ほれ、あの処分されたガンテン元伯爵がおったじゃろ?あの者から帝国内部の諜報部門の者を紹介して貰っておってな。何かの際に食い付くだろう餌を撒いておいたのじゃ。」と胸を反らし自慢気にドヤ顔で説明する王宮魔術師団の団長。
「まあ、戦となれば向こうに利を与えねばならんが、丁度良い、領土の1/3でも与え、目障りな事をしおった、ジェシカ第一王女殿下に代償を払って頂こうかのぉ~。」と締め括ったのであった。
ちなみに、この日ここに集まった全員はローデル王国の爵位持ちばかりであるり、魔術師団の構成員300名を派出している家の者である。
つまり、ローデル王国の魔術師団の全員はこの集会に集まった者の息の掛かった者で構成されていると言う事だ。
そして、この日、ローデル王国の魔術師団は人知れず完全に魔術師団の敵となったのであった・・・。
■■■
会合から数日後、ケイン・フォン・ハウザーは以前オークションで国王陛下と『ホーラント輝石』を最後まで競った帝国の息の掛かった商会の者と秘密裏に連絡を取って、衛兵の目の届かない『廃棄街』の一角にある秘密の会合に使っている小屋で密約を結んだのであった。
それから何食わぬ顔で王城へと出勤し、国王陛下に「本当にそこまでの短期間で魔法が使える様になったのか、常識的に考えても不思議と言うか、疑念が湧いてしまいます。陛下としても、ジェシカ第一王女殿下が魔法をお使いになる姿を直に確認したいのではないですか?」とそそのかし始める。
王族のしかも女性が移動するとなると、通常は男性以上に時間が掛かる物である。
特にマッシモは王都から遠い為、最低でも1ヵ月は掛かってしまうのだ。
帝国から王都へ身分を隠して潜入して居る者の人数はそれなりの数となる。
普段は一般市民や冒険者を装っているが、一旦号令が掛かれば即座に屈強な帝国兵と変身してしまうのだ。
ケイン・フォン・ハウザー自身も今回の密約を結ぶまで知らなかったのだが、帝国は件のオークション以降、徐々にここ王都に潜伏する帝国の言うところの『冬眠部隊』の数を増やして居たのだ。
この『冬眠部隊』の恐ろしい所は、見た目も言動も善良な一般市民であり、中には王国民の女性と結婚し、子を設けて居る者さえ居るのだ。
号令の掛かるその日その時まで、何の瑕疵も無い王都の一市民なのである。
帝国は何故其処までするのか? 元々昔から王国が気に入らないと言う理由もあるが、そんなのは今に始まった事では無い。
増員する事になった切っ掛けは皮肉にも件のオークションで『ホーラント輝石』を落札し損ねた事が発端であった。
さしもの帝国も『まさか』トージがまた望まぬ『ホーラント輝石』をダンジョンでドロップしているとは思いもしないのであった。
1週間程の間来る日も来る日も、何名かがローテーションを組んで国王陛下へと進言する。
「是非ともジェシカ第一王女殿下の魔法を確認すべきですよ!」と・・・。
そして、程無く王宮からマッシモのジェシカ第一王女殿下に向けて、返事の書簡が出発したのであった・・・。
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