第98話 Sランク昇格前のけじめ

翌日からの俺は『来週辺り』と言う事だったので、どうせなら、Sランクになるまでに第50階層のボス部屋を攻略しようと俺は尻に火が点いた様に意欲的に

ダンジョンに潜った。


勿論、『命大事に』は忘れて居ないし、夕方の5時までには帰宅すると言う制約はそのままである。



第49階層はマジで手こずった。


階層全体が泥濘みの階層で、有明海の『むつごろう』が出てきそうな干潟みたいな感じでしかもドブ臭いのだ。


で、魔物はマッド・クラブと言うカニの魔物とミサイル・シェルと言う泥の混じった水を水圧で物を切断する工作機のウォーターカッターバリのヤバイ高水圧の攻撃を泥に小さく開いた穴の奥から仕掛けて来るのだ。


如何に昔よりは関知の範囲と精度が良くなったとは言え、泥という微妙な遮蔽物の所為で、非常に気配察知の精度が悪いのだ。


一応、攻撃の瞬間高まる魔力を魔力関知で把握した瞬間に回避する事で2発目以降の直撃は食らわなくなった。


え?2発目以降はって、1発目は?って思うでしょ? うん、食らったさ! 自慢の魔装さえ、貫通しやがって、俺の身体強化した上腕筋貫通したよ!


もうね、激痛なんてもんじゃなかったね。焼けた火箸を突き刺された様な痛みって言えば良く判るだろうか?

痛いのか、熱いのか判らん!って感じなんだけどね。

思わず、「ギャー!何しやがる!!」って叫んじゃったよ。

勿論速攻で浄化と回復魔法で治療したのは言うまでも無い。

俺痛みには弱いから。


最初、不覚にも何処の誰からどんな攻撃を受けたのかハッキリしなくてね、何となく射線の確度的に足下の泥の中からの攻撃と当たりをつけて、魔弾をおとりにして泥に撃ち込んだら、反応したミサイル・シェルが、先の攻撃を仕掛ける瞬間を目撃したので、的の姿とどんな奴かまでが判明したのである。


まあ、ちょっとした油断もあったので、更に魔装マシマシにして態と攻撃に当たりに行ってちゃんと防げるのを確認した。


ちょっと癪に障った物で、ちょっとムキになってしまった。


だって、俺、魔装に関しては、絶対の自信を持っていたから、これが俺の防御の最大にして最終の防御と言っていいぐらいだし。


これが通用しないってのは非常に困るんだよね。


基本、この魔装があるからこその軽装な訳で、この魔装は貫通されない絶対的な物でないとイカンのだよ!!


判るだろ?


そんな訳でミサイル・シェルの攻撃にも慣れて来ると、かなり余裕を持って対処出来る様になった。


で、そんなミサイル・シェルの討伐方法だが、凄く簡単。凍らせるだけ。


『女神の英知』によると、美味しいらしいから、一度泥抜きしてから食べたいと思っている。

泥臭いのは厭だからね。


で、美味しいと言えば、この階層のメインディッシュ?のマッド・クラブだが、これがデカいデカい。大体が50cm~1mぐらいのボディーサイズで足もだけど、ハサミがデカくて身が沢山詰まってそう見るからに美味そうなんだよね。

但し、こいつも冷凍で討伐してるけど、泥抜きを上手くする方法を色々考えて、結局ちょっと弱らせたところで、ウォーターボールのんかに封じ込めて、浄化とウオッシュを掛けた後、念の為にグルグルと水流で洗濯機の様にかき混ぜて泥とか泥臭さを一掃したつもり。

最後にキュッと急速冷凍して収納した。


まあ、来週までに第50階層って意気込んで居る訳だが、まずは、このマッド・クラブがここまで手間暇掛けるに値する味か否かの判定を行う必要があるだろうお。折角苦労しておろ抜きしたつもりでも美味しくなければ、要らんし。


そんな訳で、途中にもかかわらず、一旦『魔の森』の自宅へゲートで移動して、石鍋の大きな寸胴を作って塩ゆでにしてポン酢を用意してアチチな茹で立てのマッド・クラブをバキリと足とハサミを折って中の実を穿ってポン酢にチョンと付けて実食である。


「美味い!」と思わず叫んでしまった。

兎に角濃厚なカニの風味と味。実から堪らない美味いカニの独特の甘みと言うか旨味成分がに口の中に広がりが侵略されてしまった・・・。

このカニはヤバイ。2回の人生で一番の称号を授けよう!!


最初い言った様にこのマッド・クラブは非常に大きいので、味見の為に1匹茹でたが流石に全部1人で食べるのは早々に諦めたのであった。


そのまま第49階層に戻って、無言でマッド・クラブを狩り続けてその日を終えたのであった。


泥濘んだ干潟?による進行の妨害と、マッド・クラブの旨味によるテクニカルな罠の所為で日々狩りに勤しみ、あれだけ『急いで間に合わせる!』って意気込みだったのもかなり怪しくなった金の日(金曜)になって漸く下層への階段の入口を発見したのであった。



どうしようかと少し悩んだのだが、ノってる時の勢いを大事にと思ってそのまま第50階層へと突入した。


50階層のボス部屋大きな扉の前に立ち、一呼吸深呼吸を済ませぴしゃりと両頬を手で挟み込む様に叩いて気合いを入れて、ボス部屋の扉を開いた。


広い!!

これまでのボス部屋と比べ物にならない程の広さで、真ん中の魔法陣も非常に大きなサイズである。


つまり、部屋のサイズや召喚魔法陣のサイズに見合ったボスが出てくるのであろう。


俺がこれまでに倒した最大の魔物って、ワームの13mぐらいだったよな? 今回はそれ以上のが出そうな気がする。


ボスガチャじゃないが、今度は何系の魔物だろうか?


願わくば、臭く無い魔物でお願いしたい。


今回は油断せずに、これまで以上、通常の約3倍の魔力を注ぎ込んで魔装を展開し、初っ端から向こうに攻撃のターンを渡さずに一気にやっつけようと言う作戦と言うにも恥ずかしい方針でガンガンに責めると心に決めて、

一歩を踏み出したのであった。



今回は1歩踏み出すと吸い込まれる様に扉の位置から10m程中央寄りに移動させられた。


こんな事は今までに無く初めての経験だ。


何だろう?掃除機に吸い取られる埃の様に中央に吸い込まれるとは驚いた。


その直後後ろの扉が閉まって、真ん中の魔法陣が青く光り、魔法陣から巨大な何か触手の様な物がウネウネしている様に感じるシルエットを映し出す。


あ!これは!とシルエットで察しが付いて、慌てて身構える俺。


念の為に前回同様に風のシールドを強固にして展開した。


薄かったシルエットが濃くなって、白っぽいヌメッとした表面とウネウネとした足が確認出来て『クラーケン』だ!!と叫ぼうとした瞬間に部屋の中に真水か海水かは不明がが、直径100mはありそうなこのボス部屋を水中へと変えてしまったのだった。


これは酷い。まさかの水中戦である。


泣き言を言ってられないので、空気の層(シールド)で絶縁しているつもりで思いっきり威力を上げたライトニング・アローを奴にお見舞いした。


バッシーンと落雷の様な音がしたが、胴体に命中した電撃をそのまま足がアースにでもなった様に電撃を逃がしてる様だ。


直ぐにアイス・カッターの回転マシマシバージョンをフリスビーの様に飛ばして奴の足を切断して行く。


ギューー!とそもそもクラーケンが鳴くとは思わなかったが鳴き声を聞くと、超音波だったのか、少し頭がフラつく。

恐らく風のシールドのお陰で威力が軽減されたのであろう。


4本の足を切断して、効いてる効いてる!とほくそ笑んでいたが、奴の身体が激しく光ったと思ったら、回復系の魔法なのか、再生しやがった。


クソーーー!無かった事にされちまった。すると突然今度は水流を吹き出して、部屋の中を器用に泳ぎ周り出して助走を付けた後、こっちに向かって凄い勢いで突っ込んで来た。


もう残る有効そうな手段と言えば高周波ブレードだろう。


お誂え向きに向こうの方から速度を付けて突っ込んで来てくれるのだ。

ここで一気に決着を付けないと水中だけに機動力を奪われている俺が不利になる。

いつも以上に気合いを入れて長く丈夫な無属性の剣に高周波で振動を加えて上段に構えてむかえ撃つ。


奴の頭?胴体?の最先端は目の前に来たタイミングに合わせて、思いっきり剣を伸ばしながら振り下ろして振り切った!


イカ野郎は、すっぱりと真っ二つに別れ、水中に血と黒い墨?をまき散らし、全てが終わった!


どうにか勝ちを拾えてふぅ~とため息をついてる間に部屋を満たしていた水が完全に無くなっていた。


最初に切り離した4本の足と真っ二つになった血抜き済みのイカの切り身。


普段なら大喜びでレシピを頭の中に思い浮かべる何時ものシーンであるが、何を隠そう、この俺は、イカは嫌いなのだ。


小さい頃にイカを食って当たった事があり、それ以降、全くイカを食べていない。


まあ自分が食べない物を人に勧めるのも何だが、みんなにはイカ焼きみたいにソイを掛けて焼いて提供しよう。



そして期待のボス部屋の宝箱だが、部屋のサイズに合わせたのか、これまでで最大サイズの宝箱が出てきた。


ホクホクとその大きな蓋を開けて見ると、大きな袋に入った何かが出て来た。『女神の英知』によるとどうやら、マジック・テントが入っている物たらしい。


マジック・テントと言えば、内部が拡張されて居る異世界物の定番アイテムである。


どんな風に拡張されているのか、魔法陣を確認出来るかな? ちょっと楽しみである。


さて、全ての回収を終えて俺はボス部屋の外にあるポータルに登録してから、心軽やかに自宅へと戻るのであった。


自宅いに戻って第50階層のボス部屋の攻略が完了した事を報告すると、アリーシアさんも我が事の様に大喜びしてくれたのであった。

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