第96話 秘密の花園のピクニック

作るべき物を作り終えた俺は意気揚々と自宅に戻って、一足先に帰宅していたアリーシアさんから出迎えて貰った。


「お帰りなさい、トージ様、冒険者ギルドの方、かなり時間掛かったのですね?何かトラブルでもありましたか?」と帰宅が夕方近くになったので心配そうに尋ねて来た。

いや、明日の準備してたからだよ!とは言えないので、しらばっくれて「いや、特にトラブルは無かったよ。ちょっとゲンダさんに情報貰ったりはしたけど大丈夫だよ。

なんか、俺のSランク昇格は本決まりらしいよ。何か王都の本部からSランクのカードを取り寄せてるって事だった。支部で用意があるのはAランクまでだって。」とどうでも良い事を言って誤魔化しておいた。


「そうですか、おめでとうございます!流石はトージ様です!!」と何時も以上に褒め称えてくれるニコニコ顔のアリーシアさん。


「ありがとう。まあ実際にカードを手にしてから本格的に喜ぶよ。 あ、そんな事より、さっき言ったお出かけの件だけどさぁ、明日で大丈夫かな? 忙しい様なら別の日でも良いけど。」とアリーシアさんのご都合を尋ねてみた。


すると、みるみるアリーシアさんの顔が真っ赤に上気して、「あ、私は何時でも大丈夫です。只のご機嫌伺いじゃなくて、本当につれて行って頂けるのですね。嬉しいです!」と本当に嬉しそうに声を弾ませる。

うん、ちょっと新鮮な感じで可愛い。


おじさんに片足突っ込んでる精神年齢の俺が日本で言う成人ギリギリの女性とお出かけなんて、犯罪チックだが、この世界の法律では、合法である。ノープロブレムだ。


とちょっと内心汗を掻きつつ、「いや、そんな口から出任せとか誤魔化しで誘った訳じゃないから。本当にアリーシアさんには何時も感謝しているんだよ!

俺がダンジョンに潜ったり、好きな事やってられるのも、アリーシアさんが俺の足りない所を補佐してくれてるからだって。思ってるから。だから、明日は1日普段の細事を忘れて俺と一緒に気張らししてくれると嬉しいかな。たまにはノンビリしないと。多分この家の中で一番休み無く働いているのはアリーシアさんだと思うから。 本当ならもっと早くそう言う休みを作ってあげるべきだったと反省してるから。ごめんね。」と俺が言いながら頭を下げると、慌てた様に、「そんな頭を下げないで下さい。私はトージ様のお側に仕える事が出来るだけで日々幸せをかみしめて居るのですから。じゃあ、明日は一緒に楽しみましょう! 」と蕩ける様な笑顔で言ってくれたのだった。


その後、明日の事には2人共触れずに一緒に夕食の準備をして、皆の帰りを待った。


 ◇◇◇◇


翌朝、俺もアリーシアさんも若干ソワソワしていたが、全員を送り出した後、お互いに顔を見つめ、若干照れた様に微笑んだ後「じゃあ、行こうか?」と俺が声を掛けたのだった。


「はい。何か持って行く物はありますか?」と問うアリーシアさんに「ああ、大丈夫だよ。俺が持ってるからね。アリーシアさんは気にしないで。」と答えて、ゲートを発動して、先日花園の丘に繋いだのであった。


さあ、と手を取ってゲートを潜ると「わぁ~! 綺麗!おとぎ話に出てくる精霊の住む花園みたい!」と嬉しげな声を上げていた。


よし!掴みはOKらしい。そりゃあ、そうだよな、男の俺でさえ凄く感動した場所だしな・・・。と思いなが、急に手を離すのも逆に失礼な気がしてしまい、無難に現状維持で繋いだまま下の湖が見える位置までそれとなく移動をする。


「凄い澄んだ湖!水の精霊が住んでそうだわ! 素敵な場所!!」と湖と自分を囲んでる花達を見回してうっとりとしている。


俺は座る為の台座を土魔法で作ってその上に靴を脱いで上がった。いや、シートも用意していたんだけどさ、花を潰してしまう事になるのが気が引けてね。高床式じゃないけど、ちょっとした足で宙に浮いてる台座を作った訳だ。


アリーシアさんも俺の意図を理解した様で靴を脱いで上に上がって、俺の出したクッションを使ってリラックスしてる感じに座ってくれた。


俺は、小さな卓袱台(ちゃぶ台)を出して、その上に紅茶を入れたカップを置いて、飲みながら


「長閑な風景と言うか、絵画の様な風景と言うか、本当に良い場所だね。」と話し掛けた。


そんな俺の言葉に

「あら、トージ様は以前からご存知の場所だったんじゃ無いのですか?」と聞いてきた。


「ああ、白状すると、俺女性を連れて行って喜ばれる様な場所もマッシモ周辺の良いスポット全く知らなくてさ、アリーシアさんを誘ったものの、何処か良い場所が無いかって、ゲンダさんに昨日尋ねたんだよ。

ゲンダさん、『そんな女性とデートする場所を俺に聞くのは人選間違ってるぞ!』とか言いながら、調べて教えてくれた場所なんだ。だから、昨日この場所にゲートで来られる様にちょっと下見を兼ねて来ただけで、こんなにノンビリもしてないよ。

殆ど今日が初めてみたいな物さ。」と自白したのだった。

すると、アリーシアさん的には正解だった様で「まぁ、私と出かける為にそこまでして頂いたのですね? 感激です!一生の思い出にします。」とかなり喜んでくれたみたいであった。


「でも喜んで貰えて俺もホッとしたよ。こうやって女性とお出かけするの(この世界に来て)初めてだし。また暇があればお出かけしようよ。多分ここ程綺麗な場所はそうそう無いと思うけどね。」と次回もこのレベルの場所を期待されない様に一応ハードルを下げて貰う様にお願いしたのだった。


「うふふ、はい。是非に!」と了承してくれたのであった。


そして取り留めの無い事をダラダラと話している内に昼食の時間となったので、俺は昨日作っておいたホットケーキを乗せた皿をアリーシアさんの前に置いて、蜂蜜のポットを真ん中に置いた。


甘い香りのするホットケーキに興味津々のアリーシアさんが、「トージ様、これは?」と聞いてきた。


「うん、これはパンケーキとかホットケーキって呼ばれる食べ物だね。軽めの朝食や軽食、おやつとかで食べる物だよ。蜂蜜やメイプルシロップってのを掛けて食べるんだよ。かけ過ぎると甘くなりすぎるから気を付けてね!」と言って、自分の分に蜂蜜スプーンで蜂蜜を垂らして見せると、アリーシアさんも自分の分に蜂蜜を垂らした。

ナイフで切ってフォークで刺して口に運ぶと、甘くて柔らかいホットケーキの懐かしい味を堪能した。


アリーシアさんがカットした一切れを口に入れると、目を丸く見開いて蕩けた様な表情になった。

言葉な無くともこれは判る。

どうやらお気に召した様である。


昨日、上手くふっくらと焼けるまで、何度もリトライした甲斐があると言う物だ。


自画自賛ではないが、ホットケーキの粉のパッケージの写真バリにふっくら美味しそうに焼けたと思う。

2回の人生に於いてここまで真剣に何度もホットケーキを焼いたのは初めてだった。


「これは他のみんなも喜びそうですね! そう言えば、私はトージ様を独占出来て嬉しいですけど、他の皆さんはお誘いしなくて宜しかったんでしょうか?」と今更になって、聞いて来た。


「うん、今日はアリーシアさんと2人でノンビリって最初から思っていたから、他の機会にみんなも誘ってみる感じで良いんじゃないかな?なんて言うか、最初から居るのは俺とアリーシアさんじゃん。勿論他のいんなも信頼してるし、大事な仲間であり家族でもあると思っているけど、最初から一緒にやって来たアリーシアさんと同列と言うのはまたちょっと感覚が違うんだよね。」と他のみんなと一緒の機会はまた別でと言ってみた。


俺が、言葉を探りながらそう告げると、

アリーシアさんは「そうですね、『私とトージ様は最初から一緒の2人』ですもんね!ちょっとぐらいトージ様を独占出来る時間を頂くご褒美くらい許してくれますよね!?」とアリーシアさんは満開の笑顔で返してくれたのだった。


「ところで、アリーシアさん、話は変わるけど、空を飛んでる様な気分味わってみたくない? 実際に飛ぶ訳じゃないけど、空中に浮かんでみる感じ。危険は無いんだけど、遠くまで見渡せる鳥になった気分が味わえると思う。」と俺はアリーシアさんに聞いてみた。

「え?そんな事が出来るんですか?ちょっと怖いけど、トージ様が安全って言うなら、信じて体験してみたいです。」と驚きつつも頷くアリーシアさん。


靴を履いて台座から降りると、「ちょっとだけ目を瞑っていてくれる?一応安全の為に後ろから、支えるけど良いかな?暴れたりすると危ないから、ちょっとだけね。」と断りを入れてから、後ろからアリーシアさんを抱きしめる様な格好でホールドして、ゲートで上空に繋いで、ゲートから出た直ぐの所に瞬時にフォース・フィールドを足下に展開したのだった。


「はい、もう目を開けて良いよ!驚かないでね? まあ多少暴れても大丈夫だけど。足下に見えない魔法で作った足場があるから、落ちないから平気だよ。」と声を掛ける。


「うわぁ~、空に浮いてる!! トージ様!空に浮いてます!花園の丘があんなに遠くに見えます! あ!あれは私達の住んでるマッシモの街だわ!わぁ~空に居るとこんなに遠くまで見渡せるんだ! トージ様凄いです!」と本日一番の喜びの笑顔を見せてくれたのであった。

10分ぐらい、空の景色を堪能した後、午後2時を回ったので、そろそろ帰宅しようと言う事になって、自宅へとゲートでもどるのであった。


この世界に来て残念な事は数々あれど、デジカメの様な映像を残す機械?道具がないのが非常に残念である。

今日のこのピクニックも花園の素晴らしい景色も、自分の頭の中に保存された記憶のみである。


何時しかデジカメや携帯電話の様な通信機の魔道具が作れる様になるだろうか?


師匠はどうせ、「自分で作りな!」って言うに決まってるから俺がやるしかないけど、メモリーの代わりになるメディアや方法を今度考えてみよう。と頭の中のヤル事リストに追加するのであった。


自宅に戻って、夕方近くになって夕食の準備を2人で行っていると、みんながポツリポツリと帰って来る。


全員が揃った夕食の場で、ソフィアちゃんから早々にツッコミを入れられる俺・・・そしてアリーシアさん。


「あれ?何か今日、アリーシアさん、超ご機嫌じゃない?何か良い事あったのかな?ねえ? あれ?どうしたんですか?トージ様?あれ? もしかして、2人で何か良い事しちゃった?」と鋭い指摘にたじろぐ俺。


嬉しげだが少々顔を赤くしてニコリと笑っているアリーシアさん。アリーシアさん、それ隠して無い感じ! 少しは努力しようよ!!


「あーー!狡いんだ!アリーシアさんだけなんて!何したの?ナニしたの?」と変なカタカナのニュアンスを言葉に含ませるソフィアちゃん。


「こ、コラ、言い方が!何もしてない、ちょっと用事でお出かけしただけだから。変な言い回し方をしちゃ駄目!」と注意するものの、結局鋭い女の勘かは判らんけど、白状させらてしまったのであった。


結果、師匠も子供らも全員で再度、あの花園にピクニックに行く約束をさせられたのであった・・・。


まあ近々に全員連れて行く予定だったし、ここに居る全員は俺のゲートの事もしっているからから良いんだけどね・・・。


また、ホットケーキを焼かなきゃ! 今度は子供も居るしもっと多めに焼いとかないと!


しかし、アリーシアさん、ちょっと嬉しげと言うか、少し自慢気に見える気がするんだが?


師匠はニヤニヤしてるだけで、我関せずだった。


まあ綺麗な場所だからみんなも喜ぶだろう・・・。


と少し焦る場面もあったが、今度の定休日にみんなでお出かけする約束をしたのであった。

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