第95話 冒険者ギルドへの報告書
昨日は時間も時間で色々とハードだった事もあって第42階層には降りずにそのまま帰宅したのだが、やはり早めに帰って大正解であった。
アリーシアさんは俺が5時前に戻った事で「お帰りなさいトージ様!ご無事で何よりです。」と良い笑顔で出迎えてくれてホッとした様な感じであった。
先日から口にはしないが、未踏領域に踏み込んでいる事を知っているのでやはり心配してくれているみたいだ。
以前なら「大丈夫だよ!」と軽口を叩くところだが、実際今日死にかけた様な物なので反省を込めて自重したのだった。
みんなが帰宅した夕食時、アリーシアさんから意外なニュースを聞いてほう!と驚いたのだけど、あの何チャラ子爵の跡地だが、売れてしまったらしい。
「確かに縁起悪いって意外は広くて立地も悪くないからなぁ~。まあ、俺達庶民にとっては、貴族街ってだけで立地が悪いって評価になるんけど、そうか売れたんだ?
て事は新しい貴族がやって来るのかな? まあ俺達に関わってこなければ良いけどな。」と言ってこの話題を終え、今度はソフィアちゃんと子供達とによるアンテナショップの出来事や人気メニュー等の報告になった。
報告によると、一品プラスのサイドニューとして冷や奴がかなりの数出ているらしい。
更に付け加えるとそれに連動するかの様にソリアさんの方の豆腐屋も順調に売り上げが伸びていると言う事だった。
最初の数日は緊張していて、言葉少なめだったケイトさんら3名(サニー、ジョリーン)も今では慣れて来た様で軽口を叩いたり、楽しげに食卓を囲む様になってりる。
現時点では仮設の工場で製造しているが、今の工場の建設が終われば、増産も可能になるし、夏が過ぎて多少肌寒くなれば、鍋物の具としても売れるだろうし良い傾向である。
とまあそんな感じの和やかで笑顔に満ちた楽しい夕食の一時を過ごせたのだ、無事な内に切り上げて帰ったのは正解だろう?
さて、一夜明けた本日は、一旦ダンジョンの第41階層の事を地図と魔物の情報や注意点等を纏めて冒険者ギルドの方に提出する予定である。
ほら、報告を上げる前に何かで報告出来なかったら、先達の努力も俺の頑張りも無駄になっちゃうじゃん?
世の中、『絶対』なんてあり得ないのだから。
もし俺が今日報告後回しにして第42階層に行って玉砕しちゃったら、何も情報が残らないからね。
で、朝食を取った後、1人自分の部屋で机に向かってレポートを纏めて居たんだけど、書いている内にこれを報告する上で、非常に大きな問題がある事に気付いてしまった。
魔法が使えるのは既にギルドにも報告して居るし、結構人前で使っちゃっているから周知の事実とは思うが、どの程度の魔法が使えるかまでは誰も知らないのだ。
俺のレポートには、如何にして助かったかや、対処方法も記載している訳だ。
じゃないと後続の助けにならないだろう?
で、『空中に放り出され、水魔法のジェット水流で、一緒に落下する水の塊から脱出した。』まあ、ジェット水流が何かの注釈は入れたとしてもその水の塊から脱出した後が問題なのだ。事実のみを簡素に書くと、『空を飛んで回避して助かり増した!』って事じゃん。
誰も空飛べるとは思ってないと思うんだよね。 どうしよっか?
遅かれ早かれ何かで露見するかも知れないけど、自分から、飛べます!ドヤ?ってのはなんかねぇ~。
冒険者たるものって言うか、俺の様な微妙な立ち位置の場合、自分の能力や奥の手って隠したいじゃん?
飛べるって判っていて対策取られないとも限らないし。
この件で、『じゃあ飛んで見せろ!』って言われて飛ぶ所自体を見せるよりも一番拙いのは『ゲート』だ。
俺が飛ぶ為には滑空する為にある程度の高さから風を掴む必要があるんだけど、ゲートで上空に出てるだけだからね。
「お前、もしかして、遠くへ瞬時に移動出来るんじゃ?」なんて痛い腹を弄られてしまうと非常に拙いよね。
どうしようかなぁ~? 最悪、無属性魔法のフォースフィールドで足場作って高度100mぐらいまで上がって見せて滑空して誤魔化せば良いか?
と段々最初のちゃんと先達の意思を引き継ぐとまでは言わないにしても、情報を残さなきゃ!って言う
使命感が薄れて行くのを感じつつ、飛んで無事に着地して危機を回避したって適当な感じに薄めて置いた。
これで納得してくれるか、しないかは、俺の関与する事ではない。情報は情報だ。後は知らん。
漸くレポートが纏まったので、遅ればせながら冒険者ギルドに提出しに行こうと部屋を出ると、アリーシアさんが、昼食の準備をし始めていた。
もう昼食の時間らしい。知らぬ間に結構な時間を掛けて書いてた様だ。
よくよく考えると、ここまでのレポートを書くのは大学の実験レポート以来だった。
今回は、うろ覚えの景色のイラストや、地図もあったので、久し振りと言うだけでなく、超大作になってしまったな。
アリーシアさんと昼食を頂いた後、アリーシアさんも出かけるとの事なので途中まで一緒に行く事にして2人で家出たのであった。
「こうして2人でお出かけするのも久し振りだね。」と俺が話し掛けると、
「そうですね、トージ様はお忙しいから・・・。」とボソッと呟かれてしまった。
なんだろう?若干責められている様なきもちになってしまうのだが?
「じゃあ、今度どっかに行くか?」と反射的に口から出てしまったが、「うふふ、約束ですよぉ~♪」と凄く良い笑顔で返された。
どうやら正解だったらしい。そして、俺が冒険者ギルドへ向かう為に別れる所まで、アリーシアさんは終始ご機嫌であった。
だが! 柄にも無い事を言ったが為にアリーシアさんと別れた後になって、何処かって何処だ?マッシモの街で小洒落た店も良い景色の展望台も何も無いんだけど?と行く場所が無くて若干オロオロしてしまうのであった。
■■■
冒険者ギルドに到着すると、何時もの様に真っ直ぐゲンダの方へと進んで行く。
「ゲンダさん、こんにちは、今日はダンジョンの第41階層のレポート持って来ました。出せる内に提出して置かないと、何があるか判らないですからね。実際のところ第41階層はかなりヤバかったし。」と俺が言うと、
「おう、トージ!そうか、もう第41階層制覇か!?情報ありがとう。まあお前以外に第40階層のボス部屋にたどり着く奴は居ないと思うが、貴重な情報感謝する。この情報に関しては、第40階層のボス部屋の情報の分と併せて報奨金出るから期待していてくれ。」と和やかに微笑むゲンダさん。 まあ厳つい顔で微笑まれても子供が泣くだけの様な・・・。
内容を説明する為に別室に通されて、お茶を出されて、腰を落ち着けてレポートを基に状況を細かく説明を始めた。すると最初はわくわく顔で要所要所で驚いていたりしていたが、濁流に飲み込まれて流された辺りから顔色が悪くなり、最後まで説明し切った所でボソりと「お前、良く生きてるな!ヤバイどころじゃねぇ~よ!普通なら10回以上死んでるし。流石はトージってか? でも例え多少魔法使える奴だとしても簡単に死にそうだな。貴重な情報をありがとう。」と再度頭を下げられたのであった。
「あ、そうだ、お前さんのSランク昇格の件、本決まりになったってよ! 本部の方から、Sランクの冒険者カード持って来る事になってるから。ちょっと待っててくれ! Sランクになる前に死ぬなよ!」とシャレともマジとも採れる様な口調で言ってきたのだった。
「判った、Sランク云々は関係無く、死なない様にするよ。 それはそうと、ゲンダさん、マッシモか、マッシモ周辺で、女の人を連れて行って喜ばれそうな店とか、景色の良い所って知らない?」と現在の最大の問題を相談してみた。
「はぁ~?この俺におねぇちゃんとしけ込む場所の情報聞こうってか?トージよ、俺にそんな洒落た情報があると本気で思うのか? まあ、良いや、そうか、お前ここに来てから浅いんだったな。ちょっと待ってろ!俺がどんなねぇちゃんでも即落ちの情報仕入れて来てやるからよ!」と言いながら、口とは裏腹に嬉しげな表情で素早く部屋を出てどこかに行ってしまったのだった・・・。
うむ、確かに聞く相手を間違ってる気がするな! ロバートさんとかの方が適任だったか?
15分ぐらいこの別室で待たされただろうか?
漸くニヤニヤしたゲンダさんが紙を片手に戻って来た。
「おう、待たせたな!良い情報仕入れて来てやったぞ!ちょっと早いが、俺からのSランク昇格祝いだ!」と俺にその紙を渡して来た。
紙を見ると、地図が書いてあって、俺の知らないマッシモ周辺の景色の良いスポットの情報が書いてあった。
俺は知らなかったが、竜車で1時間ぐらいの所に池よりも大きめの湖みたいな所があるらしく、その横の丘の上はこの時期花が咲いていて、湖も見える最高のロケーションと言う事らしい。
「ほほう、湖?池? こんな所が近所にあったのか。ありがとう、ゲンダさんここに行ってみるよ!」と俺は先程聞く人選を誤ったとか失礼な事を思っていた事すら、スッカリ忘れて素直にお礼を言ったのであった。
「おう、良いって事よ!しっかりがんばれよ!」と言いながら手の指で卑猥な形を作ってニヤリとしていた。
この世界でもあの指の形は同じ意味なのか!?とこの世界に来て一番大きな衝撃を受けたのであった。
別室から出て、ギルドのホールを抜けて行く際、何故か、受付嬢や普段言葉も交わした事の無い奥に座っている事務の男性も、何か微笑ましいと言うか、生暖かい目でチラチラ俺を見て居る気がしたが、取り敢えず澄ました顔でスルーし前を通り過ぎてギルドを出たのであった。
俺はギルドから出ると、路地裏煮紛れて、マッシモ上空へと移動して、ゲンダさんから教えて貰った道順を空からトレースして行く。
1時間と言っていたが、道が曲がりくねって居るが上空を飛ぶ分には真っ直ぐ一直線である。10分も飛んでいると前方の左側に割とこぢんまりとした湖が見えて来た正式名称はガレン湖と言うらしい。
空から見ると湖の水の透明度が素晴らしく、空を飛んで居るのか、水中を進んで居るのか判らなくなるぐらいである。
そしてそのガレン湖の右手のちょっと上に今回の目的地のガレンの丘があった。遠目でも判る程に色取り取りの花が咲き乱れていて、花を愛でる様な心等持ち合わせても居ない俺でさえ、見惚れてしまう程に綺麗であった。
「これは素晴らしい場所だ!」と思わずこの場所の素直に絶賛する俺。
文句無しにゲンダさんグッドジョブである。
ちょっと遠いのだろうが、ゲートであれば一瞬なので、問題無い。折角だから、お弁当か何か持って来てピクニックみたいな感じにするか。
場所もプランも決まった俺は、安心して明日のピクニックに持参する食事を調達(作る)為に『魔の森』の自宅によって、ごそごそ調理をするのであった・・・。
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