第89話 肉テロの波紋
我が家の面々に肉テロを仕掛けた翌日。
朝食を取って、ミノタウロスを含め諸々の解体をどうしようか? やっぱ冒険者ギルドに出すか。喜ぶ奴らいるからな・・・って思案していると、朝から異常にテンションの高い2人組が商人ギルドの方から遠征して来た。
基本通常は営業時間内はギルドから殆ど離れない2人が態々揃って家に来るちは何ぞ?って不思議に思っていたら、アリーシアさんが2人を応接室に案内してソファーに座るより早くえらく芝居がかった表情で大げさに嘆き始めた。
「ああ、水くさい・・・我々とトージ様とは、水よりも濃い
本当にこの2人って息ぴったりだな!
漸く何を言いたいのかの論点を理解した俺は、また、朝から面倒な・・・ってちょっとテンションダウン。
まあ、この2人に食わせれば、肉の希少性も含めこの『焼き肉のタレ』の価値も値段にしてくれるだろう。
まあ昨夜の残りの下味付きの肉もあるから、食わせるのは良いんだが、幾ら美味しくてもさ、『朝』から焼き肉はキツイいよね?
そこで、
「本当に2人共に鼻と耳が良いよね。良くその情報仕入れたね? 勿論、商人ギルドにも相談しに行こうと思ってたけど、物が物だから、朝からってのはどうかなって思った訳さ。幾ら美味しくとも朝からギットリとした肉はキツいだろ?」と聞くと、ルミーナさんは若干顔を引き攣らせ素直に頷いていた。
だが、中年で胃腸も弱ってそうなロバートさんは朝から油ギッシュな焼き肉でもOKらしい。
凄いな、もう40代くらいなのに、イケちゃうのかよ!?と別の意味で感心する俺。
「いや、医院だけど、最適な時間やタイミングってあるじゃん。どうせなら、そのタイミングで試食してみて欲しいんだよね。値段とか、今後の展開も相談したいし。」と言うとロバートさんが了承してくれた。
なので、面倒だが、再度昼飯時に家の庭まで出直して貰う事にしたのであった。
取り敢えず約束を取り付け満足気に戻って行くロバートさんと、朝あら油ギッシュな焼き肉を回避出来た事でホッとした表情のルミーナさん。
まあ、今の俺の身体なら若いし、特別製だから、暴飲暴食でもビクともしないのだが、中身の心はもういい加減良い歳のおじさんに近いので、気分的に朝から焼き肉は避けたい。
やはり、どうせ食べるなら、美味しく食える時間帯に食べたいのだ。
事の成り行きを一緒に見ていたアリーシアさんは「と言う事で今日のお昼ご飯も『焼き肉』なんですね?」とやや引き攣った顔で呟いていた。
「ああ、アリーシアさんは無理に付き合わなくて良いからね? 俺も幾ら好きでも2連チャンで焼き肉はキツイし。」と言うと素直に頷いていた。
「ではお言葉に甘えて、準備等のお手伝いだけさせて頂きますね。 やはり幾ら美味しくても連続は厳しいので。」とやや申し訳なさそうに頭を下げていた。
「だよね。これが『しゃぶしゃぶ』なら割と連チャンでもイケそうだけどな。」とポロッと漏らすと、
「トージ様!その『しゃぶしゃぶ』って何ですか?何やら面白い響きの名前ですね。」と凄く『しゃぶしゃぶ』に食いついて来るアリーシアさん。
「ああ、肉を使った鍋料理で、『すき焼き』と『しゃぶしゃぶ』と言うのが2大肉系の鍋料理かな?」と軽く説明を開始した。
「つまり、出汁の汁の中で肉を茹でる?いや、油を落とす?なるほど、ポン酢で、中に大根おろし? 紅葉おろしですか!?ほう、それはアッサリと頂けそうですね。面白いです!!」ともの凄く乗り気になっておられた。
「ただね、『しゃぶしゃぶ』をするには、肉をペラペラに薄くスライスしないと駄目だから、まずはミート・スライサーって魔道具開発しないと駄目なんだよね。とてもじゃないけど、あんなに薄くは手では切れないからね。」と言うとかなりガックリしていた。
「まあそんなに落ち込まないで、直ぐにミート・スライサー作るからさ。俺も久々にしゃぶしゃぶしたいし。ミート・スライサー作ればすき焼き用のお肉も切れるし、スライスハムも作ってサンドイッチにも仕えるし、ハムを入れたマリネサラダも美味しいよな。トマトとオニオンスライスも沢山入れて・・・。」と説明して早めに『ミート・スライサー』を作ろうとやる気のスイッチが入るのであった。
もう頭の中は『ミート・スライサー』の作り方の方に思考を切り替えてしまっていて、冒険者ギルドに解体に出しに行くつもりだったのを完全に忘れてしまっていたのだった。
とは言え、ちゃんと1時間ぐらい経った頃、アリーシアさんに指摘されてちゃんと思い出したよ?
約束の昼までに十分時間があったので、冒険者ギルドに解体依頼を出す魔物の亡骸をガンガンマジックバックに移し替えて準備完了。
不慮の
冒険者ギルドへと歩きながら、ミノタウロスの肉へと思いを馳せる。
牛肉を使った美味しい肉料理か。
肉じゃが、牛丼、ローストビーフ、ミートパイ、おっっと忘れちゃいけないハンバーグ、それにロールキャベツ。代表的な物だと、そんなところだろうか?
そうなると、スライサーも良いけどミンサーも作りたいな。
全てを魔法だけで俺がやるのは無理があるし。
ミンサー作れば挽肉も自分の好きな細さで作れるし、美味しいハンバーグも作れるな。
ああ牛肉と言えば、あのステーキ屋の粗挽きステーキ・ハンバーグ美味かったな。
ブラックペッパーが効いてて粗挽きの挽肉の肉肉しい感じが美味しかったな。と嘗ての日本でよく食べに行った近所のステーキ屋さんの安価でお得な粗挽きステーキ・ハンバーグを思い出す。
確かすてーき用のお肉を粗挽きの挽肉にしたって言う体だったな・・・。
今思うとやや無理のある設定に思えるんだが、美味しかったのは間違い無い。する
朝のピークがとうに過ぎた頃合いなので、冒険者等は殆ど居ない。但し、まともな実力を持つ勤勉な冒険者はと言う前提が付くわけだが・・・。
「あ!トージのアニキ!!」と言う聞き覚えのある声にフレーズ。
「あ!トージアニキだーー!」とちょっとビチャッとした懐かしいしゃべり方。
そう、俺を真っ先に出迎えてくれたのは、受付嬢でもサブ・ギルドマスターの厳ついゲンダさんでもない。
そう、ポンコツコンビである。
「おう、ポンコツコンビ久々だな!」と返すとスッと2人が寄って来て愚痴り始めた。
どうやら、先の話に出ていた斥候役のメンバーはマジで逃げ切ったみたいだ。
この2人、俺の解体依頼を受けたその後は鳴かず飛ばずの状態らしく、またあのダンジョンでの遭難時の様に腹を空かせて居るらしい。
またかよ!?って思うのだが、これが子供なら食わせてやって、先の相談にも乗ってやるが、此奴らは既に良い大人。薬草採取等の依頼でも受けてコツコツやるか、転職するか、又は必死に自分を鍛え直すかである。
一々俺が口を挟む事では無い。
俺はスッと2人と距離を置いて「何だ、また食いっぱぐれているのか? もう冒険者辞めて転職したらどうだ?」と俺が言うと大げさにショックを受けた様なリアクションを取りながら、
「そんなぁ~アニキつれないっすよーー!何か解体の依頼でも出して下さいよーー!」と折角空けたパーソナル・スペースをグイッと詰めてくるポンコツ1号。
「アニキー!お腹減ったっす!」と甘えた声を出すポンコツ2号。残念だな、その歳でそんな事言っても可愛気が不足している。歳相応にしないと痛いぞ?と内心で思いつつ、
「まあ、非常に偶然で怖いぐらいだが、今から丁度解体の依頼を冒険者ギルドに依頼するところだ。非常に残念なんだけど・・・。」と俺が言うと2人が目を輝かせる。
「マジっすかぁ~!? やったーー!これで美味しい飯にありつけるぜ!」と依頼を受けてもいないのに大喜びする2人。
まったく、しょうがねぇ~なぁ。と頭を掻きつつ一番奥の厳ついオッサンの元へと近寄るのであった。
「ゲンダさん、お久しぶり。また大量に解体をお願いしたいのだけど、良いかな?」と俺が言うと、
「おう、久々じゃねぇか、トージ、どうだ?ダンジョンの方は?」と片手を上げながら挨拶を返してくれるゲンダさん。
そして、ビッグ・イーターやリザート・マン、そして37階層のバイト・タートル、スカイ・リッパー、そしてミノタウロスがギッシリ詰まったマジックバッグをカウンタの上に置いて、その中の内訳を告げると
「おまっ!ついに第37階層まで行ったのか!すげーな!!記録塗り替えちゃえよ!!」とご機嫌なゲンダさんに「ええ、40階層は超える予定ですよ。一応忙しいからなかなかダンジョンに篭もりっぱなしは無理なんですが、一応もっtもっと先へ進む予定なんで。と言う事で、また解体お願いします。
リザード・マンの皮や素材は買い取りで。ビッグ・イーターは胃袋と肉は前と同じにお願いします。そしてバイト・タートル、スカイ・リッパー、そしてミノタウロスの肉は引き取りますので、お願いしますね。あと、ミノタウロス、なかなかに外皮が硬いけど大丈夫でかね?」とちょっと不安に思って尋ねると、
「おう、大丈夫でぇ~。で、ミノタウロスの皮はこちらで引き取って良いのか?」と聞いて来るゲンダさん。
「ええ、骨の一部は使いたいので、必要ですが、皮は要らないです。買い取りで!」と言うと「おう!」と景気良く返答して、サクサクっと依頼を受けてくれた。」
早速葉依頼の掲示板いn張り出された解体依頼を剥ぎ取ってポンコツコンビが依頼を受けていたのだった。
と、そこまでの光景を苦笑いしながら眺めていたら、ゲンダさんがスッと横にやってきて、俺の耳元に小声で話し掛けて来た。
「なあ、トージ、物は相談なんだが、ミノタウロスの肉、少し分けてくれねぇ~かな?噂で凄く美味いって事なんだがここ数十年食った話を聞いた事がねぇし、是非ともすぬ前に一度食っておきてぇ~んだよ!」と切ないお願いをされてしまった。
「そうか、今じゃ俺だけだもんな、第37階層で狩りしてるのは。良いよ、じゃあ、ゲンダさん。内緒で昼に俺の家に来られる? 商人ギルドの人たちとちょっとした内密の試食会開くんだけど、来る? 勿論ミノタウロスの肉の試食会だけど、世話になってるゲンダさんだけには声掛けとこうかなって。」と俺が誘うと大喜びで抱きつかれてしまったよ。ウェップ・・・止めてー! お巡りさーーん!
必死で油っぽいオッサンを引き剥がしてウォッシュ&浄化を自分自身に掛けて心を正常に戻したのだった。
「す、すまん、つい気持ちがたかぶっちまって。行くよ、行く!!お前の家に行けば良いんだな!?」と必死で小声で訴えていたのだった。
斯くして解体依頼も無事に受理され、思わぬ流れでゲンダさんを昼の試食会にご招待する事になり、まだまだ時間に余裕があるものの、早めに自宅へと戻るのだった。
◇◇◇◇
昼少し前になる頃、俺の家にウッキウキの3名が揃った。
「おう、商人ギルドの!」と片手を挙げて挨拶をするゲンダさんに
「お久しぶりですね、ゲンダさん。」と丁寧に頭を下げて挨拶を返すロバートさんとそれに続き「ご無沙汰しております。」と微笑んで挨拶するルミーナさん。
やはり当然の様に顔見知りの様子。
「悪いが、一生に一度あるか無いかのこの機会に便乗させて貰うぜ!」とゲンダさんが飛び入りする事を認めて貰える様に一応断りを入れていた。
「まあ、皆さん顔見知りでしょうし、今回は一応、ここの3人だけの内密の試食会って事で、俺がゲンダさんをお誘いしたのでご容赦下さいね。どっちにしても、今回の結果次第では冒険者ギルドの方にも多少ご協力願う可能性あるので。」と説明を入れつつ庭のBBQコンロの方に全員を誘導したのであった。
一応、若干時間あったので、先日作れなかったテールスープっぽい物を追加で作っておいたので、試食が始まった頃合いにアリーシアさんが運んでくれる手筈だ。
「さて、今回皆さんに食べて頂くのは、俺が前から研究して調合していた『焼き肉』と言う料理に使う究極の『焼き肉のタレ』を使った料理となります。
「予め、肉を適度な一口サイズに切り分けた物にこの焼き肉のタレを掛けて良く手で揉み込んで味を浸透させて置いた物をこの様に炭火の網の上で焼いてタレに付けて食べる物となります。
余り焼きすぎると肉が堅くなったり焦げて苦くなるのでご注意を。」と食べ方を説明しつつ、網の上に肉を5枚程広げて置いて行く。
ジュー♪と良い音とタレと肉汁が炭火に滴となって落ちて焦げると共に良い匂いが立ち籠める。
ろ
「おおお!」と匂いの段階で腰が椅子から浮き上がるゲンダさん。
信者2人は真剣な表情で肉を見つめて生唾を飲み込んでいる。
頃合いを見て肉を裏返し、抜かりなく肉を育てて行く俺。
「よし、頃合いだ! 皆さん、肉を取って、タレにちょっと付けて、白米と一緒に食べてみて下さい。」と俺が号令を掛けると、素早く箸を伸ばしてそれぞれが肉を取ってタレに付けて口に運ぶ。
パクッと一口食べて瞬間に全員が言葉を失った。そして俺がドンドン焼いてる肉をパクパクと一心不乱い食べ続ける3人。
「どうです?」と俺が問いかけると、ハッとしたロバートさんが現世に引き戻されたかの様に復活して「素晴らしすぎます。流石としか言い様がありません。トージ様、パーフェクトです。」と大絶賛だった。
ゲンダさんさんは嬉し泣きしそうな感じで、「トージ、ミノタウロスの肉滅茶苦茶美味いな!やっぱ、ギルドにも少し回してくれ。是非とも少量でも良いから市場に出したい。」と懇願された。
「まあ、多少の肉を回すのは良いんだが、この肉だ。この味を引き出せる様な肉を買い叩かれると困るし、値崩れも困る。結局現状取りに行くの俺だけだし。」と言うと、そんな変な事にならない様にするからと約束してくれた。
信者2人は今まで自分らがパクパク食べていたのが希少なミノタウロスの肉と知って大変驚いた顔をしている。
そうだね、説明してなかったからね。
「ロバートさん、お聞きの様に、これミノタウロスの肉でこそ生きるタレなんですよ。オークでもそこそこ美味しいとおもいますが、またちょっと違うんですよね。だから、難しいところなんですよ。
多分焼き肉専門店を開いたとすると、2日でミノタウロス1匹分の肉を消費する感じかな? まあ、1日1匹としても、ずっと供給し続けるのが俺しか居ないので、永続的な商売としては難しく無いですかね?」と俺があまり大々的に発表しない理由を説明すると意味を理解し思案を始める。
「まあ、今日直ぐに結論を出す必要もなので、まあ、滅多に食えない焼き肉を楽しんで行って下さい。」と言うと思い出した様にまた食べ始めるのであった。
俺が急遽作ったテールスープっぽい物もピリ辛が好評で3人は2時間程掛けて散々食い倒していた。
食後、冒険者ギルドをちょっとだけと抜け出して来ていたゲンダさんさんは満腹でフーフー言いながら慌ててかえって行った。
商人ギルドの信者2人は、満腹で満足そうではあったが、同時にどうやって商業ベースに乗せるかで悩んでいるようであった。
「トージ様、今日は素晴らしい体験をさせて頂き、誠にありがとうございました。何か良い方法や販売するとした場合の金額等も宿題として持ち帰って検討させて下さい。いや、本当に美味しかった。これは本当にヤバいですね!」と言い残して商人ギルドに戻って行ったのだった。
まあ、後ほどこの2日連続した焼き肉の美味そうな匂いと満足そうに帰って行く2人の姿が街の人達に目撃されておりその所為で商人ギルドに問い合わせが殺到してしまうのだが、しょうがない。
まあ、俺の所為では無いのでドンマイって事で。
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