第90話 ダンジョンアタック 先達の残した宿題
翌日から俺は来る日に備え、ミノタウロスを多めにストックしつつ第40階層突破を目指す事にしたのであった。
まあ、当面はミノタウロスだよな。美味しいし。
それに『あの』2人が何時までもこんなに美味い物を表に出さずに我慢できる訳がないのだ。
前のイベントの時だって、無理矢理強制に近い形でやらされたし、あの2人、マッシモから王都と立場を入れ替えてやるぜ!ってぐらいに力入れてるから、こんな『焼き肉』の様な美味しい商材を出さずに居られる訳がない。
と俺は読んでいるのだ。
もうどうせ、匂いだけで結構な噂になってそうだし、何時までも隠しきれないだろう。
そんな訳で自主的にミノタウロスの肉を多めに確保して置こうって事。
ミート・スライサーの方は構想だけ練ってるところ。
日本にあったミート・スライサーの様に回転する円盤状の刃ってのがこの世界の工業力だとかなり難しい。
魔道具として、回転する様な魔動モーター的な物は作れるが、簡単に言うと、その軸の精度や軸受けのベアリングなんかがまず作れないのだ。
更に付け加えると、ミスリルやオリハルコンと言った、ファンタジー金属はあるが本当に希少でそこらでホイホイ拾える物じゃなくて、モリブデンやタングステン等、地球にあった様な金属とその製造技術や知識も無く、
耐摩耗に優れた金属といって、普通に出て来るのは鋼鉄ぐらい。
とは言え、鋼鉄だって一般庶民にとっては非常に高価な金属なのだ。
そんなレベルの異世界で、販売出来る範囲の価格で物を作るとなると、結果元の世界の技術力抜きで安価な物にしないと作っても高価過ぎて売れる物にならないのだ。
そんな制限ありで物の仕組みから考えるって大変なのが判って頂けるだろうか?
そんな世界でミート・スライサー用のディスク型の刃を作れるか?
そもそも旋盤すら無い世界で、堅い物を削れるバイト(旋盤の刃)すら無いのに。
無い物を嘆いていても始まらないので違う方法を考えるしかない。
使った事があえる人なら判ると思うけどミート・スライサーで切る肉のブロックはある程度凍ってないとベチャッとしてしまっって幾ら回転刃であっても上手く切れないのだ。
長時間掛かって切ってると、最初は凍っていたブロックも徐々に溶けてしまって、結果最初と最後でカットされた肉の見栄えが雲泥の差となってしまうのだ。
しゃぶしゃぶ用の肉をカットするのって、ものすごく時間掛かるんだけど、食べるのは一瞬なんだよね。
なので、そこら辺のカットの時間も短縮し、誰がカットしても均一になる様にしたい。
多分、溶けない内にサクサクカットがおわれば大丈夫だと思うんだよ。
なので、敢えて金属製の刃を使わず、魔法的な刃つまり、俺のよく使っている無属性の高周波ブレードみたいな刃でカットすれば良いんじゃないかって思うんだけど、大体の方向性は決まったので、それぞれの機能で試作実験して行く方向にしよう。とノーマル(3m級)のミノタウロスを倒しながら考えたのだった。
先日ゴッソリとまでは言わないが結構狩ったつもりだが、本日も入れ食い状態で尽きる様子もなく、次々と出てくるミノタウロス。
午前中の3時間で、既に昨日の15匹を超えて26匹をストックした。
この第38階層への階段へ行く途中に勝手に出てくるのだから仕方が無い。来る者拒まずでスパンスパンとヘッドショットで仕留め血抜きをしながらその間に襲って来るスカイ・リッパーを無属性のウォールにぶつけて、更に血抜き。
なかなか言いペースでストックが堪って行く。
俺がゲームやラノベ等で知っているダンジョンアタックってこんな感じじゃないのだけどなぁ~。何か楽している様で若干後ろめたい気分になってしまう。
本人は至って真面目にやってるつもりなんだけどな。
そんな感じでグダグダ考え事をしながらミノタウロス共を倒していたら、下層への階段の入口を発見した。
この先に行けば、先達のやり残した第40階層まで、後2階層である。
今まで先達ののこてくれた情報と地図のお陰で随分と楽をさせて貰った。さあ、先を急ごうか!
先達の見られなかった光景とやらを見に行こう。
■■■
第38階層は情報通りに火山の噴火する灼熱地獄。
メインを張るのはレッド・リザードという火の魔法を放つ大きなトカゲ。ただ脇役?相方?でファイヤー・バードという鳥の魔物がチャチャを入れてくる。
ファイヤー・バードって名前聞くと、フェニックスかって思うでしょ?ノンノンそんな格好いい物じゃないよ!
別に身体に火を纏っている訳でもなく、見た目はちょっと大柄な赤い鳩だよ、鳩。それがさ、上空からファイヤーボールを落として来る訳よ。しかも絶妙名コントロールで。
レッド・リザードの相手してて、地上のレッド・リザードに集中してると、上からの攻撃にヒットするから要注意。
俺も一張羅の赤いローブ着てるからワンチャン仲間って思われないかな?って微かに期待したけど、そんんな訳あるか~い!ってツッコミ入れてる様にバンバン攻撃飛んで来たし。
まあ耐熱対策で魔装マシマシにしてるし、表面に風魔法のシールドも張って内部の温度を適温にしてるぐらいなので、万が一に当たっても痛くも痒くも無い筈だが、やっぱり習性として避けるのが染みついて仕舞ってるので前段回避してるけどね。
で、こいつら、熱に強いけど寒さに弱いのよ。
最初氷の弾アイス・バレットで攻撃しようかって思ったけど、この階層全体が熱いから威力半減してダメージに至らず。
結果、アイスの範囲攻撃で
その場で名付けたアイス・ゾーンって魔法で、ターゲットを中心として、半径5mを凍らせるって言う力業で仕留めた。
まあ、凍ってるから血抜きは良いかってそのまま回収している。
この階層では宝箱を見つけたんだけど、中身がショボかった。
一応、火種用の魔道具なのかな?蝋燭の火程度の火が点く魔道具。こんなの要る?まあ、一応、ギルドに提出至徳かな・・・。
そして順調に進んでサクッと第39階層に到達。
第39階層は情報通り、氷の世界。アイスステージって奴だ。サラサラの氷の粒の下に万年氷河がかくされている感じ。
見つけ難いけど、所々にクレバスがあるので、嵌まらない様に注意しないと、抜け出せ無くなる可能性が大だ。
そしてここまでの流れだと、氷にちなんだ魔物が出てくるって思うじゃん?
アイス・ウルフとか、ブリザード・何チャラとかさ、そう言うのを多少期待してたんだけどね。
違うんだよねぇ~。
この階層の魔物はアイス・ゴーレムなんだよね。
先達の情報には、『氷の魔物』って書いてあったみたいだけど、出て来たのは普通にアイス・ゴーレム。
正式な名前を知らなかったんだろうね。
この世界鑑定スキルとか持つ人居ないし、ゴーレム自体見た事無い人が殆どだろうから、きっとその所為だな。
俺はほら、『女神の英知』あるから、見れば情報ヒットしたら、名前判るし。
大した相手じゃないんだけど、半端に攻撃して手足を吹き飛ばしても、周囲の氷の粒で直ぐに無くした手足などを補修して攻撃してくる。
ここまでの大物の相手だと、流石の魔弾も通用し難い。身体の内部にコア(魔石とは別)があってそれを破壊しないと倒せない。
コアを破壊すると、形状を保てなくなって、自壊する。
面倒臭い相手だ。
ただ、何匹か相手する内に倒すコツがわかった。
無属性の高周波ブレードのその『高周波』を奴の身体に掛けてやると、俺の高周波で市販の剣が耐えられないのと同じで、奴の身体の内部のコアが壊れて自壊するの。
実に簡単でしょ?
これで、ドロップする?取り残される?魔石がコロンって出てくるんだけど、結構な大きさの魔石がザクザクだよ。笑いが止まらないよ!
そんな訳で肌寒いみたいだけど、シールド内の温度調節してる俺には寒さは無縁で魔石ザクザクの食べる肉は無いけど実入り的には美味しいステージとなった。
そして、順調に進んで夕方前には第50階層への階段に到着したのであった。
でもさ、何で先達はアイス・ゴーレムで挫けたのかな? コツが判らなかったのかね?
まあ、高周波だとか、超音波だとか、そう言うのって、現代の知識を持ったおれだからこそかな?
案外第40階層のボスイケたんじゃないだろうか? 俺もまだ何が出てくるかは知らんけど。
既に、ちょっと時間オーバーしてて、そろそろ夕ご飯の時間なんだよね。
気分としてはちょっと残業してスッキリしてから夕食食べたいところだけど、遅くなるとみんなが心配するから、今日はここで帰るとしよう・・・。
と言う事で俺は第40階層のボス部屋の前でUターンしてゲートで自宅に戻るのであった。
やっぱり帰って良かったよ。普段より30分程遅くなったんだけど、女性陣も子供達も、俺の姿を見てホッとして、ふぅ~ってため息ついたり、へなへなって座り込んだりして。
「お帰りなさい、トージ様、ご無事で良かったです!」って言いながら涙ぐまれたし。
「ごめん、ちょっとキリの良い所までやったら、この時間になっちゃった。遅くなって申し訳無い。」って素直に全員に頭を下げたよ。
「今度からは、もうちょっと早めに帰るから。」と約束したのだった。
子供達も言葉にしなかったけど、男の子も女の子も全員がワイワイと抱きついて来たので頭を撫でて全員抱き上げておいた。
こう言うスキンシップって初めてだったけど、子供らも初めてだったらしく、凄く嬉しそうにしていた。
確かに孤児院だと、人数多いから、こう言うスキンシップ全員に万遍なくって無理だろうな・・・。
「まあ、俺はそれなりに強いし、心配は不要だから。ちゃんと帰ってくるから。」と言ったら、
「俺の父ちゃんも同じ事言ってたけど、二度と帰って来なかったから・・・」と涙を見せるクリス君の言葉にウッと詰まってしまったのだった。
「すまん。そんなつもりで言った訳じゃないが、俺マジで強いから。ほら、言ったろ?前に俺、『魔の森』で暮らしてて普通に負けた事ないし。だから、大丈夫だから。負ける前に帰って来るからな。」って言って宥めるのであった。
よくよく聞いてみると、子供らの肉親や兄弟等、自分の家族が冒険者だったりで、戻って来なかった為に孤児院に入った子ばかりであった。
うーん、これは、この子らにも少し訓練させて、自分の身を守る程度の強さを身に付けさせるべきかも知れないな。
まあ、この子らが冒険者になる事は無いと思うけど・・・。
冒険者も全員ケネスさんぐらいの強さをに身付けてくれればこの子達の様に悲しい思いをする子供が減ると思うのだがな。
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