第85話 王国に吹き荒れる謎の粛正事件 その2

またもや苦悩する国王だったが、思わぬ所から救いの手ではないけど、あの悲惨な現場を見て悲鳴を上げて卒倒しかけた第一王女から意外な提案を受け、国王として、そして親として色々と葛藤したものの、他にその提案を超える代案も無くその提案を受け入れる事にしたのであった。


ここ王都にまで、トージの発表して料理のレシピや新製品の数々が普及していて、発酵箱などは、入荷と同時に品切れとなる程に売れている。


更に素晴らしいのは、今までダンジョンの宝箱等からのドロップ品がごく少数市場に出る程度だったのだが、それを製造販売し始めている。

これによって、今まで日保ちの問題で輸送不可能であった遠方の特産品や新鮮な海産物も王都に入って来ている。


このマジックのもたらした功績は大きく、正に『マジック景気』と呼んでも過言では無い状況であった。


もし、今このマジックバッグの供給が止まれば・・・いやふんわり柔らかなパンが作れなくなっただけでも暴動が起きそうなぐらいである。


世は正にトージの掌で一喜一憂して居る状態だ。


ある意味権力等ではなく、経済の根幹を牛耳られているに等しい。

そんな状況なのだから・・・

「もう儂引退しても良いんじゃないか?」と少し弱気な発言を漏らす国王陛下であった。


尤も、第一王子としては、こんな半端に混乱した状態で俺に投げ出すなよ!!と怒る事だろう、この親子は王家と言う特殊な環境が故にそう言う気安い親子関係は築けていなかった。

体よく他国へと婿養子で放逐された第二王子も然りである。


この王家の親子関係で唯一上手く行っていたのは、第一王女と父である国王の関係であった。

第一王女アルネスティの人懐っこく物怖じしない裏表の無い性格が、この王宮に於いて、大きな癒やしとなっていたのだった。


しかもそれでいて、非常に優秀な頭脳を持ち合わせた才女であった。



そんな人気を誇る第一王女の事を他の兄弟姉妹達は、「まあ、お姉様なら当然ですわ!」や、「そりゃあアルネスティには適わんよ。あの容姿にあの朗らかな性格、どれを取っても流石は我が妹である。」と妬む者は皆無であった。




■■■



いよいよ、アンテナ・ショップのオープンである。


最後の最後まで店の名前が決定せず、最終的に看板が間に合わなくなると言う理由でアリーシアさんに半ば強引に決められてしまったのだった。


俺としては店を担当する子供達に決めて欲しかったのだが、子供らからは辞退され、(店もレシピも)オーナーである俺が名付けるべきと言われ、頑張って幾つか候補を挙げてみたのだが全員から渋い顔をされて却下されてしまった。


この世界のネーミング・センスがどれ程の物かはわからんが、俺のセンスにはどうやら着いてこれなかった様だ。


結果、先に言った様に間に合わなくなると言う脅しと、レシピや料理自体を世に知らしめる為の店なので『(オオサワ・レシピの店)トージ飯』で良いんじゃないですか?と言う残酷な宣言があったのだ。


おれだけゲー!って思って居たら何故か、周囲に居た女性陣も実際に働く事になる子供達もウンウンって頷いてて、親指を立ててたりしたんだよね。




何かもう反論は許しません!って空気が漂っていてもうね・・・何も言えなかった。 


俺の感覚だと、ラーメン屋は『○○軒』、食堂だと『○○亭』?とか『○○屋』とか、『○○食堂』かな、イタ飯屋とかだと『リステランテ・○○』とかって小洒落た感じかな?



え?でみんなに反対された名前は何だ?って? だって日本食の店だからさ、ちょっと捻って『ジパング亭』ってこっちっぽい感じで良いかな?って思ったんだけど、秒で却下されちゃったんだよね。


そんな訳で看板も無事に間に合って、店舗の上にきちんと飾られてうる。


さて、店舗を作るに際し、俺はストッカーや冷水機だけで無く、前から欲しいと思っていた換気扇を作ったんだ。

勿論、別に匂い自体を無臭にする事も出来るのだけど、敢えて、無臭化はせずにそのまま美味しい匂いを外に垂れ流す様にした。


焼き鳥屋や鰻屋ってやっぱり、あのタレの焦げる匂いが堪らないんだよね。

落語じゃないけど、あの匂いだけで、ご飯3杯くらい行けちゃう感じだし。


だから99%は作り置きで対処するにしても、ある程度の物は客寄せの為にも店で軽く調理すべきだと思って、タレを使う様なシリーズを店で焼いて仕上げる感じにしている。


で、鰻なんてそんなに簡単に手に入る訳でないし、焼き鳥をチョイスしたのだよ。


そうだ!! 思い出した! もし『日本の食の英知』が手に入ったら、絶対に作りたいと思ってた物があったんだよ!

そう、『焼き肉のタレ』だ!!

ジュウジュウ園の焼き肉のタレを再現したいと思ってたんだった。 うっかり忘れてたよ! ヤバいヤバい!


焼き肉の匂いも堪らないよね!!


よし、明日から作ろう!!とタレ繋がりで、俺は重要な任務を思い出したのであった。




オープン当日の朝、子供らはドキドキが止まらない様で睡眠不足な顔をしていた。

今日は女性陣3人もヘルプで入って貰う事になっているが、子供らあんな調子で大丈夫だろうか?



「良いかお前ら、絶対に無理はするな! 顔を見る限り睡眠不足だろ? キツい時は交代するからちゃんと言うんだぞ! ちゃんと俺らを頼れ!!


「俺達は家族も同然。同じチームだ!だから大丈夫だ。ちゃんと助け合ってやって行ける!判ったな!」と言うと「はい!」と嬉し気に12人の子供が返事をしていた。


なぁ~に、そうそう潰れはせんよ! だって赤字でも国家予算以上に掛かるわけでもないし。


そしてちょっと早い昼飯時になる11時にちょっとダサい名前の店『(オオサワ・レシピの店)トージ飯』はオープンしたのであった。


今回、この店では表の見える所にお品書きを掲示しておりキチンと値段を出していた。


はっきり言って普通に気軽に食える値段にはなっていない。


だからそうそう一般市民が食いに来られる様な金額設定に態としなかったのだ。


ほら、一応レシピを買った人や店との棲み分けね。


だから、開店早々に混雑する事は無い。


と高を括っていたんだが、子供らが焼き始めた焼き鳥の甘辛のタレが焦げる良い匂いに誘われる様に人が店へと入って行った。


やっぱりこの匂い作戦は大成功である。


最初こそぎごちなかった子供達だが、昼のピークを過ぎた頃には練習の時と同じ様に笑顔で接客も出来ており雰囲気と客のパターンに慣れた様だ。



この店を作る際にスタッフ用の休憩室をアリーシアさんが作ってくれたので、子供らは順番に休憩に入って疲れた身体を休ませていた。



ちなみに、この『(オオサワ・レシピの店)トージ飯』は午後の15時で閉店である。


だって、夜はみんな自宅で夕飯を食べたいからね。


それに子供を夜まで叩かせるつもりは無い。


そもそもがここはアンテナ・ショップなのだから。



 ◇◇◇◇


そんな訳で無事に大盛況の内に初日を乗り切った。



オープン初日は物珍しさで客足は増えるだろうが3日も経てば多分客は減るだろう。


毎日食べに来られるのはラルゴさんの様な一部の裕福な人ぐらいだろう。


そういえばラルゴさん、今日は来てくれていたな。

こうして、忙しい初日を何とか乗り切って店を閉めた後、全員で自宅に帰るのであった・・・。


湯食を食べ終わった後、子供らは直ぐに自室に戻って眠りに着いたようであった。

今夜こそはグッスリ眠れるだろう。



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