第81話 アンテナショップの装備開発
長い1ヶ月のデスマーチが終わり、件の発酵箱の方は俺の作るべき温度管理のユニット部分を余剰在庫1000ユニットになったので一応建前上は放免となったのだ。
だが、子供達主動の
今度は文句言われない様にある程度在庫分を確保してから商人ギルドに話を持って行こうと思う。
まあ、このストッカーの良いところは、発酵箱と同じで外箱は職人に外注し、俺の作った時間経過停止ユニットだけを供給する感じに出来る事である。
前の発酵箱でお世話になった職人達もいきなり仕事が無くなると困るだろうから、ある程度発酵箱の余剰在庫を作ったら、今度はこの
尤も今のマッシモだと。余程駄目な職人でない限り職人の仕事が見つからないなんて事は起きない。
それだけ仕事が沢山あって活気のあるのが今のマッシモである。
ある意味昔の日本のバブル期に似てるんじゃなかろうか? 昔親父から聞いた話では、青田買いと言って新卒の新入社員を確保する為に速内定を出して就活生を研修とか称して海外に連れて行ったりしたらしい。
本当にびっくりだよね。
何が言いたいかと言うと、それに似た様な好景気のマッシモだと余程のヘボ職人以外は仕事選び放題だと言う事だ。
それでも俺の所の仕事を選んで請け負ってくれるのは俺のネームバリューのお陰らしい。
俺の名前にそんなバリューがあったとは知らなかったのでアリーシアさんから聞いた時には驚いた。
アリーシアさんが我が事の様に自慢気に話してくれた説明によると、マッシモの『オオサワ商会』と『ラルゴ商会』は『街の救世主』と呼ばれて居るらしい。
しかも俺の場合Aランク冒険者でもある訳で、マッシモ最強の冒険者であり錬金術師でもあるので今日のマッシモの反映は俺のお陰と巷で噂になっているとかいないとか・・・。
まあ確かに多少関わっていると言う自覚はあるけど、そんな恩義を感じられる様な高い志があった訳じゃないのでむず痒いな。
単に俺の食いたい料理の為に街全体を巻き込んだが正しい表現である。
しかし、そう言う経過や理由ってアリーシアさんも良くご存知の筈なんだけど、何故そんなに誇らしげなの?
こう言う時はあれだ! 下手に
ツッコんだりせず、スルーするのが正解だよな。
さて、一応、試作品のストッカーは完成はしたんだけどどうにも使い勝手が宜しくない。
外観のサイズで内積が決まって仕舞うのはしょうがないとしても、今回のアンテナショップで使う様な出来合の物を沢山ストックして置くと言う用途では空間に限りがあるので当然無理なのだ。
マジックバッグの様に容量無制限とかでなくとももう少し何とかならないかな?と方法を考えているところである。
そもそもだが、マジックバッグの場合はそのベースとなった素材(ビック・イーターの胃袋)の特性を活かしてその物が使っていた異次元の空間に繋いで保管する様なイメージである。
なので今回のストッカーはそんな特殊な機能を持った素材を使ってないので、普通に作られたままの内積となるのだ。
そこで俺の考えた方法は、この限定した空間を拡張できないだろうか?と魔法陣を捏ねくり回しているのである。
師匠に『空間拡張』に関してを質問したのだがそもそもそう言う概念も発想もこのせかいには無いと言う事だった。
なのでまず『空間拡張』の意味から説明する事になった程である。
意味と有用性を理解した師匠は驚きつつ唸っていた。
それから2人でああでも無いこうでも無いと魔法陣を掻いては検討しを繰り返している訳だ。
結局最大の問題はその空間を魔法陣がどの様に把握(特定)するか?と言うところで、それは魔導線で繋いだコーナー用の
そして魔法陣を刻み込んだユニットと各コーナーに配置したアングルを取り付け、魔石をセットして、いざテスト。
空間拡張率を4倍にしてある。
影響の無い所で小麦粉の袋を4つ用意した。
正しく動作していればこの4つが丁度入る筈である。
「さあ、早く入れてみい!」と俺を急かす師匠。
「行きます。1つ目。OKです。2つ目、これも入った。3つ目、あれ、引っかかった。あ、入りました。これ、袋にしたのが失敗だったな。滑り悪くて変な形になってつっかかえる。4つ目行きます・・・。お!入りましたよ。師匠!!成功です。」とおれが叫ぶと師匠と手を取り喜び合うのであった。
「錬金術の歴史に残る快挙じゃな。トージよ、良くやったぞ!」と久々に師匠にお褒めの言葉を頂いたのであった。
「いやぁ~まさか一発で成功するとは。作った俺が言うのも何ですけどね・・・」と頭を掻きながら照れる俺。
「じゃあ、時間経過の魔法陣も追加して最後のテストしますね。」と言って新しいユニットを作成し、今度は暖かい物や冷たい氷等を収納してちゃんと時間経過が止まって居るかをチェックしたのであった。
◇◇◇◇
ストッカーに入れてから3日が経過した。いよいよ出して見る事にする。
扉を開けて中かた、温かいスープのカップと、氷を入れた器を取り出した。
「おお、ちゃんと温かいままだし、氷も溶けていないぞ!! 成功だ!」と成功を喜ぶ俺。
あとはどの程度魔石が保つのかの魔力燃費のチェックのみである。万が一は無いとは断言出来ない。
とは言っても魔石2個組にしてるから、1つが空になっても予備に切り替わるし問題無いはずだけどな。
俺の計算だと魔石1個で優に3ヶ月は保つ筈である。
予備の1個に切り替わったら都合6ヶ月か。
半年待つのも大変だから、安全策として、魔石1個が切れて予備に切り替わった時に警報が鳴る様にして置こう。
改良を加えたストッカーを我が家の厨房に設置し、警報が鳴ったら魔石を入れ替える様にと全員に知らせておいた。
子供らここのところ連日店で出す料理の作り置きを沢山作ってはストックを繰り返している。
最近は今度卒園する子達が毎日通って来て先輩であるマッシュ君達から料理の指導を受けている。
増える子供らの為に広い宿舎棟を建設中であるが、アリーシアさん達はそっちの方の打ち合わせや確認に掛かりっきりである。
で、俺と師匠は、文句を言われない様にストッカーユニットを鋭意制作中である。
1000ユニット作れば当面文句言われる事も無いだろう?
マジックバックを世に出して以降、俺のプロデュースした、ソースもケチャップも増産を進めて居るが、熟成が追いつかない程に売れてるらしい。
ソース用の醸造所の増設の話も出ている様だ。
まあそこら辺は、アリーシアさんとラルゴさんに一任しているので、俺は必要な資金を出す際の書類にサインするさけである。
マジックバッグの恩恵で、新鮮な海の魚が王国の彼方此方でも売られる様になっているとの噂をゴザレオの街に買い出しと煮干しの仕入れのタイミングで聞かされた。
マジックバッグの恩恵を最も享受しているのは、ゴザレオの街の様に鮮度が命の様な生ものを特産とする離村や街だろう。特に海鮮類は今まで日保ちする干物や加工品以外は輸出と言うか売るに売れない状況だった訳だから、高額ではあるものの、マジックバッグさえあれば仕入れた商品が高額で売れるとあれば、利に聡い商人なら挙って今まで疎遠にしていた離村や特産物のある地方まで出かけるだろう。まあ、距離の問題は俺以外はどうしようもないだろうけどね。
そんな訳でゴザレオの街は好景気に沸きに沸いていた。
人々の嬉しそうな顔を見ると、頑張ってダンジョンに潜った甲斐があると言う物だ。
嘗ての廃棄街も今は衛生的で希望を持った人々で活気がある。
あとは問題となる距離の問題だが、これを下手に解決為てしまうと、軍事面とか色々と余計な事に巻き込まれそうなので気を付けねばならないだろう。
もう、
気分が乗ったので、丁度仕入れた物もあるし今夜はこの世界に来て初のお好み焼きにしようかな。
こんな事もあろうかと、ウスターソースを作った際に俺好みのお好み焼きソースも既に作ってあるのだ。
鰹節はないけれど、寧ろ俺は魚粉(煮干し粉)の方が好みなので問題は無い。
あ、そうそう、大事な青のりを忘れてる? いや、大丈夫。岩海苔を見つけて海苔の様に簾で干して伸ばした物を作る段階のでた切れ端や滓を纏めて細かくして炙って乾燥させた物(本日入荷!)があるので十分に代用出来るだろう。
キャベツも小葱も揃っている。オーク肉もある。
自宅に帰るとソフィアちゃん、ソリアさん、そして子供達が出迎えてくれた。
マッシュ君の話では今度家に入って来る子供達はなかなかに覚えが良いとの事で、直ぐに戦力になりますとの事だった。
今度入る子(謂わば二期生)は、男の子3人に女の3人の合計6名である。
ちょっと引っ込み思案のヨハン君、割と活発で物怖じしないラクート君、いつも朗らかで温和なジャン君。
女の子の筆頭がシャキシャキしているパトリシアちゃん、ちょっと大人っぽい雰囲気のサリーンちゃん、しっかり者のスーリちゃん。
アリーシアさんの話だと、再来週には新しい宿舎も完成するらしいので、その頃には一足先に卒園してこちらにやって来る事になる。
最初こそ、子供は五月蠅いからとか言っていた師匠も何くれと子供らに魔法を教えたりして自分から接点を持つ努力をしているが、更に子供が増える事に対してクレームが入る事もなく、
「そうか、じゃあ、また賑やかになるね。」と微笑んでいた。
最初にあった頃はどちらかと言うと、人嫌いと言うか、人との関わりを避けてる風だったが、最近では
あの頃おn様な気配は微塵も無く、意外にに子供好きなんじゃないかと思ってしまう。
まあ、それらを深く突っ込んで聞く気はないので皆が不満無く暮らせるのであれば全く問題はない。
折角なので、二期生の子も一緒に食べて行きなさいと全員に指示を為て、お好み焼きの生地(キャベツの千切り、子葱をカットした物と小麦粉と水を混ぜた物)を作らせてた。本当は長芋を摺り下ろした物を混ぜるとふっくらとした焼き上がりになるのだが、面倒なのでそれはやらない。
庭に大きな鉄板を出して炭火を起こして鉄板を余熱している所にアリーシアさんと師匠が帰って来た。庭に全員ソロって鉄板を囲んで居たので何事かと思った様だが、直ぐに状況を理解して一度手洗いを済ませて庭に出て来た。
暖まった鉄板に油を馴染ませ、生地をお玉で掬って伸ばすジューと言う音がしている。
急いでその生地の上にオーク肉の薄切りを乗せて、同じ物を人数分次々と鉄板に作って行く。
程良く焼けた頃合いを見てお好み焼き用に作ったヘラで素早くひっくり返し、他の物もヒックリ返して行く。裏面は良い焼き色になっていた。
そして、刷毛でお好み焼きソースを表面に塗って、魚粉(煮干し粉)と青のりを振りかける。
所々で鉄板にたれたソースの焦げる良い匂いが漂う。
素早く、人数分のお好み焼きをヘラで切って各自の前へと置いてやる。
「一応、完成だ。焦げない様に気を付けて食ってくれ。あとお好みに応じて、マヨネーズを掛けて食っても美味しいぞ! これが『お好み焼き』って料理だ。」と言って全員で頂きますをした。
「熱い!!」と子供らの数名が悲鳴を上げていたので、冷たい水をコップに氷入りでだしてやった。
だが、熱さよりも美味しさが勝った様で、「美味しいです!」と嬉しい言葉を言ってくれた。女性陣にもお好み焼きのウケは良く、
アッという間に1枚目を食べてしまい、2周目に突入するのであった。
蛸もあるし、たこ焼き用の鉄板があれば作っても良いのだが、生憎そこまで気が回って無かったので、今回はお預けだ。
あのお好み焼きの鉄板の球状の窪み、この世界の技術で作れるのだろうか?
俺が魔法を駆使して鋳物で鋳造すれば出来そうな気がするが、下手に流行らせると俺が全部作る羽目になって仕舞うので注意が必要だ。
この世界では余り鋳造技術が進んでない。
全ての製品は鍛冶屋の親父の金槌による鍛造である。
この世界に来てから、砂型による鋳造現場を見た事がない。
まあ推測するに、鉄が溶けるまでの温度に上げられないのではないかと。溶鉱炉とか無さそうだし。
とは言え、俺もその分野に造詣は深くないので、下手な事は言えない。
きっといつの日にか俺以外の手駒君が技術躍進をしてくれるだろう。
楽しいお好み焼きパティーナイトが終わり、子供らを風呂に入れた後、二期生を孤児院へと送って行って戻ってから風呂に入ろうとしたら、女性陣が入っていて
入る事が出来なかったのだった・・・。
うーーん、やっぱ男女別の風呂場欲しいな。いっそ、こちも建て替えるかな?
いや、勿体ないか?でも建て替えるなら、厨房に換気扇も付けられるし、みんなの憧れアイランドキッチンも可能だな。
建て替えるなら、トイレももうちょっと増やすか。特に男子トイレが欲しいかも。
何か女性陣と同じトイレって今更だけどちょっと緊張するし、気になると言うか、気が引けるんだよね。
それになんと言うか一番気拙いのは、女性陣が出た直後のトイレに入る時何となく気拙くて態と10分ぐらい我慢したり緊急時は『魔の森』の家にまで行って思う存分に用を足したりしているのだ。
別に俺が変に意識してるだけかも知れないけどやはりそう言う所が気になってしまうのだ。
まあお袋以外の女性と同居した事がないからしょうがない。
装の内こっちの建て替えは真剣に考えてみるとしよう・・・。
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