第80話 アンテナショップ
マジックバッグの騒動が落ち着かない内にパンのレシピが王国全土に行き渡った事で、俺は発酵箱の魔道具の製作に追われている状態である。
ただ、この発酵箱、俺の手が必要なのは、温度管理のユニット部分だけ。
だから箱自体はちゃんと俺の設計通りの物であれば誰の作った物でも基本OKなんだよな。
勿論、ちゃんと保温出来る様に隙間やガタ無く作られて居る事が基本なんだけどね。
餅は餅屋、そんな訳で商人ギルドに声を掛けて俺は温度管理のユニット部分だけを制作して納品し、箱自体は商人ギルドの方でちゃんとした職人さんに作って貰う分業方式にした。
これで俺の作業分担は大幅に軽減されて楽出来るって思うじゃん?
ノンノン現実は沿う甘くないのだよ。
単純に温度管理のユニット部分だけって言ってもバックオーダー数が半端無い数で、
1桁目の数字すらも聞きたく無い状態。
作る俺ですらこの状態なので、矢面に立っている商人ギルドの方は客対応で日々客からの矢の様な催促や攻めに遭ってゲッソリと削られてしまっている。
だけど少し言い訳させて欲しい!!
今の俺は散々魔道制作で根を詰めてデスマーチを繰り返した事もあって、我ながらびっくりする程の作業スピードとなっている。
もうね、まるでプロッターか、レーザーカッティングマシーンかよ!?って言うぐらいの精度とスピードで1つ1つ精魂込めて作成しております!
そんな訳で温度管理のユニット部分だけなら、1時間の4ユニットを仕上げる程にまでに成長している。
それに師匠も何だかんだぼやきながら手伝ってくれているので、師匠と俺併せて50個/日ぐらいの生産ペースかな。
これが現状の家内制手工業の限界です。
もっと簡単に魔法陣をパカパカ印刷する様に刻んで行ければ楽なんだけどな。
俺の知る限りなら、プリント基板を作る時の応用で上手くエッジングして魔法陣が刻めたり出来ない物かと日々密かに方法を練っていたりするんだけど、早々簡単には行かないのだ・・・。
で、一旦ダンジョン効力の方はこのデスマーチがもう少し落ち着くまでお預けとなっている。
えっと、別に自主的にお預けにしている訳じゃ無いんだよ? 商人ギルドの
どうせなら、第40階層制覇後にこの一連の発表や登録をすれば良かったとちょっぴり後悔である。
俺がポンポン新しい何かを突発的に出して来るので商人ギルドの信者2人からはもう少し事前の前振りとか予告って出来ないんですか?
せめて、今回の様に確実に売れる物なら事前に1000個ぐらい在庫を作ってから発表するとかもっと手があるでしょうに!?と嘆かれたのであった。
全くご尤もです。申し訳無い・・・。
とその勢いに押されて申し訳無く思ってしまったけど、よくよく考えると、それを言うなら、商人ギルド側で一旦止めて置けば良かったんじゃね?って後日になって思った。少なくとも助言ぐらいしろよ!とね。
でもその時はそれに気付かず、俺がちょっと引け目を感じているのを察知されたのか、急に満面の笑みを携えたロバートさんがこれまでの若干攻める様な口調と違って柔和な感じで俺にとある提案をして来た。
「トージ様、私前々から思って居たのですが、折角のトージ様の素晴らしい料理の数々、
ふむ。まあ正しいか正しくないかは別として、確かに紙に書かれたレシピだけじゃ、伝わらないのは当然だし、そもレシピ通りに作ってもちょっとした火加減や材料のバラつきでも味は変わるからなぁ~。確かにその通りではあるが・・・。
と考えて、相槌を打つ様に、ふむと言う感じで首肯した。
「で、私共は考えたのですよ、もっと愚民共への効率の良い
「
「つまり
「いや、待って、効果は認めるけど、料理人どうするのよ? きっとあのイベントと同等の殺人的な忙しさが連日続くんだよ? 悪いけど俺はそこで料理人しないからね!そんな事やってたら、何も
他の事が出来なくなっちゃうし。」と料理人がいないと言う理由で諦めさせ様と思ったんだが、信者2人は逸れ程甘くなかった。
「ええ、そうですよ、貴重な新しい
そこでご相談なのですが、トージ様の所の
そう、家の子達もそうだけど、何故か孤児院育ち=半グレ候補生的な不当なマイナスイメージがこの世界では定着しちゃってるんだよね。
だから、子供らは卒園の時期が近付くと幾ら探しても雇ってくれる店や商会は希で、暗い表情になってしまうんだよね。
実際彼らは非常に勤勉で何事にも意欲を持って当たるし、有能な人材である。
特に自分らの境遇から、仲間同士助け合って支え合うと言う素晴らしい面を自然と身に付けているし、俺の知る限りではあるが、性格も素晴らしい。
性格だけで言えば俺なんかより数倍素晴らしい人間だ。
まあ、そうだな、孤児院の子らを積極的に雇って真面目に働く姿を見せてイメージを払拭するのは良いな。
そもそものマイナスイメージが定着した原因って、昔の行き場を失った連中が悪事に手を染めて裏の仕事をし始めたりしたからだろ?
悪循環だよな。ここらでその悪循環を断ち切る道を俺が作れば良いか。
「悪くないが、あの子達がうんと言うかどうかだな。無理強いは駄目だからな。家に帰って子供らに相談為てみよう。余り期待はしない様に。」と前の様に暴走しないように釘を刺しておいたのだった。
と言う事があった訳だが、子供らはスンナリと了承し、無理してないか? 忖度して了承したんじゃないかと勘ぐったのだが、意外や意外案外喜んでいる様子。
「お前達、厭なら厭ってちゃんと言わないと!俺はどっちでも良いと思っているんだよ。」と止めて良いんだよ?と何度も諭したのだが、
「何言っているのトージ様!折角のこんな嬉しい提案乗らない訳がないじゃない? それに今後卒園する孤児院の子達もその店で働けるんでしょ? 最高じゃない! ねぇ?」とリンダちゃんが鼻息荒く語って他の子達に同意を求めたのだった。
振られた子達も同意の様で大きく頷いている。
「そうか、じゃあ、OKだ。その代わりキツくなったり体調悪い日はちゃんと休む様にな。いつでも何でも言って来い!遠慮はするなよ!俺達は家族なんだから。」と俺が言うと子供らが嬉しげに「「は~い♪」」と手を上げて返事をしていた。
まあ、子供らだけだと厳しい局面もありそうなので、女性陣、特にソフィアちゃん、ソリアさん姉妹には上手くバックアップしてあげてくれとお願いしておいた。
まあ、ここで、極端に忙しくならない秘策を思い付いたのである。
そう、先に触れた食品ストッカーである。
魔石はそれなりに食うが、言って逸れ程の出費でもない。
つまり、その場で作って出そうとすると、フル回転になって疲弊するが、出来合の物を皿ごと取り出し運ぶだけであれば非常に楽である。皿は洗うのが大変なら、洗浄する魔道具(食洗機)を作ってやって、それで綺麗になった皿はマジックバッグに回収すれば良いのだ。
どうせ、店が出来るまでにかなり時間も掛かるだろうし、今の内に子供らの負担を減らす魔道具とかを作って行こう!
とデスマーチに追われながら思う俺だった・・・。
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