第79話 マッシモ東ダンジョン その8
細かい話はすっ飛ばそう。
俺はグリフォンとの死闘を経て強くなったと思う。
その後順調に各階層を制覇して、第20階層のボス部屋、そして第30階層のボス部屋を難無く熟し、いよいよターゲットの居る第34階層に到達した。
これまでにシャドー・スネークにはお目に掛かれなかったが、ここ第34階層は湿原ステージで、この階層に足を踏み入れた瞬間から、周囲でゲコゲコと鳴いて居た。
そう、ビック・イーターである。簡単に言うと、巨大なカエルの魔物である。その名び通り、大食いで大抵の物は一飲みにパクッと食べてしまうこいつの胃袋がマジックバッグの原材料となるのだ。
奴の持つ長い舌は槍の様に鋭く硬化出来て対象物を一突きしてその後くるりと巻き取ったりと多彩な動きを見せる。
この階層のメインはビック・イーターであるが、他にトンボの魔物やゴブリン等のオーソドックスな物も湿原の比較的乾いた場所に住み着いて居る様だ。
なのでビック・イーターだけに警戒すれば大丈夫なんて事はなく、その巨大なトンボはゴブリン程度ならひょいと持ち上げる事が出来る程度には飛ぶ力が強く流石に大人の人間は無理かも知れないが油断は出来ないのだ。
ゴブリン等のスタンダードな魔物は沼に住むビック・イーターや巨大なトンボの餌として配置されているのではないか?と思ってしまう。
さて、件のビック・イーター討伐だが、如何に胃袋に損傷を与えずに倒すかが重要となる。
余り接近してしまうと舌による槍攻撃が伸びてくるので結局はいつもの魔弾による狙撃スタイルとなる。
頭を狙ったとしても貫通して胃袋を傷つけない様に射角に気を付ける必要があるが、浅い角度だと滑った表皮の所為で弾がツルンと滑ってそらされてしまうので要注意である。
で、問題は沼から顔を出したビック・イーターを狙撃して仕留めた場合なんだが、奴ら水に沈んで行くので水中に沈まない様に工夫が必要となる。
それを思い付いたのは、水中いn10匹程ロストした後であったが・・・。
魔弾として撃ちだしている弾の形状を変更して銛の様な返りのある形状にし、その銛の端に無属性の糸を付けて置けば、撃ち込んだあとはその無属性の糸を手繰り寄せ回収がかのうであると。
この発見のお陰でそれ以降巨大トンボの邪魔以外でのロストはなくなった。
既に俺の目にはビック・イーターが俺にお金を運んで来てくれるマジックバッグにしか見えない。
取り敢えず初日の本日は、100匹を超えた辺りでホクホクしながら自宅に帰還したのが、帰って夕食を食べながら今日の成果を報告している最中に重大な事に気付いてしまった。
そう、マジックバッグの原料として使うには大量のビック・イーターを解体してその体内から胃袋を取り出さないといけないと言う事を。
既に俺の『時空間庫』には解体を待つ大量の食肉等が眠っているのだ。
に関しては今後も定期的に狩って来る予定なので解体をギルドに頼むか、誰かを雇う必要が出てくる。
1匹2匹程度なら孤児院の子供らの小遣い稼ぎに依頼するのは有りだと思うが、100匹200匹は些か問題があるし、ある意味虐待だと思うので却下である。
「アリーシアさん、俺今話してて気付いたんだけどさ。良い気になってパカパカ倒したけど、全部解体しなきゃ使えないじゃん!? どうしようか?」と愕然としながら何か案がにかと尋ねてみた。
「トージ様、冒険者ギルドに依頼するにしてもそれだけの魔物の出し入れを見せたくないって事ですよね?」とポイントを聞いて来るアリーシアさん。
「そうそう。それ!」と相槌を打つ俺。
「じゃあ、ビック・イーターを1匹自分で解体して、先にマジックバッグを作ってしまえば良いのでは? それに入れて冒険者ギルドに解体の依頼を出せば良いじゃないですか?」とナイスなアイデアを出してくれた。
「そうだな。そのプラン良いね!! ありがとう!」とお礼を言って夕食の続きを美味しく頂くのであった。
◇◇◇◇
翌日はダンジョンに行かず、『魔の森』に行ってビック・イーターを5匹程自分で解体したのだが、解体したビック・イーターの足の肉を見ると『女神の英知』が美味しい!と訴えてくる・・・。
えーー!?これ?と思わず否定してしまうが、よくよく考えると日本にも食用蛙って居たな。と思い出し塩こしょうで下味を付けて炭火で焼いてみたら、良い匂いがし出してやはり美味そうだと言う認識が頭にすり込まれて行く。
解体してる現場を見ているので間違いなくビック・イーターの足の肉なんだが、匂いは鶏肉を焼いた様な感じである。
思い切って、ガブリと一口齧り付いてみたら、びっくり。鶏肉とほぼ同じ感じの味で、下手な鶏肉よりもジューシーで旨味がある気さえする。
唐揚げに合いそうな肉質だ。
早速、更に5匹程解体して唐揚げの準備を始めた。
ビック・イーターの状態を見てしまうと食欲が失せるかもだが、唐揚げとして又は調理済みの料理として出されると全然遜色も文句も無い。
ビック・イーターの唐揚げは、大変肉汁が多く火傷に気を付けながら食べる必要があるが、はっきり言って絶品であった。
「俺なんかこの世界に来てゲテモノだろうが段々抵抗なく食う様になっている気がするなぁ~。」と日本に居た頃よりも図太くなっている自分の変化に苦笑いするのであった。
お土産で持って帰ったビック・イーターの唐揚げは女性陣も子供達にも大ウケで、誰も『ビック・イーター』だからと言う様な嫌悪感を示す者が居なかった。
つまり、食べられて、美味しければ、毒が無ければOKと言うのがこの世界の感覚なのだろう。
まあこの世界逞しく、図太くなくちゃ生きて行けないよな・・・と納得するのであった。
折角なので、オークも解体して、孤児院にビック・イーターの唐揚げと共にお裾分けに持って行ったら、子供らに大歓迎を受けてしまった。
特にビック・イーターの唐揚げは大好評であっと言う間に食べ尽くされてしまった。
今年も孤児院を卒園する子が数人居るらしく、家に来たいらしい。
まあこれからは、マジックバッグの製造と販売でより忙しくなるので、うちとしては人員が増えるのは全然問題はないし、先輩であるマッシュ君達がちゃんと面倒を見て仕込んでくれるだろう。
そうなると宿舎を増築する必要があるな。
アリーシアさんに言って、隣の敷地を購入して広くなった部分にもう1棟宿舎を建てる手配をお願いするのであった。
孤児院の帰りに道、忘れずにマルーシャ様へのビック・イーターの唐揚げだけでなく、先日作ったパンやサンドイッチ等の献上品もお供えしておいた。
余談であるが・・・ビック・イーターの胃袋の解体は予想以上にきつい。
なぜなら、食いかけのかつて魔物だった消化液でドロドロの『何か』が詰まっているからである。
しかも目的がマジックバッグを作る為の素材と言う事なのでそのドロドロを綺麗に洗浄する必要がある訳だ。
美味しい肉だけに誤魔化されてはいけない。
ちゃんとそう言うオチがあるのだ。
『女神の英知』の手順に従ってビック・イーターの胃袋を下処理し、魔法陣を刻み・・・この世界初?のマジックバッグ1号が完成した。
『女神の英知』の言う通りであれば、容量無制限で、重量無視。オマケに時間停止の効能が付いている筈である。
完成したマジックバッグを前に師匠と2人で喜び合った。
「トージよ、これで師を超えたな!」と感慨深そうに言っていたが、「まあこのマジックバッグの部分だけの話じゃないですか。まだまだ色々と教えてくださいよね!」とちゃんと必要としてると口にしておいた。
温度計、(柔らかパン用)発酵箱に続き、今回のマジックバッグ、そして柔らかいパンのレシピを登録すると、王国全域に衝撃が走った様だ。
そして完成したマジックバッグを使って冒険者ギルドに解体の依頼する事に成功した。
尤も余りの量の多さに冒険者ギルドの解体係のおっさん達が「俺達を殺す気か!と叫んだ事で、冒険者ギルド内部だけでの対処は不可能と判断し、助っ人として、冒険者達に解体の依頼が出される事になったとか。
まあ、その解体依頼を受けた中に例のポンコツコンビが混じっていた様である。
話はマジックバッグに戻るが、『時間経過停止』の機能は本当に素晴らしい。厨房には必須である。
尤もここだけの話別に『時間経過停止』機能だけを付加したいのであれば、ビック・イーターの胃袋を使う必要が無い事が最近判明した。
材料は割と安価に済むので、容量の制限はあるが厨房用のストッカーみたいな魔道具を別途売りに出しても良いかと思っている。(魔石はそれなりに食うけどね)
一応師匠の店でもマジックバッグは販売しているが、その所為で師匠の店の客数が増えて鬱陶しいと師匠がぼやいていた。
「師匠、それは客商売をしている者の台詞ではあり得ないですよ?」と一応窘めたら、ガハハと大笑いされてしまったのであった。
え?何で師匠の店の客足が増えるのかって?
理由は簡単。一応商人ギルド経由でも購入は出来るのだが、余り忙しくブラックに叩きたく無いので、卸す点数を足る程度に抑えて居るんだよ。
態とね。 で、師匠の店には普通にマジックバッグを卸して置いてあるから高額な値段でも遠方から買いに来る訳だ。
師匠の店は謂わば工場の直販所的な物だし。
でも師匠の場合、気に入らない客には売らないから、幾ら金を積んでも気に食わない奴らは買えないって事。
そんな感じで、益々マッシモの街が栄えていっている。
人の出入りは非常に多く、現在王国内で一番ホットな街だ。
当然それに伴い治安が』悪くなりそうな物だが、そこは流石はマッシモ様。上がった税収で街の治安を維持する衛兵の数と支部?つまり交番的な拠点を増やし、各所で睨みを効かせているのだ。
だから、昔と変わらず住み易い街のままである。
なんなら王国一の治安の良い清潔な街とまで言われているぐらいだ。
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