第77話 マッシモ東ダンジョン その6

翌朝起きてまたダンジョンに行こうかと思っていたのだが、アリーシアさんから、「トージ様今日は休養日(日曜)ですよ?たまにはちゃんと休まないと思わぬ事故に繋がりますから!」と窘められたのであった。


「そう? そっか休養日だったか。確かに働き過ぎは駄目だね。判ったよ。今日はノンビリするよ。」とダンジョン行き出勤を早々に諦めた俺。


とは言っても、特にやる事って無いんだよな。


こう言う時って何すれば良いんだろうか?


結婚してて子供の居る家庭のパパさんなら、きっと迷わずに「いや、家族サービスだろ!」と即答するのだろうが、生憎俺には妻も子も居ない・・・。

そう言う浮ついた華やかな世界は元々無縁で生きてきたからな。


いや? 待てよ?実質結婚もしてないし、血も繋がってはいないけど、子供も信頼するスタッフ・・・仲間、家族同然の女性ひとは居るな。


そうか、じゃあ、何か彼ら彼女らが喜びそうな物でも作ろうっかな・・・。


そんな訳で予てよりペンディングになっていたふんわり美味しい日本仕込みのパンを焼いて美味しいサンドイッチやホットドッグ」を作ろうと思う。


日本で普通に使って居た様な粉末のドライイースト菌なんて無いので、果物を使って作った酵母を使って発酵させてやるつもりだ。

一応そう言う日の為に果物をベースにした天然酵母の培養液?は仕込み済みである。

じゃあ、何故今まで作らなかった?と言われるだろうが、まあ色々忙しくてね。

日本で普通に売ってた様なイースト菌と違ってやや手間と温度管理等には神経を使う様だが、フルーツ酵母でも上手く発酵させれなふんわり柔らかいパンが作れる筈である。


まあ、そこら辺のコツなんかはほれ!『日本の食の英知』のお陰である。

その英知によると温度管理が重要なポイントであったりすrんだが、これこそがボスキャラ級の大きな問題であった。

残ねな事にこの世界に温度計はない。


だって、今回の様に温度管理なんて発想がそもそもなかったから。


まあ、幸いなのか、取りあえず、水の凍る温度を0度、沸騰する温度が100度って事でアルコール温度系または魔道具の温度系をチャチャって作れば問題無いだろう。

尤も、これって、気圧や高度によって変化するのは当然として、あんまり細かい事を追求しても土台無理なので、そこら辺は臨機応変にアバウトで行く。

つまり、ここマッシモの現在の気圧基準って事だ。


幸いな事に重さを量る魔道具はあるのでその魔方陣の一部を改造して、スケールを変更してみた。

さて、重要なのは温度を感じる部分だが、材料費が安いので、銅線の温度による膨張縮小を利用し、それを魔方陣で数値化する感じである。

何で銅を使うのかって? 記憶だと銅って熱伝導率が良いって記憶があったのとここだと比較的安価に入手出来るからが。


温度計の作成で一番気を遣うのは本当なら目盛りを刻む所だろうが、そこら辺は、魔方陣で処理するので、問題無しである。

そうして、1時間程横道に逸れたが、温度計の魔道具1号機が完成した。

ネックなのは、構造上、余り小型化出来ない事である。


現状でもスマホぐらいの大きさで、センサー部分の銅の針と言うか、棒が飛び出した形状だ。

氷や、沸騰する水で温度測定をして正しく表示されているので大丈夫だろう。 改良は追々やって行きたいと思う。



そして、漸く本命のパン作りだ。小麦粉に水塩や砂糖、ミルク、バター、等を混ぜて捏ねて行き生地を作る。


そして、ドライイーストが無いので、その代わりに酵母を混ぜ込んで温度計の銅の棒(センサー部分)を生地にぶっ刺して置く。

生地の入っているボウルを手動?俺の魔法で一定温度35~40度ぐらいを保つ様にしていたが、これは拙い事がhsんめいし、直ぐに小さい箱(燻製箱の様な形状の物)を作成し、その限られた空間の温度を一定に保つ様に温度計とにらめっこをしていた。


最初こそ、興味津々で見ていた子供達だが、特に変化もないので気付いたら何処かに行ってしまっていたのだった・・・。


思ったんだが、この発酵箱的な最適な温度を一定に保つ魔道具作らないと駄目だな。

一般に普及させるには、完全に手動で温度を保つなんて魔法使えないとむりだろうし。


しかし、ちょいちょい、中の生地を確認しているが、結構発酵して膨らむ物だね!!

一見蒸しパンっぽい感じだけど、30分でかなりふっくらと膨らんで来たよ。


さて、『日本の食の英知』の情報によると、これくらいで良い筈だ。

生地を取り出して小分けにして食パン用の金型に形成したパン生地を入れて、ロールパンやコッペパン等の形に変えて行く。

これらの生地の仕上げに刷毛で表面に卵黄を一塗りしたら形成完了である。


そして最後は再度発酵箱の中に入れて、二次発酵って言うんだっけ?あれを実行するのだ。(残念ながら俺の手動で)


40分ぐらい頑張って温度をキープしていると、生地達は物の見事にぷっくりと膨らみ、昔日本で見た様なパンの焼く前の状態になってくれた。


よくよく考えると、パンを焼く為のオーブンが厨房に無い事に気付いた。


この世界のお金持ちの屋敷の厨房ではパンを自前で焼いたりせずにパン屋から毎日買ってくる。


どうせ誰が焼いても美味しくは無いって言う理由っぽいけど、その常識は俺が覆すのだ。


取りあえず庭に急いでパン焼き用の薪オーブンを土魔法で作り、薪に火を付けて、余熱を開始する。


大きな鉄板に油を塗って中にいれて、温度計をみながら、調節をして膨らんだパン生地を鉄板の上に手早く並べて、オーブン野中に鉄板を戻す。煙突からの煙に混じって、パンの焼ける良い匂いが周囲に拡散し始める。


すると、現金な物で、いつの間にか子供らだ釣られていた。


「トージ様、何か良い匂いするよーー!何これ?」とわくわく顔で聞いて来る子供達。


そしてそれにやや遅れて女性陣も登場。

いつの間にか、庭のオーブンの周囲に全員が集まっていた。

丁度中のパンもきつね色に焼けて良い頃合い。


魔法で作った石の作業台の上に焼きたてのパンを取り出して並べて行く。


「まだ熱いし、中のガスが抜けて無いから、もう少し待ってね。」とガスが抜けて美味しくなるまで待つ様に言って、おれはサンドイッチ用の具のゆで卵を作り始める。


程良く茹で上がった卵の殻を子供達に剥かせて、剥き上がった卵にマヨネーズと塩を少々混ぜて形を崩しパンに挟める様な半ペースト状態にする。


食パンを金型から抜いて、サンドイッチ用にスライスして行く。表面にバターとマスタードを塗って作った卵のペーストを塗って上からっもう1枚のパンで挟む。

これを何セットも作って暖かいジャガイモのポタージュスープと一緒にテーブルの上に出してやって、

「さあ、お待たせ、食べてご覧、これはサンドイッチって言う料理で、中身がゆで卵なので、通称卵サンドって呼ばれているんだよ。美味しいよ。」と言って俺も1つ手に取って味見してみる。


ああ、柔らかいパン・・・本当に久しぶりだ! そして懐かしさもあるが、久々の味で涙が出る程に美味い。

と感慨にふけっていると、

「あーー!美味しい!!」と言う子供達の叫び声が聞こえて来た。

女性陣は「美味しいし、パンがふっくら柔らかいです!!」と絶賛していた。

これも一応、女神マルーシャ様に献上しないと、臍を曲げられそうだな。と全部食い尽くされる前にそっと女神マルーシャ様の分を回収して置くのであった。


その後、チーズやハムやチーズを挟んだハムサンドや、レタスやトマトの薄切りを挟んだサラダサンド等を作り、更にウィンナーを茹でて軽く焼いてマスタードとケチャップで味付けしたホットドッグも作ってやると、またもや子供らが叫んでいた。


「トージ様、これも美味しいです。」と女性陣にも大好評である。


「これなら屋台等でも流行りそうですね!」とアリーシアさんのお墨付きも頂いた。


そう、これにザワークラウト、まあ簡単に言うと酢キャベツ?一応発酵食品らしいが、あれを一緒に挟んだ物が俺なりの完成形であるが、今日は無しでも言いだろう。



今度は胡麻付きバンズを焼いてハンバーガーも作ろうかな。


まあ、パン作りに必要な発酵用の魔道具も判ったし、突然の休日だったが有意義な一日になったと思う。


家族サービスと言うより、逆に良い骨休めになった。


また商人ギルドの信者達が騒ぎそうだな・・・と思わず想像してフフと笑うのであった。

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