第76話 マッシモ東ダンジョン その5
自宅帰ると、女性陣、子供達、そして師匠が出迎えてくれる。
「ただいまーー。」と俺が声を掛けると、
「あ、トージ様、お帰りなさい! そろそろだと思って夕ご飯もうすぐ出来るところですよ。」と笑顔のアリーシアさん。
「どうした?トージよ、何か良からぬ事でもあったのか?」と俺の様子を見て訪ねてくる師匠。
「ははは、顔に出て増したか?いや、良くない事でも無いのですが、人によっては、大喜びする内容ではあるんですがね。俺の場合は、縁起が悪いと言うか、厭な思い出が蘇ると言うか。 まあ、これなんですがね?」と言いながら回収して来たボス部屋のドロップ品である『ホーラント輝石』を全員に見せると、師匠は目をクワッと見開き市バス絶句。
キッチンから手を止めてこちらを覗いていたアリーシアさんは、『ホーラント輝石』をみて「げっ!」と珍しい声を上げて居た。
姉妹達はホーラント輝石』自体を見てないので意味が判らず首を傾げて居たが、アリーシアさんにそれが何なのかを聞いて「ま、また?」と漏らしていた。
「そう、運が良いのか悪いのか、『また』なんだよ。人によっては大喜びだろうけど、また王都のオークションに出すの?って感じだよね。 まあ、これはほとぼり冷めるまで死蔵するけどさ。」とヤレヤレって感じで俺が苦笑いしていると、今では王都での一件の一部始終を知る全員が「あーあ・・・」って顔をしていた。
「まあ、トージよ、そう腐るな。この先何かに役に立つかも知れん。世に出さねば騒動にもならんじゃろう?」と師匠が宥めてくれたのであった。
幸い、子供らは丁度風呂に入っている最中で、子供らの目に触れなかったのはタイミング的に良かったと思う。
ほら、子供って、「内緒だよ!」って約束しててもポロッと漏らしてしまって大事になったりするし。
ホーラント輝石』なんてヤバい物があるって知れたら、悪い奴らが何か仕掛けて
来ないとも限らないからね。ここに居る分別のある大人だけで良かったと言う事だ。
俺もサクッと不吉?な石を仕舞ってその事を頭の中から消し去るのであった。
風呂から上がってきた子供達も合流し、第10階層制覇記念って事で、かなり豪勢な夕食をみんなで美味しく頂き、子供らからもダンジョンのボス戦の話を聞きたいとせがまれて、『ホーラント輝石』の件だけを濁して話してやるのであった。
と言ってもだ。そんな話を強請られるとは思ってもみなかったので、サクッとやっちゃったから、盛り上がりに欠けると思って、少しだけブラックオーガが活躍?と言うか抵抗した様に少しだけ話を盛ってしまったのはここだけの秘密である。
まあ、子供らが喜んでいたので良しとして欲しい。
当初マジックバッグ用の素材さえ手に入れば良いやってノリだったんだけど、今日のボス部屋に入る際に思ったのは、こうして俺が事前に情報を得てダンジョンに挑めるのも先達の努力の結晶なんだよね。
だから、第一目標は勿論マジックバッグの素材で変わりないけど、ちょっと長期的なスパンでの目標として第40階層のボス部屋制覇も心の奥底に持って居ようって思った訳さ。
それが俺なりの先達への感謝の印って事で。
多分、時間さえあれば出来ると思うんだよね。
俺の場合、ゲートが使えるから、好きな時に帰れる訳だし。やる気と気力さえ保てば完遂出来る筈。
そして、おれがマジックバッグを量産し始めたら、それを使って更に冒険者達が深く潜るかも知れないし。
結果、マッシモが栄えそうじゃない?
話はガラッと変わるけど、新設した、ケチャップとソースの工場の方は順調で、もう既に第3期の物の熟成が始まって居る。
当面はマッシモの街やその周囲の都市や集落での消費に止まるがコロッケやオークカツとの相性が抜群だから多分あっと言う間に
全国に広まると思うんだよね。
で、ここで運搬や流通、保管等の問題が出てくるのだが、それも俺がマジックバッグを量産するまでの話。
俺も頑張って先を急ごう!!
ついでにこの世界の堅いパンの方も改善してふっくらとしたパンを流通させれば、サンドイッチやホットドッグだけでなく、コロッケパンや焼きそばパン、カツサンドなんかも人気が出そうだから、
益々ソースやケチャップの出番が増えるよね。
俺の趣味優先でダンジョンばかりじゃなくて、食文化の発展にも時間割かないとどこぞの女神様からクレームが入りそうだな。
そうは言ってもまずは区切りの良い所まで流れに乗ってダンジョンを行くべきである。
翌朝、すっきり目覚めみんなと朝食をとって、「行ってきます!」とゲートでダンジョンに出勤し、第11階層へと下りて行く。
ここからは、ギルドの情報通りにやや過酷な環境のエリアとなる。
第11階層は砂漠エリアでエジプトに行った事は無いが鳥取砂丘に行っただけの俺にすると、びっくりする様な風景であった。
凄いなこれだけ砂があれば砂場作り放題だよな。
そういえばサハラ砂漠も大昔は緑地だったって話だったか?
ダンジョン内だと言うのにジリジリと肌を焦がす課の様な(疑似)太陽の日差しが暑い。一応少し風は吹いているのだが、熱風である。
汗が熱風で直ぐに乾きその後の直射日光でまた次の汗が滲み出てくる。
第11階層に下りたってまだ5分くらいなのに、既に喉が渇いた様な気になってしまう。
20年までは経たないが、修学旅行で鳥取砂丘に行ってから随分の年月が過ぎた。
砂漠を少し歩いて、ブーツが足首まで埋まりそれを1歩ずつ抜いてまた埋まっての繰り返しで10m程移動しただけでその足場の悪さに辟易としてしまった。
ゲンナリしつつ青い空を見上げて、「まあ先を急ぐ身だし、良いか!」と独り言を呟いてゲートで上空に飛び出しウィング・スーツで滑空を開始したのであった。
いやぁ~最高である。
日差しは暑いけど、滑空する事で凄い風に冷やされ、実に快適。
先達は真面目に歩いて横断したのかは不明だが、先達の残した情報通りに遙か数km先に石造りの小高い建造物が見えて来た・・・何となく写真等で見た事ある様な建物。
マヤ文明のピラミッドに似てるみたいだ。
あの建物に第12階層への階段があるらしい。
このエリアもし情報無く真面目に攻略しようとしたら、どれくらいの期間を要するのか全く想像も付かない。
なんて、暢気に油断して飛んでいたら、魔物の気配を察知して警戒を強めていたら俺より上空からデザート・イーグルと言う鷹に似た鳥の魔物が急降下して襲ってきた。
初めての空中戦である。
さてどうした物か?
滑空中なので変な動きをするとその空気抵抗等でバランスを失って思わぬ姿勢になってしまうのだ。
しょうが無いので、仰向けになって背中から落下する姿勢を取ってその隙に魔弾を(一応は狙って)乱射し、その中の何発かがデザート・イーグルに被弾したようでだ。
それでバランスを崩したかと思うと奴は錐揉み状態で裁くへ落下して行った。
「見たか!!元日本人を嘗めるんじゃねぇよ!」と高笑いしていたが、背中を下に向けて落下中なのを思い出し、慌ててゲートで上空に繋いで高度を維持した。
そして一端着地し墜落したデザート・イーグルの血抜きを済ませて回収したのだが、その直後に俺の降り立った砂の丘陵がいきなり地響きと共に地崩れ?砂が滑って低い方へと流れて行く。
「おっ!?おお?」と声を上げるが、滑り落ちて行く谷の底にワーム系の魔物のギザギザの歯が上下に無数に生えているおぞましい大きな口が見えた。
「蟻地獄のワーム版かよ!?」とぼやきつつ谷底のセンターに大口を開けてまっている奴の口の中めがけて、炸裂系の魔弾を連発で50発程お見舞いしてやった。
「ギュギャーー!」と叫ぶ様な悲鳴に続いて、ドッタンドッタンと暴れるワーム君。
流石に魔弾では破壊力が弱いのか、まだ暴れる余裕?があるらしい。
なので、普段は山火事になるので殆ど使わない火魔法のファイヤーボール(バレーボールサイズ)をギュウギュウに凝縮して野球硬球サイズ圧縮版を奴の口の中に目がけて発射した。
ズゴーーーン♪ と言う爆音と共にもの凄い爆風と衝撃波が流砂に足を絡み取られ半端な姿勢の俺に直撃。
勿論魔装で防御は固めているが、足下と言わず周囲の砂ごと俺を谷から吹き飛ばした
グッハー・・・やり過ぎた?と思いつつ錐揉み状態で飛んで何十mか飛ばされて他の丘陵の腹部分に頭から突き刺さったのだった。
慌てて、砂から、頭を抜いてふぅ~っと一息つく俺。
「さっきの火魔法はヤバいな。ちょっと加減を練習するまで使い所を自粛しないと。」と自分で自分に言い聞かせるのであった。
え?ワームの素材? 知らんよ! 残って無いんじゃない? 炸裂と言うか、爆散したっぽいし。
魔石はちょっと勿体ないけど、この大きな砂場で探す気にはならないよね。
体中に着いたワームの血肉とそれにこびり着いた砂をウォッシュ&浄化で綺麗に落として、魔法で水を出して、焦りや緊張でカラカラになった喉を潤すのであった。
やはりダンジョンは油断大敵だな。
俺の場合ソロ攻略だからポカって死んでも誰もそれを『家族?』スタッフ?仲間?に伝えてくれる者は居ない。
ちゃんと待ってくれている人の為にも無事に帰らないとな・・・。と心に誓うのだった。
結構な距離を飛ばされた様で、気付くと目標の建造物は目の前で、そのマヤっぽいピラミッドの中に入って行くと肌を刺す様に照らしていた日差しが遮られ、割と日差しが負担になっていたのを自覚したのだった。
そうそう、この専用ボディは、色白で、今まで裸族に近い格好で『魔の森』をウロチョロしていたが、日焼けした事がない。
昔日本に居た頃は夏休みになると海やプールに行って真っ赤に日焼けしていたが、こっちに来てからはそういうヒリヒリする思いはした事がないのだ。
日焼け跡に熱い風呂は地獄の苦しみだったりするが、今の俺にはその心配は不要なのだ。
ピラミッドの中で早めの昼食を取って一休みをしたら、階段を下りて第12階層へと出た。
こういう風景と言うか、地形ってなんと呼べば良いのだろうか?
一言で一番近いのは、米国のグランドキャニオンの様なエリアと言う事かな。
削り取られた深い渓谷の底には川が流れて居る様で、隣の突起物?崖?高台?までは30m以上は離れている。
「わぁ~これまた冒険者を通す気が微塵も感じられないエリアだな。」とあまりにも酷い環境にため息が出て仕舞う俺。
先達はよくこの風景を目の当たりにして心が折られなかったなとその強心っぷりを賞賛してしまう。
もし俺が魔法も使えず、空も飛べずであったら、確実にここでUターンしている。
とは言え、先達は凄い。一見無理ゲーに見えるこのステージで、安全?に下層への階段へ至るルートを書いてくしてくれている。
一見ヤバいこの階段の出口のある高台の頂きであるが、実はこの崖を下りる『道』?が用意されているのだ。
細い道で崖にへばり着く様に降りて行ける道があって、時々サプライズでロック・リザードが歓待してくれえると言う素晴らしいルートがあるのである。
え? その道から足を滑らせたり踏み外したりしたらどうなるのか?って?? 聞くだけ野暮っしょ。
滑落して普通にお陀仏だろう? 本当にエグい階層だよ。
まあおれの場合ゲートもあるし、全く問題は無いのだけどね。
何ならそんなルートすら使わずに隣の高台の頂きにゲートで移れるし。
ちゃんと視界に入る範囲しか離れてないからある意味楽勝なんだよね。
自分の事ながら、本当に狡いと思うよ。
先達の皆さん、申し訳ない!!
そんな訳でサクサクとこの階層の攻略を進める。
ロック・リザードに逆サプライズを仕掛けて戦って見たけどそこそこ堅い物の攻撃が通らない程でも無く苦も無く
何でもこのロック・リザードの外皮は結構なお値段で買い取って頂けるとの事なのでザクザクと魔弾で仕留めては血抜きをして・・・
って、血抜きが追いつかないので、最初の階段を降りた直ぐの高台に土魔法で血抜き用の作業台を作って仕留めては首を刎ねて血抜き用の台座に釣るし、を繰り返し、作業効率をアップしてみた。
あとこの階層で忘れてはならないのは、この渓谷を流れる川に生息している、クルージング・フィッシュと言う魚の魔物である。
その先達の情報によると、滅法美味いって言い伝えなのだ。
聞いたその限りの話だと、割と嘴が長い太刀魚的な風貌っぽい。
塩焼きでちょっと食べたいと思っている。
ダンジョンの良い所は、どんなに
狩り過ぎてもちゃんと一定期間が過ぎるとリポップしてくれる所だ。
家畜を飼う様に世話も不要で餌も不要。実に良く出来ている。
唯一の欠点は、その
あ、そうそう、あと油断すると死ぬってデメリットもあったな。
十分なロック・リザードを狩った後、渓谷の下の川岸に降りたって、無属性魔法で見えない網状の物を作って投網の様に川の中に投げ込むと半径4mぐらいに広がった無属性魔法の網にズシリと来る手応えが。
おお!すげーな、入れ食いじゃないけど、大漁の予感。
下手すると体勢を崩して引き込まれそうになる所を身体強化でグッと堪えて、ズリッと川岸に引き上げて、雷では無いけど、電流を流してヒリッと絞めてから、『時空間庫』に放り込む。
これを繰り返す事小一時間。
全滅や一掃と言う程ではないが、かなりの数をゲットしたのでここらで勘弁してやる事にして、先の血抜き台の場所に戻って血抜きの終わったロック・リザードを全て回収し、
試しにクルージング・フィッシュを1匹塩焼きで食してみる事にしたのだった。
BBQコンロを作って炭火を起こして、取り出したクルージング・フィッシュの腹を割いて内臓等を取り出して綺麗に水で洗い流して網の上に置いて塩をパラパラと振りかけると太刀魚に似た姿のクルージング・フィッシュからジュー♪と美味し音と匂いがし始める。
匂いだけでも判る。これは確実に美味しい奴だ。
程よく焼けたクルージング・フィッシュにぱらりとソイを掛けて身を解して口に運ぶと、白身の身が上品で甘みを感じさせるような美味さを感じさせる。
今度は大根おろしを一緒に添えて口に入れると、益々美味い。
既に昼飯は食ったのだが、辛抱堪らずにおにぎりを取り出して、本格的に食べ始めるのであった。
断言しよう。この階層は当たりだ。 兎に角なんと言ってもクルージング・フィッシュ様が素晴らしい。
こいつの塩焼き定食なら、毎日食っても文句は無い。
余りにも美味しい魚を手に入れたので、今日の探索は早めに切り上げる事にした。
今からなら、十分に夕食の準備に間に合うだろう・・・と。
早めに帰ると何時もよりもかなり早い時間(3時ぐらい)だったのでおど驚かれたが、丁度これから夕食の準備に入ると言うナイスなタイミングであった。
俺は内心ニヤリとして、クルージング・フィッシュを人数分だして、試食したときと同じように腸を取り出し、て下拵えを済ませて塩焼きで出す様にとつたえたのであった。
大根おろしを添えてだされた夕食では、みんな初めて食べるクルージング・フィッシュの塩焼きを絶賛していた。
まあ、普通だと冒険者になって自分で取りに行かない限りお目に掛かれない魚だからな。
今後も定期的に漁に行こうと心に決めるのであった。
やはり、心を許せる誰かと一緒に食べる食事は良い物である。
子供らがこの家に来た当初こそ、「子供は五月蠅いから~」とか距離を置いていた師匠だったが、最近では全くその気配すらなく、自ら子供らと会話したり色々と錬金術の事を教えたりしている。
そしてそれが楽しそうに見えるのだ。
孫にと戯れるお婆ちゃんって感じだったりする。
家ではなくて店番をしている時なんかは、子供らが昼ご飯を運んでくれたりしてるし。
昔の様に1人で寂しくご飯を食べる機会はほぼなくなった。
俺もダンジョン内だと1人でちゃちゃっと済ませるが、やはり家に帰ってみんなと食べる食事は一味も二味も違う。
やはり何を食べるか?も重要だが、『誰と』食べるかが重要なんだろうな・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます