第75話 マッシモ東ダンジョン その4
さあ、ダンジョン攻略の仕切り直しである。
先日のホールに戻って今回のロスの分を取り戻すつもりでスタートを切る。
再出発から30分にせずに第4階層への階段を発見した。
どうやらポンコツコンビは第3階層に上がって直ぐに先日の絶体絶命状態に陥ったらしい。
俺としてもまさか、こんなにアッサリ階段に到着するとは思いもしなかった。
そして階段を下りて踏み入れた第4階層は何となくなつかし匂いのする森林ステージであった。
第2階層も森林ステージではあったが、どちらかと言うと、亜熱帯の密林。ジャングル的な森林であった。
そう言う意味では、こっちは樹海に近いと思う。
古巣の『魔の森』に近いと思う。俺にとってはこっちの森林ステージの方が親しみ易い。勝手知ったる何とやらではないが、下手なステージよりもリラックス出来る。
地図もあるし、大体出てくる魔物の情報も地図と一緒に貰って(購入)しているので、『魔の森』程ヤバくないのは十分に判っているのだ。
なので『魔の森』にいる時と同じノリで行けば問題ないだろう。
ふふふ~ん♪ 思わず『魔の森』にいる時と同じ様に鼻歌を小さく口ずさみながら第4階層をサクサク進んで行く。
この階層の特徴としては、食肉になる魔物が多い事である。
ボアや、ダッシュ・バッファロー、ワイズ・オウル、バトル・コッコ、そして美味しいオーク等である。
昆虫系も居るが食えないので俺は
この階層と次の第5階層では美味しい食肉が豊富な階層なので楽しみだったりする。
特に最近では、減る一方だった『時空間庫』のストック分の補充をしたいと思っているのだ。
ほら、最近食い扶持が増えちゃったし、しかも育ち盛りの子供らが多いからね。
孤児院の子供らも肉漬けにするぐらいには捕ってやろうと思っているのである。
これまでの階層ではあんまりダンジョンらしい物が無かったが、この階層からは一味違う。
この階層で面白いのは、ランダムな場所で宝箱が発見されている事である。
一度発見された場所に現れる訳でなく、固定の場所でなくて完全にランダムらしい。
この宝箱が出ると言う一点に於いて、『魔の森』よりも流石ダンジョンだと言えるわくわく感がある。
尤も俺の運は滅亡してしまった日本からこの世界に転生した事で使い果たしてしまったかもしれないのだが、まだ滓でも幸運が残っていると信じたい。
頼むよーーー!女神様達~!! こうして色々手となり足となり貢献しているんだから!少しぐらいは優遇してよー! と思わず神頼みしちゃうが、きっとあの2人は見てないのだろうな・・・。
◇◇◇◇
この階層に入って3時間の内にウハウハと狩り尽くす勢いで狩りに狩って、オークだけで70匹以上もストック出来た。
美味しいお肉として収穫するにはやはり一撃で倒して即血抜きがベストの様だ。
幸い、魔弾のヘッドショットで即死させて変な成分が血液に混じって流れる事無くサクッと血抜きを済ませてしまうのが美味しい肉になるみたい。
第5階層になると、オークはオークでも上位種も居るから更に美味しいお肉が収穫出来る。
ただ、その上位種の指揮で連携を取った戦法を取って来るので、冒険者ギルドの話だと要注意って事だった。
乱戦になるのは問題無いのだが、混乱で雑な倒し方をして折角のお肉を駄目にしない様に注意が必要であろ。
全部首チョンパして血抜きをしただけなので、後で纏めて完全に解体しないといけない。
これだけの数の解体は非常に骨が折れる。と言うか、出来れば誰かに丸投げして任せたい。
助っ人が欲しくはあるが、流石に子供らにやらせるのは酷だと思うので、何か手段を考えるべきだろう。
冒険者ギルドにお願いすると言う手もあるんだが、そうすると『時空間庫』にどれだけ入るのか詳細を知らせる事になるから難しいところだ。
尚、ダッシュ・バッファローは46匹で、これはまだ食べた事がないので何ともいえないが牛肉の様な味を期待している。
バトル・コッコも15匹程仕留めたので焼き鳥や鶏雑炊も良いし、ローストチキンも良いな。
フライドチキンも久しく食べてないからトライしてもいいかな。
ハンバーグやしゃぶしゃぶも良いな。帰ったら味見してみたい。
この階層も、次の第5階層も、正肉が多いが、残念な事にマジックバッグを持つ冒険者が殆ど居ないので、幾ら美味しい
俺がマジックバッグを大量に作って普及すれば、それだけ巷に美味しい食材が出回る事になるだろう。
みんな、待っててね!!
その為にも早くもっと下層へと急がないといけないのだ。
決して、リアルダンジョンに浮かれて無双を楽しんで居る訳じゃ無いのは理解して欲しい。
■■■
それからの俺の快進撃は自画自賛出来るぐらいに凄かったと思う。
その日の内に第5階層を制覇して、更に肉のストックを増やしつつ、第6階層いに進出した。
ここからの階層はこれまでの階層と違い罠が出て来るので、これまで以上に注意が必要であった。
まあ何事にも初めてはあるので最初は俺もおっかなびっくりで必要以上に警戒したのだが、無属性の魔装を纏ってガチガチに固めた状態で罠を踏み抜いたお陰で、罠の持つ特徴を発見してしまった!!
魔装のお陰で発動した罠が発射した20本ぐらいの矢は俺の顔面や体の20cm前で弾かれ無傷だったけど、割と目の前に飛んで来る鏃は怖かったよ。
で、何種類かの罠を比較した結果、ダンジョンの罠は全て魔力反応を持って居るって事だ。
ダンジョン内で普通だと魔物以外には魔力の反応は無かったり薄かったりする物なんだが、罠は違う。
罠を動かす為のバッテリーとでも言おうか、それなりの魔力反応を放っているので、魔物でない魔力反応を検知すればそこに高確率で罠が存在するのである。
斥候職の奴と話して聞いた事が無いので他の人がどうやって罠をして判断したり発見しているのかは不明だが、きっと俺と同じに魔力検知をつかってるんじゃなかろうか?
そんな訳で、コツさえ掴めばこちらの物で元々魔物の襲撃に備えるべく魔力関知を使った索敵を常にしているので、それに罠関知の意識を少し追加するだけで良い訳だ。
まあ、こういうマルチタスク的な意識の
確かにこの身体をここまで使える様にコツコツ頑張ったのは俺だが、ベースあっての現在って事で謙虚に行こう・・・。
で、ここからはその罠関知の嬉しいオマケ!魔力関知で罠関知にも意識割り振った恩恵で、妙な魔力を関知した。
うん、魔物ではないし、罠って訳でもなさそうなんだけど罠の起動様の魔力に近いけどやや違う感じの魔力である。
当初のコースから外れるからどうしようかと少し悩んだが、好奇心には逆らえずに確認市に行くと、
「うぉーー!宝箱じゃん!!」と思わぬ発見に小躍りする俺。
罠の反応とは違うので、特に宝箱自体に罠は無いとみて・・・いや、一応転ばぬ先の魔装でガチガチに固めてから蓋を開けると、
中から、怪しくくすんだ銀色の短剣を発見。
「おお、ミスリルの短剣か!」なかなか言いじゃん。
俺ってほぼ魔弾で済ませちゃうから帯剣しててもお飾りなんだよね。
売っても良いけど折角の初宝箱のドロップ品だし誰かにあげるかな?
そうして、色々な魔力反応に興味を持って色々と確認作業にも時間を割いた結果、ギルドから大枚叩いて購入した地図に載って居ないモンスターハウスやセーフティーゾーンとして使えそうな小部屋や宝箱などを発見する事が出来たのだった。
この情報を冒険者ギルドに売れば、地図代の元は取れそうだけどな。
そんな訳で、順調に成果を上げつつ日々1~2階層ぐらいのペースでドンドンと深く潜って行って、漸く第10階層のボス部屋に辿り着いた。
このダンジョンギルドの情報によると10階層毎に階層ボスのボス部屋が存在するらしい。
尤も情けない事に現在マッシモに居る現役の冒険者で、第10階層のボス部屋まで辿り着いた者が居ないとの事だった。
そう、ダンジョンを稼ぎ場としている殆どの冒険者達はあのポンコツコンビと同じで大体第5階層までしか潜らないのだ。
実力の問題もあるが、殆どはコスパとリスクを天秤に掛けてそこら辺で妥協してしまうらしい。
なので、近年では、このダンジョンでの冒険者の死亡報告はほぼ無い。
もっと『冒険』しろよ!と日本に居た頃の俺ならゲーム感覚で言うだろうけど、ここでベットするのは自分達の命なので
今現在の俺だとそんな無責任な発言はしない。
まあ、そういう事も加味して冒険者達よ、もっと修練しろ!魔法を身に付けろ!と声を大にして言いたい。
おっと話は戻るが・・・じゃあ、何故この階層ボスの情報があったのか?と言うと、今から70年程前に居た伝説の冒険者パーティーが持ち帰った情報らしい。
彼らはなんと、第29階層までを走破して、色々な理由で第40階層のドス部屋の挑戦は断念したのだそうだ。
「我らの力はおそらく40階層のボスには及ばない。無念だが、引き際の判断を見誤らない事、己を過信しない事も重要だ。」と言い残してダンジョンから生還し、その後は後輩の育成に尽力したと言う事であった。
「そうか、現在の記録は40階層か・・・。」と思わずやる気にスイッチ入ったが、俺も過信しないで謙虚に安全マージンを取りながら進んで行こう。
何にしても、重要なのは、その先達の持ち帰ってくれた貴重な情報のお陰で、今回のマジックバッグの原材料がここに居る事が判明したのである。
先輩、ありがとう!!と心の中で彼らにお礼を言う俺だった。
と言う訳で、現役の冒険者としては、数十年以上振りに俺が第10階層の階層ボスに挑戦するのである。
実に楽しみだ。
ちなみにだが、これまでの階層で手強いと多少でも感じる様な強敵は全く出て来なかった。
なんなら、『魔の森』で普通に闊歩している魔物の方が全然強いぐらいである。
これまでの階層でオーガも出て来たが、ダンジョンの魔物という所為かは不明だが、攻撃に捻りや創意工夫のある面白味のある『生きた』攻撃が全く来ないのだ。
気の抜けたワサビの様にピリッとこないのだ。
同種の魔物で数値化すると、『魔の森』の魔物を10の強さとした場合、このダンジョン内に出てくる魔物の強さは良くて7も無い感じ。
この違いって何だろうね?
侮る訳じゃないけど、普通に戦って勝ったとしても何だろう?そう!達成感が湧かない感じ。流れ作業的な乾燥しか湧かないのである。
なので、今回のボス戦には些か期待していたりするのだ。
さあ、これがボス部屋の扉だろう。
岩壁に重厚な岩で出来ている扉が目の前にある。
その岩の扉には掌の形に窪んでいて、話によるとこの窪みに掌を合わせれば、扉が開くらしい。
「さて、何十年っておまちかねのボスにご対面と行きますか!」と独り言で緊張を解し、掌を窪みに合わせるとゴゴゴゴゴ♪と重厚な音と共に目の前の岩の扉が横にスライドしてボス部屋が開いた。
中に入らず、内部を伺うと、中は10m程の円形の薄暗い広場で、部屋の真ん中には何やら魔方陣の様な物が書かれてある様だ。
多分あの中に入るとあの魔方陣からボスが出現するのだろう。
よしっ!と一歩踏み出して内部に入ると聞いた通りに俺の後方でゴゴゴと音がして、ガシンと岩の扉が閉まったのだった。
すると、部屋の中央の床の魔方陣が青く光りそこに情報通りに黒い皮膚のオーガが大剣を肩に担いで現れた。
おーー!ブラックオーガか。なかなかの雰囲気を持っている様だ。
長年冒険者が来なくて退屈していたであろうブラックオーガを魔弾の一撃で倒してしまっては申し訳ない気もするが、先は長いので巻きで生かせて貰う。
「悪いな!また暫くお休みだ!」と宣言しつつ、魔弾1発を眉間に打ち込んで咆哮すら上げさせずに倒してしまったのだった。
眉間に撃ち込まれた瞬間にブラックオーガがちょっと驚いた様な、それでいて切ない様な目をして居た様な気がするが、きっと思い過ごしだろう。
直ぐに首をはねて血抜きをしてから亡骸を回収し、部屋の奥に現れたボス部屋のクリア報酬の宝箱をご開帳。
「何が出るかな♪」と鼻歌交じりに蓋を開けると、何か見覚えのある鉱石?いや、トラブルの元凶が入っていた・・・。
「げげ!これ、『ホーラント輝石』じゃね? 要らんって!!!」と思わず顔を顰めてしまう俺。
いや、普通だったら、一生遊んで暮らせるから、大喜びなんだろうが、俺にしてみれば、つい最近それの所為で要らん面倒事に巻き込まれたばかりである。
王都に軟禁状態にされたし、全くもって良い思い出が無い。
いや、勿論捨てずに回収するけどさ、もっと他の物を寄越せよ!と声を大にして言いたい。見てますか?マルーシャ様! 酷すぎませんか? 俺、グレちゃいますよ?
と心の中でマルーシャ様に向かって嘆くのであった。
そう、10階層毎のボス部屋を出ると移動用のポータルがあって、クリアした者だけがそのポータルによってワープと言うか、階層をショートカットして移動出来る様になる。
まあよくあるダンジョンを舞台としたゲームの仕様と似た様な感じだ。
ポータルの水晶にに手を当てると登録された事が判り、第1階層に移動出来る事が感覚的に判るのだ。
自前のゲートで移動する事はあっても、この世界の物での移動は初めてなので、第1階層に移動する事を念じてみると、ワープと言うか、転移と言うのか?テレポーテーション的に瞬時に第1階層へ・・・それもダンジョンの入口の脇にある窪みの前に立っていた。
「え?思った以上に何も(違和感も何も)感じなかったが、これで第10階層にはどうやって戻るんだろう?と思って周りを見ると目の前の窪みの中にひっそりと転移用の水晶のポータルがあるのを発見した。
余りにも
改めて、水晶に触れると同じようにクリアした第10階層に飛べる事が判り第10階層を念じるとさっきのポータルの前に立っていた。
これはこれですげーな。これを全国展開すると、物流が変わるんだがな。まあ、無理だよな・・・。
と早々に頭を切り替えて、区切りの良い所で本日の探索を終えて自宅に戻るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます